強欲の覚醒
城門を前にして大勢の人族が笑いあったり、報酬の話をしたりと盛り上がっている。皆口を揃えて色欲様ことルナエラの話をしていた。
「おうおう開きなすった。さーて、稼ぐぞー」
「アキウスさん、あんたなんでここにいるんですかい?まあさかあんたも色欲様に魅入っちまったくたかい?」
「なわけねえだろ。快楽なんざ知るか。俺は金のために来たんだよ」
「けっ、金ばっか稼いであんたは何をするだい」
「秘密だよ秘密。さーておもしれえやつはいるかなぁ」
アキウスと呼ばれる男は城壁を登り双眼鏡を構え、強欲暴食連合軍を観察する。
「ん?あのたたずまいはもしや……それにあの顔どっかで……」
双眼鏡の倍率をいじり、顔が見えるまで倍率を調整する。そして緑色の髪の女性と、黒髪の人族の少年の顔を確認するとニヤリと笑った。
「あいつらァ来てたのか。ナリトカに異端者ゼフィスさんよぉ!」
双眼鏡をのぞきこんでいるとナリトカと視線が合い、笑い返してくる彼女に恐怖とハラハラ感を感じているのだった。
「おもしれえ、一攫千金もそうだが奴らを討てば俺の名声は上がる!」
腰に指した魔道式剣銃「ライオットバレット」を肩に乗せる。
「おめえら気ぃ引きしめな。戦場の女神様は俺たちに唾を吐くかもしれねえぞ」
「へいへい。ていうかアキウスさんの装備ごつくねえっすか?」
「実験だとさ。これが俺の依頼でな。データを取って来いってさ」
彼らはもんが開かれるのをひしひしと待ち望んだ。冷えた戦場のからっ風と、古傷が傭兵たちを奮い立たせ戦場への思いを奮い立たせた。
私は拠点にある小高い崖の先に立つ。身につけた甲冑は重く、私の体には合わない。煌びやかな宝石や金の造形は反射して眩しい。目の前に広がる軍勢。数はやや色欲軍が多く、脚がすくみそうになる。震える手を抑え、深く息を吸う。そしてゆっくりと吐く。そしてまた深く息を吸い、腹に力を入れる。
「やあやあ我こそは強欲の魔王アロウマラシアスなり!父はマモン母はエルダ。代々ナギアの地を治めし者なり!我らは亡き肉親の弔いに色欲の魔王ルナエラを打倒するために立ち上がりし兵なり!腕に覚えのある者よ我が首狙い殺せ!さすれば汝らの頭領が褒美を与えるであろう!」
自分でも思う。古風だ。古風すぎる。こんな名乗りもうやるやつなんて私ぐらいしかいないだろう。恰好の的すぎる。私は武人でもなければ戦士でもない。だが兵士たちを配置させるためにも必要だった。幸い相手に銃や大筒といった兵器を持つものはいないようだ。名乗りはただ兵士たちの配置を完了させるための時間稼ぎだけではない。私の覚悟を決めるためにもやったことだ。
「ラプラス!」
私は二人のお姉さまと過ごす日々を本気で楽しんでいた。お姉さまは職務で忙しい時でも私の遊び相手をしてくれていた。私に本を読み聞かせてくれたり、父上に内緒で城下町へ遊びに行ったりと三人で過ごす日々を楽しんでいたのだ。父は私たち姉妹を煙たがっていた。跡継ぎを決めようとも男の子が生まれなかったからだ。母を失ってからは貴族の娘たちと過ごす日々が多かった父を私たちは嫌っていた。
「おまえたち、わたしはこの魔王の力をお前たちに授ける。王になれというわけではない。男を生み、その子に魔王の力を継承させるのだ。この血と魔王の力は決して断ってはならぬ」
「お父様、この二人に継承させるのはおやめください。どうか私にお任せください」
最初に名乗り上げたのは長女だった。長女は魔王因子の恐ろしさを知っていたのだ。適合しなければ耐え切れない痛みを味わい、死に至る。そのため私と次女を殺さないために自分から名乗りを上げたのだ。しかし、適合しなかった。次女も同様に適合することがなく、結果私が残った。大好きだったふたりの命を奪った忌み嫌うべき力。これが私が中片角の魔王であることの理由だった。私はこの力を受け入れたくなかった。大好きなふたりを奪ったこの力を抱いて私は死ぬつもりだった。だが死ねない理由ができた。国民とルゥだ。国民は魔王になった私についてきてくれた。ルゥは失った者たちのために私と歩いてきてくれた。だからこの力を捨てるわけにはいかなかった。そしてこの力を受け入れるならこの瞬間なのだろう。この力を開放することは魔王になったことを受け入れることになる。だがそれがなんだみんな国のために戦ってくれている。ならば過去にとらわれ続けている私では彼らに示しがつかないだろう。だから私はこの力を受け入れる。それが大好きだったふたりを悲しませることだとしても。私は立ち止まっているわけにはいかないのだ。
