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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
37/61

Mayday!

ミホノとルーデルワイスは荷物番をしており、何も無い状況に退屈を感じ、ただ空を見上げていた。


「デンドロちゃんっていつもその髪飾りつけてますよねー」


「これか?これはある人……いや隠さんでもいいか。お主の母に貰ったんじゃよ」


ミホノはルーデルワイスの言葉に驚き、空を見ていたせいか残像が残るが驚いた目で見つめた。


「母が?たしかにその蝶の髪飾りと同じような物をつけていたような……なぜ貴女が?」


「だから言っておろうに、貰ったんじゃよ。駄々こねて貰ったんじゃ。会えなくなるのは嫌じゃって、あやつはなナギアを出たあと他の国に行ったんじゃ。行き先はわからん。また会えると言っておったが童はそれが待てなかったんじゃ」


「そうですか。デンドロちゃんも母と……人の廻りは本当に分からないものです。どんな人だったんです?」


「多分お主の知ってるミエコと一緒じゃ。明るくて好奇心旺盛、あの頃の童はナイーブじゃったがミエコのおかげで立ち直れたんじゃ」


「そうですか……私の知らない母を貴女たちは知っている、それを私は知らなくちゃいけないんです」


「そうじゃな、だが童の口からは言えぬ。これはあやつが言うべき事じゃ。童の権限で決めれることじゃない」


ルーデルワイスはどこか遠くを見ているようにミホノの目には映った。物思いに耽っていると静かな風景を乱すかのような足音の郡が近づいていた。


「敵ですかね?」


「金属が摺れる音がする。これは軍隊じゃな」

押し寄せる足音の郡はミホノの気を引き締めさせた。



ティルナシア、ガルシアス、アロウはサラルスの現状を知るべく聞き込みを行っていた。


「あんたら下等生物の人間に話すことは無い」


しかし、ガルシアスとティルナシアは人間だからという理由ではねられてしまっていた。ゼルファストは人族に対する差別がある。そのため商業に適さず、好んでこの大陸に来る者は少ない。


「その角……まさか魔王か……あ、あんたらに話すことなんてねぇ!帰れよそ者!」


アロウは人々の怯え様と異常さをひしひしと感じていた。この光景を彼女は知っていた。いつ襲撃されるか分からない恐怖。それは彼女たちも味わった恐怖だった。特に獣人の拒否反応と貧困が目立っていた。


「みんな脅えてますね」


「これ以上彼らに聞いても無駄だろう。領主の元へ向かおう。彼らよりも喋ってくれるだろうさ」


「領主の元へだと?アポも取らないでいけるのか?」


「なんのための角だと思ってるんだい?暴論だが魔王をはねようものなら国際問題だ」


「暴論ですね」


「そうさ、私は目的のためならどんな手でも使う、どんな手でも生み出してみせる魔王よ」


3人は領主の屋敷に足を運ぶ。門番も酷く脅えており、役目を果たしていないように見えた。


「な、何者だ!」


「我は強欲の魔王アロウ·マラシアスである。ここを通せ」


「な、なりません!ここは領主様の屋敷。身元もわからない人は通せません!」


「しょうがないな、『ラプラス』」


魔力放出によって淡い青い光が周囲を通り過ぎる。アロウはふらつき、ティルナシアが肩を支える。彼女は一瞬にして情報を収集したのだった。


「君と私は初対面だ。もちろん私はここに来るのは初めてだ。ねぇテル君。ここを通してくれるかな?」


「な、なぜ私の名を!?」


「君も見ただろう?青い光がここ周辺を通り過ぎていくのを。魔力放出さ。魔王にのみ許される技。私は全ての情報をこの力で知ることが出来る。もちろん君の記憶もだ。ここで君が私たちを通さないのは結構。だが君のせいでサラルスが私たちに狙われても知らないよ?色欲と我々強欲が手を組めばどうなるかな?」


