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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
ナギア編
22/61

少女と男

「待てーい!」


一人の少女が刀を振るいながら屋根を飛び回っていた。その先には一人の男が少女を見ながら逃げていた。


「ははは! 待てと言われて待つやつがいるわけなかろう!」


「ぬぬ、○○○!お主、気を抜かずもう一本の刀を抜かぬか!」


「それはできぬ願いだ。姫殿がまたあれを使ってくれるなら抜いてもよいぞ?」


少女と男は満月が照らす夜を駆け回っていた。そして鉄橋の上へと辿り着く。


「はぁ、はぁ、主のお望みどおり使ってやるわ! 龍魂解剣!」


少女は声高々に叫んだ。そうすると手に持った刀は形を変えていった。


「ほほぉ、今日はその形なのだな」


刀は少女の何倍もの長さの太刀へと変化した。その長さは少女では振れぬ長さではあったものの、少女は軽々と振ってみせた。


「さあ、魔王の力とくと見よ!」


少女は勢いよく太刀を振り下ろす。男は軽々と避け、2本目の刀を抜刀した。避けられた攻撃は鉄橋を豆腐を切る包丁のようにするりと刃が入り、崩壊させた。


「あ、姫殿これはまずいのでは?」


「そんなもの妾に関係あるかー!」


少女は素早く横へなぎ払いった。男はその攻撃を2本の刀でいなし、攻撃を逸らした。逸らされた刀身は鉄橋をさらに崩していった。


「おい、なんの騒ぎだ!」


警備兵たちが鉄橋が崩れる音に反応して駆けつけてきた。


「く、姫殿は加減が効かぬから困る!一時撤退しますぞ!」


「しかたない、今日は見逃してやるわー!」


2人は別々の方向へ逃げていった。

朝、この村の家屋が1件燃えたらしい。幸いそこに住んでいる人はおらず、死傷者ゼロだったらしい。


「一体何が起きているんだろうな……」


俺は辺りを調べた。そこには小さい足跡と大人ぐらいの足跡があった。しかも燃えた家近辺では他にも焼け焦げた跡があった。他にも切り裂いた跡や強く蹴った跡が見つかった。何かから逃げている?


「モンスターの影響じゃなさそうだな。ここにいては危なそうだ。ゼルファストへ向かうぞ!」


俺たちはゼルファストへ行くのを急いだ。


「そういえば先程たくさんLエネルギーを買っていたみたいですけどなんでです?」


「それはLエネルギーの掘削はアドラールでしか出来ないからなんだ。2大陸ではLエネルギー産業が浸透していない。だからここで買わないと幻式を動かす動力がなくなっちゃうんだよね」


アドラールのLエネルギー技術が発達していないという理由ではない。ゼルファストではLエネルギーを取ることができない。あの大陸にはアドラールで使われたエネルギーのゴミをエネルギーの元にする工程が行われている。そしてティファーナでは採掘場の設置も現代技術の導入の一切を禁止している。精霊たちは自然と共に生きてきる。現代技術を導入してしまうと自然を切り開かなければならないのだ。それを精霊たちが許すはずがない。


「なるほど。生産と消費と再生を3つの大陸で行っているんですね」


「なぜこうなっているかは分からないんだけどね」


だがこの特性が3種族を生み出したのかもしれない。人間にも魔術回路がある以上元は同じ生物だったのかもしれない。


「おーい、お二人さん。もうそろそろいくぞー!」


ガルシアスが招集をかけた。さあ、もうすぐゼルファストだ!馬車を走らせていると生える植物が変わり始めた。この光景を見るといつも心が踊る。しかし、その心は先に見える光景で一瞬にして止まった。


「なんでいるんだよ……」


目の前で立ち塞がっていたのはアルカッド教だった。しかも完全武装で待ち構えており、通るには蹴散らさないと行けないみたいだ。奴らが鉄橋を落としたのか?有り得そうな話だがあの綺麗な断面を作ることが出来るだろうか。おそらくあれは一太刀で切られたものだろう。奴らがやってないとするなら情報を聞きだし俺たちが通るであろうルートを割り出してここにいるのだろう。

「しかたない。やるぞ。ガルシアスとティナは後方支援。弾はゴリラ倒した時のやつでいいと思う。ミホノは俺と一緒に道を開けるぞ!」


「了解だ」


「はい、頑張ります!」


「仕方ないですね。お姉ちゃんのために頑張りますよ!」


ここでLエネルギーを使うのはもったいないが迅速に終わらせなければ援軍を呼ばれかねんからな。奴らも幻式を装備しているようだしここは略奪と行きますか。


「いたぞー!悪魔どもだー!」


忌み子どもって。生まれだけで差別するような者たちにわかるはずがないか。これから先、こんな奴らを敵に回していくわけか。ムスカリの太陽に照らされた濃紺色の刃は相手の甲冑の関節部から血しぶきを上げた。テレジアやカンレーヌではある程度の戦闘経験のある兵士が相手だった。しかし、この教徒たちは武器や甲冑だけがいっちょまえなだけでそこまで強いとは言えなかった。ほとんどが一般人だ。これなら幻式を使わなくても良さそうだが、


