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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
テレジア編
5/61

秋のある国

今回の章はゼフィス視点ではなくデルクーイ視点です。

大商業国テレジア。この国は秋のない国と呼ばれていた。秋のないというのは、全く栄えていないという訳ではなく、むしろ栄えている。秋とは商いを指し、【飽き】のないという意味が広く知られている。俺はこの国の騎士団兵長だった。2年前、歳も58になり体の限界を感じて軍をやめた。茶髪には白髪が目立つようになり、針のあった肌はシワができてきた。兵長の座を一番弟子であるルイスに譲りただ一人小さなバーを経営しながら余生を過ごすことにした。客のほとんどは元部下たちで日々の疲れや世間話を聞く相手になっている。


「最近、ルイス兵長が気張りすぎていて危なっかしいんですよ」


「そりゃ張り切りたくなるさ。自分の訓練次第でお前たちが死ぬかもしないんだ」


兵士は愚痴を言いつつも笑いながら話す。ルイスを尊敬するように時間を教えなければ、何時間も語ると思えるほどに話す。人望は俺よりも高いようだ。そう思いながら俺はグラスを磨いていた。


「そいや、ルイスと【龍装】の相性はどうだい?」


「未だ扱えてないみたいです。形状変化と言うよりかは伸びるだけというか」


やはりまだ扱えていないか。【龍装】とはこの世界に12本ある剣のことだ。一つ一つに龍の絵が彫り込まれており、剣から他の武器へ形を変えるのだ。テレジアの歴代兵長たちはこの国の宝剣である龍装『魔剣ヴリトラ』を持つことが許されている。俺も3年ほどかかったからな。

「あいつにはゆっくりやっていけとだけ伝えてくれ」

「ハッ!」


俺は鼻歌を歌いながら閉店の準備をしていた。あんなことが起きるとは知らずに。




現在から3ヶ月前、その日は大雨で誰も店に来なかった。勢いよく開く扉とカランカランとなるドアベルの音。外からは槍のように降る雨の音が鳴り響いていた。そこに立っていたのは甲冑を大雨に濡らしたルイスだった。


「どうした!」


「師匠、国王が……」


その顔は悲痛に沈んでいた。俺はとりあえずタオルを渡し暖かい珈琲を入れる。


「何があった。国王が倒れたのは本当か?」


「はい、食事を召し上がっている途中、急に倒れて」


毒殺?誰が、なんのために?俺が知る限り国王は優しいお方で各国からの評判もいい方だ。


「お前は誰を疑っている?」


「私は第一王子であるザイン様を疑っています。最近見知らぬ商人を城内に連れられていますし、ヴリトラも奪われました」


ザイン様は武闘派の方だ。普段から国王の政策に不信を抱き、眉間に皺を寄せていた。見知らぬ商人も気になるな。現状としてはその商人か王子が毒を盛ったと思える。この国を乗っ取る気なのか。


「俺も情報を集めてみる。お前はとりあえず城に戻れ」


「待ってください!最近兵たちが変なんです。なんかこう、だらけきっていて」


アイツらがだらけきっている?ありえない。アイツらはきつい訓練にめげず、むしろやり甲斐のあるような顔で受けに来る。それなのにだらけきっているだと?


「魔道具らしきものが運ばれているのを見ました」


「魔道具の力か、多分違法物で制約付きのやつだろう。魔道具は制約があればあるほど能力が倍増されるからな。国全体となれば俺も対象だからな。まて、お前はなぜ効いていない?」


ルイスは右腕を見せた。その腕には幻式が装着されていた。


「あなたが教えてくれたことを思い出しまして、見たあとすぐに装着しました」


俺は弟子が俺が教えたことを覚えていてくれたことを嬉しく思えた。しかしこの先が少々不安だ。


「わかった。お前はもう戻れ。これ以上長居しては王子に怪しまれる」


ルイスは丁寧にお辞儀をして城に戻った。さて、一体どうなっている。見知らぬ商人、第一王子の反乱、違法と思われる魔道具の流入。この国が変わりつつあるのを肌がピリつくのほど感じる。とりあえず明日は街へ行こう。現状を確認しなければ。



次の日、いつも店に来ていた兵士たちの姿はなく、客は誰も来なかった。俺は街に出た。街は相変わらず活気に溢れていたが妙におかしい。承認の数が明らかに多い。普段はちょうどいいぐらいにしかいないはずなのに商人が多すぎる。しかも明らかに金を持っている奴らだ。


「もし、そこの商人。今日は何しにここへ?」


「おおこんにちは、今日はいい魔道具が入ったらしくオークションに行くところです。いやはや驚きましたな、まさかこの国が違法魔道具を取り扱うとは。確か取り締まられていたはずでは?まぁ、そんなことはどうでもいいですな!」


嘘だ、この国が違法魔道具を取り扱うはずがない……俺はそう思いながら聞き込みを続けた。だが皆口を揃えて違法魔道具という言葉を言った。信じられなかった。だがもはや信じるしかないのだろう。次に俺はオークションとやらに行くことにした。どのように行われ、どのような物が出品されているのか調べなければならない。



商人たちの出入りが多い施設に着く。見た目は平屋だが地下に会場がある設計だろうか。中に入るとそこでは全員マスクをつけており、一種のホラーを演出していた。俺も同様にマスクを付けることを強要され仕方なくつけた。いざホールに入ると多額の金が商人たちの口から発せられる。200万ゴールド、600万ゴールドと、皆血眼になって競りをしていた。それを見た俺は息が詰まるほどその状況を呑み込めずにいた。まさかはした金が渦巻く間の境地になっているとは。一人一人が豪華な装いをし、自分の私腹を肥やすことだけを考えた者たちが集まっていた。昨日までは自分の国の特産品に誇りを持つ商人ばかりだった国は一変し、誇りもプライドもない欲望渦巻く外道の国に成り下がっていた。