「くっ……わかりました。どうぞお入りください」


3人は屋敷へ案内される。慌ただしく、人の行き来はアロウに対するどよめきだけではない。アロウは頭を抑えながら進む。ティルナシアは肩を貸し、彼女の苦しむ姿を心配していた。心做しか角が出会った頃よりも大きくなっていることに気づく。


「アロウさんがあんなこと言うからこうなってるんですか?」


「なわけないでしょ。門番の記憶を読んだがここで行われていることは私たちと一緒さ。色欲軍の略奪、占領。サラルスの首都から遠いこの地には派兵がされるのが遅いんだ。だから民が野放しになってこうなってるらしい」


「更には魔人主義もあるな。魔人には食料やら水やらを配給しているだろうが獣人は野放し状態だろうさ。そのせいで獣人からは非難やボイコットが起こるのさ。街の静けさはその証拠さ」


「アロウさんの力もそうですがガルシアスさんの観察眼も流石ですよね」


「年寄りの観察眼は若者を導くためにあるのです」


ガルシアスは少し照れくさそうに鼻を擦りティルナシアに笑顔を見せる。そうしていると花の装飾がされた扉の前へ案内される。扉を開けると奥の椅子に座り、震える男がいた。


「だ、誰だ!?」


「私は強欲の魔王アロウ·マラシアス。単刀直入に聞く、この国で何があった?」


「その角……本物のようですね。こ、この国では……」


言おうとした途端領主の口元が急激に震えを増す。ガルシアスもなにかに気づき、歪んだ丸ガラスに顔を近づけ外を見る。少し見えにくいが砂煙が舞うのがわかる。足音と馬群が走る音が部屋中に鳴り響く。


「敵襲!色欲軍です!」


「百聞は一見にしかずか……2人とも行くよ。ここにもう用はない」


「も、もうですか!」


「これではっきりしたな。ルナエラの野郎、ゼルファスト全域に軍を敷いている可能性がある。ほっとくとまずいかもな」


急いで屋敷を抜け広場へ駆けつける。街には色欲軍が暴れており、応戦するように兵士とレオとゼフィスが戦っていた。


「魔王様、ここを離れてくれ。やつら、俺らを狙ったヤツらの仲間だ」


「わかってる。すぐに馬車で迎えに行く。それまで持ちこたえてくれ」


「俺も力を貸そう。ティルナシアはアロウの護衛を頼む」


「わかりました!ご武運を」


ふたりは馬車の元へ走っていく。ティルナシアは銀の翼を展開し前にいる敵の足を撃ち、行動不能にさせながらアロウを導いていた。


「しかし、この騒ぎはなんだ!?」


「ルナエラはナギアだけに軍を送っていたわけじゃないってことさ。ヤツはこの大陸全土に軍を敷いて略奪や戦争を行ってるんだと思う」


「じゃあアバドン(暴食の魔王)も協力してくれるかもな!ゼフィス、右!」


3人は連携をとりながら軍勢を少しづつ減らしていってが数が多く、劣勢を強いられていた。


「どうするよ、このままだと数で押しきられるぞ!」


「ゼフィスや、荒塊の力って確か事象を止めるんだよな?ならこれで隙を作ってくれ!」


ガルシアスは岩石を蹴りあげゼフィスに渡す。


「そういう事か……じゃあ2人とも目眩しするからタイミング頼むぜ」


「「応!!」」


岩石を荒塊で殴り、敵の塊めがけ投げて投げた。


「石屯荒霰(仮)!」


岩石が敵軍の頭上に達すると同時に事象を解除する。そうすると岩石が弾丸のように降り注ぎ、敵の陣形を崩す。ガルシアスは魔弾を込め、レオは両手を大きく後ろへ引き構える。


「一気に行くぞ!」


「あいよォ!」


「魔弾……『焼炙地獄(地獄のオルフェ)』!」


「羅刹拳·九頭!」


魔弾は怯んだ敵陣中央で大きな爆発を起こし、多数の損害をもたらした。さらにレオの魔力を帯びた拳が9度複数人の敵を貫いていく。


「おいおい、まだいんのかよ……」


しかし敵の数が多く捌ききれない。絶体絶命、誰もがそう思った瞬間。遠くからエンジンが回る音とタイヤが地面を削りながら走る音が聞こえてくる。周囲からは馬が走る音が聞こえ、集落に迫ってきていた。


