月光の灯火
「「「お疲れ様です!」」」
「うむうむ、出迎えご苦労じゃ。どうじゃったかのう、童の剣舞は」
3人の兵士は敬礼をし、敬意を示す。ルーデルワイスは満面の笑みを浮かべ軽く手を仰ぎながらあしらっていた。
「ああ、まさかあんなに長い武器を使い舞えるなんて驚きだったよ。しかも月光が刃になるなんて。なんと表せばいいか……」
「そうだな。しかもタイタンが爆発しないのを見る限り炉心を的確に狙ったのか」
ルーデルワイスは賞賛を受け胸を張った。だがハザマだけがその和に入らず考え込んでいた。
「姫殿、最後の一撃をなぜ躊躇しなさった」
「気づいておったか……魔力の塊がふたつあったんじゃ。しかも片方派微弱で起伏が激しくてのう。それに惑わされただけだ」
ルーデルワイスの言葉を聞くとハザマは何も言わずに砲台の管制室に繋がる道に戻って行った。無表情に見えたその顔は顔を背ける瞬間、俺にはどこか悲しげな顔に見えていた。
「さて、コックピットには誰が乗ってるんだろうな。1、2で開けるからな」
ガルシアスはタイタンのコックピット開閉レバーに手をかける。俺たちはそれぞれ武器に手を添え臨戦態勢に入った。
「行くぞ。1、2!」
レバーを回すと白い煙が勢いよく噴き出す。コックピットの扉にかけられていた圧が抜けゆっくりと開いていく。煙がスモークのように視界を遮る。だが物の数秒で煙は晴れ、中の様子が現れる。俺の目に映った光景はおぞましいものだった。操縦席にはヘルメットを被った女性のような体型をした魔族がおり、身体中に痣や切り傷があり、両手の爪は剥がされていた。そして小声で「助けて……」と呟いており、声は震えていた。腹から少しずつ何かが込み上げてきていた。瞬間、口から表現し難い何かが溢れ出す。
「ゼフィス、コイツに戦う意思は無さそうだ。別にここにいなくていいんだぞ」
「だ、大丈夫だ。ガルシアスは平気なのか?」
ただ目の前に広がった光景に吐き気がしただけ。ルナエラの所業を知るには最後まで見るべきだ。
「平気と言うより慣れだな。見るのは初めてじゃないし、_______からな。じゃあヘルメットを取るぞ」
ガルシアスの言葉が少し小声になって聞こえづらかっがまあいいか。ヘルメットは無数のケーブルが繋げられていた。ガルシアスがヘルメットを取りパイロットの顔が顕になる。顔には体と同じように無数の傷や焼け爛れた後、赤い斑点があった。
「ケイラなのかい……?タイタンに乗っている女性はケイラなのかい?」
声はおれのすぐ横から聞こえた。声の人物は以前俺とガルシアスが調査に行く時に同行してくれた兵士だった。
「カイル、お主この女性のことを知っておるのか!?」
同行してくれた兵士カイルは大粒の涙を瞼にため、唇を噛みながら絞り出すように言葉を紡いだ。
「知ってるも何も、この女性は私の……私の妻です!8年前、色欲に連れ去られた私の妻です!」
その言葉によってここ一帯の空間は一瞬にして凍りついた。調査の頃に聞いていたがまさかこの女性が……カイルさんの奥さんだったなんて……
「皆さん!どいて、どいてください!」
後ろから何かが地面を走る音と複数の人の急いだ足音が聞こえる。白衣に身を包んだ男達がキャスター付きの担架を引きながら駆けつけ、ケイラさんを運ぼうとする。
「ハザマ様から救援があり駆けつけました。これは!?なんて酷い……女性に……女性にこんな仕打ちをするだなんて……」
カイルさんは医者が発した言葉と共に地面に倒れ伏す。俺は急いで手を取り気絶したカイルさんを起こす。
「その人を頼みます。カイルさんは俺たちが連れていきます……」
みんな、感じたことは一緒だろう。ルナエラというド畜生はこんなことを平然と出来るのだと。ルーデルワイスは何も言わなかった。ただケイラさんが座っていたコックピットを見つめているだけだった。脱力した立たずまいは戦意の喪失を物語っているように感じさせた。だが右腕は強く魔剣ヤトノカミを握り締め、静かな復讐心を滾らせているようだった。
