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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
29/61

星群の下で

「何とか首の皮一枚って感じですね」


「うん、早く策を考えなくちゃ」


2人の目は真剣そのものだった。俺はまだ迷っていた。腰に差したムスカリはいつもより重く感じ、鞘から刃を出すと鈍く青黒い光を放つ。はたしてこの問題は俺たちが加担すべきなのか。部外者が口出しすべきなのか。俺には全く分からない。


「ゼフィス、もうそろそろ顔を上げなさいよ」


「俺はどうしたらいいのか今でも分からない。ガルシアスの言い分は正しい。だが、この問題を無視すればこれ以上の被害も考えられる」


「私の身の危険は今は忘れてください。両方を守ろうだなんて私たちにはできないのですから。だから今はこの国のことを。いいえ、この国の子どもたちのことを考えてください」


そんな事言われてもすぐには決められるわけないだろ。こんな時、団長ならどうするだろうか。いや、あの人の場合は迷わずに「両方助ける」って言うだろうな。俺は一人夜の街へ出ていった。後ろでティナが手を伸ばすがミホノが止めに入る。それでいい。今は一人にさせてくれ。



夜の街に出ると街は光に満ちていた。魔石を燃料にした街頭が街を照らし、その光の下では居酒屋を飲み歩く人、家に帰る人などが道を行き交う。

「おお、ゼフィスだったか?どうしたんだい」

以前話しかけてくれたワニの獣人が陽気に話しかけてきた。


「どうもちょっと夜風に当たりたくて」


「なんだぁ酔ってるのかァ。なら飲め飲め!飲んでパーッと!オロロロロ」


勢いよく吐き出し、それを見た友人らしき悪魔が駆け寄り、背中を摩る。おそらくこの光景が見られるのはここだけなのだろう。


「そうだ、渓谷の上に行ってみるといい。あそこならいい風が吹くし、今日は有明月だが星もよく見えるだろうさ」


「ありがとうございます。飲み過ぎに注意してくださいね」


俺はふたりに挨拶をし、人混みをかき分けながら渓谷の上に続く階段を目指した。



「そういえばよ、今日はあの人もいるんじゃねぇか?」


「そうだな、今も晩酌を楽しんでるだろうよ」



道行く人々は昨日の事などなかったように笑い合い、酒を飲み交わしていた。渓谷の崖部分にたどり着くと上に向かって階段が伸びていた。階段を一歩一歩ゆっくりと進んでいく。進むに連れて高さが増していき、見える景色が拡がっていく。目の前に拡がっていた眩い光と人々の顔は段々と下へ広がっていく。まるで光の絨毯のようだ。頂上にたどり着くとそこには闇が広がっていた。渓谷のの谷間は街の光で神々しく光り、光の道のようにも見えた。辺りを見回すと街の光を反射する液体を入れた瓶が見える。鈍い光を発する瓶の横には一人の男が座っており、空を眺めているようだった。


「そこにいるのはゼフィス殿かい?」


そこに座っている男はハザマだった。手にはお猪口を持ち、水面には星や月が映っていた。


「邪魔したな」


「構わないさ。こんなに綺麗な星夜を拙者が独り占めしちまうのは勿体なくて忍びない」

俺は夜空を見渡した。そこには満天の星空が空を埋めつくし、所狭しと敷き詰められていた。


「確かにこれはひとりじゃ抱えきれんな」


「抱えきれないからこそ美しい」


お猪口を天高く上げたあと中の液体を飲み干す。そうしてまた注ぎ直すと俺の前にお猪口を突き出した。呑めということだろう。いつも酒は避けてきた。いざという時対処できないからだ。だが今は呑みたい気分だ。俺は突き出されたお猪口を手に取り、勢いよく呑み干した。辛い。そして甘い。おそらく焼酎と呼ばれる蒸留酒だろう。米や芋など原料は様々らしいが今の俺には味の違いなど細かくは分からない。


「どうだ」


にこやかに聞いてくるハザマ。美味い。だが


「わからねぇや」


俺はハザマの横に座りあぐらをかく。目の前にはいつも腰に差してあった二本の刀が目の前に置かれており、それを境にひとつのお猪口が置いてあった。中の焼酎の水面に波紋や波はなく、入れてからずっと置いてあるように思えた。