「A班は住民の避難を。B班、C班はこのまま私と敵陣を崩します」


「「「イエスマム!」」」


ゼフィスは聞き覚えのある声に安心すると共に、この状況以上の恐怖を抱いた。


「何だこの唸るような音は」


「エンジン?」


「バイクだ……しかもこの声、ナリトカさんだ……」


「ナリトカといえば話にあったロウギヌスの?」


「ああ、第2小隊隊長ナリトカだ……まさかあの人がこんなところにいるなんてな」


敵陣の後方あたりからたくさんの悲鳴が聞こえる。バイクのタイヤに引かれる音や槍で串刺しにされる音など様々な騒音が鳴り響き赤いバイクと共にナリトカが目の前に現れる。そして目の前にゼフィスを認識すると鋭い突きを繰り出してきた。


「ふん!」


「うおっと危ねぇー!」


ナリトカさんは俺の顔めがけ一突きをする。避けると後ろには敵兵がおり、首を貫かれていた。容赦のない一突きはゼフィスに傭兵団での厳しい訓練を思い出させた。


「おっと、ゼフィスですか。お久しぶりですね、元気でしたか?」


「元気も何も今あなたに殺されかけたんですけど」

「とりあえずここを切り抜けますよ。処刑はその後で」


「ん?今なんと?」


ハンドルを勢いよく回し、敵陣をかき分けて行くナリトカは荒波を越える船のように荒れ狂い、次々と敵を跳ね除けて行く。周囲の敵をゼフィスが見た事のない槍で薙ぎ払い、敵はその荒れ狂う姿に恐怖を抱き逃亡を始めた。


「逃がすな!皆殺しだ!」


「イエス!」


彼女がこの場に現れてからの戦場は圧倒的だった。荒れ狂っているように見えた彼女の姿は全て計算のうちで彼女に敵の目が集中する所を兵士たちが少しづつ殺して行く。そして住民の避難を完了させるなど、形勢を計画的に逆転させた。彼女のエメラルドグリーン色の髪は彼女の残像でまるで小川のように写っていた。



「被害状況を確認。食料を配給なさい」


指示を飛ばすナリトカの姿はゼフィスが何度も見た事のある姿で、彼は少し安心していた。


「相変わらずですね」


「貴方も相変わらずの太刀筋です。いえ、少し型が変わりましたね。筋肉の動きに前のような無駄がない。成長しましたね」


優しく微笑む彼女にゼフィスは安心を感じ、緊張を解す。ナリトカは傭兵団内でも親のような存在で、団員から親しまれている。


「だからこそ惜しい。あなたを殺すのが」


「は?」


ナリトカは瞬歩でゼフィスの懐に潜り混む。ゼフィスも後へ強く踏み込み、避けようとする。だが完全に避けることは出来ず、頬に切り傷をつけられてしまった。


「反応速度も上がってますね。流石ベルゼハード団長のお墨付き。ですがまだ甘い、体現出来ていない付け焼き刃の技術は未熟!型を変えるのは結構。体得できていない技は身を滅ぼす!何度も貴方に言ったはずです。この馬鹿者!」


「やっぱり貴女のような人にはまだ通じないか。これじゃあ師匠に顔見せ出来ねぇ!はぁぁ!」


バックステップからの低姿勢で飛び込む。ふたりの戦闘は激化していた。斬っては防ぎ突いては防ぐの攻防は周りの兵士を圧倒していた。鋭く精密な槍捌きを繰り出すナリトカに、ゼフィスは変則ガードを用いて防ぐ。


