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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
33/61

月下美人

大理石で作られた部屋にステンドグラスで彩られた光が部屋を照らす。赤い絨毯がひかれた床には神アルトゥームの姿がぼやけて映し出されていた。


「神託が下されました」


玉座のように煌びやかでアルトゥーム神とその教徒たちが描かれた椅子に一人の男が座り、その前に二人の教徒が跪いていた。


「禁欲に溺れた教徒たちを罰せよ」


「そのもの達はどこにいるのでしょうか」


「”アダム”からの情報では色慾の魔王の国、ルクスリアにいるそうです。今までの行いと今回の情報を踏まえ神は天罰を与えるようにと我らにお申し付けくださいました」


「あのー神様の言葉には従うけどそのあだむ?って人間は信じていいの?まあ、私は殺せればいいけどさー!」


ブロンド色のツインテールを揺らしながら小柄な少女は頬に包帯が巻かれた手を添えて首を傾けた。


「こら、女の子がそんなこと言うんじゃありません!ましてや神と教祖様の前ですよ!」

紅葉色の長髪の男は海のように輝く目を尖らせた。


「構いません。神は貴女の真っ直ぐな心を求めているのです。エリニュス」


「はーい!エリニュス頑張りまーす!」


「貴方の真っ直ぐな正義にも神は期待しています。アーレス」


「はい!異端者共に正義の鉄槌を降します!」


アレースの声が部屋中に響き渡る。メリアは耳を塞ぎ、迷惑そうな顔をしたがなにか企む顔をしていた。


「ねーねー、きょーそさま!私が仕入れた情報なんだけどね、ルクスリアでは混血が大量生産されてるってほんと?」


「ふふ、貴女は本当に察しがいい子ですね。その通り。あの国では罪深き忌み子たちが生産されています」


「じゃあさ!じゃあさ!そいつらもぜーいん殺しちゃってもいいよね!ね!」


「もちろん」


エリニュスは目を輝かせ跪いた姿勢から勢いよく飛び跳ねた。


「やったー!じゃあ気合い入れなきゃだね。私絶対にみんな、みーんな殺してあげるんだから!絶対復讐してやるんだから!」


アーレスは頭を抱え唸った。彼女らが所属するのは部隊”聖徒会”は異教徒の廃絶、及びアルトゥーム教内での治安維持をになっている。。二人はその部隊の隊員だった。


「次はどうやって殺そうかなあー!四肢を少しずつ削りながら殺そうかな!それとも骨を一本一本抜き取りながら殺そうかな!今にも楽しみすぎてワクワクが止まらないよ!」


少女は立ち上がり手足を勢いよく伸ばし飛び跳ねる。先程までスカートで隠れていた足には包帯が巻かれていた。


アーレスとエリニュスは日が差す協会の廊下を並んで歩いていた。


「ちゃんとお薬飲んでますか?」


「あたりまえじゃん!毎日朝昼バーン!飲んでますとも。最近はお腹の違和感もないし、手足が疼くこともないからちょーしがいいんだ!これもきょーそさまとあるとぅーむさまのお陰だね!」


「そうだとも!君はアルトゥーム神の加護を受けた聖女だ!これからも誠心誠意私と共に崇めるのだ!」


2人の笑い声は廊下に響き渡った。

先程まで舞踏会の会場だった王座の間は魔学によって作られた機械によって埋め尽くされ、作戦司令室に変わる。壁からは魔石で作られた液晶が現れ、様々な機械が所狭しと置かれた


「映像出せる?」


「写せますが砂煙が邪魔で見えぬ状況です」

「く、これじゃ弾を無駄打ちすることになるか。砲手に伝えて。抽象的で構わない。敵の姿を教えてくれと。それと攻撃は現場の判断に任せる。爺や現場の指揮をお願い」


「承知しました姫様。砲手に告ぐ……」


爺やは重々しい機械をを背負いインカムらしきヘッドギアを抑え指示を取りながらその場を去った。ガルシアスは周辺の地図が映し出された画面を凝視する。俺もがめんをみて敵が1人で襲撃してきたことを疑問に思う。数で攻め込むのが戦いの基本だ。なのに何故ルナエラは一人だけに攻め込ませる。


