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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
36/61

旅の記憶

前回までのあらすじ

ルーデルワイスによるティファーナへと繋がる橋倒壊によって、ゼルファスト大陸に上陸したゼフィス一行。ナギアに滞在することが決まるが、色欲の魔王ルナエラがナギアを襲撃した過去を知ったゼフィス達はルナエラを討伐すべく、兵力確保のために暴食の魔王が収めるサラルスへ向かうのだった。

 俺たちは何も無い荒野をただ走り続ける。出発から1週間経ち、俺たちは足を急がせていた。茶色い風景に飽き飽きし、ルーデルワイスは眠りティルナシアは寝ているルーデルワイスに膝を貸していた。ガルシアスは周囲の状況をこと細かくメモ帳に書き、ミホノとアロウは難しい話を延々と続けていた。俺は子執事君ことレオの横に座り前を見続けていた。


「おまえ、ずっとこんなとこにいて飽きないの?」


「飽きないかな。俺、傭兵団やっててこういう長旅にも結構慣れてるんだ。だからこんな風景は日常さ」


「ふーん、じゃあ退屈がてら旅話を聞かせておくれよ。俺、ナギアしか知らないからさ。少しだけ気になってんだ」


「私も聞いてみたいです。ゼフィスってティファーナ大陸にも行ったことあるんですよね」


「そうだね。じゃあティナもいるしティファーナでの旅路の話でもしようか」

俺はティファーナでの仕事の話をする。トリスの女癖の悪さやそれを叱るナリトカさん、次々と依頼をこなしていくベルゼハード団長の有志など語れば語るほど俺の心はヒートアップしていった。


「お、思ってたんと違う……」


「そうですね……傭兵業ってもっとこう……過激で血なまぐさいものだと思ってました……」


「ティファーナでは何故か精霊同士のドンパチはないんだよな。あ、けど人族の山賊を追い払ってくれっていう依頼はあったぞ。ロウギヌスは戦争もあるけど奉仕活動が多いのさ。団長がそういう人だからな」


ベルゼハード団長は人族最強の戦士だ。大剣『魔剣リヴァイアサン』を巧みに使い武器や防具を軽々破壊し、決して引かない姿は最強の名にふさわしい人物だ。だが福祉活動を主とする姿から宝の持ち腐れだとか名折れだとか他の若い傭兵や兵士からは好き放題言われていた。だがイドチス帝国との戦いを共にした玄人の傭兵や軍の関係者たちは笑いものにする傭兵たちに酒の席で彼の偉業を酒のつまみ代わりに話していた。


「各地を渡り歩いているってことは信頼されてるってことだろ?そりゃぁ凄いことだ、3種族がひしめき合ってる仲であんたらは働いていたんだからな。俺はナギアから出たことないからわからんがきっと精霊は人がいいんだろうな」


「そうだな。レオさんはなぜ執事を?」


「いきなり俺の話かい。俺はただオルテアの爺さんに拾われてなっただけさ」


「オルテアさんってアロウさんの執事さんの?」


「そうそう、あの人マジで強くてさ。喧嘩に負けて拾われて執事見習いになったわけさ」


喧嘩で負けて執事に?ちょっと何言ってるか分からないがまあ人の人生は色々だからな。しばらく進み、ちょうど太陽が真上に達し、お昼時を告げる頃馬車は止まり、同時にルーデルワイスが起きる。


「姫さん、魔王様、敵だ」


「わかってるよ子執事。敵は6人。童たちなら余裕じゃな」

「ルーは行っちゃダメ。君は多分顔が割れてるから危険。子執事君、もてなしてきなさい」


「ちょっと待った。敵?どこ?」


周りに物陰もなく、隠れている訳でもない。ならどこに?

