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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
23/61

わがままな少女

ゼルファスト大陸に着いた時には夜になっていた。三日月の月光に照らされた街には篝火の日だけが目立っていた。この光景を見ると魔族の領土に足を踏み入れたという気持ちが毎回湧いてくる。


「とりあえず、宿を探しましょう」


俺たちは宿を探した。だが、どの宿屋でも断られる。


「へ、貴様ら人間が泊まれる宿なんざねぇ!」


「魔力もねぇくせに俺たち悪魔と同じだと思うんじゃねぇ!獣人の獣臭い馬小屋にでも泊まるんだな」


「は?人間?俺たち獣人に嫌われてると言うことをわかってて言ってるのか?帰れ」


結果、野宿する羽目になった。俺たちを跳ね返した後に金持ちそうな商人が入っていくのを見てため息を吐く。人間だからという差別があるように感じたが、金さえあれば曖昧にするということか。俺たちは国の外に出て、テントの設営を始めた。


「そういえば、ゼフィスってこっちの言葉もわかるんですね」


「傭兵団にいた時にここにも来たことあるんだよ。その時に団長に教えてもらってね。言語帯が似てるから覚えやすかったんだ。良かったら教えようか?」


大陸や人種違えば言語も違う。生きる世界が違うのだから当たり前だ。皆覚えるのが面倒だと口を揃えて言うがそれは違う。言語とは文化の象徴だ。言い回しや表現、スラングはその土地で生きてきた人達の証だ。なにより、違う人種の人たちと話すことは楽しい。


「ではよろしくお願いしますね」


テントの設営を終え、ティナとミホノを休ませている中俺は見張りをしていた。魔族の街には街灯なんて一切ない。あるのは篝火ぐらいだ。そのため星が綺麗に見える。俺たちの先祖もこの景色を見ていたんだろうな。物思いにふけっていると街の方から金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。街の光はもう消えており、人気が一切感じられなかった。


「ガルシアス、見張り頼んだ!」


「んにゃ、わかった〜」


俺は荒塊とムスカリを装備し、街へ全力疾走した。鉄橋が落ちたこと、リッガルでの放火、もしかしたらこの音が関係しているかもしれない。そう感じた。街へ入ると音はさらに大きくなった。音だけではない。重圧が俺にのしかかる。まるで橋の前で味わった時のような感触だった。


「ハハハ!姫殿、今日はレイピアですか!」


男の笑い声が聞こえた。


「ふん!お主にはこれぐらいが十分であろう!」


少女の声も聞こえてくる。聞き覚えがある2人の声に俺は汗を流した。まさかハザマさんとその少女じゃないだろうな。

「この殺気……まさか橋の前にいた人かね」


2人は刀を振るうのをやめ、俺の方を見た。あの二人だ。


「おお、あの時のガキか。よくも生きてたものだな」


相変わらず少女は態度がデカかった。そう思っている中でようやく確信をもてた。このふたりが一連の事件の犯人だろう。しかし、彼らが持っている刀やレイピアっぽい武器では橋を斬ることができるのか?


「あのう、橋を斬ったのはあなたたちですか?」


2人は顔を見合わせ、お互い笑いあった。


「ハハハ!見られてしまったか!いやあ、失敬失敬。確かに斬ったのは我々だ」


「まあ、死者出てないからよかろうて」


月光の下で2人は声高らかに笑った。俺はムスカリを抜き、ゆっくりとふたりに歩みよる。


「殺してないからじゃないだろ」


「確かに建物を破壊するのは良くなかった。童もそう思う。しかしこれは必要な犠牲。というやつよ。貴様ら人間に何がわかる」


俺は少女に向かって剣を振るう。ハザマはそれを止めようとしたが少女が軽く腕を向けると構えを解いた。初撃はレイピアの柔軟な剣先でそらされる。


「ほう、剣筋がいいな。いい師をもっておるのか。ハザマに力量は近い。いや、まだそれ以下だな。動きが粗い!」


カウンターで突きが飛んでくる。一発二発じゃない。4連続の素早い突きだ。一発目は防ぎきれた。しかし、剣の柔軟性を生かした動きが俺の胴を素早く突き刺す。


「ふむ、お主、攻撃が見えておるな。はっきりとは見えていないようだが、他3発を防ごうとしておる。名を聞こう」


「ゼフィス·ガラース。あんたは」


「ふむ、ゼフィスとな?師の名は?」


「そんなこと聞いてどうする?まあいい。ロウギヌス傭兵団団長ベルゼハードだ。」


「ベルゼハード……その名どこかで。まあよい、名乗ってやろうかの。童は魔王ルーデルワイス、ルーデルワイス·デンドロビウムじゃ!」


ま、魔王!?ゼルファストを牛耳る7人のひとりだと?相手が悪すぎる。牛耳ると表現されるだけあり知性、力、権力全てにおいてトップクラスの存在だ。だが待て。魔王には角が生えているという話を聞いたことがある。ルーデルワイスの白銀の髪には角が確認できない。


「あんた、角はどうした?」


「!? そ、そんなのお主には関係なかろう!ごほん、そんなことより、お主も童の下僕にならぬか?」


「断る。俺には旅をする理由がある。お前の下僕になっている暇はない!」


アラクレを解放した。攻撃が当たりさえすればダメージを与えられる。俺はルーデルワイスの右肩を切り落とすかのように剣を振るった。彼女はそれを察知して剣の起動をそらし、カウンターの体勢に入った。俺はすかさず荒塊をつけた腕で彼女の小さな体を殴る。拳は小さな手のひらで受け止められ、お返しと言わんばかりに突きを繰り出す。これでいい。レイピアの攻撃はさほど問題ではない。俺は剣先を掴み、彼女の身動きを止める。そして拳による攻撃を繰り返す。しかしその攻撃は全て受け止められ、蹴りで大きく吹っ飛ばされた。俺の攻撃準備は全て整った。あとは痛みに耐える準備だけだ。