「ゼフィス、妙だと思わないか?」

「ああ、戦いの基本を無視した戦法すぎる。数で押し切るのが無理だと判断するならなぜ奴は前の襲撃で軍勢を率いてきたんだ」


「そこじゃない。コイツの移動速度だ。騎馬兵だと最初は思っていたがそれにしては早すぎる。魔獣でもこんな速度は出ないはずだ。そうだろアロウ?」


「うん、魔獣でもあの速度は出ない。魔族を食っていればもしかしたら有り得るかもしれないけど砂煙を上げながら走るなんて一体じゃありえない」


「そう、砂煙だ。前の戦いでレーダーが敵一人一人を表しているのはわかっている。ならなぜ砂煙が上がるんだ」


砂煙か。確かに騎馬兵単体じゃあら姿を隠すほどの砂煙が上がるはずない。ならどうして?考えていると宮殿が少し揺れる。防御シールドが描かれた画面を見ると爆発したような映像があ映し出されていた。


「敵、攻撃してきました!ですが魔法とは別の攻撃と考えられます!」


使用人の言葉を聞くとガルシアスは擦り合わせていた指を止める。


「今、なんて言った。あの爆発は魔法じゃない?おいおい、まさか!アロウ!今すぐ爺やさんに繋いでくれ。どんなものが見えたか。飛んできた物を確認してくれ!」


「わかったよ。爺や、何が飛んできた」


『申し上げます!私も初めて見るのですが銀色の柱ほどある棒が炎を上げながらシールドにぶつかり爆発ました!』


炎を上げながら銀色の棒が飛んできた?


「ま、まさかガルシアス!」


「多分考えるものは同じだな。兵器だ。兵器が攻めてきやがった!」


「平気ってまさか君たちが作った鋼の戦車とかかい!?なんでゼルファストにあるのさ!」


「考えられる要因は2つだ。1、ルナエラが奪った。2、これは最悪の中の最悪だ。人族のどっかの国がルナエラと手を組んだ」


その言葉に俺は恐怖心を抱いていた。魔族の恐ろしさは腐食(リーパー)による魔力強化と魔人、獣人の存在だ。獣人はケモノのような見た目が物語るように肉弾戦が厄介だ。そして魔人は魔法が強い。そこに人族の科学が加わってしまったら敵無しだ。だが疑問がある。それはエネルギー問題だ。現在石油で動く機械は少ない。ほとんどがLエネルギーで稼働している。これは過去に石油の枯渇が問題になっていた時期にLエネルギーという掘れば無造作に溢れ出るエネルギーが発見されたことで一気に載り変わっていった。初期のエンジンや製品を『幽幻』と呼ばれる研究組織が作りだし、一気に普及して行ったらしい。


「Lエネルギーをエネルギー源としているなら魔族が買うと思うか?」


アロウは腕を組み考え込んでいた。Lエネルギーを必要とするなら掘削場も建てた事になる。だがこの土地はLエネルギーを掘り出せない。


「怪しいところだな。エネルギー込みで企業が売り出しているか、汲み上げる装置を売ったのかもしれん。だがそんなことしたら攻め込まれた時に対処ができないはずだ。緊急爆破ボタンでも作っていない限りはな」


謎は深まるばかりだった。そこにひとつの声が入る。


「なら実際に戦えばよい。こんなところでうじうじしておっては時間の無駄じゃ」


ルーデルワイスだった。彼女は腰に刀を差し、いつでも出れる体制になっていた。ハザマも同じように2本の刀を腰に差し俺達の武器を届けてくれていた。


『姫様、敵を補足しました。これより砲撃を開始します』


爺やさんからの無線が入るとアロウはモニターの映像を砲台に取り付けられたカメラからの映像に変える。


「さて、どんな見た目のやつが出てくるか」


「モニターには紫色の光線が打ち出され、しばらくすると砂煙が晴れ鉄の塊が現れる。全長10メートル前後の巨体には2本の腕が取り付けられており、片方はマシンガン、もう片方は三本の指を持つアームで、6個の車輪が取り付けられていた。全体的に無骨なデザインをしており、肩には両方合わせて8門のミサイルポッドらしきコンテナが取り付けられており、腰部分にはバルカンが2問取り付けられていた。


