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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
27/61

激情

 日が昇ると俺とガルシアスは8年前に色欲の軍が潜伏していた場所へ向かった。8年経つため痕跡が残っていないと思われるが一度探査はしておきたかった。兵士さんに案内を頼み、襲撃の危険があるため武器を装備し、スコップを肩に担ぎ目的地へ向かった。昨日の砲撃の跡で大地はえぐれ、黒焦げていた。執事さん曰く、アロウは血とか死体を見るのが苦手らしく、殲滅させるなら身体ごと焼き消す策をとったらしい。


「あの方は死体処理が面倒と言っておられますが、虫も殺せぬ優しさを持っておられる方ですから」


優しさがあるのは知っているが死体処理が面倒なのは本音だろう。だが、高威力の兵器というものはある種の抑止力になる。この襲撃がアロウの言葉通りなら8年前から二度目の襲撃だ。昔は防衛設備が整っていなかった分、今回の襲撃で相手の指揮は大きく下がっただろう。簡単に攻略できると思っていた城が無敵の要塞に変わっていると知った時には逃げ出したくなるものだ。あの兵器の餌食になりたくない。死にたくない。と思うはずだ。


「ま、ある意味あの攻撃は今後のことを考えてのことだろうさ。味方が一瞬にして骨も血の一滴も残さず消えるんだから。俺はアロウの嬢ちゃんの戦略的勝利だと思うね」


ガルシアスの言う通りだ。あれを見せつけられた以上、敵さんも無能な特攻をしかけてこないだろう。野営地跡に着く。草木に覆われ、拠点とするには十分と言っていいほどの立地だった。辺りの調査をする。やはり8年前というだけあって痕跡と思われるものは何一つ残っていなかった。


「よし、掘るか」


ガルシアスはスコップを取りだし、辺りを隈無く掘り出していく。地上ではもう痕跡は残っていない。だが地下ならどうだろうか?年月が経っているとはいえ、土の中であれば何かしら残っているかもという寸法だ。


「さて、ゼフィスに質問だ。魔獣の好物はなーんだ?」


「知ってるさ。人肉だろ」


人肉。特に魔族や精霊の魔力を持った肉だ。基本魔獣も魔力を生成する機関が、魔力持つものを食べることで肉質や大きさを変えることができる。ガルシアスの予想では攫われた人たちは皆魔獣の餌になったと予想しているのだろう。そう考えれば魔獣を使役している理由にも繋がる。


「食った後を綺麗に土に埋めてしまえば40人が消えたことになる。さ、早く掘れ」


しかし、掘っても掘っても骨の一本も見つからなかった。分解された?だが、火葬するほどの火力を駐屯地で用意するのか?まさか本当に40人を運んだとでも?土を埋め立て、俺たちは考え込む。運び込むにも移動手段が分からない。


「まさか他の場所にでも埋めたとでも言うのか?いや、さすがに考えすぎ?」


「考えているところ悪いが敵だぜ。恐らく3人と1匹。荒塊用意しておけよ。兵士さん。俺たちの後ろへ」


「わかってるさ。一人は生かしておこう。貴重な情報源だからな」


俺は荒塊を起動させる。魔法は小型炎魔法(ファイク)でいいか。魔獣に関しては人をかなり食っていると仮定して肉質は硬いだろう。ならば内部からの中型炎魔法(ファレイク)で片付けてしまうか。


「我々は色欲の魔王軍である。貴様ら、ここで何をしている?」


「単なる宝探しさ!」


見た目がトカゲの3人の兵士と牛のような魔獣。俺は一人の兵士に向かって小型炎魔法を撃ち出す。しかし、魔法による攻撃は簡単に防がれてしまい、意味が無くなる。やはり元から魔力を持つ魔人の方が魔法の扱いや対策に長けている。俺たちの魔法は所詮模倣でしかないのだ。


「ふ、幻式とかいう玩具か。そんなものでは我々には勝てん!」


3人は槍を装備しており、近づくのは難しい。だが槍の構造は簡易なものだった。武器にまで格差が現れているのか。そんな槍では俺の攻撃を防ぐことはできん!俺は荒塊のヒートソードを展開し、槍を真っ二つに切り落とす。刃は宙に舞ったが、重力に負け地面に突き刺さった。おそらく、柄や鉄の材質も悪いものを使っているだろう。