王の間に戻り、結果を報告する。ティルナシアはケイラさんの治療の方に行き、ミホノはタイタンの調査に行っていた。アロウは目を見開いたまま体を静止させていた。ルーデルワイスは自室に隠り、この場にいるのは俺、ガルシアス、ハザマだった。眼球は震え、強く噛み締めた口は次第に軋み始める。
「今はパイロットの安否を待つだけか……クソ……くそう!どうして、どうしてこうなった!何が悪かったんだ。私たちはただこの国で平凡な時間を過ごしていただけなのに。何故だ……なぜ国民が苦しまねばならないの……苦しむなら私を苦しめればいい……」
自暴自棄になったアロウを俺たちはただ見ていることしか出来なかった。俺はその場から立ち去ろうと足に力を入れる。だが1歩たりとも一寸たりとも足は動かなかった。瞬きすら出来なかった。目の前に広がった光景が瞼に焼き付き、目を閉じればその光景が蘇ってきそうで怖かった。口の中は吐瀉物の味が蘇り絶望感を蘇らせていた。
「失礼します」
「爺やか……ケイラはどうなった」
「報告します。新薬『ハイポーション』によって外部の損傷は治りましたが身体中の斑点は消えず。おそらく重度の梅毒だと思われます」
爺やさんの言葉にアロウは勢いよく王座の肘掛を叩く。ついには涙を零し目元を強く手で押えた。
「なぜだ……なぜ私の技術は民を救えない!8年前の悲劇を繰り返さないために……民を救うために費やした時間がなぜ実らない!」
何度も何度もひざ掛けを叩いた。角にあたり血が滲みながら握りこぶしを叩きつけることをやめなかった。爺やさんはそれを止めに入るがアロウは力づくで叩き続けた。
「命あるものが作ったものに万能なものなんて存在しない」
「へ……?」
「命あるものが作ったものに万能なんてものは存在しないと言ったんだ。利益を求め研鑽の日々を積み何かを得ようと必ず何かを失う」
「そんな言い方はないだろう!」
「事実なんだよゼフィス。ハイポーションは外傷を治すのには効果を発揮するだろう。だが、梅毒や性病には効果がない。これが事実さ。ペニシリンでもあれば治せるが、現状この国では不可能。だからこそ言っているんだ」
俺はこれ以上言い返せなかった。ガルシアスの言葉は正論だ。人が作ったものに万能なんてない。
「じゃあ私が今まで積み上げてきた魔学はただ経済を回すだけの技術だって言うの?誰一人として助けられない経済と戦争にしか使えない兵器だって言うの?」
「そうだな。今の魔学は戦争を優位に進めるだけだ。だがなお前は勘違いをしている。お前が魔学を発展させなかったら被害はもっと出ていたんだ。そして、魔学がなければ今から救う命だって救えないんだ。お前はルナエラに勝つ方法を手にしているんだ。だからそうひねくれるんじゃない!人なんて生き物はなぁ、自分が積み上げてきたもの以外信じられるもんは何も無いんだからな!」
「積み上げたもの?」
「そうだ、人は不器用だ。全てをやろうとしても絶対に荒は出る。それが今回のハイポーションだ。だがな、その分お前はルナエラにも負けない武器を得たんだ。今はそれを信じて戦うしかねぇんだ。勝ったあとで人を救う技術を発展させりゃあいいんだよ。万能は目指せなくても人はそうやって進化して行ったんだから」
アロウは叩いていた腕で涙を拭く。目元は赤くなり、目はいつもの目に戻る。
「爺や、ここにみんなを集めて。私は決めたよ。もう、後戻りはしない」
「御意」
俺たちは部屋を出て廊下を歩く。進むに連れて王の間に向かう使用人に会い、みんな俺たちなど見向きもせずただ一点を向いて歩いていた。
「そういや、ハザマが救助を呼んでくれたんだってな。また心を読んだのか?」
「左様。姫殿の躊躇に疑問を持ってな、つい出来心で読んでしまったのだ。拙者にあの方の心は100%読むことは出来ん。だがタイタンから姫殿とは別の心があってな。それで呼んだのさ」
「しかし、色欲の魔王ルナエラの所業があんなにも惨いとはな。俺はそれなりにアドラールの各地を回ったがあんなに胸糞悪いヤツは4人目だ」
「初めてじゃないんだな」