「あれはまさか……ロボットか!?」


「ロボ!?おいおい、兵器とは予想出来たが、ロボだと!」


俺とガルシアスはスクリーンに映るフォルムに驚愕していた。ミホノは俺たちの話に噛み付く。

「戦闘用ロボなんて開発されてないはず」


「その通りだよミホノ。アドラールに戦闘ようロボなんざない。俺が知る限り、ロボット工学で名を轟かせている会社はアーハイムエレクトロニクスとジルニックだけだ」


「待ってください。その会社って両社とも土木関連のロボ開発が主な製造内容だったはずです!」


ミホノは右手でこめかみを押え焦り気味に応える。土木にミサイルなんていらないはず。その言葉によって誰もがそう考えていた。


「あの、話にイマイチついていけてないんですけど、その土木ロボット会社が兵器開発を行ってるってことですよね……」


「確かに有り得ます。ですが兵器開発は他の事業に比べてコストが段違いなんです、しかも兵器開発とは歴史の積み重ねでミサイルだって様々な技術と幾度となく行われる実験無くして成しえません」

ミホノは一言一言ゆっくりと言葉を発していたものの、動揺を隠しきれていなかった。相手がロボットだとするならば疑問が他にもある。なぜロボットなんて高性能な兵器を敵になり得る魔族に渡したのか。


『敵、む……無傷です!』


「無傷!?そんなあの砲撃を食らって無傷だと……」


「落ち着いて、爺や奴にバリアらしきものは見えるか?」


『こちらからは何も……いえ、見えます!薄く敵の周りが光っていることを確認!』


「魔力防壁か。アロウ、これじゃあ遠距離攻撃は効果がない」


ガルシアスはハザマが持ってきたローブを羽織り、Time fliesに弾を込め始める。俺もガルシアスに続き、ムスカリを取り腰に差す。考えていることは同じらしい。俺はガルシアスの顔を見上げ少し笑って見せた。


「一応聞こう。どうするつもりだい?」


「遠距離が効かないなら直接殴りに行く。そしてバリアを出している装置をぶっ壊す」


「砲撃は俺達がバリアを壊してから頼む。俺達じゃあの巨体を断つのはできなさそうだからな」


俺とガルシアスが部屋を出ようとするとルーデルワイスが手を挙げる。


「童も共に戦おう。ハザマ、お主もそれでいいか?」


「ええ。姫殿の思うがままに」


「ロボットは結構手強いがいいのか?」


「構わん構わん。ちょうど今宵は満月じゃ。童にとっては好都合じゃ」


ルーデルワイスは刀に手を乗せニヤリと笑う。俺にはその意味が分からなかったが、どこかしら安心感があった。


「あの、私達も同行しても……」


「ダメだ。ティナとミホノはここで待ってて。相手に魔法攻撃が効かない以上、ティナは危ないしもし俺達がやられた後がたいへんだから。大丈夫、ちゃんと戻ってくるから」


もちろん戦力が多いに越したことはない。だが攻撃が通用しない以上危険だ。


「出来れば鹵獲してもらいたい」


アロウの言葉に少し驚きつつも俺はその考えには納得していた。機械の内部を解析すればどこの会社の製品かがわかる。


「努力はする。だが奴ら自爆装置を積んでいるかもしれん」


俺達は魔獣に乗り、シールド付近まで移動する。アロウは複数の3人の兵士を護衛に着けてくれたため、7人での戦闘となった。護衛の兵士の中には調査の時に同行してくれた兵士も混ざっており、安心感があった。