「順応性は今まで通りのようですね。ならば私もコレの力を借りましょう」


距離を取るナリトカの姿に違和感を覚える。彼女の使う槍はゼフィスの見た事のない槍でメカメカしい見た目だった。


「その槍どうしたんです?」


「団長からの贈り物ですよ。名を『Love&Chain』。貴方を鎖で繋ぎ、確実に殺す槍です」


距離をとったナリトカは投擲の構えをとる。槍の先端の機械が展開され、槍先と合わさり大きな凧型凹を作り出す。そして謎の光が切っ先をつつむ。


「まさか、それは幻式か!」


「いま見せましょう。突き穿つ追駆の雷槍(ゲイ・ボルグ)!(ゲイ・ボルグ)!」


投げられた槍は真っ直ぐにゼフィス目掛け飛んで行く。投げられたLove&Chainは早く、ゼフィス以外の目には映らないほどだった。


「俺が単純な投擲ごときに当たるとでも思っているんですか!」


槍を軽々と弾き、目の前にいるナリトカに斬りかかる。彼女は懐から伸縮槍を取りだし、防御をとる。


「やはりこれを頼んでおいてよかったです。貴方は勘違いをしているようですね。あれはただの槍ではない。第2世代ですよ?」


「まさか能力が!」


「そのまさかです」


後ろから感じる不自然な風の動き。瞬間、槍が宙からこちらへ向かってきているのが認識できた。咄嗟に体制を低く取り、槍を避けるも空中で動きを止め高速で飛んでくる。


「なんだこれ……こんなん槍の動きじゃねぇ!」


「それこそがLove&Chainの力です。狙った相手は逃がさない。ゼフィス、貴方はもう繋がれた鎖から逃れることはできません」

必死に逃げるゼフィスだが槍は速度を変えることなく追跡を続ける。弾いても避けても地面に激突させようと追ってくる槍に体力を削られて行った。


(能力はわかった。だがなぜ最初から使わなかった?能力の開示は発生条件じゃなさそうだしこれといって能力の指定になりそうなものは無い。だが印があるはずだ。じゃなきゃ自分や他の仲間に当たる危険がある)


「観念なさい。あなたに勝ち目はありません。あの混血の少女を庇った自分を恨みなさい」


「恨むだと?ふざけるな!俺はティナを、ティルナシアを助けて後悔など抱いてない!一人の少女も護れないようじゃ強くなった意味も剣を握る理由にもなりやしない!」


先程までなるべく建物の間や入り組んだ道を走っていたゼフィスだがナリトカの前に現れ、槍と自分の間に彼女を挟み、防御の体制をとった。


「これならあんたがその槍に貫かれるんだ」


「それはどうでしょうね!」


彼女はリングをつけた右腕をまるで指揮者のように振り下ろす。そうすると槍は軌道を変え、円弧を描きゼフィスに向かってくる。

「それ曲がるのかよ!ぐはぁ!」


脇腹を掠めるように当たり、その場に突き刺さったLove&Chainは先程までの動きは一切なく、その場で静止していた。


「やっとストーカーから逃げ切れたってことか。だがその能力強すぎやしませんかね?」


「貴方も荒塊(それ)を使えばいい。まあ痛みに恐慄くだけですか。あの時のように」


「俺も少し成長してるんですよ?もうそこまで言われたら出し惜しみ無しだ!後悔すんなよナリトカァ!」


ゼフィスは荒塊を解放し、前進する。構えは取らずただ一歩一歩力強く進む。彼はナリトカを観察しているのだ。幻式の発生条件、隙、斬り込む角度。決めるなら1発で決めるしかない。だが一発はルーデルワイスの時のように単純な攻撃では意味が無い。彼女は誰もが認める紛うことなき(つわもの)。単純な攻撃では筋肉の動きで読まれてしまう。ならば仕掛けは精密に、決める時は大胆に。ナリトカが最初に動き、斬り合いが始まる。ゼフィスが必死に斬りかかったり、荒塊による事象の固定と解放による攻撃を行ったりするも攻撃は全ていなされてしまう。力の差に嫌気がさしつつも、ゼフィスはまだ能力を発動しない彼女の行動に違和感を感じる。