「な、何!?貴様ァ、人族風情が我々に楯突くか!」


「確かにお前たちの強靭な肉体、生まれつき持つ魔力の前では非力さ。だがお前たちは非力だからという理由で俺を下に見た。それが敗因さ」


そう告げ、俺は兵士の首を切り落とす。それを見た兵士2人は重心をしっかりさせた構えを取る。2人は微動だにせず、魔獣の方が突っ込んできた。動きは早い。魔道具によって操作されていると思ったが、それっぽい装飾は見当たらない。魔獣の歯の間から炎が見える。おそらくブレスによる中距離攻撃。それとも機動力を活かした近距離からの攻撃か。


「ゼフィス、右に飛べ。その後足に向かって一振してやれ!」


ガルシアスの指示通り右に避けると同時に炎のブレスが地面に生える草を焦がす。あの炎に焼かれれば炭になること間違いなしだな。地面に転がる勢いを殺し、体勢の低い状態で足に向かって剣を振るう。しかし、刃は肉に弾かれた。やはり肉質が強化されている。


「ダメだ!硬すぎる!」


魔獣の相手に集中したいが、魔人兵士にも気をつけなければならない。


「魔獣は任せろ。試したいことがあるんだ。お前は兵士を相手しな。案内さん。あんたも加勢してくれ!」


「了解しました」


「俺が気絶させますから兵士さんは気兼ねなく殺しちゃってください」


俺は金剛の構えをとる。敵兵は左足を前に出し、槍を後ろに下げ構えを取る。


「貴様如きに我々の力を見せるのは癪だが仕方ない。【腐食(ニグレド)】!」


腐食(ニグレド)。それは魔族が使うことの出来る魔術だ。周りの草木、生物を腐食させ魂を収集する。そして集めた魂を魔力に変換させ自身の肉体を強化や魔力量の増幅をする。大型の生物の命を腐食させることは出来ないが、ここは自然が豊富だ。腐食させるものが多い分、集まる魂は多い。敵兵を中心として周りの草が枯れ始めていく。一旦腐食(ニグレド)の進行が止まると、兵士は「再結晶(アルベド)」と呟いた。途端に兵士の体と筋肉はひとまわり大きくなった。この状態が長時間続くのかそれとも一時的なものなのかは分からない。だが、魔力量が増えたとしても器の量、つまり魔術回路の大きさは変わらない。溢れ出した魔力を人体強化に使っているのならそれは一時的なものなのだろう。ならば序盤は防ぎつつ、魔力量を減らすことが重要だろう。兵士は強化された脚力で一瞬にして距離を詰める。ギリギリ目で追える速さだったものの、強烈な突きをかます。腐食による強化での槍を受ければ骨なんてスナック菓子のように砕かれ腹に風通しの良い穴が空くだろう。ムスカリで切り裂こうにも強靭な筋肉で簡単に防がれた。いや、弾かれたというべきか、このままでは刃を入れることは難しいだろう。もっとこう、体の動きをスムーズにしなくてはいけない気がする。そう、ハザマが教徒たちを舞いながら切っていったような動きが必要だ。


「おいおい、避けてばっかじゃ意味ねぇぜ。人間さんよぉ!」


さっきの兵士みたいには切れない。腐食(ニグレド)で集めた魔力が切れるまでは攻撃をしても無駄か。


「強がるのも今のうちだぜ!火魔法(フレア!)


魔法との連携攻撃によって回避が難しくなり、魔力防壁を貼りながら俺は攻撃を防ぐ。槍の速さが徐々に落ちていく。そろそろ頃合か。槍でなぎ払いをした瞬間、兵士の腕は急激に元に戻った。腕だけではない。脚も体型も次々と元に戻っていく。


「待っていたぜこの瞬間(とき)を!」


トカゲの目はこちらを悔やみながら凝視した。今なら刃は通るだろう。だが、俺がやるべきは気絶させることだ。ならば剣は必要ない。俺は地面を蹴り、瞬歩をする。荒塊を体を前にして隠し、手に持ったムスカリを地面へゆっくりと落とした。兵士の目は落ちていく剣を目で追っていた。俺の攻撃手段は剣と幻式による魔法のみだ。魔法ならば打ち消せば対処はできる。ならば警戒するのは剣だ。警戒がムスカリに集中していたおかげで距離を詰めるのは簡単だった。俺は2度殴り、その事象を固定し腕と足に集中させた。解放した事象は兵士の太い手足を強打し、武器を手放し、その場に倒れる。痛みに我慢しつつ、すかさず小型雷撃魔法(サンディル)を威力を抑えて首元で発動。兵士の体はのけぞりその場で脱力した。兵士さんの方を見る。棒術を駆使した戦いで、相手の攻撃を水魔法を組みあわせながら器用に防いでいた。戦い方に目が行きがちだが、棒に書かれた文字が気になる。まさかあれも魔学なのか?そう思っていると棒がトカゲの頭に当たる。そうすると棒が光だし、トカゲ頭が爆発する。え?何魔学怖!