私は今まで一度しか使ったことの無い全力の魔力放出を発動した。頭が割れるように痛い。痛みで頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。だが私は耐えた。私には護るべき民のために立ち上がったのだ。そしてサラルスで己のみを犠牲にして苦しみを抑える魔王の姿を見たのだ。徐々に頭痛が引いていく。なぜ引くのかは分からきった。だが確信できていることがひとつあった。私の覚悟が力に現れているのだ。今まで乱雑に流れてきた情報が整頓されたように流れてくる。連合軍の兵たちの配置が完了したこと、自分を鼓舞する者たちの気持ち。そして魂に刻まれた記憶が流れてくる。敵陣に見えたのはルナエラらしき女のにやけ面とゼルファストの景色。そしてたくさんの人族たち。
「強欲暴食連合軍の兵どもよ!進め!私たちの歩みを止めるものはいない!進めー!」
私は無我夢中でいたため、兵たちの顔に気がつく。ある者は指をさし、ある者は笑っていた。
「強欲の魔王が覚醒したぞ!!」
「うぉおおおおーーー!」
その言葉を聞いた私は頭を摩る。今まで何も無かった右側頭部に硬く、長い感触を手に感じたのだ。角だ。もう一本の角が生えたのだ。
「覚醒した。私、再覚醒した!」
喜びを少し抑え、私はアトラスに搭乗する。操作系は全て頭に入っており、起動プロセスをスムーズに行う。モニターに次々と光が灯っていく。そしてレバーを前に倒し、アトラスを前進させる。運転しながらガルシアスの持つ通信機に発信した。
「ガルシアス、聞こえる?」
『ああ、いい名乗り上げだったぞ』
「ありがとう。そんなことより言わないといけないことがあるわ。この戦争魔族だけじゃない。あなたたち以外の人族も紛れてるわよ」
『俺たち以外の?』
「ええ、詳しくは分からないけど人族らしき魂の記憶が見えたの。たくさんの人族に機械仕掛けの世界が」
『わかった。ゼフィスたちにも伝えておこう。もしかしたらこの戦争俺たちが考えている以上に厄介かもな』
目の前のモニターに目を向ける。目の前からは3機のタイタンが近づく。私はオルテアに繋ぎ、タイタンの相手を自分が引き受けることを告げた。私がやるべきことは力を示し、兵士たちの指揮をあげることだ。そのためにもタイタンはちょうどいいのだ。サナダが言うにはドリルには魔法を弾くマギカニウムが使われている。ならばバリアを突破できるはずだ。
『承知致しました。魔王様、ご武運を』
「ええ、兵士たちを頼むわ。あなたは『リンク』で送った情報通り動いてちょうだい」
通信を切り、目の前の相手に集中する。どうやら魔力放出が常時発動しているようで、空気の揺れや、温度など覚醒前から感知していた情報が毎秒ごとに更新されていた。
「見える……見えるわ。敵の動きが見える!」
3機のタイタンは扇上に旋回した。私に向かって1機のタイタンが突進をしてくる。しかし、周囲の情報を得た私には次にとる行動がわかるのだ。私には一つ覚えがあった。人族は様々な情報を統合し、天気を予測するらしい。今の私には天気予報と同じ予測が働いているのかもしれない。私はすぐに右脚部のタイヤにブレーキをかけ、緊急回避のような動きをとる。そして後ろをとったところで、自慢のドリルで攻撃を仕掛けた。ドリルはものすごい轟音を立てながらバリアをこじ開けようとしていた。
「なかなか壊れないな。ならばこいつでどうだ!」
私はレバーに着いたボタンを長押しする。そうすると方につけられた砲塔にエネルギーが収束されていく。照準をドリルで削っている箇所に合わせる。
「喰らえ鉄クズがあ!」