(発生条件は相手を見るでも斬り合うでもない。思い出せ奴の行動を。最初に瞬歩で飛び込まれて頬に傷をつけられた。その後はほとんど防いでいた。傷?まさか)


「ナリトカさん、Love&Chain(そいつ)の能力がなんとなく分かりましたよ。まったく、夢幻らしさのある微妙で強い能力だ!」


「ほお、申してみなさい」


「能力は傷をつけた相手に必ず当たる投擲を繰り出す。頬につけられた傷がその証拠だ。あんたは俺から目を離さなかった。だがそれは能力の発動条件じゃあない。なぜならあんたは俺から目を離していないのだから。他にとった行動といったら斬り合うか話すかぐらいだ。これじゃあ誤爆する可能性がある。どうです?」


「ご明察。観察眼もそれなりに鍛えられているようですね」


褒めたかと思うと彼女の槍の動きは激化し始める。ゼフィスは彼女との鍛錬の日々を体で思い出していた。この突きにはこう対処する。この攻撃の次は必ずこう来ると飽きるほど見てきた動きに目が慣れ、避けることよりも攻撃を防ぎ弾くことが増えて行った。さらに前に見えた謎の残像も合わさり、ナリトカの攻撃はゼフィスにとって防ぎきれない攻撃てば無くなっていた。そして


「はァァァ!」


自然に魔剣ムスカリに魔力を回しており、炎が宿る。そして彼女の右腕に刃を当て斬ることに成功した。


「やっとこさ一撃入りましたぜ!」


「まさかゼフィスが私に攻撃を当てるなんて。しかもその剣、なぜ炎が?」


「これは魔石出来た剣。ムスカリ……魔剣ムスカリだ!」


激化するふたりの戦いは激化し、周りには民衆と兵士が集まり歓声が上がっていた。そんなこともお構い無しにふたりの動きは早くなって行った。しかし、一人の少女の声で全ては止まった。


「ゼフィス、面白いことやってるじゃない。童も混ぜるのじゃー!」


そう、ルーデルワイスである。満面の笑みで近づいてくる姿は無垢な少女で、空気をぶち壊していた。


「な、何ですこの少女は?ここは危ないですからあっちで見ててくださいね」


「ナリトカさん……それ少女の皮を被った化け物です……」


「ゼフィス……あなた冗談でも少女にそんなこと言ってはいけませんよ。ほらほら、あっちいっててくださいねー」


ゼフィスは悟った。ルーデルワイスの笑顔に隠れた怒りを。彼女は少女扱いされるとキレやすい。

「ゼフィスよ、今日の月はなんじゃ?」


「今日は居待月か寝待月だった気がするが」


「下弦に近いか……ならあれじゃな。ナリトカと言ったな、殺す!龍魂解剣!」


魔剣ファフニールの形はツインブレードに変化し、目の前で腰を落としたナリトカに振るう。しかしナリトカはそれを寸前で避け、ある程度距離をとった状態で槍を構えた。


「剣がツインブレードに変化した?なるほど団長と同じく魔剣の持ち主でしたか」


「ちっ、あと少しでそのムカつく顔を切り刻めたのに。あとゼフィス、お主も後で往復ビンタじゃからな!怪物呼ばわりしおって!」


彼女たちはゼフィスそっちのけで戦闘を繰り広げる。観察をしながら攻防を続けるナリトカだが、ルーデルワイスに押し負けていた。


(なんですかあの幼女は?動きが読めない。これは厄介ですね。もしかしたらアレを使わなければならないかもしれない)