「まあ見てろって。魔王様、あれ使うぜ」


「お好きにどうぞ。ゼフィスも参加してくれ。ティルナシアとガルシアスは後方支援」


「あいよ」


「わかりました」


レオはグローブを両手に填め、馬車を下りる。そして右手を地面に着け、深呼吸をする。


「破!」


地面の一部が弾け飛び、中から6人の兵士が飛び出る。

「どこにもいないなら地中ってな」

その発想はなかった。敵をよく見るとオケラやモグラのように土を掻きやすい形をしていた。そして目に付くのは甲冑だ。彼らが身につけている甲冑は前にも見た事があるデザインで、調査の時に出くわしたルナエラの兵士と同じ甲冑だった。


「こいつら色欲の出だぜ」


「じゃあ遠慮はいらねぇな!」


レオの着けたグローブは光出した。おそらくあれも魔学の産物なのだろう。6対2。敵は獣人で構成されこちらは魔人?と人族。傍から見れば形成は圧倒的にこちらが不利だ。だがこちらには剣豪(ハザマ)に叩き込まれた技術と、魔学と打撃を組み合わせたレオが着いている。そのため、戦闘はスピーディーに進む。レオの攻撃は脱力状態からの瞬発的に力を発することで相手に攻撃を繰り出すように見える。


「何だこのチビ!?振動が内臓に響きやがる!」


「チビだァ!?ぶっ殺してやらァ!」


チビという言葉に反応し、攻撃は激化していく。おそらく彼に対する禁句は『チビ』という身長を弄ることなのだろう。


「お前らには発勁だけで十分だ。生きて帰れると思うなよ、土人どもがァー!」


俺たちは敵を一体一体丁寧に対処していく。タイタンの時には気づかなかったが身体の動きが楽になったのが身に染みてわかる。踏み込みや剣の振りまで今までとは違う。剛と柔のメリハリがより一層制御しやすくなり、あらゆる攻撃に対し対処が可能になっていた。


「ひーふーみー……ひとり足りない……」


「俺、嫌な予感してきたわ」


「レオさんに同じく」


「ティルナシア、無人機を飛ばしてパトロールを頼む。ゼフィス、レオ。お前らは遺体を隠せ。他の奴らに勘づかれると面倒だ」


遺体を埋め適当に闘った痕跡をつけその場を去る。敵に出くわさないことを祈りながら進むとあっという間に夜が訪れ夜営の準備を始めた。


「今日は攻めてこなかったな。敵陣結構離れてたりするのか?」


「子執事君にしては冴えてるじゃないか」


「ぐぐぐ……魔王様、1発殴らせろください……」

「なぜ『子執事』なんですか?」


「それはちっちゃいのと見習いなのとちっちゃいからじゃぞ」


「ちっちゃい2回も言うな!俺はただオルテアの爺さんに引き取られてそれで『子執事』って言われてるだけだ」


「引き取られた?」


「そう、子執事君もあの戦争で親を亡くしたんだ。父親は以前から行方不明。母は色欲軍に殺され身寄りが無くなった。そのせいで不良になってしまったが爺やが義親になったってわけさ」


「お袋を見捨てた親父だけは許さねぇって気持ちは変わらねぇ。だが今は責務を全うするだけさ。爺さんが珍しく俺に頼んだ仕事だからな」


「まあその父親のことは置いておいてここからサラルスまでどのくらいですか?」


「結構早いペースで進んでるからあと2週間?ぐらいで領土には入るかな」


「何事もなければだがな。俺の予想だが敵陣は近い。辺りを散策したんだが足跡が複数あった。巡回兵がいる証拠だ。ここからは気を引き締めていかなくちゃいけない」


ガルシアスの発言は俺の気持ちを引き締める。おそらくルナエラはサラルスにも攻撃の手を伸ばしている。何十人何百人といた場合俺たちだけでは対処しきれない。


「まあ安心せい、主らには童が着いてるからのう。童は百万力いや千万力じゃ!」


「それはありがたいこった。じゃあ見張り番の番順決めるぞー!」


俺はレオと一緒に見張りをすることになり、火をつつきながら周りを見る。魔獣の声はするものの、近づく様子はなくかった。


「ゼフィス、お前旅に出てる時どういう感情を持ってたんだ?」


「どうした急に?」


「俺、こんなにも空が綺麗なものだとは思わなくてな。こんな状況で言うのもなんだが美しいって気持ちでいっぱいなんだ。光もなくて真っ暗で、空を見上げれば燦然と輝く星々が目いっぱいに広がる。俺はこんな景色は初めてだ!」


俺も星を見上げ、初めてアドラール大陸外の任務へ参加した時のことを思い出す。


『団長!星がいっぱいです!』


『はははは!ゼフィスはこの星空を見るのは初めてか。そうだ、これが本当の夜空だ。アドラールでも昔はこの景色が見れたんだよ。けどな人族は大気を汚し、街灯で大地を照らしてしまった。そのせいで夜空は曇ってしまったんだ。この夜空はこの星のありのままを示す景色なんだ』