指をボタンからはなすと収束したエネルギーはバリアに直撃し、消える。そうするとドリルはタイタンの装甲を騒音と火花を散らしながら破壊していた。兵士たちは聞いたことの無い音に動揺しながらも懸命に進軍していた。タイタンの装甲を貫き、動力炉を壊すとタイタンは静止した。静止したことを確認すると私は砲撃隊に連絡を繋げる。
「砲撃部隊。攻撃用意!中心を狙え!」
『了解。射角並びに装填完了。指示を!』
「放てえ!」
私の掛け声と共に轟音が空に響き渡る。轟音と共に空から金属片が降り注ぎ、敵陣に被害をだす。本来金属の練度を高めて空中での砲弾を炸裂させないようにするはずだった。しかし準備が間に合わなかった。
「オルテア、被害状況は?」
『こちらは被害なし。さすが我が国の魔筒ですな』
次に砲撃隊に連絡する。呼びかける声や、苦しむ声が聞こえており、少し不安になる。砲塔も砲弾と同じように金属の精度が思うようにいかず、壊れる危険性があった。
「砲撃隊、被害状況は?」
「こちら砲撃隊。魔筒が破裂しました。被害は砲撃手が中傷。ギリギリポーションでなんとかなります!ですが、魔筒はもう使えません」
「わかったわ。動ける者はケガ人の救護と医療班の手伝いに回って」
安堵すると共に私は次の標的に目を向ける。そのまま砲撃によって怯んだ敵陣へ突進しようとする。エネルギー砲を照射しながら敵陣を走る。しかしサナダからの通信によって引き返すことを強制された。
『エネルギー砲を使いすぎるな!そいつはエネルギーを燃料タンクに直結している。使いすぎれば動かなくなるぞ!』
「まずい、撃ちすぎた。もうエネルギー残量がない。せめて味方陣地の近くで停止しなくては」
陣地の近くで停止し、アトラスから降りる。エンジンルームのボディは熱く、戦った感触が思い出される。
「私、戦ったんだ。とりあえず拠点に戻ろう。私のやることはまだほかにある」
敵に飛び道具があまりないことを安堵した。安全に拠点に戻ることができた。今すぐ甲冑を脱ぎ捨てたい。もう冬だというのに緊張していたせいで甲冑の中は汗だくだ。冷たいけど水浴びしたい。今は現場の人間に任せればいい。ラプラスは停止させよう。けどそんなことを言っていられるのは今だけだった。
「貴様何者だ!」
医療班たちを拘束した男がひとり。
「私は色欲の魔王ルナエラ様の親衛隊がひとりレストと申します」
親衛隊?どうやってここまで。まさか誰もいない集落に潜んでいたのか?だがどうすればいい。医療班の救出に駆けつけないのを見ると拠点内の兵士は無力化されているんだろう。ラプラスを展開し、安否を確認する。みんな拘束されているだけ?生存反応は配置させた人数か。
「なんのよう?ここにいるということは殺される準備は出来ているってことよね?」
「ああ、けど君に私が殺せるか?飾りだけの将軍よ」
飾りだけ……確かにその通り。私は魔王という肩書きと、魔力放出だけが強み。1対1、対人では無慈悲に殺されるだけだ。けど他にも絶対にあるはずだ。私だってこの状況を、戦争に身を投じると決めた時から決めていたんだ。
「どうやら君の魔力放出は戦闘向きじゃないようだね」
「なぜそう言えるんだい?」
「君はこの会話のうちに私を殺していないからさ。いつだって殺せたはずだ」
ち、洞察力はいいようだ。私が仕える武器は魔力放出による攻撃の先読みと、魔石の力を腐食で吸収して魔力を高めることぐらいだ。やつの武器は鎖?
「さあいい声で泣いてくれよ?私は拘束され持続的に痛みを感じる人と私に嬲られ恐怖する人が好きなんだ!」
「狂っているな。ラプラス!」
とりあえず医療班から離れないと。私は鎖の軌道やレストの動きを分析し、先読みした。やはり甲冑を着ていては機動力が下がるな。先読みしたら直ぐに動かないと攻撃が当たってしまう。
『魔王様、聞こえるか?ワシじゃ、サナダじゃ!』
「サナダさん?今敵と戦ってて、連絡できるような状況じゃ」
『それは分かっとる。だからお主はそのままこっちへ進め!』
何か策があるのか?よし今はサナダさんを信じて兵舎テントへ行かなければ。レストはゆっくりと歩いて来る。あくまで私を獲物扱いし、狩りを楽しむ気か。兵舎テントであれば隠れる場所が沢山ある。真っ向から戦っても意味が無い。だから今私が取るべきはヒットアンドアウェイのゲリラ戦だ。