戦闘はルーデルワイス優勢で進んでいく。ナリトカは押される一方で全く攻撃に切り替えれていなかった。


「はい、2人ともそこまでよ」


この戦いはアロウの一言で止まり、歓声もなりやみ沈黙が続いた。


「その角、貴女は魔王ですね?」


「ああ、ナギアの領主にして強欲の魔王アロウ·マラシアス。君たちの戦いを止めて恐縮だが我々にもやるべきことがあってね。交渉がしたいんだ」

「私はただの傭兵ですよ?」


「ただの傭兵ね。ただの傭兵がなぜそんなに獣人に慕われてるのかな?」


「わかりました。見張り役……じゃなかった、副長を呼んでください」


「イエスマム!」


そう言い獣人が去っていき、魔人の兵士を連れてきた。


「で?なんの用です、隊長殿?」


装備はほかの兵に比べ装飾が施され地位の高さを表していた。面倒臭そうに頭を掻きながらふてぶてしい目でナリトカを見つめる。


「こちら魔王のアロウ様です。交渉がしたいらしいんですけど私は雇われている身ですから私の一存で決めるわけにはいきません。ですので代わりにお願いします」


「ちっ、人族の分際で……えーっとアロウ様話をお聞きします」


「単刀直入に言います。サラルスと連合を組みたい」


「それはなぜ?」


「我々もルナエラに狙われてね。我々の戦力では奴らを倒すことは出来ない。そこで君たちに協力を得ようと思ったんだ」


「我々は色欲に対して戦争を起こそうなどとは考えていない」


「本当にそうかな?さっきの戦闘といいこの集落の領主といいどこかおかしいと思うんだが」


「それでもよそ者には関係ないことだろう」


「よそ者ね……だがルナエラのやっていることはこのゼルファスト全体に関わることだと思うんだ。魔族としてこの大陸の異変は見過ごせないの」


熱の篭ったアロウの言葉は周囲の人々を釘付けにした。副長はしばらく考え込み、顎を摩っていた手を戻すとナリトカを見た。


「獣人(家畜)を何人かよこしてくれ。明日首都に向けて出立する」


「わかりました。今日中に人選しておきます。それと家畜ではなく、同士と呼びなさい」


「ふ、見た目の違うやつを同士と呼べるか馬鹿者」


副長はその場を離れ、領主の屋敷へ向かった。


「大変そうですね」


「ええ、けどああ見えて彼も素直なんです。まるで昔のゼフィスをら見ているようですよ」


「ナリトカ殿御助力感謝します」


「こちらこそ、大陸全土の平和を保つのが我々ロウギヌスの活動理念ですから。ゼフィスは迷惑かけていませんか?」


「他人のプライベートや国のグレーゾーンにズカズカと入ってくるから迷惑よ。けどそうでもしないと私は動かなかった。アイツにはそういう意味だと感謝はしてるわ」


「そうですか」


「ナリトカさん、俺を殺さないんですか?」


「まだ殺しませんよ。団長からは貴方の抹殺ではなく、アバドン様の支援を主に承ってますから。今の私と貴方は利害の一致で休戦しているのですよ」

「そうですかい。柵に囚われては分からないものだってあるんですよ」


「そんなこと言ってはわかっ……いえなんでも。そういえば混血の娘は元気ですか?」


「ええ元気ですとも」


「会いたいなー」


「は?」



馬車の周りに転がる色欲軍の死体。カンレーヌの時はモンスターの死骸を見て吐き気や嫌な気分が体を駆け巡っていたのに彼らの骸を見ても今は何も感じない。決意のせいかそれとも怒りのせいか。私は自分自身が変わってしまったことをこんな形で知ったことに少し嫌気がさしていた。

「お姉ちゃんどうしたんです?」


「ごめんごめん、これをミホノちゃんとルーデルワイスさんのふたりでやったんだもんね。流石2人だよ」


「やった!お姉ちゃんに褒めて貰えました!けど気分の方は大丈夫なんですか?」


「私も今驚いてるの。彼らの骸を見ても何も感じない自分に。本当なら悲しんだり、嫌な気分になったりするはずなのに今は何も感じない私はもう狂っちゃったのかな」


自分自身はどうなってしまうのだろうか。いつかはこんな気持ちがなくても平気で見れるようになっちゃうのかな?それが怖い。せめて恐怖心だけは無くしたくない。


「自分の敵に流す涙なんていりませんよ。お姉ちゃんは少し優しすぎるんです。けど最後まで人を殺すことに慣れないでください」


「うん、わかってる」


私は馬車に繋がれた馬を撫で、馬の仕草を見ていた。気持ちよさそうに目を閉じる姿に少し和み、手に伝わる体温と血管が波打つ感覚。私はこのぬくもりを大事に出来るのだろうか。


