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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
45/61

 「合戦ジャー!」


「うおおおおおおおお!」


兵士たちが一斉に戦場へなだれ込む。血気盛んという言葉がふさわしく、敵と対峙すれば自分の首が飛ぶ前に相手の喉をつぶしたり、掻き切ったりとあらゆる手段を駆使し命を散らしていった。戦争に作法も法もない。この男、ハザマはそんな血肉のにおいが立ち上る戦場で一人歩きながら向かってくる敵兵を一振りで始末していた。


「やれやれ、味気ない奴らだ。芯がない」


「そんなこと言わずに戦わんか!」


ルーデルワイスは数十人の敵兵を束にして殺す。そしてハザマの言葉にいら立ちを隠さず返す。戦争であっても彼女のハザマに対する態度は変わらなかった


「いやあ、拙者もっと血肉躍る戦場を期待しておりました。ですがどうです。魔族の兵士はやる気がない。殺されることを望んでいるような感じがしますな」


「なら、殺してやればええじゃろう。どうせ奴らには死して償ってもらうしかあるまい。それかその魔眼で見ればええじゃろう」


「へいへい。では姫殿、拙者はここで虐殺を独り占めしたいのであなたはルナエラのもとへ向かってください。ミホノ!」


「ありがとうございます、ハザマさん!」


「え、ちょ!?待つのじゃハザマ!聞いておらぬぞ、童もみんなと一緒に戦……うわああああああー!」


ミホノの装備した第3世代型試作型幻式『ツインターボ』によって担がれたルーデルワイスは真っ直ぐにルナエラが鎮座する城に飛んでいく。それを手を振りながら見送ると、ハザマは目線を戦場に戻し、敵陣へ突進した。前衛にいた兵士の首を一振りで宙へ飛ばし、崩れる体を足場にして空へ飛来した。


「こんな戦争は止めに終わらせて祝杯としゃれこもうじゃないか。時魔法『酔いどれ』」

ハザマは敵兵の頭上で刀を一振りする。そうすると敵兵の足取りは重くなり、ゆっくりとした動作になる。時魔法『酔いどれ』。対象の時間を一時的に遅くさせ、間合いに入る魔法だ。


「いなさ車」


刀には風が集まり、渦を巻き周りの土や血潮を巻き込んでいく。そして横一閃に振ると、竜巻は多くの敵を巻き込んでいく。恐ろしいのは竜巻の中に入った兵士が増えるほど破壊力が増していくことだ。


「ハザマ様、よかったんですか?ルーデルワイス様は我が軍の最高戦力。あの方がいなくなって派兵の士気も」


「カイル殿か、大丈夫ですよ。この戦争は、ルナエラを打ち取れば終わる。それにこの戦争で一番報復心を抱いているのは姫殿だ。姫殿にしかできない仕事ですから」


「なるほど、では私も仇打ちと行きましょうか。腐食ニグレド


カイルは魔学式薙刀マジックスピアを構え、迫りくる敵の腹に攻撃を与え、体内から魔力を逆流させ魔術回路を破壊していく。ハザマとの鍛錬によってマジックスピアの使い方を上達させていった。今までは集中しなければ発動できなかったマジックスピアの力を、無意識化でも発動できるようになった。魔術回路を破壊されれば激痛が走り、そのまま死に至ることがある。


「ハザマ様―、タイタンが来ましたー!」


「よーし、やっと骨がある奴が来たー!」


「ハザマ様、あの横にいる男は?」


重々しい甲冑を身につけ、タイタンと同じぐらい大きな巨漢がタイタンの横を歩いていた。モーニングスターを振り回し、目の前にいる兵士を敵味方関係なくなぎ倒していく。


(あの大男、ただものじゃあない。魔族でもなければ人族でもないオーラを感じる。拙者以外タイタンを倒せる者はいない。だがあいつは……)


「あの巨漢は私にお任せください。あなたはタイタンを」


「だが、あいつは……」


「安心してください。私はあなたに稽古をつけてもらったおとこですから」

「……わかった。死ぬなよ」


剣を構え、真っ直ぐに駆け抜ける。そして魔術防壁が張られていると思われる位置まで近づく。ハザマはタイタンと初めて対峙した時に感覚で魔術防壁の大きさを理解していた。

「花火」

刀に炎が宿り、防壁に当たる瞬間色鮮やかに爆発する。しかし魔術防壁が爆発によって集中しただけで、壊れることはなかった。


「ち、やっぱり装置を壊さないと破壊は困難か。なればこそだ。時魔法『時機』」


タイタンの攻撃を切り防いでいくとともに、魔術防壁を切っていく。しかし魔術防壁が壊れることはなかった。だがそんなことに目もくれず、ハザマはタイタンに攻撃を仕掛けていた。何十何千もの斬撃を繰り出すとハザマは納刀し、タイタンの後ろへ回り込んだ。動きはタイタンのセンサーにとらえられないほど早かった。