「それはそうだ。どうしても叶えたい願いや欲があれば人はなんにだってなれる。怪物にも駄犬にもな。だがヤツの野望がイマイチわからんのだ。なぜ女子どもを攫う?そして快楽に溺れさせる意味はなんだ?そしてなぜ戦闘ロボ1機で特攻させるのか。労働力の確保とも思えないし、他国を滅ぼすには遊びすぎだ。他に何か目的があるのか?人族と結託する理由もわからん」
謎深きルナエラという人物像。俺にはただの狂人としか映らない。ガルシアスにはどう映っているんだろうか。目はずっと前を向いたままでイマイチ分からない。
「おっと、すまない。拙者はやることがあるからここで失礼するよ。ゼフィス、今日の鍛錬は無し。お前の太刀筋良かったぞ。だが少ーしまだ甘いかな」
「お褒めに預かり嬉しいね。これからも頼む」
「おう!」
それぞれ別の方向へ歩き出す。ハザマは用事に向かい、俺とガルシアスはタイタンが格納されているラボへ向かった。
王の間には医者とカイルを除く王宮の使用人から兵士が全員集まる。入り切らないためいくつかの会議室に入らない人員を集めていた。モニターにはアロウの姿が写り、皆どよめきも動揺もなくアロウが喋るのを待っていた。その場にハザマとルーデルワイスは参加していなかった。
「諸君、夜遅くにすまない。ましてや諸君が楽しむ祭りの夜に。招集したのには私の決断を諸君一人一人に賛同するかの是非があるからだ。8年前、私の平和ボケによって多くの民を危険に晒した挙句、君たちの大切な家族を拉致されてしまった。これは君たちのせいでは無い。全て軍備に手を回していなかった私の責任だ。許して欲しいとは思わない、本当に申し訳ない」
アロウは深々と頭を下げると再び前を向く。
「私は先日起きた色欲の魔王ルナエラの強襲、そして今日の戦闘を踏まえある決断をした。色欲の魔王に宣戦布告をしようと。これは民にも聞かねばならん事だ。だが、実際に戦線で戦う君たち、兵達に最初に決めてもらうべきだと判断した。これはなんの利益も生まない弔い合戦だ。だから君たちに無理強いはしない。これは私が勝手に始める戦争だ」
アロウの言葉に対しどよめきはなく、ただ沈黙が続いていた。下を向く者はいない。皆真っ直ぐにアロウを見つめその視線は冷徹なものではなく、尊敬の眼差しであった。
「やっと、重い腰を上げなさいましたか」
誰かが言った。誰かが口火を斬ると皆口々に「待っていた」「やりましょう!」「弔い合戦上等!」と言った。拒否する人はいなかった。皆活き活きした目をアロウに向けていた。
「死ぬかもしれないんだよ。もしかしたら無駄死にになってしまうかもしれない。それでもいいのか」
「私たちは8年間鍛錬を怠ることはありませんでした。全ては貴女様のその言葉のために。砲手部隊、成果を報告しろ」
「ラジャー!報告します。我々砲手部隊は装填速度を日々更新中であります。戦場のど真ん中を支援する自信ありです!」
アロウの予想はいい方に裏切られた。ルナエラを攻め込まずに防衛戦に徹していたことを責められると思っていた。その結果、一人の戦争になると思っていた。
「なぜそんな感情が持てるの?」
「もちろん俺たちも怖いです。けど家族を助けに行ける。家族の墓を建ててやれる。それだけでも嬉しいんです。生きてても死んでてもみんなひとりぼっちじゃ寂しいと思ってるんです」
「それに貴女への感謝だってあります。貴女は我々獣人を魔人と一緒の立場にしてくれた。そして我々の生活を豊かなものにするために日々努力をしてくれた。これはただの弔い合戦じゃありません。貴女への恩を返すための戦争なんです」
アロウは積み上げた物の価値を少しずつ実感していた。自分のやってきたことは無駄ではなかったと少しずつ認めていた。
「ありがとう。君たちの気持ちは私の生涯の宝となるだろう。まだ国民には公表できていないため決定では無い。だが君たちの志がこの国を支え続けるだろう」
「公表?それなら問題しなくて良いぞ」
「サナダ開発長!?それはどういうことです?」