「ガルシアス殿、今作戦はどのように?」


兵士たちがガルシアスに指示を仰ぐ。そうすると顎に手を当て考え込んだ後、口を開く。


「映像を見た感じヤツはモノアイだ。もしかしたら後ろにもカメラがあるかもしれんが後ろを主に狙え」


「わかった。だがまずバリアをどうにかしないとな」


「バリアだがお前とハザマに任せたい。お前の龍轟斬ならバリアを破れるだろ」


「バカを言うんじゃない。魔力制御も出来ないバカなら敗れるかもしれないが相手はロボだろ?」

ゼル何とかさんの時は魔力制御の甘さに助けられた。だが魔力制御を完璧に熟す機械にそんな抜け目なんて存在しない。


「さて、それはどうかな。ラストアタックはルーデルの嬢ちゃんに任せよう。これより敵機との先頭に入る。名称を……そうだなタイタンと名づける」

「目にもの見せてやるわい!」


「あとハザマよ、あいつのシールドの出処だが……」


「承知」


声が小さくなかなか聞き取りにくかったがハザマの顔を見る限りタイタンの情報なのだろうか。



シールド付近に着くとタイタンがすぐそこまで来ていることがわかる。


「これじゃあビームの力は頼れんな」


俺とハザマはバリアから外に出て抜剣する。ハザマは一本だけを抜刀する。


「今回も手加減か?」


「まずは敵の力量を確かめてからだ。よし、弟子よ。ここでお手並み拝見と参ろうか」


「あいよ、お師匠さん」


ムスカリを前に突き出しアラクレを着けた左腕を前に出し、剣を持った腕を鋒を向けたまま後ろへ下げる。右足に重心を乗せ一呼吸置く。タイタンは腰に取り付けられたバルカンを俺に向け打ち出す。


『魔力防壁展開』


俺は左腕を前で曲げ防御耐性をとりながら前進する。剣を体の真後ろに構えなるべく右腕と体と左腕が一直線になるように走る。本来対人戦において相手に攻撃を読ませないために使う体制だがモノアイからの情報をパイロットが認識するのであれば有効な手口だ。無人機という可能性も考えたが、作戦司令室のモニターには何も写っていなかった。アドラールなら遠距離からの操作が可能だがそれは科学が進歩しているからだ。科学の発展がないこの地ではもっと近くに寄らなければ操作することは出来ない。人が操るのであればこの構えは理にかなっている。踏み込みは強く体は軽やかに。ブオヌモーレダンスを意識して体を捻る。初撃は下からのアッパー気味に切り込むがバリアによって軽々しく弾かれる。本当に龍轟斬を使わないと行けないかもだな。相手も負けじと観察しながら袈裟斬り、左斬り上げと攻撃を繰り返すが、一向にバリアが崩れることはなかった。だがその分、収穫はあった。バルカンの弾倉はアームによる取替であることやミサイルは近くの敵には使わないこと、意外と腕の稼働が鈍いなど得られた情報は貴重なものばかりだ。


「俺の攻撃じゃあピクリとも動かないな。バルカン攻撃は単調なところを見るとパイロット素人か魔族か……」


相手も負けじと突進やバルカンを撃ってくるのに捻りがない。急旋回や急加速などは一切なく単調な攻撃ばかりだった。


「おいゴラ師匠、もうそろそろあんたにも参加して欲しいんだけど!」


「なんだ師匠である拙者に対しその口の利き方は。まあいい、合わせろよゼフィス」


「合点!」


一度下がり片手平突きの構えをとる。気づいた時には既にハザマはそこにはいなかった。眼球だけを動かし辺りを見回すと大きく右に旋回し、後ろを取ろうとしているのがわかる。


「そういう事ね」


俺は真っ直ぐに突っ込む。バルカンの弾を荒塊の魔力防壁で守りつつ、間合いまで近づく。ヒートソードを展開すると共にアラクレを起動させる。


「見せてやるよ機械仕掛けのクソ野郎。もしその御大層な目ん玉で、俺らを見てるならとくと見やがれ。ブリキ野郎!」



ハザマは後ろに回り込むと構えを取りゼフィスの技を待つ。彼が遠くから見ていたのはただゼフィスの成長を見るだけではない。彼はバリアの発生の速度をひたすら観察していた。


「龍轟斬、時荒(しこう)!」


真正面から12連撃の乱れ斬り。その攻撃はバリアに当たるものの、防壁に傷の後はなく、ただ当たっているだけだった。


「わかってるじゃないか。さすが我が弟子。いや姫殿に認められた男だ」


12連撃が終わり魔法を射出体勢に入る。


「大型炎魔法大型炎魔法(ファストライアー)!」


荒塊から大型の火球が放たれる。バリアに当たる寸前ゼフィスはアラクレによって止められていた12連撃の事象を解放する。バリアは破壊こそできなかったもののくっきりと目に映るほど鮮明に光り輝いていた。


