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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
28/61

かけがえのないものひとつ

「いやっほーい!」


子どもたちが走り回る。正直に言います。腕白すぎますこの子たち。


「ティルナシア、そっち行ったぞ〜」


背後から飛びついてくる子もいれば足めがけタックルしてくる子もいる。そう、私とミホノちゃんはルーデルワイスさんが作ったカラティナ孤児院に手伝いに行ったのです。ルーデルワイスさんはこの子たちを一人で相手していたというのですか!?私の体力はたった1時間そこらで限界に近づいていた。


「ねぇねぇお姉ちゃん、抱っこ、抱っこして!」


「鬼ごっこしよー!」


だ、ダメです。このままでは私の体が裂けてしまいそうです。ミホノちゃんは何をやっているのですか……空を見上げるとその答えはすぐに出た。ツインターボの飛行能力を使って子どもたちと一緒に空を飛んでいるのです。


「すごーい、空飛んでる!」


「どうです、これがあなたたちが暮らしている国の景色ですよ」


自分の装備を活かした遊びをするだなんて流石ですね。私もなにか出来ないかな?私のButterflyはミホノちゃんみたいに飛び回るものじゃないしどうしましょうか。ん?そういえば「銀の翼」って私の脳波で飛ぶんですよね?ならば……私は銀の翼に飛ぶイメージを込める。そうすると6機のビットは空を自由自在に舞い、私の周りに集まる。


「よーし、皆さん。鬼ごっこをしましょう!ルールは簡単です。私とこの【鳥さん】が追いかけますからみんなは逃げてください!」


「はーい!」



10数えている間に子どもたちは走り去っていく。これなら私一人でも出来そうです。子どもに当たって怪我をしないように飛ぶ時の速度は子どもたちに合わせてと。さあ、行きましょう!欠陥はすぐにわかりました。6機のビットを操作しながら子どもを追いかけることの難しさが。ビットの操作に集中しながら追いかけるのは至難の業です。しかも、この子たちの運動神経が良すぎるんです。追いかけるにも一苦労です。


「ははは、ティルナシアはちょっと不器用じゃのう。仕方ない。少し加勢してやるとするかの」


抱っこした子どもを抱えながらルーデルワイスさんは子どもたちを追いかける。走る速さは子どもを抱えているとは思えないほど速く、直ぐに逃げる子どもを捕まえた。


「な、なんて速い……」


「抱えながら走るなんて日常茶飯事じゃよ。ほれ、お主もボケっと立っておらんで早う捕まえてこい」


私は言葉通り、ビットを全力で飛ばす。ビットの動きは先程よりも俊敏になり、細かい動作なしでも追いかけ、捕まえられるほどになりました。これはこの鬼ごっこを通して感じたことだが、以前よりも動かしやすくなっている気がします。この子たちには感謝しなければなりませんね。鬼ごっこは太陽が真上に到達するまで続き、私は体力の限界が来たのかその場で倒れ伏した。


「お疲れ様じゃ。どうだった、我が子たちは」


「はあ、はあ。久々にこんなに動きました」


「うむ、中でハザマが昼食を作っておるから食べに行くとよい」


「そうします」


私は少し痛む体を起こし、食堂に向かおうとした。あ、


「ルーデルワイスさん、ありがとうございます」


「?急になんじゃ」


「さっき加勢してくれたことと、あの子たちと遊ばせてくれたことです」


「それはお主らが行きたいとか言うからであろう」


「いえ私、両親以外の人と遊んだ事がなくて。だから今日あの子たちと遊んだことがとっても嬉しかったんです。だからありがとうございます」


「そうか、お主の親は……ごほん。全く、そんなことで喜ぶでないわ。また遊びに来るといい。あの子たちもお主たちを気に入ってる事だしな」


私はその言葉と表情で暖かくなりました。一瞬影が落ちたように見えたが、その声と表情は少女そのもので今ある幸せを精一杯楽しんでいる顔でした。



「はい、お待ちどうさま」


「ありがとうございます、ハザマさん。」


「もきゅもきゅ、おかわりです」


いただいた料理はカレーで、具が大きく、食べごたえがありそうです。ミホノちゃんはもうおかわり3杯目だそうです。


「んん!美味しいです。甘くて野菜の味が溶け込んでいるという

か、言葉には言い表せませんが美味しいです!」

「ははは、ありがとうティルナシア殿。子どもたちの栄養とか好みを最優先に作ってますからな。甘口なのは……」


ハザマさんは顔を耳元まで近づける。


「姫殿が辛くて食べられないからですぞ」


ルーデルワイスさんには悪いですが、納得してしまった自分がいます。けど、とても美味しいです。甘さは牛乳やヨーグルトなどの甘さというよりも野菜本来の甘さがすごく味わえます。


