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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
51/61

月光魔王

 操られた子どもたちに流されるまま流されたルーデルワイス。殺すことも殴ることもできなかった。彼彼女らもルナエラの被害者たちだ。ゼルファストの地に生まれ落ちたにもかかわらず、彼らはルナエラに操られ無理やりに戦わされている。そして操られなければ体の内からあふれ出す魔力によって暴走してしまうのだ。気絶させられれば命を落とすことはないだろう。だがルナエラから解き放たれた混血児たちはどうなるだろうか。ゼルファストには幻式はない。そのため自由になったとしても暴走し死んでいくのは明白だ。救っても長くは生きられない。だからといってルーデルワイスの心が彼らを殺すことを拒んでいるのだ。


「頼む、止まってくれ。止まってくれ……」


防御をすることしかできない。彼女に彼らを救う手段を持ちえない。アロウであればその手段を考えつくだろう。だがルーデルワイスにはそれができない。戦うことしかできない彼女に混血児を救うことはできないのだ。複雑な心情たちが少しずつ精神を不安定にしていく。そして力の制御を一瞬なくしてしまった。いつもの力で子どもを跳ね飛ばしてしまい、頭につけられた幻式は破壊されてしまう。幻式が外れてしまった子どもは体中からあふれる魔力を抑えきれずに周囲に魔法を撃っていく。その魔法に巻き込まれた子どもたちの幻式も破壊され、暴走していく。


「もうこの子たちを救うことはできんのか。童には救う力すらないのか……」


手に持ったヤトノカミを見る。刃は紫檀色に輝く。彼女に残された選択は残酷だった。


「すまない。童はお前たちのことを絶対に忘れない……」


ヤトノカミを振り子どもたちを一人一人苦しまないように首を斬っていく。一人一人の顔を見つめ殺していった。涙を流すが返り血をかぶり混じる。そして操られた20人の子どもたちを殺し、刃についた血を払い、目に溜まった涙を腕拭った。


「必ず、必ずルナエラを殺す。そして童はお前たちを忘れない」




ルーデルワイスは王の間にゆっくりと歩き入っていく。その歩く姿は手に賭けた子どもたちの姿をかみしめる感情と、ルナエラを殺すという決心を感じる。ルナエラは血をかぶったルーデルワイスの姿を見てあざ笑う。


「子どもたちを殺したんか。どうや気持ちは?悲しいか?それとも楽しかったか?おまえは罪もない子どもを殺したんや」


「ああ、童は罪なき子どもを殺した。この事実は変わらないじゃろう。だから童は彼らの死を背負い生きていく。そして「ああ、童は罪なき子どもを殺した。この事実は変わらないじゃろう。だから童は彼らの死を背負い生きていく。そしてこれ以上の悲しみを生み出さないためにも童はお前を倒す」



「背負うやと?お前ごときに亡き者たちを背負いきれるのか。高飛車で気持ちの躍動に逆らえないお前ごときが!」


「なってみせる!童は生まれながの魔王なのだからな!ミホノ!」


ルーデルワイスは大きく右手を伸ばす。その動作に応じてミホノは守っていた角を思い切り投げる。角はくるくると回りながら一直線にルーデルワイスのもとに向かっていった。まるで引き込まれるように飛んでいった。角をつかむとルーデルワイスは何の迷いもなく角を丸のみにする。角という固く細長い物体が喉元を通り過ぎていく感覚は異形で吐き出しそうになるほどだった。徐々に角の形が消えていく。体の異常はすぐに出た。雷が落ちたかのような全身がしびれたかと思うと、全身が炎に包まれたかのように熱く、焼けただれたような感覚に襲われる。そして水中溺れたかのように息が詰まる。ありとあらゆる痛みがルーデルワイスを襲った。