「こいつはこの国で作られた焼酎だ。まだ試作段階らしいが美味いからいつももらってるのさ」


ハザマは置いてあったお猪口を手に取り、ゆっくりと呑み干していく。


「で、どうしたんだ」


「ちょっと悩んでてさ。俺に出来ることを見失っちまったんだよ」


「悩みか。よし、言い当ててやろう。色欲のことと姫殿のこと、そしてこの問題に加担するかだろ?それで悩んでいる」


何故それを?ティナかミホノにでも聞いたのか?それともガルシアスが伝えたのか?


「何故それを」


「誰にも聞いていないさ。種を明かすならここさ」


ハザマは自分の目を指さす。普段エメラルドのような輝きをしている瞳は、山吹色のオレンジ·ガーネットのような色をしていた。


「魔眼さ」


「魔眼ってなんだ?」


「あー、そこからか。魔眼っていうのは魔力を持つ者が発現する異能のひとつでな。発現者の多くは平均以上の魔力量を長い期間保有しているやつが多いらしい。まあ、魔眼を持つ人は極小数らしい。発現者の多くは普段見えないものが見えたりするらしいぞ。俺の魔眼はアロウ様曰く相手の思考を読む魔眼だそうだ。名付けて『思兼神の瞳』だ」


普段見えないものが見えるか。じゃあ俺が最近見るあの光景も魔眼によるものなのか?いや、ありえない。俺は普通の人間だ。魔術回路ならあるが魔力を持っているわけじゃない。


「ま、人の感情や思考なんてロクなもんじゃないから使うのは制限してるんだがな」


「お前はルーデルワイスにこのことを伝えるのか」


「伝えるはずないだろ。姫殿は孤児たちのことになると平常心を失う。拙者でも抑えられなくなるからな。何より、拙者はあの人が悲しむ姿は見たくない」


「そうか、それはそうだよな」


「ああ」


俺とハザマは空を見上げ喉に焼酎を流し込む。


「それに、あの人のことも絡んでいる可能性もあるからな」


あの人?アロウとルーデルワイスの他に重要な人がいるのか?


「もし、俺たちがルーデルワイスを巻き込んででも色欲を倒しに行くと言ったらお前はどうする」


「どうする……か、物によるな。姫殿が悲しむだけのものになるなら拙者はお前たちの首を落としてでもそれを防ぐ。だがあの人が報われる物ならば全力でサポートするさ」


今の俺はこの星空のように気持ちが疎らな状態だ。だが星々のように煌びやかに光ってはいない。星空でほかの天体よりも大きく輝く月のような護るという感情は有明月のように細く、確かなものではなかった。


「俺たちはこの国を救いたいんだ。だがたった4人、いや3人だけで解決出来ることなのか。この問題を見過ごしたとしても俺は後腐れなく旅を続けられるのか」


目元は熱くなり、目からは熱い液体が流れる。気づけば声も少し甲高くなり、喋る度に喉が痛かった。


「拙者はアロウ様みたいに過去や経験までは見れない。だが今のあんたは悔しがってるんだ。それに今の自分を嫌という程変えたがってる」


「俺はよ、両親もいなけりゃ、家族と呼べる存在もいない。みんな業火と共に消えちまったんだ。家族だけじゃない。親戚も、知り合いも、友と言える存在も」


8年前俺の村は燃えてしまった。そこで唯一の家族だったばあちゃんと、顔も声も思い出せないも失った。だからこの国の人たちには同じような目にはあって欲しくない。なのに俺には何も出来ない。自分の弱さを心の底から呪った。もっと強けりゃ、ベルゼハード団長のように強ければ。


「そうか、じゃあ試合()ろうか」


「ん?どうしてそんな会話になるんだい?」


「開けた場所に剣士が二人。お互い武装してるとなればやることはひとつだ」


いや、そうはならんだろ。


「まあ、お前さんと1度刃を交えたいと思ってたし、拙者的にお前が強くなれば悩みは一気に解決すると思ってな 」


確かに俺が強くなれば戦力は上がるかもしれない。だが、俺たちは酒呑んじゃってるしちゃんと戦えるのか?