「いやあ、姫殿がティルナシア殿とミホノ殿を配下に加えると言い切っておりましたわ」


「それは遠慮しておきます」


「そういえばこの国はお姉ちゃんを見ても軽蔑した目で見ませんけど、どうなってるんです?」


「最初にアロウ様が言った通りさ。この国に種族も混血も関係ないのさ。まあ、ある人のおかげなんだがな」

ある人とはどなたのことなのでしょうか。少し気になりますね。


「そういや、ミホノ殿の苗字はなんと申すのです?」


「アオガネですが、それが何か?」


「いや、失敬失敬。特に意味は無いさ」


私はその質問の意味がわからず、ただひたすらカレーを口に運んでいました。ハザマさんは笑顔だったものの、どこか不思議な感じでした。


「いやぁ、君たちのおかげで子どもたちの寝るのが早くてね。姫殿が見れば驚くだろうさ」


今はお昼寝の時間で、みんないい夢を見ているそうです。私たちはご飯を済ませ、休憩をしていました。ハザマさんは私とミホノちゃんにコーヒーを入れてくれ、ルーデルワイスさんにはココアを入れた。


「ハザマ、お主我を愚弄するか?」


「ははは、愚弄も何も姫殿はコーヒー飲めないじゃないですか」


「な、なにを!別にィ飲めますけどぉー!」


ルーデルワイスさんは私のコーヒーを思い切り飲む。その顔は苦々しい顔をし、ゆっくり飲み干していく。その顔を見たハザマさんは顔を抑えながらカップを下げ、キッチンへ戻った。


「で、姫殿感想は?」


「熱くて苦くて渋いのじゃ」


「はい、ティルナシア殿」


ハザマさんは新しいコーヒーを入れ直し、私の前に置く。私、この状況でコーヒー飲めないとか言えないですよね。


「あ、私もコーヒー苦手ですからミルクと砂糖を頂いてもいいですか?」


「そうじゃそうじゃー!こんなん生物が飲むもんじゃない!ってお主、ミルクと砂糖を入れれば飲めるんじゃな」


私はミルクと砂糖を大量に入れてコーヒーを啜る。やはり苦いですね。甘みよりも苦味が勝っています。その光景を見た3人は口を開けたまま固まった。


「ま、まあ人それぞれですよねうん。そういえば、ハザマとルーデルワイスはどのような関係で?」


「保護者」


「下僕」


うーん、最初に出会った時と同じ反応です。2人とも悪魔ですし、お友達なのでしょうか?


「仲がいいっちゃいいですな。ねー姫殿」


「お主はもうちょっと童に敬意をだな……って、頭を撫でるでないわー!」


私とミホノちゃんはクスクスと笑ってしまいました。確かに仲がいいですよね。


「そんなことより、お主とゼフィスはどういう関係なんじゃ。ベルゼハードとやらを師としているなら奴はロウギヌス傭兵団の者であろう。のう、ハザマ」


「ええ、はっきりと覚えていますとも。ベルゼハード、人呼んで()()()()()()()()。そして団員を家族のように思う男。彼が団員を手放すとは思えませぬな」


何故そのことを知っているのでしょうか。あの方たちが三大陸をわたって仕事をしていることは以前ゼフィスから聞きましたがまさかここにも仕事できたのでしょうか?しかもベルゼハードさんを人類最強の男と。何か関係があるのでしょうか?


「ゼフィスは私を守るために一緒に旅をしてくれているのです。自分の居場所を捨て、仲間から狙われようとも一緒にいてくれるのです」


「ほう、奴はやる時はやる男なのかのう」


彼は私に優しく接してくれる。こんな事は両親以外誰もしてくれなかった。優しく接しる、それだけで私は嬉しかったんです。


「まあ、お姉ちゃんを邪険に扱うようなら私が首を引きちぎりますがね」


「ははは……ミホノちゃんもありがとう」


「もうそろそろ子どもたちが起きそうですな。さ、お二人とも準備準備!」


私たちは日が暮れるまで遊び続け、体がクタクタになるまで走り続けました。



太陽が沈みかけ空が黄金色に輝き一日の終わりを示す頃、私たちはおもちゃや散らかったものを片付けていた。


「よし、そろそろお主らは戻るが良い。後は童とこやつで後片付けはしておく」


「最後まで手伝わせてください」


「大丈夫ですぞ。普段は拙者と姫殿でやる仕事をお2人が手伝ってくださった。それだけで十分だ」


2人は笑顔で言ってくれた。本当に私たちは役に立ったのでしょうか。足を引っ張ってはいなかったでしょうか。


「そんな顔をするでない。あの子たちの顔を見よ。あんなに頬を上げて笑うのを見るのは久方ぶりじゃ。だから褒めて遣わすぞ。ティルナシア、ミホノ」


「はーい、みんな集合。今日遊んでくれたお姉さんふたりにありがとうを伝えますぞ」


「ミホノお姉ちゃん、ティルナシアお姉ちゃん、ありがとうございました!」


その言葉は私の心にあった不安を安心と達成感で塗りつぶした。やってよかった。戦争孤児となってしまったあの子たちを笑顔に出来て良かった。そう、強く実感できたのだ。忌み嫌われ、迫害を受けてきた私が子どもたちを笑顔にできる。私はかけがえのない感情を手に入れることが出来た。