「あとは頼んだぞハザマァ!」


「任された!」


そう応えるとハザマは腐食(リーパー)を使い魔力を吸収する。そして真っ直ぐに駆け出し、あっという間にタイタンの懐にまで間合いを詰めていた。大きく振りかぶると刀身に風が集まり出す。


「いなさ車!」


集まる風は次第に強くなり見えない渦を巻き始める。まるで台風の日のような強い風は次第に大地に切傷を作りだす。振り下ろすと薄い光が横殴りの後を作り出し簡単に突き抜ける。彼はガルシアスの助言と観察で確信を得ていた。タイタンのシールド発生装置が後ろに着いていることを。突き抜けた刀身は怪しげにひかる装置を荒々しく切り刻む。まるで爪の鋭い獣に何度も切り刻まれたような跡を作り出すと怪しげな光は静かに消えていった。



「なんですと!?ガルシアス様ぁー!ろぼっと周辺の魔力消滅!魔力消滅しました!」


爺やが大声を出しながらガルシアスに伝える。


「わかりましたー!よし、ルーデルちゃん出番だぜ」


「やっとか。行く前になんでバリアが壊れたのか教えて貰えるか?」


「簡単なことさ。出力以上の攻撃を当てただけ。それだけさ。5の力で動く物体をを5の力で逆から引っ張れば力は打ち消し合うだろ?この国のビーム兵器の威力は凄まじい。そんな凄まじい威力を打ち消すには同様の出力かそれ以上で守る必要がある。そんな出力を全体に出せる魔法装置なんざうち(アドラール)にはない。ないなら集めればいい。1箇所に集中させれば10でも100でも守れるものさ」


魔法は同じ威力の魔法でしか打ち消せない。ゼフィスが魔力を込めた斬撃と人族最大級の炎魔法、大型炎魔法(ファストライアー)により魔力障壁は1箇所に集中させていた。そしてバリアの位置をおし、ハザマの一撃で壊す。ガルシアスでもバリアの出力を変える時間までは分からなかった。そのため、現場の観察こそがこの結果に繋がっていた。