「安心せい、お前は微量しか呑んでないし拙者は酔いにも強いからな」


ハザマは酒瓶とお猪口を遠くへ置き、何やらブツブツと唱えながら俺の周りを歩き始める。


「…………蔽圍結界」


「これは結界だ。拙者が解除しない限り解かれない。この仕切りを超えることもこの先に攻撃が出ることは無い。」


「なんだそれ」


「流石の科学でもこの魔法は模倣できていないか。これは闇魔法。まあ、火、水、雷、風の4属性に含まれない魔属性のひとつですな」


4属性に含まれない魔属性か。ひとつと言うぐらいだから複数個あるんだろうな。疑問が解決したところで俺たちは向かい合う。ハザマは抜刀し、それに応えるように抜剣した。紅の刃は空に浮かぶ星の灯りを反射し、第二の空を創り出していた。ハザマの刀は紅い灯火を宿しているように輝く。普通の刃であれば鋼色に輝くのだがあの刀は違う。まるで炎が宿っているようだった。


「なんだその刀は」


「これか?これは『廻海狼(くわいかいろう)』という名でな。廻とは拙者のことで海狼とはこの刀を鍛えた鍛冶師のことだ」


海狼か。その名を聞いた瞬間海に浮かぶ夕焼けが目に浮かぶ。その夕焼けが海に沈みかけ海を真っ赤に焼き付けているのだ。


「じゃあそろそろやりますか。お主はなんでも使うがいい。幻式でも魔法でもな」


「試合なのになんでもありか。俺も(こいつ)だけで戦うさ。ま、もしかしたら体内に魔力が残ってるかもだからな」


お互い間合いをジリジリと詰め合う。ハザマは切っ先を点高く上げ近づく。大陸を繋ぐ橋で見た動きが脳内を埋め尽くし、目の前のハザマの姿に幾つもの太刀捌きの幻影が浮かび上がる。お互いの間合いがぶつかり合う刹那、左肩目掛けの剣戟。対処出来る。俺は剣を上げ防御耐性に入った。剣同士がぶつかり合うと同時に思い切り剣をお仕上げ体勢を崩させ兜割りをするのがセオリーだ。だが金属がぶつかる鈍く甲高い音は聞こえなかった。ハザマの体勢は全く違うものだった。腕は完全に縮きり刀と顔が触れ合うほどに腕を引いていた。フェイント。次は右腹部を切り上げるように刀を振り上げる。この体制から右腹部を守ることは出来ない。ならば間合いを詰めて兜割りをするしかない。俺は大きく踏み出し、剣を振り下ろす。それを察したのかハザマは屈めた体勢から真横に回避する。俺の剣は空を切り地面を思い切り叩く。


「あの状態から防御も回避もしないで振り下ろすとは」


「体勢を一気に変えたあんたに言われたくないな」


やはり体の動きが全く違う。軽やかと言うべきかくねりまくってると言うべきか。とにかく先が読めない体の使い方だ。目の色に変化はない。魔法を使っていないとするなら圧倒的戦闘経験の差?ならどうすれば経験の差を埋められる。先を読まれるのならその先を読むか。馬鹿野郎。深読みすれば隙を見つけられて終わりだ。ならばどうするか。どうするか。刀を上から下へ移動させるのに約1〜2秒。しばらく剣撃が続く。俺の予想はことごとく外れ剣を動かすことの出来ない死角に至るまで全てに潜り込まれる。だめだ。このままじゃ対応できなくて切り刻まれるのがオチだ。


「ひとつ教えてやる。拙者は主から一切目を離していない。そう、()()だ」


どういうことだ。一切目を離していないのは当たり前だろ。いや待て。もし俺が奴の見ていない点があるとするならなんだ。刀?体?目?それとも四肢?いや違う。ハザマは俺の全てを見ているんだ。剣の動きに腕の角度、筋肉の動き、目線、足幅、重心の位置、全てに至るまで見ているんだ。俺はこの動きならこう来るというセオリーに縛られているんだ。だから俺は脚や腕にばかり目がいき予想外のことに対応出来ていないんだ。考えてみろ。奴と俺の武器の違いを。体つきの違いを戦い方の違いを。戦闘経験の差を!奴にセオリーなんて通用しないんだ。あらゆる常識を捨てろ。常識は敵だ。常識なんかに縛られれば刃を当てることすら不可能だ。