「ありがとう……ありがとうございました!」


「私からもありがとうございました。次はゼフィスとガルシアスも連れて来ますのでその時はよろしくお願いたします」


私とミホノちゃんがお辞儀をすると子どもたちは元気よく返事をしてくれた。



宮殿につき、私はゼフィスに、今日あったことを鮮明に話した。一秒一秒が私の宝物でそれを共有できるのはとても嬉しかったです。しかしゼフィスに笑顔はなく、魂がどこかへ行ってしまったかのうように表情一つ変えずにただ頷くだけだった。調査で何かあったのでしょうか。ムスカリや荒塊に異常は見られませんし、彼の体も細かな傷が見えるだけで重大な損傷があるようには見えませんでした。


「何かあったんですか?」


「いや、大丈夫だよ。君が気にすることじゃない」


「やめてくださいよ、私たちは仲間です。あなたひとりで抱え込まないでください」


「いや、いいんだ。こんな現実に悲しむのは俺一人でいい。頼むこれ以上は詮索しないでくれ」


ゼフィスは顔を腕の中で覆い隠し、私の目を見なかった。その声は虫のせせらぎよりも小さく、弱々しい口調だった。


「一人で抱え込むなって言っているじゃないですか!私が信用出来ないとでも?ふざけないでください!」


私はゼフィスの方を思い切り床に倒して怒鳴る。たった一日で変わってしまったこの人に怒りしかなかった。


「あなたがそんな顔をしていたら私は嫌なんです!だから話してください。何があったのかを」


「わかった……わかったよ。だが後悔するなよ」


体を起こし、彼は立つ。その姿は無理矢理にでも声を捻り出そうと葛藤し、渇き掠れた声だけが途切れ途切れに聞こえた。しかしその声は言葉と言えずただの音でしかなく、何を言っているのかざさっぱりわからなかった。時間が経つにつれて音は言葉としてまとまり始めた。


「拐わ……れた人たちは、な、苗床にされている。みんな、みんなぁ!」


その吐き捨てたような言葉を聞いた瞬間私の脳裏に孤児院の子どもたちの笑顔とルーデルワイスさんの笑顔がフラッシュバックされる。喉元から込み上げてくる感情と嗚咽、熱を出した時よりも酷い目眩、鳥肌が逆立つ悪寒。しかしそれは一時のものに過ぎなかった。全ての感情は純粋なひとつの感情に変わった。


「ゼフィス、そいつらはどこにいるんです」


「え……?」


「二度は言いません。私は色欲の魔王を許さない。この手で必ず殺してやる」


怒り。憤怒と例えていいほどの怒りだった。


「だが今の俺たちでは無理なんだ」


「そこで諦めないでください!やれる事はあるはずです。絶対に下を向かないでください」



私はガルシアスさんと、ミホノちゃんを呼び対策を話し合った。


「ティルナシア先に言っておく、これは俺たちが関わるような事じゃない」


「何故そんなこと言うんですか」


「ゼフィスにも言ったが拉致られた人は人質で勢力だって負けてるんだ。しかもこれはこの国の問題だろ、俺たちが首を突っ込む問題じゃあない」


正論だ。別にアロウさんやルーデルワイスさんに頼まれたわけじゃない。だけど私は、私は!


「確かに頼まれたわけじゃないですね。ですが私とお姉ちゃ……いえ、ティルナシアは実際に子どもたちと触れ合ったからこそ救いたいのです」


「はあ、情に流されるんじゃない。俺たちはティファーナに向かう旅の途中なんだ。こんなところで危険を冒している場合じゃない。で、さっきから黙りコケてるゼフィス、お前はどうなんだ」


私たちがゼルファスト大陸に渡ったのはティファーナ大陸へ向かうため。そのためにもこの問題を避けるべきなのは分かりますがそれでも見過ごすなんてことはしたくない。


「3人だけで話合わせてすまない。俺もどうしたらいいのか分からないさ。確かにガルシアス、あんたが言うことは正しい。だがよ、この問題を見過ごすのはあんたの掲げる思想に反するものじゃないのか」


ゼフィスの顔はまだ沈みこんだままだった。だが、心の中ではこの状況を変えたいと思っているのでしょう。


「まさかはっきりしていないお前に言われるとはな。だが言われてみればその通りだ。わかった、ならばお前たちが打破する策を提示しな。俺やアロウが納得するようないい作戦をな」

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