「人は自分の知る最強以上のものを考えられないものさ」


銜えたタバコを吹かし空を見上げる。タバコの煙は狼煙のように空へ上がり、大気と混じりゆっくりと消えていく。ルーデルワイスはそれを見て前に歩き出して行った。


「人族とは難儀なものじゃのう」



「よぉし、ゼフィスここから逃げるぞぉー!」


「頼むハザマ……あんまし揺らさないで……」


ハザマはゼフィスを抱え込み全力で国に向かって走り出す。ゼフィスには急いでいるわけがわからず12連撃の痛みのせいでただぐったりと伏せていた。


「どこに……急ぐ……理由があるん……だ……」


「急ぐわけは2つ!1、今から姫殿の独り舞台であること。もうひとつは今日が満月であることだー!」

「満月?何が起こるんだよ……うえっぷ……」


ハザマの顔は酸欠のせいか青ざめていた。目頭が立ち歯を食いしばっている顔は滞在中1度も見せなかった焦り顔のようにゼフィスの目には見えていた。


「お前さん、まさか橋の件を忘れたわけじゃないだろうな。あ、これ疲れるから引き摺るわ」


「橋?イダダダダダ!」


引きずられた状態から立ち上がり一緒に走り始める。抱え込まれていたゼフィスは感じなかったがハザマが轟速で走っていることに気づく。


「お、ハザマが走っとる。がんばがんばー」


「げぇぇ、姫殿ォ!?」


ハザマの足はさらに速まりバリアの近くに到達すると飛び込んだ。


「まったく、主君に対してなんじゃあの反応は。まあよいか」


ルーデルワイスは腰に差した刀をゆっくりと抜きながら歩く。タイタンとの間合いが五メートル前後のいちで止まり頭上で藍鼠色の朧気な光を灯す月を見上げ一言零す。


「龍魂解剣」


その言葉と共に刀は刀身を伸ばし彼女の背丈の何倍もある刀身に変わっていく。


「まさか……あれが元凶なのか!?」


「そう、『魔剣ヤトノカミ』。通称月光剣の異名があってな。あの剣の特徴は月の満ち欠けによって形が変わるところにある」


「月の満ち欠け?」


「ああ、月の満ち欠けだ。思い出してみろ。お前が初めて姫殿と戦った時のことを」


ゼフィスは考え込み当時の状況を思い出す。三日月にレイピアのように細い刀身。


「そうか、三日月ならレイピアだったな」


「そのとおり。そして今日は満月。つまりああいうわけだ」


右手に持ったヤトノカミは天高く伸びた刀身は月光により怪しく光り輝く。ルーデルワイスはヤトノカミを肩に載せ腰を落とす。重心は両足にどっしりと載せ地に根を張るように見えていた。だがヒールのトップリフトは浮いており、つま先立ちのような状態になっていた。そして左手を体を大きく使いながら回し前に突きだす。突き出した手は真っ直ぐにタイタンを指さしていた。


「さぁさぁさあ!タイタンよ、共に舞踊ろうか!」

睨んだ目は真っ直ぐにタイタンを見つめ、口はしっかりとかみ締めて顔は屈強な男にも負けない程に引き締まっていた。


「始まるぞ、ここからは姫殿の世界だ」


静止したルーデルワイスの身体は彼女の深呼吸と共に動き出す。狭い歩幅で走る姿は背丈通りの少女そのものだった。だがいざ身体の三、四倍はあるヤトノカミを横水平に薙ぎ払うと彼女は一人の武士そのものだった。小さい体ながらも器用に長い刀身を操り兜割り、袈裟斬り、面割りと繰り返していく。タイタンはその巨体のせいかほとんどの攻撃を避けきれずに受け止めていた。だが装甲はほとんどの斬撃をものともせず弾いていた。


「あれ多分マギカニウムっていう合金装甲だ」


「ゼフィス、あの装甲を知ってるのか?」


「ああ、昔というかなんというか夢幻の本社に招かれたことがあってさ。夢幻のお偉いさんが話してたんだよ。『魔法を弾く合金がさぁー』ってな。魔剣は大地を流れるLエネルギーを吸い取り力を発揮するらしい。おそらく攻撃一つ一つに魔力が乗っているんだ。だから刃が通らないんだろうさ。だが所々に傷があるところを見るに部分的な装甲だな」


ドレークの話から推察しゼフィスの中ではひとつの推測があった。それは色欲と組んでいるのは夢幻カンパニーという推測。 もし夢幻が手を組んでいるとするならば彼らの財力を振るえば会社の一つや二つ簡単に買収できる。しかも防壁や武装は夢幻で製造されている物ばかりだ。だが手を組んだところで人族でマーケティングを展開する夢幻にとってデメリットが多いと感じていた。しかもLエネルギーがあまり取れないゼルファスト大陸の国と手を組むのは正直愚策だ。


「あーもう、わけわからなすぎてぐちゃぐちゃしてきたー!」


「どーどー、どこが絡んでるかなんて今考えても仕方がない」


「まあ難しい話はアロウ様と一緒に拙者と姫殿のいない所でしてくれ。姫殿ぉー、傷ついた所を重点的に狙ってくれだそうでーす!」


「わかっておるわ!しかし参ったのう。関節ばかりに弾く鉄が置かれちゃってる」


距離を取り攻撃した箇所を見続け苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ちっ、まさか命を持たぬガラクタに童の技を使わねばならんとはな」


右手に持った魔剣を両手に持ち上段の構えをとる。そうするとヤトノカミの刀身は冷たく光り始める。まるで天に浮かぶ満月のように藍鼠色に光りは月を隠した雲を払い、ルーデルワイスを照らし始め神秘的な風景を作り出していた。。ゆっくり近づくルーデルワイス。それを追い返すようにバルカンを連射するタイタンだがルーデルワイスが長刀を一振すると何も無いところで真っ二つに切られ防がれる。


