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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
25/61

哀を抱く少女

朝、俺たちは食堂に案内された。目の前に広がるのは豪華な食事だった。ただ豪華なだけではない。栄養の偏りがないよう、3色を十分に取れる内容だった。


「これは……久しぶりにお腹いっぱいに食べられそうですね!」


「食いすぎて動けませんとか言うんじゃねぇぞ」


「まぁまぁ、ガルシアスさん、ミホノちゃんもわかってますから。たぶん……」


久々のまともな食事かもしれないな。テレジアぶり?いやカンレーヌぶりだろうか。色んなことが立て続けに起きすぎて覚えていないや。俺たちが騒がしく食べている中、アロウは書類とにらめっこしながら食べていた。


「大きなお世話かもしれないが食事中ぐらい仕事をやめては?」


「行儀が悪いのはわかっている。だが、私には食事の時間さえ惜しいのだ」


目元にはうっすらとクマが見える。徹夜明けか?何をそんなに焦っているのか俺にはわからなかった。


「魔王様、仕事中失礼します。農家のナット様からの伝言です。『スプリンクラーという機械の設置ありがとうございます。おかげで水遣りの仕事が楽になりました』との事です」


「わかった。伝言ご苦労さま。またなにか不具合があったら頼ってくれと伝えてくれ。これはナットだけでなく、国民全体に頼む」


「わかりました」


この国の発展はもしかしたらアドラールに引けを取らないかもしれない。魔石と魔術文字の併用によって発展したこの技術。アロウ曰く、化学ならぬ魔学だ!と胸を張って言っていたが、国民の暮らしまでに浸透しているのは単純にすごい。


「なあ、魔術文字のプログラミングってひとつの言語だけじゃなくて色んな文字を組み合わせて使っているんだよな?そうすると暴走しないか?」


「最初は暴走したんだ。だけど色んな文献を読み漁って制御技術を学んでね。今じゃ複数の魔術文字を使っても暴走しないんだ。」


制御技術も独学で学んだのか。彼女自身が知識の探求をし続けることを欲望としているのは昨日の話でわかるが、何故そこまでする?


「何故そこまでする?」


「単純さ。自分の欲望を満たすためと、基盤作りのためさ。まあ、副産物で君たち人間のようにあらゆることを自動化できれば国民にかかる苦労は軽くなる」


自動化か。確かに自動化すれば負担は減らせる。だが、一人一人の仕事を奪ってしまうのではないか。

「君の考えていることはだいたい察しがつく。自動化による仕事の激減。だがそれは起こらないさ。いや、起こさない。自動化してもその機械を制御する者が必要だ。制御も自動化できたのなら魔学を全国民に教える。そして更なる発展を目指す。それだけさ」

全員に教えるか。確かにこの魔王になら可能だろう。自分の欲望を満たすためなんて嘘だ。副産物の方が主な目的なんだ。国民の為にひたすら自分で魔学を探究し続ける。それが目的なんだ。


「朝っぱらから難しい話をしおって。ちょっとは童がわかる話をせんか」


「いや、姫殿。アロウ様は何度も説明してくれてるのに蝶々追いかけたりして遊んでたじゃないですか」


「難しい話はちんぷんかんぷんなんじゃ!」


「ふふ、今度理念から応用まで私の知識を全て享受してあげるよ」


「やめ、やめろー!」


アロウは資料を見るのを辞め、うっすらと笑みを浮かべた。


「そういえば、あそこはいったのかい?」


「いいや、まだじゃ。童の帰りを待っているのかもしれん。だから今日行くつもりじゃ」


どこに行くのか聞こうと思ったが、別に気になりもしなかったため、聞くのをやめた。



朝食を終えると俺たちは街へ繰り出した。昨日見た光景が嘘ではないということを改めて痛感する。ガルシアスは宮殿の書庫に引きこもり、古代文明について調べているらしい。


「まさかあなたと行動を共にするとは思いませんでしたよ。お姉ちゃんと一緒がよかった」

「仕方ないだろ。お前、魔人語読めないから着いてきてんだろ」


ミホノは辺りを見回していた。元夢幻の技術者として心が踊っているのだろう。これ全てがアロウの独学で動いていると思うと驚きを隠せなかった。そして目を疑う光景として獣人と魔人が平等に暮らしている事だ。ゼルファストでは獣人は立場が弱く、魔人は威張り散らしている。そのせいか俺たち人間を卑下する人がいなかった。