「ああ、ご教授感謝する。あんたに常識なんてものは通用しない。ならばあんたから全て盗む。全て真似る。そしてアレンジだ!」


いつだって強さは人から盗み奪い受け継ぐものだ。自己流で強くなれるのはたったひと握り。俺はそのひと握りでは無い。ならば今この瞬間を無駄にしていいわけが無い。盗めるもんは全部盗む。ならば奴の体、筋肉の繊維、服の揺れに至るまで絶対に目を離さない。武器の違いはアレンジでどうにかしてみせる。今みるべきは過去に見た幻影じゃない。今を見ろ。全ての神経を目に集中させる。ハザマの猛攻は続く。だがさっきの俺とは違う。俺は奴の体の隅々、筋肉の繊維の動きを見ている。少しづつ奴の体の可動域がわかってきた。あの袴と呼ばれる服に足を隠されようとも奴の足の長さと幅が踏み込んだあとの地面から割り出せる。そして何度も何度も頭の中でシュミレーションを繰り返した。想像の中の俺は全て切りふせられる。だがひとつ。200回の中の一つが違う結果を見せた。これなら行けるかもしれない。ならば試す他ない。


「構えが変わったな。いいのか?慣れてないようだが」


「これでいい。いや、これがいい」


俺は剣を両手で掴み地面に向けた。奴の体の動きに対応するなら普段の姿勢で力を抜いた方がいい。そしてやりたいことがひとつある。真上からの攻撃でも下からの攻撃でも対処出来る。だがあくまで見切る前提だ。ハザマは刀を下に構え脇から上に抉るように刀を振るう。俺は普段通りに防御を摂るがそれを予想していたように刀は真上に移動していた。


「そう来ると思ったさ!」


俺は体勢を変えなかった。刀の描く軌跡に合わせるようにムスカリの柄を上に上げた。廻海狼の刃は柄の留め具に当たり、軌跡を止めた。


「ほう、変則ガードか。まさか拙者の動きを予想したのか?」


「いいや違うさ。あくまで体全体の動きを見ていたに過ぎない。これを編み出すのに頭ん中で199回死んでやったわ」


「実戦で試すのは危ないぞ」


「そんなもん、関係ない!」


ギリギリの防御が続く。だがこれはまぐれで防いでいるわけじゃない。少しづつ体がハザマの動きに慣れている感触がある。変則ガードを決められるようになってからもっと奴を見ることができるようになった。自然と頬が上がる。俺はこの試合をただひたすらに楽しんでいた。もうそろそろ奴の動きを真似るとしよう。俺は最初にハザマが見せた構えを取る。剣先を天高く上げ、膝を軽く曲げる。


「今から戦うは拙者自身。模倣品というわけか」

「俺は自分自身で強さを編み出せるほど才能もないし賢くない。ならば人から真似る。強さが手に入るなら模倣品でも構わない。大切なのは模倣した先に何があるかだ」


「ならば魅せるがいい。拙者自身を!お前自身を!」


俺はジリジリと距離を詰める。ハザマの動きで大切なのは距離を詰める際最初に出る足の踏み込みの強さと重心移動だ。最初の1歩をミスれば強い一撃は空に消える。計算し尽くされはと思われた動きの第一歩が大胆不敵に踏み込むとはおかしなものだな。だが嫌いじゃない。


「では、行くぞ!」


俺は縮地で一気に距離を詰める。左足をやつの間合いギリギリまで踏み込み体勢を低く取った。まずは横っ腹目掛けたなぎ払い。俺は大きく振りかぶりなぎ払いの体勢を取る。それをいち早く察知され柄を上にし刃を地に向ける構えを取られる。これでいい。そのまま振りかぶった状態から兜割りをするが如く剣を頭上に戻す。ここまでは模倣。そしてここからがアレンジだ!俺は振りかぶった状態から右足を大きく上げ蹴りを入れる。ここまでは予想していなかったかのか片腕で防御を取りつつ後ろへ仰け反る。よし、ここから反撃だ。体勢が戻る一秒を見逃さない。俺はもう一度懐へ飛び込む。次は天空に打ち上げる。ハザマはバックステップで距離を取ろうとする。やらせるか。俺は負けじとひらひらと舞う裾を掴みこちら側へ強く引っ張る。