「ははは!何が生まれながらの魔王や。今にも死んでしまいそうじゃないか」


意識が朦朧になりつつも彼女は揺るがなかった。目の前にいるルナエラを見つめ続けた。そして全ての痛みが少しづつ引いていく感触があった。


「ルナエラよ。お主に与える慈悲はない」


抜刀しゆっくりと近づくルーデルワイス。ルーデルワイスのおでこからは星空色に彩られた片角が生えていた。一瞬にして空気が冷え切った。冬独自の寒さではない。心の芯から冷え切る空気は異常だった。この空気を作り出したのは他でもないルーデルワイスだった。笑顔が絶えないルナエラが初めて真剣な顔をした。目は吊り上がりにらんだような眼をしていた。


「あんた、どこの生まれや。そのオーラ、一般人が醸し出せるもんやない」


「憤怒の魔王。それだけか?ならばそろそろ始めようか。魔力放出『望月の唄』」


魔力放出を唱えた瞬間、放射状に波が広がっていく。そして部屋全体に波がいきわたると部屋の壁や地面、天井が消えていった。そして土と草が芽吹いていく。上には星空が広がっていた。そしてひときわ存在感を放つのが紅月だった。紅月が放つ月光は周囲を赤一色に染め上げた。ルーデルワイスの額にはもう一本の角が生えていた。


「紅月か。満月を呼び寄せたはずがまさか紅月とはな。いやふさわしいというべきか。お前の血を見ずにすむからな」


「先ほどまで部屋の中にいたはずです。ルーデルワイス、ここはどこなんです!」


「まさか、魔力放出が異界を作り出すとはなぁ。こんな芸事ができるとは。さすが憤怒の魔王の倅といったところやな。せやけどこんなところを作り出して何ができる?」


能力らしき能力は異空間を作り出したぐらいだ。それだけでもほかの魔王に比べて優れているのだが、能力が発動しない魔力放出などない。だがこの空間はルーデルワイスにとっては有利な空間だった。部屋は薄暗く、光が少ないことからルーデルワイスの闇魔法を発揮することはできない。だがこの異空間には太陽ではなく月が静かに輝いていた。そのため闇魔法を存分に使うことができるのだ。そして紅月であることが最高のアドバンテージといえるだろう。


「龍魂解剣」


そう唱えた瞬間、その場に現れたのは8人のルーデルワイスだった。一人一人が異なる武器を持っており長剣、弓、レイピア、薙刀、鞭、ツインブレード、ハンマー、刃がない剣を持っていた。全員がルーデルワイスとうりふたつの姿をしており、唯一違う点があるとすれば角の有無だった。


「久々に使ったがまさかこいつらも成長するとはのう」


「それがその龍装の力か」


本来ヤトノカミの龍魂解剣は道月によって8本の武器に変わるものだった。紅月になったとき8個の武器が現界するのだ。8本の武器だけではない。8本の武器は使用者とうりふたつの姿をした分身が現れるのだ。だが分身は闇魔法を使うことができない。それを抜きにすれば実力も戦法もルーデルワイスと変わったところはない。ルナエラは腕を2本作り出し、鉄扇と作り出した腕を盾のような形にして戦闘態勢を取る。薙刀、ツインブレード、レイピアを持った分身が走り出す。薙刀持ちは真正面から突撃し、ツインブレードとレイピアは両側から攻撃を仕掛ける。後ろからはハンマーと鞭使いが続く。最後方からは弓が光の矢を放ち、応援をする。盾となった腕で防ぎ、鉄扇を展開し薙刀を防ぐ。鞭とハンマーは魔法で防ぐが光の矢までは防ぐことができず、右頬を掠めとっていく。6人の分身体が攻防を繰り広げている中、後ろから柄だけ持った分身体が近づいてくる。その見た目からかルナエラは油断し最低限の防御しか用意していなかった。だがそれは見掛け倒しだった。刃がないにもかかわらず、ルナエラの背中からは赤い液体が照れていた。