「よお!おふたりさん。ようこそ、魔学と平等の国ナギアへ!お前さんたち、ルー様の客人だろ?あの人が国外で友達作ってくるなんて思いもしなかったぜ!」


ワニ顔の獣人が俺たちに話しかけ、俺は苦笑いで返した。ルーデルワイスはこの国では慕われているのか?


「なんで格差がないんだ?」


「早速その質問か。最初はあったさ。先代魔王の時までな。だがアロウ様はそれを真正面から壊したってわけよ。まず暴力を禁止したんだ。あの砲身が付いてるのがそうなんだが、暴力を振るおうものならそこに見える装置で喧嘩両成敗よ」


指さす先には支柱に銃のようなものが着いた装置があった。あれで国民を監視しているわけか。もちろん巡回する兵士は所々で見た。だが巡回でも警備できない時は来る。そういう時に備えての技術なのだろう。


「そしてアロウ様の掲げた言葉に皆心打たれたわけよ!『幸せと技術の前に獣人も魔人も関係ない。魔学はこの国を平等にする』ってな。その言葉を聞いた時は皆んな耳を疑った。どうせ理想で机上の空論だってな。だがあの方はそれを2年で実現させた。それで皆あの方を尊敬してるってわけさ。この国の子どもたちは皆アロウ様みたいになりたいって言ってるぜ!」


魔学はこの国を平等にするか。俺は朝食時の手紙のおかげか彼の言葉をすんなりと受け入れることが出来た。


「ルーデルワイスのことを恐れてないのか?」


「何を言ってやがる。あの子はとてもいい子さ。ただ不器用なだけなのさ。口で説明するより実際見た方が早いな。カラティナ孤児院という場所に行ってみるといい」


カラティナ孤児院か。後で行ってみるとしよう。


「ゼフィス、ゼフィス。ベルトコンベア見に行きたいです」


ミホノは俺の袖をグイグイと引っ張る。元技術者の血が騒いだのか目を輝かせていた。ベルトコンベアの近くまで案内してもらい、駆動を見せてもらった。ベルト一つ一つに文字がびっしり書かれていた。従業員曰く、魔石が発生させる魔力を動力源にして動いているらしい。


「ここの駆動輪で回しているのか。いや、この配線的にここの方が」


ミホノは一冊の本を見ながらベルトコンベアを見ていた。その本にはベルトや駆動輪に書かれた魔術文字と同じものが書かれていた。


「それ、どうした?」


「アロウが作ってくれたんですよ。もし改善案があれば教えてくれって」


恐らく目のクマはこれが原因だろう。すまないアロウ。

「いやあ、久しぶりにヒートアップしてしまいました。ゼフィスは何か行きたいところとかあるんですか?」


「特にはないんだがカラティナ孤児院に行ってみようと思うんだ」


「先程のワニ男さんが言ってたところですね。わかりました。行きましょう」


俺たちはカラティナ孤児院に向かった。近くになるほど壁や家には絵が増えていき、そのえ一つ一つはファンシーで可愛らしいものばかりだった。進み続けると開けた場所に出る。瞬間、俺は壁に隠れてしまった。なぜか。その光景を邪魔しないためだ。


「ちょ、何するんですか!」


「シー!あの光景が見えんのか!」


そこには子どもたちと遊ぶルーデルワイスの姿があった。表情は見たことないほど優しい笑顔で、一人一人に愛を注いでいるように思えた。子どもたちも笑顔が絶えることなく、腕を引っ張ったり、背中にジャンプしたりしていた。その行動に怒るのではなく、逆にその行動に優しく応えていた。