白い髭を蓄え、スキンヘッドの老人のサナダがご自慢の髭を触りながら言った。
「この放送はわしの独断で国中に流しとるからのう」
アロウはモニターを出し、国の様子を見る。そうすると住宅街にも露店にも人っ子一人なかった。そしてモニターの映像を宮殿前に変えると宮殿の周りには人集りができていた。「待っていました!」「魔王様バンザーイ!」など大感性が上がっていた。
「どうでじゃ?これが国民の、いいやこの国の総意じゃ。もう引き返すことは出来んぞ?」
アロウの目元は熱くなり、流れる涙を抑えきれなかった。涙を拭き、マイクを取り出す。
「諸君、聞いてくれ。私はここに誓う、必ず攫われた人たちを取り戻すと!誰一人として残さない。必ずみんなの元へ連れて帰ってくると!だからこの出来損ないの魔王に力を貸してくれ。そして兵士諸君、君たちには頼みたいことがひとつある。それは誰一人として犠牲を出さずこの国へ帰還することだ。死ぬことは許さない。私は強欲の魔王だ、死ぬんなら新しい発明品を発明して私に報告してから死にな!」
アロウの言葉で国中に地響きが起こるほどの歓声が上がる。それは人々の不安を打ち消したのだった。そんな中人混みを掻き分けミホノが息を切らしアロウの前へ現れる。
「アロウ、来てください!タイタンからあるものが!」
外の賑わいが兵舎にまで響き渡る。カイルは暗い部屋に閉じこもり膝を抱えたまま座り込んでいた。目からは涙の跡がなく、口の中は枯れ果てていた。絶望に打ちひしがれた彼には周りの歓声が聞こえなかった。
「ここにいたか、カイル殿拙者から話がある」
「ハザマ様?どうして貴方がここに?今魔王様の召集があったでしょう?行かなくてもよろしいのですか?」
「拙者にはもうわかりきっていることだからな。ましてやこの歓声で気づかぬほどバカでは無い」
ハザマは部屋の明かりを附けカイルの前に座る。
「カイル殿、心中お察しする。大切な家族を失った悲しみと憎悪は拙者にも分かる」
「ハザマ様が?ご冗談を。貴方は何も失っていないじゃないですか。貴方にはルーデルワイス様がいらっしゃるじゃないか。ひとりじゃない。貴方のそばには大切な人がいるじゃないか。そんなあんたに俺の気持ちが分かるはずない。知ったような口を聞くな!」
カイルは近くにあった瓶をハザマに向かって投げる。瓶は頭に当たり粉々に砕け飛ぶ。自分のとった行動に気づいたのかカイルは少し罪悪感を持った顔をする。
「確かに、今の拙者の横には姫殿がいる。だが姫殿と出会う前は拙者も一人だった。拙者は住んでいた村が滅ぼされたんだ。皆殺しだ。みんな悲鳴をあげながら逃げ回っていたよ。家族も友人もみんな。兄がいるんだが、兄も行方知れず。だからカイル殿の気持ちがわかるんだ」
ハザマは中刀『白銘陰中』を優しく握る。カイルは正座をし、ハザマと向き合った。
「すみません、取り乱してしまいました」
「大丈夫だ。で、本題なんだが。ケイラ夫人の言葉を伝えに来た」
「ケイラは目覚めたんですか!?」
「いいやまだだ。だが拙者の魔眼で心を読んだんだ。それを伝えに来た」
ハザマは胡座をやめカイルと同じように正座に組みなおす。
「貴方を呼んでいたよ。ずっとずっと貴方の名前を呼んでいたよ」
ハザマの伝言を聴くとカイルの目からは涙が流れ、乾いた口の中は潤い始める。溢れんばかりの涙を受け止めることはせず、ただ涙を流すことしか出来なかった。
「ありがとう……ございます。ありがとうございます」
溢れんばかりの感情が言葉を遮り「ありがとう」以上の言葉を出すことが出来なかった。憎しみと喜びが混ざり合い、ぐちゃぐちゃの感情は次第に落ち着きを取り戻して言った。流れる涙を腕の項で拭うと立ち上がり、ハザマを真っ直ぐ見つめた。
「俺、ルナエラを、色欲を倒したいです……だからハザマ様、どうか俺に稽古を付けてください」
しゃがれた声は真剣そのものだった。
「ああ、拙者にできることならなんなりと。では、拙者はここあたりで失礼する」
コップに水を注ぎカイルに差し出す。そしてハザマは部屋を後にしたのだった。