「これで潮時だぜ。五神流・・・、風神の風袋」


抜刀する瞬間に今までハザマが攻防を繰り広げた場所から突如として斬撃が生まれた。抜刀したくわい海狼が出力の弱い魔術防壁に触れた瞬間、風が爆発したように吹き荒れ、バリアを破壊した。時魔法、時機。魔法が発生しハザマが降った刀の軌跡の時間を停止させる。魔法を解除した瞬間に発動することができる。防壁発生装置を破壊し、構えたまま着地する。

「五神流、雷神の雷太鼓いかずちたいこ


タイタンの足から頭上にかけて刀を登らせる。刀から雷が見え隠れする。そして刀の軌跡にそって地面からタイタンの頭のてっぺんにかけて稲妻が登っていく。天に上る稲妻はタイタンの鉄肌を焼き焦がしていく。タイタンは接合部から火花を散らし、爆発する。破壊したのを確認すると巨漢と戦うカイルを見る。善戦しているものの、決め手が一つもなかった。


「なぜだ、なぜ魔力が逆流しないんだ!」


足の甲冑は厚く、カイルのマジックスピアの能力が通じなかった。そして弱点に届かないために攻撃が通じないのだ。モーニングスターを振り回す速度が上がっていき、避ける姿も危なくなっていく。


「Gmmmmmmm Aaaaaaaaaaa!」


モーニングスターを不規則に、荒々しく振り回す。カイルはモーニングスターの軌道についていけなかった。宙を駆け抜ける鉄球はカイルを巻き込み、地面にたたきつけられた。


「カイル……わかった。安心しろ拙者がお前の仇を取ろう」


ハザマは小刀を抜刀し、右手に持つ。刀の切っ先を地面に向け、脱力した。体中の力は抜けながらも目は巨漢をにらめつけていた。


(奴は尋常じゃないほどデカい。何がやつをあんなにおおきくした。あいつは魔族じゃあない。まさかゼフィスの言っていたモンスターか?まあそんなことは今はどうでもいいか。まず奴を倒すためには戦場を広くとる必要があるな)


「全兵士に告ぐ。重傷者を連れて撤退しろ。ここは拙者一人で十分だ。退却後動けるものは他の隊へ合流してくれ」


「しかし、私たちは戦えます!」


「二度は言わせないでくれ。ここは拙者一人で十分だ」


鷹の目のようににらめつけ、兵士たちは怖気づく。そして怪我した兵士、カイルを担ぎ戦場を去っていく。全員が戦場から離れたことを確認し、また目の前にいる敵の群れに目を向ける。


「敵は数百。勝てない数ではないな。まずは雑魚の排除か。お前ら、誇れ。拙者に小刀を抜かせた者は姫殿とベルゼハートという男だけだ。まあお前らを早く片付けたいたいだけだがな」


ハザマは巨漢の周りを囲む兵士へ突っ込む。一振りで多くの敵を切っていく。敵兵の目にハザマの姿が映るころには体が輪切りにされるか、左右対称に切られていた。ひどいものは大刀、小刀によって首と腰が斬られていく。


「カイルよ、お前の代わりに俺が怒ろう。そして奴らを葬ろう。だから悲しむな。時魔法『時時刻刻』」


時時刻刻。ハザマ自身の体内の時間を早め、身体能力を早める魔法。今まで以上の速さで動くハザマに圧倒されていた。巨漢も動きを追えなかったようで、モーニングスターを投げては敵兵をなぎ倒していった。大刀には雷が宿り、小刀には風が宿る。


「風神雷神乱戦絵図!」


両刀に宿った風と雷が戦場で荒れ狂い、敵兵をなぎ倒していく。地面をえぐるほどの竜巻は敵兵を切り刻み、雷は感電していった敵兵を容姿がわからないほどに焼き焦がしていく。ハザマは目に映る敵すべてを殺していった。斬って斬って斬り続けた。


「なんだあいつは……俺たちと同じ魔族なのかよ!」


「同じ?そうだな、拙者は魔族ではあるが貴様らとは非なるもの。そう拙者は()だ!」


「お…に…!?嘘だ。鬼は滅んだはず!ぐばあぁ!」


「そうさ、拙者は滅んだ鬼の一族の生き残り。そして貴様らに死をおくるものだ」


血を払い、巨漢に目線を向ける。どうやらハザマを殺すはずが周りの敵を巻き込んで殺していたようで惨殺された死体のほかに、潰された死体が散在していた。流れ出た血によって地面は赤く染まっていた。


