悲しみの夕焼けよ
夢幻、カンレーヌ支部。そこにはロウギヌス傭兵団が集まり、ゼフィスとティルナシアの捜索及び抹殺の依頼が出ていた。
「あの野郎、この私をこんな姿にしやがって。ベルゼハード団長、いくらあなたの弟子とはいえ絶対に抹殺してくださいよ!」
「ええ、それは重々承知しております。いくら元団員だとしても依頼は依頼。しっかり遂行させていただきます」
ベルゼハードは机の下で指を遊ばせながら会議に参加していた。正直こんな男の依頼は受けたくないと思っており、スポンサーだからと割り切っていた。その光景をナリトカと副団長アルラ·エールは一言も喋らずただ傍観していた。
「はあ、確かにゼフィスの取った行動もわかるような男ですね。あの課長」
アルラは青い髪をひとつに縛り直し、彼は胸元のポケットに入れた手帳を開き情報を記入していた。
「仕方がないだろ、あれでも出資をしてもらっている企業の傘下の人間だ。俺たちは頭が上がらない」
「しかし、この国の兵士を殺さず無力化した上で宗教を敵に回すとは。全く、あの子も馬鹿ですね」
「ふ、その割には笑っているように見えるが?」
「ええ、ゼフィスは確実に強くなってます。それが嬉しい以外の何と表現すればいいのでしょう?」
3人は笑みを浮かべる。子どもの成長を喜ぶような笑みだった。
「団長ゼフィスの抹殺、この私ナリトカ·キングスバレイにおまかせを」
「いやお前にはこちらの依頼をこなしてもらいたい」
「これは……」
「ナリトカさんには暴食の魔王であらせられるアバドン様の所へ行っていただきます。依頼内容は不明。ですが、10人の傭兵又は一騎当千に匹敵する団員を連れてこいとのご所望です」
「だいたいわかりました。つまり先にゼルファストに向かへということですね?」
「そういうことだ。奴ら、俺たちを警戒してやがる。だから派手に団員を動かすことが出来ないんだ。だからこの依頼はお前一人に頼みたい」
「カンレーヌへ続く橋は落ちていますからね。別にゼフィスを見つけ次第殺してしまっても構わないのでしょう?」
「はい。僕と団長の意見はそのようになっております」
カンレーヌに着くまでに4つの依頼をこなしたロウギヌス傭兵団の団員は疲れ果てていた。それも考えての行動だ。
「そしてお前にふたつプレゼントがある」
3人は傭兵団のために設けられたガレージへ向かう。そうするとバイクと細長いアタッシュケースが置かれていた。
「このふたつは幻式らしくてな。槍は『Love&Chain』、バイクを『Crazy Rendezvous』というらしい」
ナリトカはLove&Chainを取り出し、付属の腕輪を附け、素振りをする。軽く演武をすると小さく頷いた。
「私好みの重さと長さですね。で?能力は?」
「それはだなぁ……」
「なるほど、これは強いですね。まるで伝説に出てくる槍兵のようです。まあ、この武器はいいです。ですがこのバイクは正直言ってお荷物では?ガソリンとかLエネルギーの確保が難しいと思うのですが」
ゼルファストやティファーナへ向かう商人たちは皆馬車で大陸を渡る。車などの移動手段はあるのだがこのふたつの大陸ではガソリンもLエネルギーも手に入りにくい。そのため皆馬車で行くのだ。
「難しいことは正直わからんが空気中の魔力を集めてエネルギー確保するらしい」
「夢幻の謎技術ですね。まあ信頼出来る出処ですから何も言いません。団長、ひとつ手配したいものがあるのですが」
ナリトカがあるものを要求するとアルラは快く了承した。
「ありがとうございます。アルラさん」
「構いませんよ。いつも僕は貴女に助けられてばかりなのですから」
彼はいつもナリトカと一緒に団の財務処理を行っている。そのため信頼関係が厚いと言っていい。