昔は幼かったため言葉の意味がわからなかったが今ならわかる。この景色は度の醍醐味でゼルファスト、カンレーヌでしか見れない景色だ。


「俺も同じだ。この景色を見る度に思う。この世界は雄大で俺はちっぽけな存在だって」


「旅をすればこの景色はずっと見れるんだろうな」

「今だけさ、旅を続ければ景色は色褪せる。今みる景色以上の物は見ることは出来ない」


何度も見れば最初の感動は徐々に薄れていく。俺もレオに言われるまで最初に見た星空の景色を忘れかけていた。あの時は感動できたのになぜ今は感動できなくなったんだろうか。


「色褪せる?それは違うよ。多分安心に変わるんだ。最初は珍しいものだった。だが何度も見れば見える景色を安心できるようになるんだ。俺も爺さんに拾われた時はそうだったさ。まあウザかった気持ちが安心に変わったんだけどな」


「安心か。そうか、そうだな。確かにこの景色を見れるということは安心っていう感情なのかもな」

張り詰めた緊張が解され、耳が周囲の音を拾う。薪が火で割れる音や、鈴虫の鳴き声風に靡く派の摺れる音。空に上がる火の粉はまるで蛍のように光って消えた。ゼルファストに秋が訪れるのをひしひしと感じ、夜は耽けていくのだった。



初日に比べ3日間は何事もなく進むことができ、領土内に入ることが出来た。襲撃は一度もなく、静けさは恐ろしさすら思えるものだった。ティナの無人機を定期的に偵察として飛ばしているが反応はなかった。


「反応はナシです。この静けさ……まるで私たちを誘っているように思えます」


「考えすぎですよ、きっと私たちに恐れを生したんじゃないですかね」


「ありがとうミホノちゃん、そう言ってくれると安心する。レオさん、ここ周辺に集落はありますか?」


レオは爺やさんから渡された地図を広げ周囲を確認する。


「あるよ、けどどうして?」


「情報収集です。暴食の魔王様のこととか色欲軍のこととか。サラルスに入る前に知っておくべきかと思いまして」


「賛成だ。安易に飛び込むのはまずい。それにレオとゼフィスは気を張りすぎている。休憩をしてもらわなくてはな」


「そんな、俺はそんなに気を張ってなんて……」


「ガルシアスの言う通りだよ。私でもわかる。だって昨日の見張り番変わりもしないでずっとやってたでしょ?君たちには息抜きが必要よ。子執事君、早く向かって」

「わかったよ、ハイヤ!」


馬魔獣(バイコーン)のに鞭を入れその場を急ぐ。他3台もその後に続き近隣の集落を目指すのだった。



建物が見え、俺たちは近くに馬車を留め、集落内に入る。行き交う人は少なく、皆窶れた顔をしていた。建物の木窓は閉められている。


「おいおい、これ明らかに何かあっただろ」


「まるでカンレーヌの時のようだな。とりあえず解散」


俺たちは酒場に向かう。地面には複数人の足跡があり、人通りの少ない現状を不自然に感じていた。深く抉ったような足跡や、動物の足跡など様々だった。


「マスター、水2つ」


酒場に入り席に座る。店内は荒らされており、地面には何十本も空き瓶が転がっており、壊れた椅子やテーブルが散在していた。


「ここでなにかあったんですか?」


「人族のあんたにゃ話すことは無い。さっさと飲んで失せな」


水を勢いよく置くとなにかブツブツと呟きながら店主は去っていく。確実に何かあったな。水を飲み干し、しばらく店主を見続ける。タバコを咥えまるで生気を吸われたような出で立ちはどこか不信そうに見えた。次第に震え始め、加えたタバコはプルプルと振れ始めた。店内に散在する瓶が少し揺れるのに気づき、さらに疑問が生まれていく。何かがここに向かっている?


「ゼフィス、あいつやべーって」


「なにかに脅えている?しかもこの地響き、まさか!」


俺は勢いよく立ち上がり、腰に差した剣を握る。ドアは勢いよく開き、複数人の人影が陽光によって伸びていた。

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