「のわ!」


「つーかまーえたー!」


奴の重心は崩れた。もう避けようが無い!俺は件を素早く逆に持ち替え、薙ぎ払う準備をした。


「仕方がない。前言撤回だ。『玉響』!」


気づいた時には引っ張っていた袖には人影がなかった。着る対象を失ったムスカリは風に舞う小袖を切り裂く。


「はあ、この試合残念だが拙者の負けだ」


その残念そうな声は後ろから聞こえる。何故だ。確実に掴んでいたはず。それに負けとはなんだ?


「すまんな。拙者は魔法を使った。玉響。一時的に対象の時間と拙者の時間をずらしす技だ。ま、攻撃はできんがな」


月光に照らされるその引き締まった肉体は刀の切っ先を俺の首元を冷たく、触れていた。時間をずらすだって!?攻撃できないにしても不利な状況を変えるには十分すぎるだろ。


「だがこの状況死合であれば俺の負けだ」


「いや、お主はよくやった。拙者を追い込んだんだからな」


そうかよくやったか。俺の中でひとつの悩みが消えていく。


「俺、この国を救いたい」


今思えば俺は視野を狭く見ていた。俺たちなんて言葉で偽っていたに過ぎなかった。本当は俺自身にできるかなんて考えていた。だが視野を広げれば目の前にはミホノとティナがいた。今の俺はひとりじゃない。同じ志を持つ仲間がいるんだ。


「そうか。やはり姫殿の言う通りお前は面白い。どうだ?稽古を受けないか?」


「稽古?まさかお前が」


「ああ、もちろん拙者が教えよう。それに対策が見つかるまで時間はあるだろう?」


それはそうか。だがこれはまたとないチャンスだ。受けないはずがない。


「わかった。お願いします」


「うむ」


俺とハザマはゆっくりと階段を下りる。街の灯りはすっかり消え、夜の帷が街にまで降りていた。


「そういえばお前たちにヒントをやろうと思ってな。この国が近年取り組んでいるものを見よ。そこに答えはある」


この国の取り組んでいることだって?俺は考えながら歩いていると目の前に小さな人影がひとつ。


「お主ら結構楽しんでおったのう」


「ハッハッハ、久方ぶりに姫殿以外で骨のある奴を見つけましたわ」


「くー!お主お主お主!ゼフィスは童のおもちゃじゃ。手出しするでないわ!」


「俺、おもちゃになったつもりないんですけど」


「そうですぞ。ゼフィスは今や拙者の門下生。口出し無用ですぅー」


二人の会話は何処か安心があった。この光景を守るためにも俺はこの国を救いたい。天高く輝く星はよりいっそう輝いていた。

「おかえり、ハザマ」


「今帰りましたアロウ様」


アロウは疲れた目をアイマスクから出る蒸気で温めながらその場に座り込んでいた。彼女の周りには研究資料が散らばっていた。


「で、彼の様子はどうだった?」


「いい剣士でした。彼ならあの男も越えられるでしょう」


「そんなむさ苦しい話を私は聞きたいんじゃない。あのゼフィス·ガラーズはあれを持っているのかい?」


「おそらく。体内に魔力が残っていると幻式も着けずに申しておりましたからほぼ確実かと」


アロウは目に着けたアイマスクを取り外しその場で考え込んだ。


「まさか普通の人間が()()()()を持っているとはね。人為的かそれとも生まれつきか。引き続き観察を頼むよ」


「御意。お忙しいところ恐縮なのですがあの男のことはわかりましたか?」


「いいやまだだ。生きているかすら掴めていないよ。だがやっぱ必ず生きてる。それだけは断言するよ」


その言葉を聞いたハザマの顔からは涙を流れながらも眼光は鋭かった。


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