「どうじゃ?そいつはな刃が見えないナイフじゃ。童は間合いが掴みずらいから好まんが、いわゆる初見殺しにはいいじゃろう」


「そのナイフでわっちを殺さないあたり詰めが甘いとしか言えんなあ」


「貴様の首を取るのは分身体ではなく童じゃ。あくまで分身体は童のサポートでよい」


「じゃあしゃあないわ。ヤジにはヤジを。人形には人形を。欄交浄瑠璃」


貫かれた傷を瞬時に塞ぐと作り出した2本の腕の指を伸ばし、そこから人形のようなものを10体作り出す。その肉人形は普通の人間のように動き出し、前衛にいる6体の分身体と交戦を始めた。


(生半可な攻撃ではすぐに再生されてしまうであろう。ならば首を落とすほかない)


腕を切り落としても痛がる様子もなく、次々と欠損した部位を再生していく。修復力もさることながら10体の人形を操作しながらルーデルワイスの相手をするには尋常ではないほどの集中力が必要となる。分身体はロボットのように規則的な動きではなく、一人一人が意志を持ったような動きをしている。そんな分身体の相手を片手間に行えるのは彼女が闇魔法を使いこなしている証拠だろう。


「恋川、好色煙火」


そして同時詠唱を使えるということは魔法を達人のように使える証拠だった。ルーデルワイスの長刀による攻撃は間合いをつかまれたのか最低限度の動きで防がれてしまい、距離を詰められていく。弓持ちは一度下がり姿をくらます。2本の鉄扇による攻撃は腕を伸ばしたり新しく腕を生成してフェイントを仕掛けたりと多様なものになっていく。肉体改造ビルドアップは魔力が尽きない限り体を改造させることが可能だ。そしてそれはルナら自身が思い描いたように体を作り替えることができる。腕を剣のようにしたり盾のようにしたりと多種多様だ。


「お前の魔法は厄介じゃのう。じゃがその人形はもう対処済みじゃ」


東の方角から伸びる10本の光の筋。それは人形とルナエラをつなぐ肉の管を正確に穿つ。肉管を絶たれた人形は力を失ったように倒れこみ朽ちていった。切られた肉管と腕を消す。6人の分身体に囲まれた状態だったが、分身体は一歩も動かなかった。弓持ちも加わり円形状に立っていた。


「なんのまねや。わっちを追い詰めたつもりか?」


「ああ、こやつらは手はださん。ここからは童とおまえとの一騎打ちじゃ」


4本の腕のうち2本を盾にし、散歩をするように距離を詰めていく。盾を生成したにもかかわらず、防御態勢を解いた状態で距離を詰めていく。お互いの間合いがぶつかる瞬間に鉄扇を手から離し、ルーデルワイスの目を鉄扇に向けさせた。緊張時や戦闘時など気が立った状態というのは動くものに敏感になる。ゆっくりと落ちていく鉄扇に目を追わせ、その瞬間に鉄扇を開き首を狙った。しかし鉄扇は空中の紅い光によって砕かれてしまう。


「月光の花嫁衣裳ムーンドレス。お前の攻撃は童には当たらん」


「まさかそれが魔剣ヤトノカミのもう一つの力か。流石は月光剣や!」


背中からルーデルワイスとルナエラに影を作るほど大きな肉塊を作り出す。それはふたりの空間に影を作り出しヤトノカミの能力を無効化する空間を作り出した。月光が降り注がなければヤトノカミの月光による攻撃はできなくなってしまう。だがそれはルーデルワイスの闇魔法によって意味をなさなくなかった。


光線屈折ルーメン エフラクティオ


くすんだ影が支配した空間に一筋の光が差し込む。その光はルナエラの腹部に差し込むと切傷が作り出された。光線屈折ルーメン エフラクティオ。ルーデルワイスの闇魔法で、光の屈折を自由に操る能力だ。本来水中や金属、地面でしか反射しない光をルーデルワイスが望むままに反射できる。月光を空気中で反射させ、影に包まれた空間を照らしヤトノカミの力で斬撃へと変えたのだ。影を作ろうとルーデルワイスの闇魔法によって逃げ場はなくなる。


