罪と罰
私は夢幻の幻式研究部署に向かった。もちろんButterfly奪還のためです。
「あ、ミホノちゃん。どうしたん?」
「Butterflyを貸してほしいんですけど」
正直に言えばわかってくれますよね
「そりゃあ、できんなぁ。何でもしてくれるんだったら……ぐへへへ」
何でもですか。全く、汚い大人ですね。目玉潰れてしまえばいいのに。
「わかりました。で?何を?」
「じゃあ足を……」
足?ければいいんでしょうか?
「わかりました。蹴ればいいんですね」
「へ?」
私は要望通り思い切り蹴りました。蹴られることを臨むとは変態もいたものですね。気絶してしまったようだったのでその場において置くのも怪しまれそうですから手足と口をガムテープで縛ってロッカーに入れておきましょう。よかったすぐに済んで。私は研究部署を後にするのでした。ちゃんちゃん。
計画を立てた翌日にミホノはButterflyを持って家に帰ってきた。曰く、怪しまれることなく預けてくれたようだ。彼ら本当に操られたと思っているのか?作戦が円滑に進むのはいいんだが単純というか、上手く行きすぎているというか複雑な気持ちになった。もしかしたらミホノを信じきっているという可能性の方が高いか。
「Butterflyを調べてみたところ本物だったよ。これで第1フェイズクリアだ。」
俺はガルシアスの言葉に安堵した。しかし、まだ気は抜けない。本作戦の最終目的はティナの救出。それが達成されなければ意味がない。
「処刑日は2日後。その前に俺たちはできる限りできることをやるぞ」
俺たちはティナを助ける準備をした。煙幕や爆竹の準備をしたり、そのまま脱出できるように食料などの生活必需品の買い込みを念入りにした。街の広場には木製の櫓が建てられ、処刑の準備が進められていた。
「あんたら操られていたんだって?大変だったねぇ」
道行く人に心配されていった。やはり混血は悪魔でそれに与する者は操られた前提で語られているらしい。今に覚えていろよ。その言葉を変えてやる。
作戦開始一日前。街は活気に溢れていた。
「じゃあな。ミホノ、達者でな。体調に気おつけるんだぞ。ちゃんと腹いっぱい飯を食うんだぞ」
「ええ、お父さんもお元気で」
「俺は……いや、父さんは、お前の幸せをずっと願っているからな」
二人の泣き声が微かに聞こえる。俺とガルシアスは家の外で待機していた。さすがにあの空間にいるのは場違いだ。今は家族ふたりの時間を大切にしてあげたい。これが最後の別れになるかもしれないからだ。俺たちは彼女らを巻き込み、挙句の果てに引き離してしまった。これは俺たちが背負うべき罪だろう。せめてもう一度会えるように最善は尽くさないといけない。
「もう思い残すことはないさ。ゼフィス、俺の娘を傷つけたら地獄の果まで追いかけてやるからな」
「はい」
カーヴェの目元は赤くなっていた。思い切り泣いたのだろう。俺には家族はいない。だからこそ親子で泣きあえるという物が羨ましく思えたのかもしれない。
「絶対再開させますから」
俺の決心はさらに固くなった。ティナのためだけではない。この親子を再開させるためにもこの作戦を成功させ、世界をひとつにまとめる。そう思えた。
作戦決行日俺たちはバラバラの場所にいた。お互いの役割を果たすためだ。俺は断頭台を見つめた。断頭台は造形が細やかなもので、処刑用というより工芸品に思えた。だが血の跡がいくつかあり、何度も首をはねてきた痕跡を残していた。その脇には神父らしき人たちがおり、ただ時間を待つように立っていた。アルカッド教。アドラール大陸全土で信仰されている宗教だ。アルトゥーム神を崇拝し、崇拝する者は死んだ後もアルトゥーム神によって人へ生まれ変わるという教えがあるらしい。俺は信者でないため詳しいことは知らない。だが、混血はこの宗教にとっては迫害の対象だ。混血を捕らえた者は功績関係なく、神官の位を与えられるらしい。アドラールの国ほぼ全てに癒着しているため、混血を迫害するという考えは浸透しているのだ。おそらくテレジアもそうなのだろう。
「これより悪魔払いを行う!」
神官らしき男が大声で叫ぶ。断頭台にはティナが立ち、その顔は涙の跡だけではなく、難度か殴られた跡があった。俺は剣の柄を強く握り締めた。堪えろ、奴らを切り伏せるのは今じゃない。神官は教典を声高らかに読み始めた。周りの人々は合掌をしながら聴いていたり、同じく読み上げる者もいた。長い、とにかく長い。しばらくありがたーい話を聞いていると本題に入った。
「これよりこの者の首をはねる!さすれば我々はアルトゥーム神の元に召されるであろう! 異論のある者はいるか!」
周りの と人々は歓声を上げる。その中には「殺せ!」だの、「悪魔よ、いなくなれ!」だの言う者がいた。ティナの顔は出会った頃以上に暗くなっていた。
「ちょっと待ったー!」
俺は怒号とも言える声で叫んだ。そうすると周りの人間や神官、兵士たちは俺を注目した。
「誰だ貴様は」
「名乗るほどの者ではない。だが、お前らの掲げる正義とやらをぶち壊す者だ!」
俺はゆっくりと断頭台に向かって前進した。全員の目が俺に集中した。いいぞ、そのままでいい。
「なぜ来たんですか!?」
「君を助けるためだ。約束しただろ?」
「けど、私がいたらあなたたちが危険なんです」
「危険なんて知るか!俺はあの時約束した! その約束を誰とも知らん奴の教えのせいで踏みにじられてたまるか!」
約束したんだ。守ると。
「だが、助けに来たが、実際助けるのは俺じゃない」
俺は剣を掲げた。そうすると空から影が急降下してくる。あれはなんだ?鳥か?隕石か?もちろん!