「ある程度は戦闘経験で捌ききれますが、やはり数というのは厄介ですね」


ミホノの言う通りだ。普通の兵士であれば味方の死や、戦闘能力の差で恐怖などの負の感情を抱いてくれるものだ。だが宗教人は死んでも神が救ってくれると思っている集団だ。死を恐れない戦士たち。致命傷を負って死んでいった兵士の顔を見ると笑っているものが大半だった。恐ろしい。単純にそう思えた。


「いやあ、邪魔ですなぁ。姫殿」


「はあ、久しぶりにお主と意見があったわ」


後ろから声がして。少女のような声と男の低い声だった。なぜこんなところに?


「危ない!下がって」


「危ないとの事ですよ。姫殿」


「大きなお世話よ。早く終わらせてほしんだけど!」

後ろから姫殿と呼ばれる少女が文句を言ってきた。なんてワガママな少女なんだ。だが後ろから感じる圧はなんだ?ガルシアスとティナのものではない。まさかあのふたりから感じるというのか?


「仕方ない。ハザマ、加勢してあげなさい」


「は、姫殿。邪魔しないでくださいよ?」


「するわけなかろう。童は疲れているんだから」


男はゆっくりとこちらに近づいてくる。その威圧は少しづつ強くなっていった。


「では、舞と参りましょうか。そこのお兄さんとお姉さん、どきなされ」


刃と鞘が擦れる音がする。抜刀下瞬間、威圧は急激に強くなった。重い。空気が、重力が。俺は周りの兵士を見た。いくら死を恐れない教徒たちとはいえこの威圧の前には恐怖を抱いているだろう。俺とミホノは馬車まで一旦下がった。視界には紺青色の髪を持つ男が入った。淡い藍色の服に黒いズボン?服装はダボダボで両腕は袖の間に余裕があった。足首まで伸びていた。腰の両側には剣が収められ、左手には剣を持っていた。しかし、その剣は両側に刃が着いているのではなく、片側にのみ刃がついていた。


「あれは、刀だな」


「刀?」


「ああ、ゼルファストで作られている伝統的な武器だ。見た目通り片方にのみ刃がついていてな。攻撃方法が普通の剣と異なるんだ。斬るには変わりないんだが、引いて斬るらしいんだ。」


引いて斬る?どういうことだ?剣は叩き斬るものじゃないのか?


「ほお、じいさん、骨とうこいつを知っている口かね?ならばお見せしよう」


男は兵士の関節部を綺麗に輪切りにして行った。断面は綺麗なものだった。引いて斬る。つまり、刃を当てる時に力を込めるのではなく、引く時に力を込めることで綺麗に斬ることが出来るのだろう。そして俺は手先に注目した。五本の指で握らず、親指、人差し指、中指の3本だけで握っているのだ。癖なのか、あの握り方が正しいのか俺には理解できなかったが、その戦いは舞うように綺麗なもので、一つ一つの体の動きに無駄がないように思えた。


「ふう、全部切り捨てましたぞ。姫殿、先を急ぎましょうぞ」


「時間かけすぎよ。童を殺したいのか?」


「あの、おふたりはどういう関係で?」


「私が主でこいつが下ぼ…… ムムムムムム!」


「保護者です」


ハザマと呼ばれた男は赤と黒のゴスロリ姿の少女の口を塞ぎながらティナの質問に答えた。少女は銀色の髪に青い蝶の羽の髪飾りを身につけていた。軽々しく持ち上げられた少女の体は腰に差した剣を荒々しく暴れさせていた。


「皆様もお気おつけてください。良い旅を〜」


ハザマは少女を担ぎベルファストへ続く橋を渡って行った。


「なんだったんでしょうあの人たち。なんかこう、親子というか」


「奇遇だなミホノ、俺も同じことを思った」


少女の言葉が正しければ彼女が主人で、男が下僕なのだろう。そういうプレイでも楽しんでいるのだろうか。


「とりあえず、いくか」


俺たちは宗徒がつけていた幻式からエネルギーパックを取り出した後、彼らを土に埋めた。別に証拠隠滅というわけではない。せめて弔うことぐらいは人間としてやっておきたかったのだ。いくら敵対してたとはいえ俺たちが殺めた命にほかならない。俺たちは合掌をし、馬車へ乗り込み橋を渡った。

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