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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
テレジア編
3/61

秋のない国

テレジアを目指して2日目。相変わらずティナと話す回数は今でも少ないが、彼女の黄金の瞳は光を取り戻し、 表情も明るく見えた。赤銅の髪は太陽に反射し、髪のグラデーションは鮮やかの一言に尽きた。


「あの、テレジアとはどういう国なのですか?私、行ったことがなくて」


「テレジアは商人達の国って呼ばれててね。アドラール全土から商人や、傭兵団が集まって商いをする。活気に溢れた商業大国さ」


商業国テレジアは商人が集まれば、各国の情報も集まる。もしかしたらティナや俺の話が出回っているかもしれない。団長の命令とはいえ危険なものだ。俺はズレた荷物を肩にかけ直し先へ進んだ。


「そういや、ティナはお母さんから精霊の街の話は聞いたことあるかな?」


尋ねると彼女は赤銅色の髪を靡かせながら首を横に振った。


「いいえ、母は精霊の国に関しては教えてくれませんでした。けれど、いつか私が行くべき場所とだけ」


いつか行くべき場所か。俺に彼女の母がなぜこう言ったか分からない。だがきっと、彼女のことを思ってのことだろう。そう考えていると前から馬車を引く男が見えた。


「やあ、そこの旅のお方。これからどちらへ?」


「今からテレジアに行く予定です」


そう伝えると、商人は考え込んだ。


「そうですか。今この道を通るのは危ないらしいですよ。なにせ混血とそいつに操られた剣士がいるみたいですから。私も護衛なしじゃこの道を通れませんよ、ははは!」


商人は護衛3人に手を向けた。もう俺たちの情報が出回っているのか!?


「その情報どこで聞いたんですか?」


「確かテレジアで聞きましたね。傭兵団らしき集団が走り回りながら言ってました、赤い髪の悪魔と片腕に幻式を着けた男が暴れ回ってるとね」

俺たちのことだ。多分あのゼル何とかさんの手下たちが言いふらしたのだろう。


「あれ、旅のお方よく見れば共通点があるような。けどあなたは操られているようには見えませんな。普通に受け答えをしていらっしゃいますし。催眠系の魔道具を着けていればうんともすんとも言わないですからね」


何とか危険は回避できそうだ。

「なるほど忠告ありがとうございます。それで商人さんはなんのご予定でテレジアに?」


聞くと商人は歯を見せながら笑った。


「そりゃあ色々と」


「僕達ティファーナの旅から最近戻ってきたんですよね。あちらの情報なら色々ありますが」


精霊の国は行こうと思えば行けるが、距離的に滅多に行けるところではない。そのため精霊の国の情報は商人たちにとって黄金に等しいのだ。


「ほほぉ、それは欲しいところですなぁ。では交換条件と行きましょう」


俺は情報を事実半分、嘘半分で話した。商人とは自分の利益になることは嘘をつき相手の不利益になることは事実を言う。


「なるほどぉこれからの商売に役に立つでしょう。じゃあこちらからはテレジアについて話しましょう。近年、テレジアの商業が急成長しているのはご存知ですかな?」


「いや、知りませんね」


「左様ですか。今あの国では違法魔道具の売買が盛んでしてな。私も魔道具のためにあの国へ足を運んだわけです。特にオークションは最高でしたよ。色慾のお香立て、火鼠の毛皮など、話しか聞いたことがないものが売られていました。商人心が踊りますなぁ」


確かに違法なものばかりだ。だがおかしい、あの国なら関門の時点で没収されるはずだ。


「いやぁあの国の王様が床に伏せられ第一王子が権力を握ってるらしく、栄えるためならなんでも受け入れるって感じになったんですよねぇ。今や黄金の国なんて異名があるくらいですからなぁ」


あの国の原則として『商いをする者は自らの欲だけを満たしては行けない。商いとは人のためにある』というものがある。そのため人を狂わす魔道具は売られない。


「おっとそろそろ行かねば襲われてしまいますね。ではお互いの発展を願って!」


「ええ。お気をつけて」


商人は馬車を走らせて行った。


「私を操った魔道具もその国で売られていたのでしょうか」


ティナは不安げに言った。奴隷の髪飾りは違法なものだ。山賊のような悪事に手を染める奴らなら有り得る。

「かもしれない。先を急ごう」


俺たちは急ぎテレジアへ向かった。

テレジアの門に着くとそこに商人たちの行列はなく門番はだらけきっていた。


「あ?お前たちも魔道具を買いに来たのか。ほら200ゴールド払って通れ」


以前来た時の門番はシャキッとしていて違法なものを持ち込もうとするなら、その場で処分されるほど厳しかったはずだ。

門を通り辺りを見回すと人混みは想像以上に多く道を塞ぐほどにまで狭かった。


「とりあえずバーへ向かおう。このままじゃ危険だからな」

俺達はバー『SEVENTH-BLUES』へ向かった。店前は国の賑わいとは真逆に人が少なかった。


「いらっしゃい。君はゼフィス君だね。話はベルからのメールで把握している。そちらは混血のティルナシア君か。ようこそSEVENTH-BLUESへ。私はマスターのデルクーイだ。気軽にデルクと呼んでくれ。ま、ゆっくりしていきたまえ」


マスターはティナを嫌うことなく優しいほほ笑みで迎え入れた。デルクーイ·アルスレム。彼は団長のお友達で、この国でバーを営んでいる人だ。


「私を嫌がらないのですか?ハーフである私を」


「ああ。この店を利用する者は区別なく私の客だ。こう長いこと人の話を聞く仕事をやっているとわかるのさ。君は世間で言われているような悪魔じゃない」


マスターはグラスを拭きながら質問に答える。この人は心が広いのかただ謎なのかはわからない。だが、話はわかる人だ。話が終わると俺は商人が教えてくれた情報について話した。