「なるほど、影を作ろうとあんたの力じゃ意味がないってことかい。わっちを本気にさせたこと後悔するといい。『兜』」


ルナエラの肉体が硬質化していく。それは筋肉のようで甲冑のようでもあった。その見た目は美貌も美しさもない。それはまさに戦闘特化型の戦闘形態だった。


「そんなもので身を守ろうと童の刃は防げぬ」


「それはどうかな。まあやってみてからのお楽しみや」


右腕を先ほどまでとは非にならないほど鋭利な刃を生成する。二本の腕は肩甲骨を覆いかぶさるように収納される。ルーデルワイスは距離を一瞬にして距離を詰め、長刀を思い切り振るう。刃はルナエラの腕に食い込むが腕は途中で止まってしまう。長刀を振り払い、ルーデルワイスの胸に向かって刃を突く。すぐさま月光の花嫁衣裳ムーンドレスを展開し、刃を弾く。


(硬い。ルナエラが自信を持つのもわかるな。じゃが、童にも打てる手はある)


円形に立った分身体の配置を確認し、ハンマー持ちのもとへ駆け寄る。斬撃ではルナエラの装甲を破壊する音はまずできないだろう。そのためまずは装甲を破壊することが重要になる。


「お主、ラッキーじゃぞ。童の月時計ムーンダイヤルを見られるんじゃからな」


分身体は武器を両手に持ち、天高く持ち上げる。ルーデルワイスはハンマーを分身体から受け取り長刀と持ち替えた。動きは単純化したり遅くなったりしてしまうが、ルナエラの攻撃は月の花嫁衣裳ムーンドレスに頼り攻撃に専念させた。光による攻撃は斬撃から打撃へと変わり、ルナエラの刃を砕く。ルーデルワイスはハンマーを勢いよく振り下ろし、ルナエラの生態装甲に皹を入れていく。傷ついた装甲は再生してはいるものの、直りが遅くすべてをカバーできていない。いままでは斬撃によって一部の部位が損傷させることはできるが傷口は綺麗に残ってしまうため再生が容易になってしまう。しかし傷口が複雑な傷口ほど直りが遅くなる。ハンマーによる攻撃は衝撃で骨を砕いたり、肉体装甲を砕いたりと肉体を複雑に壊すことができる。そのため表面を破壊しようにも内部までダメージを追っては再生が追いつかないのだ。ムーンダイヤル。紅月が出ているときのみにできる技だ。分身体の持った武器とルーデルワイスの持った武器を戦況に応じて交換させ戦闘を有利に繰り広げる技だ。武器を不規則に交換することで様々な戦い方をして相手を順応させずに戦うことができる。しかしこの戦い方はルーデルワイス自身が8つすべての武器を扱えるからこそできる戦い方だ。数千を超えるハザマとの闘いの中で技量が向上していったからこそルーデルワイスは月時計ムーンダイヤルを扱えるのだ。ハンマーだけでなく、様々な武器を使用していく。武器ごとの特徴を瞬時に見極め、ルナエラに休む暇を与えなかった。しかしルナエラもやられているばかりではない。ムーンドレスによって砕かれた刃を即座に再生させ、ルーデルワイスの体を傷つけていった。快楽の部屋は望月の唄が発動している空間でも発動しており、ルーデルワイスが食らった痛みは快楽に変わっていく。力が抜けてしまいそうになってもナギアで待つ孤児院の子どもたちの顔や、殺してしまった混血児たちのことを思い、力を振り絞っていた。切られては砕き、斬られては砕きが続くふたりだけの戦い。気づけば二人ともボロボロで息も絶え絶えになっていた。


「ハァハァ、わからん。ルナエラよ。貴様の戦う意味とは何だ?」


「戦う意味?すべてはゼルファストのためや。こんな回りくどいやり方も犠牲もすべてゼルファストのためや」


「セルファストのため?ならばもっとほかの方法はなかったのか?犠牲を出さず争いを起こさずやる方法はなかったのか!」


「そんな方法などありはしない。今この大陸は分断された状態や。5人の魔王が己が権力を振りかざしとる。この大陸はバラバラや。お互いがいがみ合い、奪い合う。ならば人民をまとめる統率者が必要やろ?わっちはリーダーを目覚めさせるために動いているにすぎん」