「デルクーイさん、アイツら魔道具以外のものを買わずに出ていきやがる。飲食店を利用するやつなんざマナーも態度もなっちゃいねぇ。食い散らかして行きやがる」


俺の店にはこの国で商いをする仲間たちが集まった。皆思うことは同じで、今の政策に嫌気がさしているのだ。国王が床に伏せていることはまだ公表されておらず、皆王が気を狂わせたと思っている。


「元兵長のあんたがガツンと言ってくれ!」


「少し落ち着いてください。私たちが尊敬した王がそんなことすると思いますか?きっと誰かが裏で操っているんです。だから調査が終わるまでは落ち着いて」


皆口を閉じたがその顔には不安を残しているように思えた。ドアベルが鳴る。そこにはルイスが立っていた。


「師匠、皆さんもお揃いだったんですね。報告します。やはり第一王子が何か企んでいるようです」


やはりそうだったか。店内はまたざわつき始めた。王の安否を気にする人もいれば、第一王子であるザイン様を非難する人もいた。だが、第一王子だけでこんなにも早く国が変わるか?恐らく例の商人の暗躍だろう。俺の中ではひとつの作戦があった。だが資金の問題があり皆に迷惑をかけるかもしれなかった。だが思うことが一緒であれば快く引き受ける人もいるかもしれない。俺はそれにかけた。


「皆聞いてくれ。俺は第一王子を捕らえ、この国を戻そうと思っている。だがこれには資金面での問題がある。このままこの国を好き勝手されるのは俺も、皆も嫌なはずだ。だから手伝ってくれ!」


俺は頭を深々と下げた。それを見たルイスも頭を下げた。最初こそざわついていたがすぐに収まったのだ。


「わかった。あんたの言うことなら信じる。」


そう言って出せる金額を話し合った。だが必要額には届かず諦めかけていた。


「やぁ、この店はやっているかい?今日はどの店もやってないから困っているんだ」


ドアの方から男の声が聞こえた。その声は低く俺と同じぐらいの歳だと思わせる風貌をしていた。


「あなたは? いや、お前はガルシアスか!」


俺はこの男が旧友であるガルシアスであることがわからなかった。だが頬から首にかけての傷跡、これを持つ者はガルシアスぐらいだ。お互いの職業の都合上会うことがなかなか会えず、10年ぶりの再会だった。


「その口の利き方はデルクだな!」


俺たちは再会を喜びあった。


「まさかBARをやってるとは」


「お前、仕事は?」


「ああ、まだ退職はできてないが、ある程度は俺がいなくても進むようになった。今は新しいマーケティングを探しに各地を回っている」


俺はこの国の現状をガルシアスに話した。この男がいれば作戦がもっと上手くいく。そう思った。


「なるほど、わかった。俺もこの国で美味い酒を呑めなくなるのは嫌だからな。あと、この国に売っている我社の製品が売れなくなる可能性だってある。それはなんとしてでも避けなくては」


俺はオークション会場の様子を鮮明に話した。商人仲間は苛立ちを抑えつつも今まで積み上げてきた物を崩されたような絶望を表情だけでなく体の震え、拳を強く握ることで察することが出来た。




現在。作戦決行2日前。ガルシアスはオークション会場から戻り、一人カクテルを呑んでいた。


「今日は各国の要人が多く来ていたよ。多分自国強化か悪商人どもと手を組んでいるかだ」


俺はハイボール片手に話を聞いていた。この三ヶ月、国を変えるために動いてきた。もはや商人仲間達の怒りは限界に近く、いつ反乱が起こるかわからない。反乱だけは絶対に避けなければならない。この国は商人たちの優しさや誠実さで有名になったという面もある。反乱なんて起こしたものなら国の地位は一気に堕ちるだろう。もしかした各国の要人とやらはそれを狙っているのかもしれない。


「反乱が起きそうだって、ゼフィスに言ったか?」


「言えるはずないだろ。彼には来て早々重い任務を課してしまった。これ以上の不安要素を増やしてしまえば壊れてしまうだろ」


せめて彼にだけは傭兵団にいた頃のようにのびのびと仕事をこなしてもらいたい。難しいことや後の責任は作戦を立てた俺が考えるべきことだ。俺のような老いぼれはもう必要とされないだろう。これからは彼のような若者が活躍する時代だ。仕事を終えた俺たちが責任を持たなくては。


「あいつはそんなに弱くないさ。現にティルナシアを守ってきたじゃないか。」


「ああ、だがゼフィス君にはほんとうに申し訳ないことをした。俺の体があと3年若ければ」


ガルシアスは笑った。俺も笑った。こんな話ができるのは歳をとった証拠だからだ。もう最盛期ではない。むしろ力は衰退しているのだ。だからこそ俺はなるべく彼の役に立とうと思う。


「お前はこの作戦の後どうするんだい?」


「決まってないがまた旅をするよ。俺が目指す目標には程遠いからな。それにまだ呑んだことのない酒だってあるからな」


「ふふ、そうか。ならお前に頼みたいことがある。」


内容を聞くとガルシアスはニコリと笑った。その目は輝きやり甲斐を見つけたような目をしていた。


「ああ、なら死ぬわけには行かねぇな」


俺たちは乾杯し残った酒を一気に呑み干した。


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