「何がどうなっている……」


「ガルシアス殿が驚かれるのも無理はない。あのヤトノカミという魔剣の真の力は月光にある」

ゼフィスとガルシアスはもう一度ルーデルワイスを見る。その光景は続いていた。打ち出された弾丸は月光に照らされキラキラと光り地面に落ちていく。


「あれは『月光の花嫁衣装月光の花嫁衣装(ムーンドレス)』。あの魔剣は月光に照らされた対象を斬るのだ。何を言っているかわからんのは承知の上だ。だが実際そうなのだ」


「効果範囲はどこまでだ?」


「体感だが姫殿が持つ魔剣が届く範囲だ」


その回答を聞いた途端ガルシアスは肩唾を飲んだ。


「それはもう反則だろ」


「だが欠点だってある。例えば……今がその時だな」


月が雲に隠れ周囲が一気に暗くなる。そうなるとルーデルワイスは勢いよく走り出し、バルカンを左右に降らせるように走り出す。


「月光が消えれば斬撃を生み出すことは出来ない。だから相手が影を作ったり影に隠れてしまえば使えないのさ」


2人はヤトノカミの欠点を聞いてなんとも思わなかった。なぜなら欠点をカバーする以上の動きをルーデルワイスがとっているからだ。


「まあ姫殿以外が使えば大きな欠点なのさ。しかもあの長刀はめちゃくちゃ重い。あんな身のこなしができるのは姫殿だからこそだ」


小さい体を最大に活かした体の動きはまるで空を舞う蝶のように優雅で煌びやかなものだった。そして長刀が届く間合いに入ると目にも止まらぬ早さで斬撃を繰り出す。その斬撃はめったやたらに繰り出されたものではなく、マギカニウムが使われた装甲と通常装甲の溶接部分をなぞるような跡が残っていた。そしてマギカニウムは大地に重々しい音を立て落ちていった。


「ルーデルちゃん、まさか溶接部を切り落としたのか!?」


「まじかよ。あんなに素早い連撃で的確に削ぎ落とすなんて」


アドラール大陸でも出土品としてルーデルワイスが使う長刀のように長い剣が見つかり、試しに使ってみる人が少数いたらしい。だが細かな動作が難しいことや取り回しにくさが裏目に出て皆使わなくなった。だが少女は自分の体の一部のように自分の身長の何倍もある長刀を振り回す。その姿を衛兵たちは笑顔を浮かべていた。


「あの方は月に生まれ、月と共に参ったと魔王様が申しておりました」


「衛兵さんそれはどういうことだ?」


調査の時に同行してくれた兵士の言葉に俺とガルシアスは疑問を持つ。兵士はガルシアスの質問にこう応えた。


「魔王様曰く、ルーデルワイス·デンドロビウム様がこの国に連れてこられた日は月がいつもより大きく、月光が彼女の後ろを続いて照らして行ったそうです。ですからあの方は我が国では月の申し子と呼ばれているのです」


「スーパームーンか。だがアロウがそう表現するならもっとでかかったんだろう。しかも後ろを月光が照らして追ってくるか。なんともまあスピリチュアルな」


ルーデルワイスはマギカニウムの装甲を切り落としては距離をとるヒットアンドアウェイを繰り返し次々とタイタンを丸裸にして行った。そしてほとんどの装甲を落とした後距離をとると長刀を握る右腕を切っ先を向けたまま勢いよく後ろへ下げ峰を軽く押え、右足に重心をかけるように後ろへ下げる。月は蜘蛛から顔を出し、再び冷たい光を淡く降り注いでいた。


「では見せようぞ、我が一刀『月虹、鱗廻』!」


ルーデルワイスが勢いよく飛び出すとタイタンを囲むように月虹がタイタンの周りを囲む。タイタンはバルカンやミサイルを飛ばし応戦するが月光の斬撃によって全て阻まれてしまった。そして間合いに入ると月虹が少し広がり、ルーデルワイスの突きと同時に1箇所に刺さっていく。そして


「月虹鱗廻。あれは魔力の大きい箇所に光の刃を集中させる技だ。まあお主ら人族にはあんまり関係ないが拙者たちには辛い一撃だ」


ハザマの解説を聞き唖然とする5人。呆然と5人がその光景を見つめている中、ハザマだけが廻海狼に手をかけたまま目を閉じ深く息を吐いていた。


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