「それが争いや犠牲になんの関係がある!童には難しいことはわからん。だがお前のやり方は間違っている。あっていい犠牲などありはしない」


ルナエラの装甲に入った亀裂は元通りに戻りつつあるが、急所の傷だけが治っていくだけで亀裂はまだ残っていた。つまりルナエラの魔力は残り少ないことを意味していた。気づけば快楽は消え、痛みが体中を走り出す。だがルナエラの魔力が少ないのと同時にルーデルワイスの魔力も少なくなっており、紅色の月光が降り注ぐ空間も揺らいでおり、消えつつあった。戦いはもうすぐ終わりを迎えようとしているのは傍観しているミホノにもわかった。


「これで終わりにしよう。童がこの悲しみの連鎖を終わらせる」


「そうか、ならわっちも終わりにするとしようかね。快楽のままに踊り狂いなはれ。『反魂香』」


ルナエラの鉄扇から出る桃色の煙。それを吸い込んだ瞬間、ルーデルワイスの目の前には白い空間が広がった。白い空間の先にはルナエラの強襲によって死んでしまったナギアの国民たちが映る。みんな笑顔で手を振ってルーデルワイスを呼ぶ。その姿を見てルーデルワイスは涙を流した。


「みんなすまない。童はまだそっちには行けん。けどお前たちを童は忘れない。残された者たちは童が守る。じゃから安心して逝ってくれ」


手に持った長刀で優しく空を切る。切った線から影が広がっていく。闇に向かって走り出す。闇に差し込む赤く薄暗い無数の光。闇は照らさえ目の前に映るのはルナエラの姿だった。視界に入った瞬間に涙を止め覚悟を決める。強く一歩を踏み出し無理やり間合いを詰める。


「秘剣……月匣残花」


長剣をルナエラの右肩に向けて振り下ろす。ルナエラは鉄扇で防ごうとするがその手を止め、笑った。光線屈折ルーメン エフラクティオによって逆方向と、右腹部から光の太い光線を作り出し三方向同時による攻撃は防ぎようがないものだった。体を変化させずに刃を受け入れた。切り裂かれた体は地面に落ち、消えていく。


「ルナエラよ、もうここにはおらんのじゃろう?斬る前から分かっていた。童が彼らの姿を見た瞬間から逃げたんじゃろ」


「ばれたかえ。そうや。本当は肉塊になるまで切り刻んで快楽に落とすはずだったんやけどばれておったんじゃあ仕方ないわ。わっちはもう楽しんだし帰らせてもらうわ」


「逃がすわけがなかろう。お前を野放しにしてはまた犠牲が出てしまう!」


「あんしんしな。しばらくは人は殺さんわ。これはわっちの主に誓って約束する。大虐殺は非常に美味やけど疲れるんや」


「そんなの信じられるか!」


「信じるも信じないも自由やけどわっちはお暇させてもらうわ。ここももうじき崩れる。せいぜい生き残りや~」


その言葉通りに地響きが起こり始める。望月の唄によってできた世界も薄れ、境界がなくなっていく。


「ミホノよ、立てるか?」


「はい……」


「お主は早くここから逃げよ。童にはやらねばならぬことがある」


「必ず帰ってくると約束してください。でないと子どもたちが……むぐぐぐぐ」


「そこまで言わんでもわかっておるわ。必ず帰ってくる。だからこれを預かっていてくれ」


ルーデルワイスは髪につけた蝶型の髪飾りをミホノに渡した。8年前ルーデルワイスがミエコ・アオガネから貰った髪飾りだった。


「わかりました。かならずあなたに返します」


ミホノは突入したステンドグラスから飛び降りる。ツインターボに備え付けられたパラシュートを展開し、斜めに落下しながら降りていった。ルーデルワイスはヤトノカミを納刀し、崩れ行く世界を収束させる。またもや白い光に包まれていく。ルーデルワイスは振り向かず歩いていく。


「見ていてくれ。童が必ずお前たちが安心できる世界を取り戻して見せるから」


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