「じゃあ出発は2日後。それまでに準備を頼む。トリスが駄々をこねるかもだが頼むぞ。」
「ええ。あの人の失態は私が取り返さなくては」
「俺達もすぐに追いつく。でだ。話は変わるがモンスターについてお前たちはどう思う?」
ベルゼハードの言葉で2人の顔は柔らかいものから一瞬にして強ばる。
「おそらく夢幻の中に首謀者がいると私は思います。じゃないと最深部になんか到達できません」
「僕も同じ意見です。実験動物もここ一帯に生息しない動物もいますからある程度役職が高い者の陰謀かと」
3人ともゼフィスたちと同じ思いだった。夢幻にはなにかある。と。
早朝。俺はハザマに稽古をつけてもらっていた。一日、早朝と夜の2回稽古をつけてもらっている。今回は手首の動きを徹底的に鍛え上げていた。剣戟の際受け止めたり相手の防御を崩しにいくのはハザマの動きに関しては支障をきたすらしい。そこため手首の動きをしなやかにし、防御はいなすように徹底された。
「お前の変則ガードは悪い考えじゃない。だがまだ動きが大きすぎる。次の行動を意識して動きは最小限に抑えろ!」
斬り合いの際、正面から受け止めればその分力をかけなければならない。だがいなすとなれば受け止める力はいらなくなる。さらに相手の防御を崩しやすくなる。
「よし、だんだん動きが良くなってきたじゃないか!」
確かにいなす時の角度だったり手首のしなり方がわかってしたが攻撃が早くなるにつれて難易度が高くなっていく。
「はい」
俺の首元に廻海狼の刃が近づく。また、先読みを外してしまった。
「ちっ、またやられちまった」
「まあまあ、だんだん良くはなてきてるから。まあ拙者の攻撃が早いだけだから。当然かなぁ。ハッハッハっ!」
「なんか言い方うざいな。まあ弱いから言い返せないけどさ」
「まあ良くなってるのは本当さ。お主の場合はもうちょっと方の力を抜いた方がいい」
抜いているつもりだったがまだ力が入っていたか。俺たちは汗を拭き、持ってきていたお茶を飲む。この国は本当に農業が盛んだ。まあお礼の手紙が来るぐらいアロウが頑張っているってのもあるんだけどさ。
「ま、深く考えすぎてもなんだからさ。もうちょっと気楽にやれよ」
「気楽になんていられない。早くしないと囚われた人たちが」
「力抜かないと視野が狭くなるぞ」
「む……肝に銘じとく」
「そうだ!確か魔鉱のおっちゃんたちが人手が欲しいんだってさ」
「ん?お前は行かないのか?」
「いやぁちょうどアロウ様に呼ばれててさ。代わりにお主に行ってもらおうと思っててな。ほら、師匠命令ってことで」
「今、お前の弟子になった自分を呪ったよ」
しかしこの国の情勢を知るにはいいのでは?まさかこの男そこまで考えている?いや、それはないか。いやあるな。まあとりあえず引き受けておこう。もしかしたらいい案が思い浮かぶかもしれないからな。
「わかった。やらせてもらうよ」
「うむ、ではここに行ってこい!」
俺は稽古が終わると俺は地図に書かれた場所へ行く。早朝だというのにもう働いている人がいるのを見るとこの国は恐怖に負けていないことを思い知らされる。
「よぉし、どんどん掘ってどんどん取れ!魔石は掘っても掘っても出てくるんだ。取って取って取り尽くせ!」
「へい大将!」
従業員の服装はヘルメにガスマスクに厚い手袋。厚手のジャケットにワークパンツと、炭鉱夫のような格好とも思えたが、どこかの研究者のようにも見えた。
「あのう、ハザマさんの紹介でここに来たんですけど」
大声が洞窟に鳴り響く。天井や壁に反響しているせいで正直うるさい。
「あ?なんだってぇ!?」
「ここに!働きに来たんですけどっ!」