俺たちが到着するとタイタンの見るも無惨な姿が目の前に広がる。外装が綺麗に剥がされ、内部エンジンやルーデルワイスが突いた炉心など複雑怪奇な姿だけが残っていた。
「ミホノさん。あるものとは?」
「これです。おそらく録音機の類だと推察します」
大きさはラジオ並の大きさでボタンが4つに、大きなスピーカーがひとつ着いていた。
「再生しようと思ったのですが、再生したら内部データが消去されることを考えお呼びしました」
「この型、結構古い機種だな。アドラールが石油時代の頃の代物だな」
ガルシアスは外装を観察していた。かなりの年季が外装から感じられ、日焼けしたり傷が無数にあった。
「とりあえず、再生してみよう」
アロウのボタンを押す手は震えていた。恐る恐るボタンを押すと、かすれた音が鳴り響く。
『あーあー、聞こえる?わっちは色欲の魔王ルナエラと申します。これを聞いているということはおもちゃで遊んでくれたってことやね』
雑音の中から魅惑的な声が響く。これが色欲の魔王か。
『ただ遊びたいっちゅうわけやありゃあせん。わっちは一向に攻めてこない腰抜けに嫌気がさしてきてなぁ、もう待つだけは飽きたんよ。だからここで宣戦布告させていただきます。次の満月の晩、わっちの全兵力を持って総攻撃をかける。もちろん全然あんたらナギアから連れてきた肉奴隷で固めるけどなぁ。アハハハハ!これは酒の肴になる余興になるなぁ。あと、おもちゃはまだ沢山あるからなぁ。8年前以上の余興になるからそちらさんもたぁんと楽しみや。じゃあ最後になぁつかしいお仲間さんの声を聞かせたる』
『助けて、あなた!もうヤダ、快楽漬けの日々はいやだ!お願いよ、このままじゃ死んじゃう。嫌ー!』
録音機から聞こえる女性の声は金切り声で、俺の心を恐怖心と憎悪を支配させた。許さない。絶対に許さないぞルナエラァ!
『ほななぁー、わっちはいつでも来客をお受けしてるからな。遊びに来どうなったらいつでもおいでやす』
雑音が鳴り止むと内部の回路が焼けたような臭い匂いが録音機から立ち上る。録音機を持ったアロウの腕は震え、大きく振りかぶり、荒いコンクリートに叩きつけた。
「……してやる。殺してやる!」
目には血が走り、低い声は周りの空気を地面に叩きつけたようだった。
「俺たちも協力するぞ。やつの言い草は気に入らん」
「ええ、孤児院の子どものためにも許せません」
「そうだな、俺も若僧と一緒の意見さ。相手がロボを投入するならば俺とミホノはいた方がいいだろう」
ルナエラの宣戦布告は俺たちの恨みを逆撫でするような行為だった。
「ひと月も待っては奴らの思うつぼだ。私は今すぐに暴食の魔王と結託し、奴らと戦おうと思うがどう?」
「そうだな、兵力の問題はそちらに任せます。ロボの操縦は乗った時間に比例しますからその方がいいでしょう。あと、お見せしたいのがもうひとつあります。サナダ開発長、至急ラボに」
ミホノはマイクでサナダ開発長を呼び出すとコックピットに案内する。
「これがタイタンのコックピットです。このヘルメットが厄介でして、操縦者を文字通り部品のひとつにしてオート戦闘を可能にしているそうです」
俺が感じた違和感はここにあったのか。
「それと炉心なんですけど、サナダさんが作ってた魔石ジェネレーターで代用可能かと。マシンガンやバルカンなど、実弾兵装は使えませんが、ほかの武装と換装可能です」
「この短時間でそこまでわかったのかい。いやぁ、さすが人族と言うべきかのう。魔王様や、どうします?」
「操作技術がない我々が動かしてもただの荷物でしょう。掘削用に改造し、魔石採掘事業に取り入れます。サナダさん、頼みます」
「あいやわかった」
「出発は明日。私は準備があるから各自、準備を進めておくように」
ミホノとアロウ、サナダさんはラボに残り、タイタンの改造案を模索するらしい。俺の耳にはルナエラの高笑いが耳鳴りのように残っていた。
作品作りのモチベーションに繋がるので評価やコメント、ブックマークよろしくお願いします。