「なるほど。君もその話に勘づいたか。今のこの国は狂っていると言っていい。今までは各地の名産目当てに来るやつが多かった。秋のない国と言われるほどにね」


「秋のない国?産業が発達しているようですが」


「あぁそういうことじゃないさ。秋を飽きると掛けて飽きのない国ってことさ」


ティナは感心したかのように首を縦に振った。俺もこのダジャレを聞いた時は同じような反応をしたのを思い出す。


「話を戻そう。違法魔道具についてだがオークション団体が4つあることが判明している。厄介なことが2つある。ひとつは奴らは毎回会場を変えること。もうひとつはこの国の兵士が機能しないことだ。お前も門を通る時に見ただろ。あのだらけぶりを」


「まずは国の方から変えるべきですね」


「ああ。そこでお前に頼みたい。王様の目を覚まさせ第一王子の目を潰してやってくれ」


え?は?んんんん?????


「俺一人でどうこうできることではないと思うのですが……」


俺は困惑した。あの冷静なマスターが呆けたことを言うからだ。いくら兵士がだらけているとしても王の警備は固いと思われる。どうやって目を覚まさせるんだよ。


「まぁ昼から酒を飲んでいる奴らの集まりだ。警備は思っていたよりも薄い。あとは協力者を紹介するこの国の兵長さんだ。心強いだろ?」


全員がだらけているわけではないのか。だが不安な点はまだある。オークション集団を同時に叩かなければいけないことだ。4つのうち一つだけ取り押さえたとしても残り二つに逃げられる可能性がある。そのため少なくとも4集団必要になる。だがここにいる傭兵団はあてにならん。さてどうするか。


「話は聞かせてもらったよ。この国を変えたいんだってね」


俺は後ろに下がり剣を抜き、構えをとる。気づかなかった。気配もなくただウイスキーを飲む銀髪の老人はグラスを揺らしていた。


「何時からそこに」


「まぁまぁそこの若いの、警戒しなくて大丈夫だ。そんなにカリカリしてちゃそこの彼女に嫌われるぞ。そうさな、そこのお嬢さんが混血ってところからかな」


ローブを羽織り首元には大きな傷、人差し指には何度もトリガーを引いた跡があった。まずい、ティナのことがばれてしまった。俺は構えることをやめず、いつでも切り込める体制に入った。


「まぁ安心しな。俺にとっちゃ種族も混血も関係ない。あるとすれば美味い酒を美味いと言えるか。それだけさ」


「彼は今回の協力者の一人、ガルシアスだ。詳しいことは言えんがこの国を変えることに賛同してくれてね。彼いわく必要な戦力を集めてくれるそうだ。ほら、契約書もバッチリ」


そう言いながらマスターは紙を見せ、それを見たガルシアスは笑みを浮かべた。


「この国に行けば各地の酒を飲み歩けた。しかし今はどうだ。酒屋は薄汚ぇ商人の巣窟と化し、酒は昔みたいに出回らねぇ。俺はこの状況に嫌気がさしたのさ」


酒を一気に飲み干しグラスをゆっくり置いた。彼からは邪気は一切なくその瞳は何かを懐かしむように前を見つめていた。


「なぜ混血を恨まないのですか。私はあなたたち人間にとって恨まれ迫害される存在です。ましてやあなたにとって私は見知らぬ存在なはずです」


「確かに世間や宗教は迫害するだろうさ。一般的にはそれが常識、それこそが正義。だが俺は思うんだ。なぜ世界は混血を憎む、なぜ混血だからという理由で殺されねばならん。たかが純血か混血かだけの違いなのに。俺は3種族の団結と平和を願っていた。だがそれだけではダメだ。混血も共に生きる世界になればきっと真の平和になる」


彼はシワが寄りつつも力強い手で新しいウイスキーを手にし、一口また一口とゆっくり味わうように呑んでいた。3種族の平和だけでなくハーフを含めた真の平和、今の世の中では実現するのは不可能だろう。だがきっとこの人はずっと願っていたのだろう。その瞳に曇りはなかった。


「何故だろうな。今日呑む酒はいつもよりも美味い。お嬢さん、君はどうなりたい。今は目の前が暗くとも進み続けたいか」


「私自身どうなりたいかなんて分かりません。けどもしこの世界が生きることを許してくれるなら私は生きたい」


覚悟の決まった目だった。俺は彼女の役に立てたのだろうか。ガルシアスは彼女に決心をつけさせた。俺はただ彼女を護衛してきたにすぎない。


「若造よ、そう難しい顔をするな。お前のおかげで嬢ちゃんは元気なんだ。これからも護ってやってくれ。そういや、嬢ちゃん魔力は暴走していないが、どう抑えている。」


ティナは背中を見せた。ガルシアスは『Butterfly』をしばらく見つめると小声で


「Butterflyか……」


なぜButterflyのことを知っている。これは夢幻の最新型のはず。


「なぜこの幻式を知っているのです?」


「友人がいてね、教えてくれたのさ」


俺はその後何も言わなかった。彼の言葉が本当のようにも聞こえ、嘘にも聞こえたからだ。

俺とティナはバーの仮眠室を貸してもらった。


「ガルシアスについてどう思う?」


「信用できる人だとは思います。しかし、何かを隠してらっしゃるようにも見えますね。私が着いているこの幻式のことも知っているようですし」


ガルシアスについて知らないことは多い。だが彼を信じなければ作戦は上手くいかないだろう。謎深き老人、彼の言葉と作戦だけが頭を過っていた。


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