「まったく、世話のやける子どもたちじゃのう」


「ルーお姉ちゃん、抱っこ抱っこして!」


「はいはい」


俺は本当に勘違いをしていた。ただ生意気なだけだと。この光景を見た俺の中での彼女の存在が大きく変わった。


「あんな顔、初めて見ますね。いつも笑う時は少し悪意を持った感じなのに、ここではそれがない。ここでは少女の笑顔のように感じます」


ミホノの言う通りだ。だがなぜあんなにも態度をデカくとる?なぜ強くあろうとする?考えているといきなりサイレンが鳴り響く。


「え、何?怖いよー」


「大丈夫じゃ。童が何とかしてくるからお主らは家の中でいい子で待つんじゃぞ。ハザマ、先生この子たちを頼む!」


「はっ、お気おつけて!」


ルーデルワイスは刀を腰に収め、連なる家の屋根の上を飛び跳ねながら宮殿に向かっていった。

「俺たちも行こう」


「ええ。では捕まってください。ひとっ飛びで行きますから。変なところ掴むんじゃないですよっ!」


ミホノは装着していたツインターボの推進力で宮殿まで飛んで行った。



宮殿内は騒がしかった。だが、その行動は迷いがなく、一人一人が自分の仕事をこなしていた。


「ゼフィス様、お早い到着で。魔王様が王の間でお待ちです。急いで向かってください」


俺たちは王の間へ向かった。中に入ると室内は昨日見た光景と一変していた。王の間は近代的な内装になっており、広々とした空間には機械とモニターでいっぱいになっていた。中には執事やメイド、兵士たちが機械を操作していた。


「やあ、早かったじゃないか」


「何が起きているんです?」


「戦争さ」


戦争?どの国と?俺は1番大きなモニターを見た。そこには魔獣の群れと、千を超える兵士が映し出されていた。魔獣。それは生まれながらにして魔力を持つ生物のことだ。ゼルファストのみに生息する生物で、気性が荒く、人に懐くことは無いのだが。なぜ奴らは魔獣を使役している?


「彼らは色欲の魔王ルナエラの軍勢だ」


色欲の魔王だって?だがなぜこの国に攻め込んでくるんだ。軍隊は獣人で構成されていた。甲冑を着けず、武器だけを持たされており、身体中には無数の傷が見えた。


「だいたい察しはつく。総員、戦闘準備。魔術兵装の安全装置解除を承諾。続いて魔術障壁準備。8年前のようにはさせるなよ」


「承知致しました。安全装置解除。砲塔1から4解放。エネルギー充填率60、80。エネルギー充填120%。いつでも発射可能です。指示を」


モニターには谷から大砲が出てくる映像が流れていた。これが魔学だというのか?もはやアドラールの化学以上の技術だ。


「アロウ待ってくれ。ここは童に殺らせろ。奴らを血祭りにあげてやる」


「ダメだ。君には殺らせない。君の手を無駄な血で汚すことを私が黙認すると思っているのか?」


「けど!童がやらくちゃ。童がやらなくちゃ、あの子たちがうかばれぬ!」


「ダメだ。頼むルー。ここは大人しくしていてくれ」


ルーデルワイスは崩れ落ちた。室内の薄暗い光に鈍く光る銀髪。床に垂れた液体。血涙ではない。血だ。こちらからは顔は直接見えないが、唇を噛みちぎるほど怒りに満ちているのだろう。ルーデルワイスはゆっくりと立ち上がり、部屋を後にする。その顔には怒りと悲しみに満ちていた。


「発射用意。一人たりとも生かして返すな。そして血を一滴も残さず焼き払え!」


4つの砲身に青白い光が集まる。


「放て!」


声とともに青白い光は敵軍に向かって発射された。魔石の魔力を圧縮し、高密度高出力になったエネルギー。それはモニターをホワイトアウトさせた。景色が映し出された時には前に軍勢は存在せず、あたりの大地からは炎がたち昇った。


「生存者確認できず。作戦終了。我々の勝利です」


室内は歓喜に満ちた。その光景を見たあと、アロウは室内を出ていった。俺は後を追った。


「どうだった?この国の防衛力は」


「正直驚きと恐ろしさしか出てこなかったよ。8年前何があったんだ?あのルーデルワイスの言動的に孤児院と関係があるのか?」


「カラティナ孤児院のことだね。関係大ありさ。この国の防衛にもね」

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