「ぐぬぬ羨ま……ごほん。おっと、ゼフィスがこっちに来ましたよ。あれ?横にいる女性は誰でしょう?」


女性?


「青?いや青緑色のショートで槍を持ってますね。あれは人間かな?」


青緑のショート?しかも人間で槍を持っている……嫌な予感がひしひしと込み上げてくる。私は振り向き、銀の翼を展開し、迎撃体勢を撮った。


「おーい、ティナ、ミホノー!」


陽気なゼフィスの声が聞こえる。距離はまだある。まさかナリトカさんがここにいるなんて。まさか私とゼフィスを抹殺しに来たのかな?あの夜、ゼフィスと団長さん以外の2人は私を殺すまたは国に差し出すことを提案していた。つまり……


「どうもお元気そうですね。ティルナシアさん」


「お久しぶりです、ナリトカさん。あの時は看病していただきありがとうございます」


彼女の微笑みに恐怖心を抱きつつ、銀の翼たちを馬車の後ろや岩陰に隠す。手に持った槍には布が被さっており、戦う意思は感じられなかった。ゼフィスは頬に傷をつけ、左脇腹から血が滲んでおり、先程の戦闘の後なのかそれとも彼女との戦闘の後なのか。けどゼフィスは色欲軍(アイツら)にやられるほどやわじゃない。私は彼がこの作戦のために頑張っていたことを知っている。


「ゼフィスの腹の傷は貴方がやったんですか?」


「そうですよ、私と戦闘になりましてね。彼の成長に胸が高鳴りつい本気を出してしまいました」


「ッ!」


私は彼女の発言に苛立ちを感じ、ビットを彼女の四方八方に展開し、一斉発射を開始する。ナリトカは槍を使い、迫る魔法攻撃を払い除けていく。


「普通の槍なら壊れるはず!?」


「真っ向から弾き返してるんじゃない。ナリトカさんはビームの起動を槍で変えているだけだ。それにあれは幻式だからな。普通の槍と材質が違うのさ」


ゼフィスが冷静にナリトカさんの行動を分析している。材質が違うからといってこうも防がれるものなのか。ナリトカさんといい、トリスさんといいやはりロウギヌス傭兵団の方々は化け物揃いなのかもしれない。


「いきなり攻撃してこなくても。私は貴女と挨拶をしに来ただけですよ」


「嘘をつかないでください。ゼフィスが怪我をしているじゃないですか」


「いや、これは戯れというかなんというか」


「もうゼフィスは喋らないでください。拗れるから」


ナリトカさんはその場に武器を置き、両手を頭で組みその場に正座する。本当に敵意がないの?

「これでいいですか?本当に貴女と戦うつもりはありません」


「わかりました。今は貴女を信じます」


「で、この人誰です?」


「申し遅れました、レディ。私はナリトカ·キングスバレイ。元ゼフィスの上司です」


「部隊は違うけどな」


「今は暴食の魔王様の依頼でここにいるんです。アロウ様曰くあなた達は色欲の魔王を倒すべくサラルスに向かっていると聞きました」


「ええ、ですからここで足踏みしてる場合じゃないんです」


彼女の目は鋭い眼差しに変わり、一人の武人のような出で立ちを感じる。今ここでナリトカさんが本気で斬りかかれば私たちは抵抗する暇もなく殺されるだろう。そんな目だ。


「あの怯えていた少女にこれ程の事を言わしめる色欲は相当な悪党のようですね。わかりました、改めて協力しますよ」

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