「あー、あんたがゼフィスさんか。ようこそ、鉱山へ!さ、説明はめんどくさいから省く!掘って掘って掘りまくれ!」
大将と呼ばれる男からツルハシを貰い、実際に魔石を掘る。鉄の刃は魔石に当たると甲高い音を発する。壊れたかと思いきや魔石は今だ健在で欠けたところすら見えなかった。
「へへ、兄ちゃんよそんなんじゃこいつらはビクともしねぇぜ。こうやるんだよっと!」
虎顔の男が大きく振りかぶると同時に「カルアが魔石採掘するぞ〜!」「離れろー!」という声が聞こえ、みな離れ始める。俺もその指示通りに一旦その場から離れる。
「ぐおらぁー!」
男は叫び声と共に振りかぶったツルハシを勢いよく魔石にぶつける。空洞内には金属音が鳴り響いた。その音は文字通り大地を揺るがすほどの音で洞窟が崩れるのではないかと思ってしまった。魔石は粉々に割れる。
「ぐっ……すごいですね」
「まあアイツみたいに勢いよくやらなくてもいいんだが魔石はしぶとい。土だけ取り除いて塊を出そうにもデカすぎて日が暮れちまう」
「なるほど。そういえば、大将さんが言っていた魔石は掘っても掘っても出るとは?」
「ああ、ついてこいよ」
俺は悪魔の従業員に連れられ、もうひとつの穴に連れていかれた。そこには魔石がむき出しになった土塊が広がっていた。
「ここはひと月前に掘った洞窟さ。オイラたちはいつも掘り終わった場所からここまで赤い紐を垂らしていくんだ。引っ張ってみ」
俺はその赤い紐を引っ張る。軽い感触は全くなく、引っ張っても引っ張っても紐の先端がこちら側に来ることは無かった。
「まさか杭で刺してるとかないですよね?」
「まあ簡単に言えば魔石が土と一緒に再生してるのさ。オイラたちにも魔王様にもわかりゃしねえのさ」
原理不明の魔石の再生?アヴァロン近くの魔石が生成される現象がここでも起きているのか?
「ま、今んとこ無害だし、魔王様が原因究明してるみたいだし大丈夫だと思うぞ」
「うーむ、そういうものか?」
魔石自体が生命にとって害のあるものだ。長時間触れ続ければ肉が腐食する。最悪、骨にまで到達すれば神経系もダメになるだろう。そのためか従業員はこまめに入れ替わっているようだ。俺も例外ではなくこまめに休憩を貰い、体に異常はないか診断される。ここにもこの国の良さがわかる一面があった。しっかり従業員のケアを忘れないことだ。アドラールの採掘場ではこんなことは行われない。皆自己責任で安月給の労働者が故に国や企業が治療や診断をすることは無い。だがこの国は皆等しく診断を受けることが出来る。俺は手帳にこのことを記していた。そうすると洞窟の方から大将さんが休憩に来る。俺は話を聞くために冷たいお茶と少しばかりの菓子類を持っていく。
「お疲れ様です。大将さん」
「お、ゼフィス君。ありがとう」
大将さんは持ってきたお茶を勢いよく飲み干し、身に染みる冷たさを味わうようにため息をついた。
「あの、この国のことについて聞きたいんですけど」
「ん?別に構わねぇよ。まあ俺から言えるのはあの魔王の嬢ちゃんに助けて貰ってばっかりってことさ。一つ前の魔王なんざ俺たちを駒としか見てなくて今みたいに診断を受けることもなけりゃ事故が起きてもなんもしてくれなかった。だがよあの人は誰一人も見捨てようとしなかったのさ。事故が起きても率先して動こうとするし、ひたすら考えてくれる。あのベルトコンベアだってそうさ。あれのおかげで俺たちの仕事は格段に効率が良くなった。あの人には頭が上がらねぇ」
誰一人として見捨てなかったか。俺の印象とこの国の民の印象はやはりズレる。勿論彼女のことをあまり知らないからだろう。だが彼女の言動とこの国での印象が明らかに乖離しすぎている。ならばなぜ救おうとしない。兵力差があるのはわかってる。だがなぜ?