「よお、お待たせしたな。なあ知ってるか。カイルはな、奥さんはこの国に壊されっちまんだ」


ゆっくりと歩き出し、少しずつ距離を詰めていく。巨漢はモーニングスターを振り回し、投擲する。しかしありもしない方向に投げていた。


「時魔法『蜃気楼』。虐殺で動いた拙者の軌跡を映し出す。いわば分身だ。姫様曰く薄くて触れれば消える。これを見破られないということはお前に知能はないんだな」


本物に目もくれず周りの分身を壊し続ける。間合いに入った瞬間足元の甲冑を切り裂く。甲冑には切り傷だけが残り、肉を切った感触は全くなかった。甲冑の硬さを確認すると、ハザマは蜃気楼を解除し、巨漢の目を本物に向けた。巨漢はハザマの持つ刀に目を向ける。


「Guuuuu……ゼ…フ…ス」


「何?ゼフィスを知っているのか?」


「Wooooooooo!」


「お前がゼフィスを知っている理由は知らんが、お前の潰れた顔を見ればあいつも思い出すだろうさ」


モーニングスターの軌道をしっかりと見て攻撃を避けていく。あまり動かずモーニングスターの軌道を読み、鉄球が地面激突する瞬間を見極め寸前で避けていく。速度が上がろうとよけ続ける。


「デカいだけか。もう終わりにしよう。お前たちから得られる情報などないだろうからな」


ハザマは納刀し、その場で立ち続けた。ただ立っているハザマに真っ直ぐとモーニングスターを投げる巨漢。鉄球が当たりそうになる瞬間に後ろへ飛び、大地にたたきつけられた瞬間に飛び乗り、鎖の上を走っていく。足から切り捨て用にも刃の長さでは切り捨てることはできない。では首や内臓ならばどうだろうか。首や胴体は動かすことを考慮してか装甲が張られていない。そのためハザマは確実に命を絶つことができる首を狙った。鎖の短い道を抜け、太い腕を駆けあがる。そして方に到達すると、一直線に首に飛び、居合の構えを取った。


「五神流、カグツチ、炎天の閃光!」


刀から炎が立ち上り、蒼い刃は赤くなる。刃が首に触れ、目にもとまらぬ速さで刃を振る。軌跡からはドロドロに溶けた肉があふれ出し、周囲外周に包まれる。そして首元が光りだすと、首が燃え爆発した。頭は爆発の勢いで地面に落下し、魂の抜けた顔だけが残った。


「さて、拙者の仕事はとりあえずここで終わり。こいつを塩漬けにして腐らせないようにしよっと」



医療班のもとに足を運んだハザマは迷いなくカイルの眠る場所へ向かった。


「先生、状況は?」


「手は尽くした……」


その言葉に軽くうなずき、カーテンを開ける。ベットには包帯にまかれたカイルのもとへ向かった。包帯は何度も変えられているようだが血が滲み続けていた。医者の言う通り峠は越えられていない。峠どころではない。もはや三途の川を渡ろうとしている状態だ。


「カイル、しゃべらなくていい。聞いてくれ。あの巨漢は無事倒した。そしてあの戦場にいた敵も全員葬った」


弱り切った体の力を振り絞り、ゆっくりと頷く。ハザマは魔眼を発動し、カイルの心を読んだ。


『ありがとうございます……ですが申し訳ありません。あなたの顔に泥を塗るようなことをしてしまって』


「謝らなくていい。君はよく戦った。自分の何倍もある敵に臆することなく戦ったんだ。誰もカイルを攻める奴はいないさ」


顔にまかれた包帯が動く。ほほが動いた証拠だ。だんだんと心の声が聞こえずらくなっていく。


「カイル、君に真実を告げよう。君はもう助からない。君の心も読めなくなってきた。もう君の生命が途切れる証だ。だから最後に君の奥さんケイラに伝えたいことを教えてくれ」


『……』


「わかった。最後の言葉必ず届けよう。戦士カイルよ。君の雄姿は拙者の記憶の中で永遠に生き続けるだろう」


握った手は力が抜け、こわばった体は自然に抜けていった。ハザマは医者を呼びその場から去っていく。流れた涙をそのままに戦場へ戻っていった。


「死者の時間までは戻せない。ならば拙者は今生きる者たちの時間を守るとしよう。だから早く片付けてくれ姫殿」


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