「ははは。怯えなくて大丈夫ですよ。相手に魔力をたらふく流し込んでその魔力を操作して頭に集中させ暴発させてるだけですから。あなた達人族にはさほど脅威にはなりませんよ」


いや、普通に怖いんですが。幻式を使っていると体に魔力を回すことがある。それを知られれば容赦なく頭を狙ってくるだろう。頭だけでなく手や足に使っても凶悪だな。戦闘が終わったためガルシアスの方を見る。俺はその光景を疑った。硬い皮膚で覆われていた魔獣の体が血塗れだからだ。返り血という訳では無い。身体中に弾痕があり、そこから青色の血が溢れだしている。あの皮膚をどうやって突破したんだ?弾痕を詳しく見てみる。そうすると弾丸によって貫いたというよりも皮膚が弾け、爛れたように見える。ガルシアスが持つ武器は幻式のリボルバー。魔弾なのか?


「実験は成功らしい。魔弾に次ぐ新しい武器、【カールリア弾】とでも名づけるか」


カールリア弾?いつもの魔弾と何が違うんだ?ガルシアスは素早く5発の弾丸をリロードをする。魔石が着いているのは変わらない。


「ゼフィスの顔がはてなになってるから教えてやる。この弾にはアロウから教えてもらった魔学を刻んでいるのさ。魔弾による魔法と魔学の暴発を組み合わせることで弾速を早め、暴発させているのさ」


魔学を使用した新しい弾か。弾速を上げる文字は薬莢に刻み、メタルジャケット辺りにも刻んであるのだろう。たった2日で完成させるとはこの男は一体何者だ?


「だがまだ実用化には至らんな。まあいい、この一撃で終わりにするとしよう」


懐から1発の弾丸を取り出す。その弾丸には数え切れないほどの文字が書かれていた。魔獣は最後の力を振り絞ったのか弾痕から血飛沫を上げながら突撃する。


「Time flies」


魔獣は空中へ飛び上がり真上からの攻撃を試みる。それを察したガルシアスは5発の弾丸を素早く打ち込み、最後の一発を撃つ直前に能力を解除した。5発の弾丸は顔面に全弾命中し、顔の装甲を爆発音とともに剥がす。


焼炙地獄(地獄のオルフェ)


着弾した6発目の弾丸は言葉に応じるように魔獣の体の内から炎を上げる。その炎は魔獣を燃やし尽くすまで燃え続けた。魔獣の断末魔が聞こえる中、ガルシアスはガンプレイをしながらホルスターにリボルバーを収める。


「地獄のオルフェ。弾丸に【炎】を意味する魔術文字を刻みまくった弾さ。まあ魔術文字が多い分、製造コストと時間が滅茶苦茶かかるがな」


「まさに必殺技って感じだな。解剖しようと思ったのにこれじゃ炭しか出てこねぇよ」


「はは、すまないすまない。まあ、生け捕りにしたやつにでもゆっくり聞こうじゃないか」


俺はポーションを飲みながら縛り上げた兵士を2人の近くへ持ってくる。まだ気絶していたため、脇腹辺りを蹴り、無理やり起こす。


「!?おい、お前らこれはなんだ!離せ、タダでは済まさんぞ!」


「はいはい、立場がわかってないようだな。そのご立派なトカゲ頭で少しは考えたらどうだ」


ガルシアスは敵兵に向かってリボルバーの引き金を引く。銃声が鳴り響く。しかし、弾丸が放たれたものの兵士からは血が出ることは無かった。


「へ、空砲か。そんなんで俺が騙せるか!」


ガルシアスは大きくため息を着きながら銃口を上に向けた。そうすると兵士の脚にいきなり穴が空く。兵士の顔を見るとわけがわからなかったような顔をしていた。


「いいか?これから聞く質問に対し正直に答えるんだ。答えなかったらさっきみたいにお前の体に風通しの良い穴を開けてやる。最後まで正直に答えなかったら、そこに転がっている牛みたいに炭の塊にして畑の肥やしにしてやるからな」