「ハザマさんから聞いたよ。ゼフィス君はこの国のこと調べてるんだってな。なら一つお願いをしたい。あまり魔王様を責めないでくれ。あの人だって救いたい命があった。だが守らなければならない命だってあるんだ。あの人はずっと助けようとしているんだ」
「わかっていますよ。だからこそ俺はこの国を知らなくちゃいけないんです」
俺はひたすらツルハシを振るった。採掘作業はただ掘るものでは無い。大胆且つ計画的に。洞窟を崩落させないように掘り進めなくてはならない。採掘できた魔石は急いでベルトコンベアに乗せて送る。ひたすらこの繰り返しだ。そのためか足腰が異様に鍛えられる。地面に根を張り掘る時の勢いに負けぬよう重心を落とす。そして走る。この繰り返しが足の筋肉に響き渡るのだ。
「段々と筋が良くなってきたじゃないの」
最初に話しかけてくれた悪魔のカルアさんが褒めてくれた。
「いえいえ、皆さんいつもこんな大変な作業をなされているんですね」
「ハッハッハっ!確かに大変だがよ、この国のためになってるんなら本望さ」
カルアさんは満面の笑みで笑った。周りの従業員もそれにつられて大声で笑いあった。俺はこの空気が好きだ。だからこそ、この国を救いたいと強く思えた。
一方その頃、ティルナシアとミホノは農園の手伝いをしていた。元はルーデルワイスが行くはずだったのだが、急遽孤児院の方で仕事が出来てしまい仕事を任せられた。畑にはキャベツに人参と、色とりどりの野菜が植えられておりどれも大きく育っていた。
「いやあ手伝ってくれてありがとうねぇ」
「お易い御用です。私たちはいつも美味しい料理を頂いているんですから」
ティルナシアは箱いっぱいにキャベツを詰め込み、小屋まで運ぼうとしていた。畑には均等にスプリンクラーが立ち並び、その光景はアドラールの巨大農園を彷彿とさせるような景色であった。
「にしても、ここまで魔学が発達しているとは。もはや科学を超えてもおかしくないのでは?」
ミホノは元夢幻の技術者として率直な意見を言う。燃料にもなり、技術にも転用できる魔石はもはや理想の原料と言っても過言ではない。
「ワシには難しいことはわからんけど、アロウちゃんのおかげで畑作業も楽になったねぇ」
犬のお婆さんは曲がった腰をゆっくりと下げながら手に持った鎌でキャベツを収穫する。
「あの子は休まないでずっと研究しててねぇ。少しは休んで欲しいものさ」
「アロウさんは優しいんですね」
ティルナシアは少し顔に影を落とした。アロウの冷徹さと老婆が語る人物像があまりにあっていない。
「あの子はねぇ、ずっと抱え込んでるのよ。先代の魔王様の頃からあの子のことを知っているからねぇ」
「アロウさんの過去を教えてくれませんか?」
「あれはまだあの子が魔王になる前の事じゃった。姉妹が二人おってのう、三人姉妹でいつも仲良くしておったわ。お后様を早くに亡くしてしまったが二人の姉の愛に包まれながら暮らしておったよ。あの時はまだ感情を隠す子じゃなかった。ずっと笑顔でどんな人にも笑顔を見せておったよ。先代の魔王様は厳しい方でな。こっぴどく怒られた時にはいつも城を抜け出してワシらの農作業を手伝ってくれたり、国の子どもたちと空が夕焼け色に染るまで遊んでおったよ。」
「うーむ、私たちが思い描く魔王アロウとは別人ですね」
「うん、けどどうしてあんな性格になっちゃったのかな?」
ティルナシアとミホノは8年の色慾軍が攻め込んできたことで今の性格になったのだと思い込んでいた。しかし、それだけではないと二人は思い始めている。8年の出来事、いるはずのアロウの二人の姉。そして己をなりぞこないと言ったアロウの言動。全てが引っかかり、一つの形を作り出そうとしていたのである。
「それには魔王継承の儀式が関係するのさ」
「魔王継承の儀式?たしか魔王の因子を埋め込まれるとアロウは言ってましたけど」
ミホノが食いつく。アロウの話によれば魔王因子を体に埋め込まれ、その中でもその因子への適性、欲望が最も強い者が魔王になる。
「魔王継承の儀式は血の繋がった三姉妹に行われたんじゃ。長女から順に角を食べさせられたんじゃ」
「角ですって?アロウさんの話じゃ魔王因子を埋め込まれると……」
「お姉ちゃん、魔王因子が関係してるのは同じだと思います。おそらく角ら魔王因子の塊なのでしょう」