「私だァー!」
ミホノは着地するやいなやティナを拘束した兵士を蹴飛ばし、ティナを掴んでそのまま飛び立った。とりあえずティナの奪還は成功した。この後は俺がいい感じに引っ掻き回すだけだ。
「ええい!貴様ら、我らにこんなことをしていいと思っているのか!」
「していい、しちゃいけないじゃない。一人の少女が笑顔でいられない世界なんて、あっちゃいけないんだよ!」
俺は断頭台に向かってファレイクを撃った。櫓の材質は組み立てやすい木であったため、燃えやすいのだ。櫓は勢いよく燃え上がる。危機を感じたのか急いで櫓から降りた。
「やつを逃がすな!総員攻撃態勢!」
兵士が陣形を組んだところに爆竹が投下される。誰だって急に大きな音や、爆発音が聞こえれば驚き、反応する。ミホノの空からの支援によって陣形は崩れた。あたふたしている隙に俺は兵士に攻撃を仕掛ける。この兵士たちを殺すのは簡単だ。だが、殺してしまってはこの国の防衛が手薄になってしまう。そのため、殺さず、武器の破壊、又は腕か足を一本折って無力化するとしよう。パニック状態に陥った人間というものは対処しやすく、戦力差は圧倒的であるものの、楽に処理できた。
「き、貴様! 我々に楯突く気か! 世界を敵に回すことになるぞ!」
「何度も言おう、構わないさ。約束したことも守れない男になりたくはないんでね」
しっかし、神官への対応は考えてなかったな。アルトゥーム教はこの大陸全土に信者を持つ宗教。このまま生かすのは後々めんどくさいだろう。喋っていた神官の足を折り、ほかの神官は喉を切り裂き殺した。俺は剣を足を折った神官の前に突き出す。
「お、おい。貴様、やめろ。やめろォォォ! 本当に世界を敵に回すことになるぞ!」
俺は剣をゆっくり天に突き上げる。もう引き返せない。いや、引き返さない。もう、離さない。
「これはお前達が受ける罪と罰だ。地獄でアルトゥーム神とやらに人間に生まれ変わらせてもらうんだな」
素早く斜めに振り下ろし、神官の肥えた肉だけでなく、骨を絶った。体は真っ二つにわかれ、断面からは血が吹き出した。剣に付いた血を振り落とした後一人の男の前に向かった。夢幻課長、助けを求め、それに応えた俺たちの仲間を悪魔として突き出し、仇を返した張本人。彼は腰を抜かしたのかその場に立ち伏せ匍匐の状態で逃げ出そうとしていた。彼は殺すなという命令だ。だが、気絶だけで終わらすには俺の腹の虫が治まらない。
「『アダム』という者を知っているか?」
「し、知らん! 私はただ、君たちに依頼をし、悪魔を退治しようとしただけだ!金は払っただろ! たっ、助けてくれ!」
知らないか。夢幻の社員だというのは確定しているだろう。でなければ抽出機まで近づくのは難しい。
「なぜティルナシアを売ったかは聞かなくてもいいか。どうせ自分の宗教上での位を高めたいとかだろう。あえて聞こう。売ることに躊躇いはなかったのか?」
「あるわけないだろう! 悪魔は悪魔。それだけだ!」
もういい、聞くだけで腹が立つ。俺は彼の腕と脚の腱を切り、気絶させた。これで普通の生活は遅れなくなるが自業自得だろう。あたりは静まり返っていた。今朝までの活気はどこへやら。俺は真っ直ぐに馬車まで歩いていった。
「おかえり。どうだった」
「世界を敵に回してきた」
「そうか」
俺たちはそれ以上話さなかった。そのまま、テイファーナ大陸へ向かうのだった。