「兵舎テントか。私もそこは行かせてもらったよ。獣人のくせにいい所で寝るんだね君の国では」
「ふん、差別なんてものは無用な反乱を起こすだけだ。そんな非効率なものとうの昔に取り払ったよ」
地形は全て調べ尽くしているわけか。ならば拠点全体を上手く使うしかないな。
「魔王様!」
「サナダさん。策があるんですよね?」
「いや、あなたにこれを渡しにきました。こんなこともあろうかと、戦う準備をね」
木箱いっぱいに詰め込まれた私の実験の副産物。これを使って戦えと?けどこんなのガラクタに過ぎない。いや、まて。これ全部私が使い込んできたものばかりだ。農地改革や掘削技術の開拓、ルゥと戯れるために作ったものばかりだ。
「わかった。これを使ってやつを倒すよ。サナダさんは拘束された人たちの救助を!それと目の良い奴にコレを渡して小高い位置に行けと指示してくれ」
「御意」
甲冑を脱ぎ捨て、私が開発した魔学の開発品を付けていく。やつはまだ呑気に歩いているのか。ならば罠をしかけた私に勝機はある。
「おや、スリムになったと思ったらその変なものはなんだい?不格好で格好悪いぞ」
「そうかい、私が私の甲冑さ。さあ私の実験に付き合ってもらおうか。拒否権はないよ」
私は一直線にテントの中へ後退する。
「おいおい、戦うんじゃないのか?まあ逃げて逃げて逃げるがいい。逃げても逃れきれない痛みを教えてやろう」
逃げているわけじゃない。戦略。レストよ、踊ってもらうぞ。テント内に入り、遠隔飛行機無人機を複数起動させる。そして順次テントの外へ発進させる。
「おやおや、これはなんの冗談かな?」
レストは困惑しているように見えた。そう見えるのも仕方ない。なぜなら彼の目の前には正体不明で布を被った無人機が沢山いるのだから。私も布を被っているため、私がどこにいるのかがわからない状態だ。
「さあレストよ、私を見つけたまえ。私はここにいるよ」
複数の囮から私の声が発している。これは魔学型スピーカーを囮に着けており、私のいる位置を撹乱させることが目的だ。
「どこにいるかどれが本物か分からないがひとりひとり確実に潰していけばいいことだ」
レストは鎖を振り回しながら囮たちに攻撃を仕掛ける。よしここまで順調攻撃が当たった瞬間にやつを仕留める最初の作戦を決行する。鎖が囮に当たった瞬間、囮が爆発し、広く濃い爆煙が充満する。魔学炸裂弾。本来、採掘場で岩を簡単に壊すために作った爆弾だ。もし倒せなかったとしてもダメージはかなりのものになるだろう。よし、今のうちに次の作戦の準備だ。
「くそ、何だこの爆発は!?強欲の魔王。思ってたよりやるなあ」
「いつまで余韻に浸っているのかね?」
爆煙が晴れ、私が作ったた陣形が顕になる。無人機が頭上と四方を囲むように配置されている。レストの武器である鎖は爆発で壊れており、彼の戦力が下がったことと予定したダメージが入ったことが分かる。
「君、雷を受けたことはあるかね?」
フィンガースナップを合図にレストの頭上から水が落下する。そして四方のドローンが帯電を始めた。
「フォースバインド!」
帯電したドローンは頂点となり、電気で作られた四角形を作りだす。中心にいるレストは電撃に拘束され、身動きがとれなくなる。
「どうかな。拘束される側の気分は」
「ぐっ、悪くありませんよこれも」
これで勝てればいいが、やつは親衛隊を名乗る男だ。絶対に油断はできない。
「まあこの程度は温い」
電撃を振りほどき、囮を一気に壊していく。まるで私の動きを観察していたようだった。次の作戦に映る必要があるな。
「おい、私はここだ」
「おや、かくれんぼは終わりですか?」
もうこの作戦は使えない。だから場所を変える。
『魔王様、こちら観察兵。応答を』
「私だ。君には敵がテントに入る瞬間を教えて欲しい。頼めるかね?」
「任せてください!」
私は第2の作戦に移行する。いや最終作戦と言うべきか。そこまで準備できなかったため、策が少ないのだ。テントに入り、出口で観察兵の指示を待つ。今までは可視化できるものばかりだった。では視覚を防がれたらどうなるかな?