「ハハハ!雑魚、ザーコ!童に攻撃を当てることすらできないのか!」


俺は荒塊の能力を解放した。今回、固定した事象は4つ。その事象を一度に解放すれば。俺は右腕を天高く振り上げる。その余裕を傷つけてやる。

固定を解除した事象は少女の腹、背中、喉、顔面当たりを大きく強打した。少女の体は一旦仰け反るもすぐに体勢を戻し、考える仕草をした。


「何が起きた。いや、その腕に着けた武器の力か。なるほど、それがお主らが開発した幻式とやらじゃな」


彼女はまた声高らかに笑った。だがその笑い声は先程の余裕の笑い声ではなかった。そう、なにかに喜ぶ少女の笑い声だった。


「興味が湧いたぞ!お主は小細工でも何でも使うがいい。童を楽しませよ!」


「おお、姫殿が笑ってらっしゃる!これは凄い事だぞゼフィス殿!」


楽しんでいるということか。ルーデルワイスの動きは先程までの斬り合いをなんだったのか考えさせるほど素早かった。有り体にいえば瞬間移動。視界に入ったかと思えば一瞬にして間合いを詰められる。そしてとめどない攻撃は一発一発が強く、俺の体に風穴を開ける。


「どうした!先程の攻撃はしないのか!それとも童の身体に攻撃を当てなければ意味が無いのか!」


一瞬にして見切られた。さっきの攻撃の反動でろくに強い攻撃を繰り出すことはできない。防御で手一杯だ。もう、無理か。その時、またあの現象が起きる。攻撃の先が見えるのだ。当たっていないのに自分に攻撃が当たった光景が左目に映る。俺は攻撃された部位を徹底的に防御すると攻撃を全て防ぐことが出来た。何が起こっているかはわからなかった。だが、俺の左目は今ではなく先を見ている。


「先程まで防御が追いつかなかったのになぜ今になって全て防御できる?童の動きに目が慣れたのか?いいや、それならなぜピンポイントに防御ができる?」


「ハハハ……俺にもわかんないや。だが、あんたを楽しませることぐらいはできそうかな?」


俺の体は悲鳴をあげている。動けてあと2分。いいや、1分半ぐらいだろう。ならば、せめてやつの体に切り傷をつけてやる!俺はムスカリを鞘に収め、雷を帯びさせ居合の構えに入る。1分半攻撃を続けるのもいい。だが、彼女の力の前では全て防がれるのが関の山だ。ならばこの一撃に全てを掛けよう。幸いにも左目はまだ機能してる。動きの先が見える。俺は真っ直ぐに走る。ルーデルワイスはそれを受け止める姿勢を取った。この一撃。防がれれば全て無駄になる。防がれるならばレイピアの柔軟さにいなされない最高の一撃を喰らわせるしかない。俺は少女を間合いに入れる。そして荒塊の力を発動した。いつもは回避や攻撃だけに使っていたアラクレを移動に使う。やったことがなかった。いや、やるのを恐れていた。荒塊は触れた対象に与える事象を固定し、好きな場所で解放する。ならば移動したという事象を彼女の後ろに回り込むということも出来るはずだ。だが、移動する座標を曖昧なままにすれば地平線の彼方へ飛ばされかねないし、足だって反動に耐えきれずに引きちぎれる。更には土に埋まっている可能性だってある。ならば彼女の後ろに集中するしかない。奇跡を願うようなものだ。この後動けなくなるかもしれない。だがせめてこの一撃を!レイピアによる突きが目の前までくる。アラクレ、解放!俺の体は一瞬にしてルーデルワイスの後ろへ回り込んだ。すぐさま後ろへ振り向いたがもう遅い。


「荒塊雷閃!」


荒塊による瞬間移動と居合による一閃。雷を帯びさせた刃で体を斬る感触は、朦朧とする意識の中でもはっきりと感じられた。取った。そう思えた。そして気を抜いた瞬間に両足に激痛が走る。その激痛に耐えかねたのか目の前が一瞬にして暗くなった。

「死んだか?」


「いえ、気絶ですな。右足を骨折、左足はヒビ入ってますな」


ルーデルワイスはレイピアを鞘に収めると、レイピアが刀の形に戻った。


「ポーションを飲ませておけ」


「よろしいのですか?こいつに使っても?」


「命令が聞けんのか?童を楽しませた男ぞ?」


ルーデルワイスが笑うとハザマも笑った。確かにゼフィスは彼女を楽しませただけでなく、一撃を喰らわせたのだ。


「なぜ、あの時避けなかったのですか? 姫殿なら避けられたかと思いますが」


「ふ、お主もまだまだじゃな。避けなかったではない。避けられなかったんじゃ。こやつに突きをする際、体勢が崩れてしまってな、振り向くので手一杯だったのじゃ。」


「嘘はいいですよ」


「半分本当じゃ。だが、童の中で受けたかったという感情があったのかもしれん。いや違うな」


ルーデルワイスは空を見上げた。夜の帳はおり、太陽が顔を出し始めた。


「朝日が登ったからかのう」


ルーデルワイスは朝日を見上げた。ただ見上げるのでは無く、少し笑みを浮かべながら見上げた。


「お主、こやつが来た方向はわかるな?」


「分かりますとも」


「これから面白くなるぞ。こやつはまだ伸びしろがある」


ハザマは気絶したゼフィスを担ぎ、2人は馬車の方向へ歩いていった。

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