トカゲも理解したように必死で首を振った。


「よし、じゃあまず1つ目だ。なぜナギアを攻めてきた?」


「し、知らねぇよ」


バーン。銃声が鳴り響く。またしても事象を延長させていた。


「だからさぁ、嘘は良くない。死にたいのか?次知らないって言ったら撃つからな」


「い、いや確か上官たちが魔石と人さらいのためだって」

「なんだ知ってるんじゃないか。では二つ目の質問だ。8年前、この国の国民を40人ほどさらったらしいがどうやって移動させたんだ?」


「そ、それに関しては本当に知らねぇ!俺ァ新兵なんだよ」

またも銃声が鳴り響く。これは本当に知らないのでは?俺はガルシアスのかたを叩き、首を振る。


「はあ、まあいいさ。じゃあ次だ。さっき人さらいのためって言ってたよな?なんのためだ」


「そ、それは!?嫌だ言いたくねぇ!」


これは知っているのか。だが言いたくないとはどういうことだ?攫った人たちの対応が知られてはまずいということなのだろうか。


「わかった。なら30秒ごとに1発撃っていく。止めるにはその知られたくないことを喋れば。いいじゃあいくぞ。いーち」


カウントダウンが始まった。ゆっくりと数えられるカウントは精神を削るものがあった。30秒後。弾丸が放たれる。それに怯え叫ぶ敵兵には同情を覚える。続けられていくカウントダウン。もう何発撃ち込んだかは覚えていないが、敵兵の精神はもうギリギリだろう。


「わ、わかった。話すからもうやめてくれ。攫った人は混血の生産に使われている」


「おい!どういうことだ。混血の生産だと?なぜだ!」


「へ、ルナエラ様の儀式のために決まってるじゃねぇか。混血は儀式で使うには絶好の触媒だ!あいつらの喘ぎ声や腰を振る姿は最高だったぜ!ひゃひゃひゃひ!」


俺はガルシアスの方を強く握る。それを察したのかリボルバーをホルスターにしまい、手を離した。


「ご苦労。もうお前に用はない。死ね」


「へ?」


敵兵の体に体力の弾丸が撃ち込まれる。完全に死んだのだが、不気味な笑みを浮かべながら死んでいた。


「私の嫁は奴等にさらわれたんです。殺されることなく苗床にされているなんて。無念です」


兵士さんの目は涙が流れていた。手元を見れば強く拳を握り、1歩1歩力強く前に進んでいた。




宮殿へ戻り、真っ先にアロウの元へ向かった。


「ちょっといいか」


「?今は暇だからいいが、どうしんたんだい」


「話したいことがある。出来ればルーデルワイスのいないところで」


「わかった。会議室をひとつ開けておこう。そこで話そうじゃないか」


会議室に案内され、俺たちは調査内容を話した。包み隠さずありのままに。話を聞いたアロウは顔色ひとつ変えることなく冷静だった。不動。その一言がふさわしいかった。


「なるほど、調査ありがとう。攫われた人達が苗床にね。ある程度は予想出来ていたがまさかその通りだとは。しかも儀式のためとはね。確かにルーが聞いたら激情のままに刀を振るうだろうさ」


「予想出来ていたのならなぜ攻め落とさない。なぜ助けに行かない!」


「ルナエラの軍勢に遠く及ばないからさ。私たちが魔学を発展させ、攻めようが数の前では無力さ。ならば自分たちの有利な状況で戦うのが得策だ」


「助けに行かないのか……まだ生きているかもしれないのに」


「生きている可能性だって有り得るさ。だが8年間も子を産み続ければ死んでしまう。たとえ体が丈夫であってもな」


「でも、これから先もこうしているのか。ずっとこのまま守りに徹し続けるのかよ」


「私だって救いにいきたいさ。だが相手はこの数年でふたつの国を滅ぼした強国だ。多くの犠牲を払うなら私は今生きている命を護り続けたい。それだけさ」


確かに防衛に徹し続ければこの国は護られる。だが、孤児院の子どもたちの親もいるかもしれないんだ。なら救いに行かなくちゃいけないんじゃないのかよ……


「ゼフィス、拉致された人を救いに行くのも大切だ。だが今回ばかりは俺も賛成できない。拉致された人々は言わば人質だ。案内してくれた兵士のようにこの国の軍には攫われた家族を持つ人だっているんだ。俺たちがどうこうできる問題じゃない。」


「だがルナエラを失脚させることだって」


「色欲を失脚で着る可能性があったとしてもだ。この国の兵力だけでかなう相手なのか?既にふたつ国を潰してるようなやつ相手に今のままで戦争を仕掛けることこそ愚策だと俺は思うがね」


じゃあどうすればいいんだよ。このまま色欲の好きなようにさせろってことか?新たな魔王に変わるまで待つとしても軍の拡大は必ず起こる。魔学が発展しようとも郡の前では無力になってしまう可能性だってあるんだ。無力だ。自分の無力さに嫌気が来る!俺にできることは本当にないのか。部屋に戻った俺は、自分の無力さをひたすら恨み、絶望した。ガルシアスは書庫に戻り、文献を漁るらしい。ほんとうに俺に出来ることは何も無いのか?

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