「その通りじゃ。角を食べると体内で魔王因子が増殖を始めるらしくてな、体と適合を始めるんじゃ。しかしな、不適合者は体内が魔王因子で埋め尽くされてしまうんじゃ。それに耐えきれずに暴走し二人の姉は角を生やして状態で死んでしまったんじゃ」
「アロウさんにそんな過去があっただなんて……」
「追い打ちをかけるようですみませんがアロウは魔王因子に適合したのですね?」
「そうじゃ……じゃがアロウ様は魔王になることを強く拒んだんじゃ。『お姉様たちを殺した力なんていらない。私は魔王なんかにはならない』とな。しかし、魔王因子は無理矢理力を発動したんじゃ。アロウ様は脳への負担と感情が原因で不完全な状態で魔王になってしまったんじゃ」
愛する姉を失った悲しみ。家族を失ったティルナシアと離れ離れになってしまったミホノには痛いほどその気持ちがわかった。だが2人は思う。アロウが経験した苦しみはそれ以上のものなのだろうと。家族を殺した力が自分自身に宿っているのだから。
「あの方はとても強いお方なんですね。愛する人を失ってもその力と共に生きているんですから。きっと今でも苦しんでいるはずなのに」
「多分この国のためじゃろうな。魔王の力を奪われればこの国の国民が危険になってしまう。それに悪用されたくなかったんじゃないかのう。姉を殺した力を暴走させてこれ以上悲しみを増やしたくないとワシは思う」
ルーデルワイスと同じようにアロウにとってこの国の民は支えになっているのだ。彼らがいるからこそ魔王の力を受け入れ、魔学を発展させている。夕焼け色の空は雲ひとつなく、一日の終わりを告げていた。二人にはその夕焼けが悲しみに包まれているように見えていた。この国に住む誰もが悲しみを胸に秘めながら強く生きようとしている。誰もが8年前のことを忘れないで自分が背負ったものの為に必死に生きる。それは素晴らしく、そして悲しいものだった。二人は農具を片付け、宮殿に戻っていた。
「一つ疑問があります。どうして魔王の継承はこんなに簡単なのでしょうか……もっと複雑化させれば力を奪われることなく世襲できるはずなのに」
「多分魔王因子に選ばれる人を探しやすくするためとかじゃないかな?おばあさんの話を聞く限りでは適合しなかったら死んじゃうみたいだし。簡略化して探し訳してるのかな?」
「うーん、お姉ちゃんの考えもなきにしもあらずな気もするんですがなんか違う気がするんですよね」
二人は疑問を持ちながら前に進んだ。色慾の魔王の目的、魔王因子の正体。真実が見え、疑問がまた生まれる。真実は沈み行く太陽のように闇へ隠れて行った。
書庫にはガルシアスとアロウがお互いに情報交換をし合っていた。
「まさか君が仲間とは別の意見を言うとはね。まあ長く生きてきた知恵と言うやつかな?」
「この国の問題は俺たちが関わるべきじゃないと思っただけさ。問題に関わったとして安全でいる保証はないからな。俺たちの目的は色慾の魔王を倒すことじゃない。ティファーナに向かうことさ」
ガルシアスは本棚から国の歴史や古代文明に関わる書物を何冊か抜き出し、目を通していた。
「まああいつらが諦めないと後味が悪いまま旅を続けることになる。しばらくはここで見聞を広めておくことにするよ」
この国で仕入れた情報は彼にとっては宝物のようなものだった。ゼルファストでの文化や他国の歴史伝記などアドラールにいては手に入ることのなかった情報ばかりだった。
「私以外の誰も聞いていないからほんと王のことを言えばいいものを。まあ知識の探求は知的生命体の性みたいなものだからね。是非活用してくれ」
「ならひとつ聞きたいことがある。魔王因子とはなんだ?なぜ角を食っただけで魔王の継承ができる?」
「やはりそれを聞きたいのか。わかった教えてあげよう。だが情報交換だがね。私からは君の過去を教えて欲しいな。ガルシアス君」
「初めて会った時に見たんじゃないのか?」
「もちろん少しは見えたさ。だがそれは断片的なものだ。おそらく君はダブルシンクを演じているんだろう?真の己を知りつつも、それは己自身ではない。そう信じ別の過去と人物を信じきっている。つまり二重思考をやっているのさ。私のラプラスは周囲の情報を知れるが人の過去は人がそれは実在した事だと思わなくては行けなくてね。実際の過去と本人の認識が必要なのさ」
「わかった。だがこれだけは守ってくれるかい?誰にも口外しないこと」
「わかってるよ。ではおまけで私からもうひとつ教えてあげるよ。これは君たちが遅かれ早かれ知ることになる真実。ミホノ·アオガネの母、ミエコ·アオガネのことを」