『入りました!』
「私も確認した」
私は出口へ飛び込み、外へ急いででる。そして指に着けた指輪で指示を出し、テントを吊り上げていたドローンの縄を斬らせた。あらかじめテントを支えていた骨は取り外していた。吊り上げられていたテントは重々しく地面へ落ちる。布によってレストの視覚を遮断することに成功する。ドローンはただテントを支えていた訳では無い。支えていた5機のドローンは一直線にレストへ特攻する。そして爆発。視覚を塞がれればルゥやガルシアスのような強き者以外は対策しょうがない。人間は視覚が一番優れている。そのため優れた器官を潰せば防御は困難だ。
「くっここまで追い詰められるとは。仕方ないなあニグレド!」
くっ、ここでニグレドか。身体強化なんてされたら逃げ切れる保証はないぞ。それにやつの闇魔法は相手の拘束。やばいなこれは。
「アルベド……もう君に勝ち目はないよ?」
勝ち目がない?何を根拠に言っているんだ。今のところダメージ量からすれば私のほうが上手だ。だがあの言葉は嘘じゃない。
「バインド」
体が動かない。くそ、想像以上の力じゃないか。ニグレドのせいで魔力が上がっている。これから脱するには私もニグレドを使うしかない。
「ニグレ……」
「させない!」
腹!空気を押し上げられたせいで言葉が紡げない。しかも瞬間に力を込められなかった。やつの闇魔法は体の自由を奪うのか。
「さあパーティーを始めようか!」
右ストレート、左フック、アッパー。攻撃の連鎖が止まらない。私は為す術なく攻撃を受けていた。どうすればいい。このまま魔力が尽きるまで待つしかない。
「あはは形勢逆転だ。いいねえ。勝ったと思わせての暴力は!」
痛い。痛い。痛い!負けるのか私は!負けたくない。負けたくない!考えろ考えろ!私に何が出来る。私の闇魔法は情報を相手と共有するというものだ。だがそれでは勝てない。いや、勝てるかもしれない。私が苦しんでいたものはなんだ?なぜ私は魔王になれなかった?それは簡単だ。今までは押し寄せる情報量に脳が処理できなかったんだ。だから私は魔王になれなかった!ならばやることはひとつだ。ラプラスで集めた情報を闇魔法『リンク』で一気にやつへ流し込む。殴られた瞬間を見逃すな!
「喰らえー!」
「リンク!ぐはあっ!」
私の闇魔法リンクは私が対象に触れている時に発動する魔法だ。相手に情報を伝えるただそれだけだ。だが生物の脳には容量がある。その量を超えれば気絶するか、最悪脳が焼き切れて死ぬ。そのためコントロールは繊細かつ身長にやらねばならない。大量の情報を送るにも相手に触れ続ける必要があるため、はっきり言って戦闘には向かない。今は少し触れただけだが相手を混乱される程度の情報を与えることが出来た。今のうちに策を考えなくては。
「ぐっ、なんだこの情報は!?何だこの数値は!?やめろは入ってくるな!」
よし、効いている。あとはどうやって長時間触れる状況を作るかだ。私がやってきたことを思い出せ。ある。私に出来る最後の作戦が。ルゥ引っかかってくれてありがとう。君のおかげで私は勝つことが出来る。ドローンは使い切った訳では無い。あと1機予備として待機させている。だがどうやって隙を作るか。もう囮はない。残ったものはひとつの魔石だけだ。まさか私がフィジカルで勝負する時が来るとは。だが四の五の言ってられない。勝つためならどんな手でも使ってみせるさ!
「ニグレドォ!」
「何!?魔石にニグレドを?」
知るはずないだろう。私も最近まで知らなかったから。私だって魔石にニグレドを使うなんて行為最初見た時は驚いた。だが実践してわかることがある。この魔力普通のニグレドで集まる魔力よりも強大だ。私はテントの残骸や、拠点に散らばる陶磁器出できた食器を投げて気をそらす。そして気づかれないようにドローンを近づける。
「ほう、やっと戦うつもりになったか!」
「最初から戦っていたさ!私に有利な状況、戦略、方法。私は決闘とか戦いの美学に興味はない!武人ではないからねだから……」
レストの足にドローンのアームが取り付けられる。そしてぐるぐると回転し、レストの意識を朦朧とさせる。
「最終的に勝てばよかろうなのだー!ラプラスリンク!」
頭を鷲掴みし、ラプラスで収集し続けた情報をレストの頭へ流し続ける。タイムリーに更新される情報は流す度に脳へダメージを与えていく。その痛みは誰よりも私が知っている。普通の人間では数秒も持たないだろう。
「その痛み。死しても忘れるな。その痛みは今を必死に生きる者たちの痛みだ。そしてお前たちがやってきた愚行への罰だ」
魔力放出相手の状態もわかる。死んでは困る。ルナエラの近くにいた人物であればやつには喋ってもらわなければ。ルナエラの目的を。レストの手足を拘束し、布で体全体を包みしばる。これなら目覚めても能力を発動できなければ動くこともないだろう。
「さすがに疲れたな」
魔力放出だけでなく、闇魔法や、魔学装置を同時並行で使用したらさすがに疲れる。それにフィジカルで戦うなんてもうやりたくないな。とりあえず私は力を示すことが出来た。今はその事実だけを噛み締めよう。




