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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
プロローグ
2/61

歯車が動き出す月夜に

戦いが終わったのは日が沈みかけている時だった。空は火の海のように真っ赤に燃えていた。


「これじゃ山を下りるのは無理そうだな。トリス、ゼフィス着いてきてくれ。使えそうなものを探しに行くぞ。ナリトカはその娘を見ていてくれ」


山賊のアジトを漁ると盗んだものの中で第1世代の幻式やLエネルギーパックだけが残り、他にも食料やほか資源物資だけが残っていた。


「見事に散らかってるじゃねぇなかこれは俺様に恐れをなして逃げてったかぁ?」


「まぁ争いがないだけいいだろう。使えそうなものだけあっちに持っていくぞ」



二人の元に戻ると赤銅髪の少女は目を覚ましていた。その瞳は光が戻っていた。


「団長おかえりなさい。ちょうど彼女も目を覚ましたところです」



赤銅の少女は脅えた顔をし、手を震わせていた。


「俺はベルゼハード、お嬢さん名前を聞いてもいいかな」


そう団長が言うと「ティルナシア」と声を震わせながら言った。彼女の話では親は既に亡くなり山賊に拾われたらしい。


「お聞きしたいのですが、ティルナシアさん。貴方は魔法を使う際幻式を使用していませんでしたが貴方は精霊なのですか?」


ナリトカが質問するとティルナシアはさらに脅えた顔をした。種族を聞くと脅え俺たちに怯えると言うより人間に脅えているように思える。そして幻式を使わずして魔法を使える。俺の頭の中には最悪の仮説が出てしまった。彼女は混血なのかもしれない。人間と精霊のハーフであれば幻式を使わずに魔法を使える。さらに魔力量が尋常に多かったのにも普段の溜まり続ける魔力が使われずに溜まっているということで裏づけできる。さらに彼女の目や耳、髪の色にだって説明はつく。目は精霊の遺伝子をもろに受け耳は中途半端にとがっている。さらに髪の色は人間側の遺伝子だろう。



「ティルナシアさん。貴方は混血種なのですね」


俺がそう言うと彼女は諦めたように顔を両手で覆い隠し「はい」と小声で言った。


「それが確かなら俺たちはコイツを殺さなきゃ行けねぇじゃねぇか!」


トリスは怒号とも言える声でそう言った。混血種は迫害の対象になっており、見つけ次第殺すまたは国に差し出さなければならなかった。



「そうですね。彼女を見過ごすのは簡単でしょう。しかし我々の今後の活動に支障をきたすに違いありません。ましてや宗教勢力に目をつけられれば我々は極刑になるかと。団長指示を」



ナリトカは冷静に言いつつもどこか激情を抑えきれていないように感じた。


「ゼフィス、お前はどうしたい」


団長は俺に問いかけた。傭兵団のことを思えば彼女を国に差し出すのが一番だ。しかし彼女が催眠解除時に見せたあの涙が俺の心を引っ掻き回している。


「俺は彼女を国に差し出すのに反対です。だっておかしいじゃないですか。ただ生まれが違うだけ問答無用で殺される対象になるなんて。俺にはそんなの耐えられない」


「そうか全員の意見はわかった。ゼフィスお前には悪いがこの子は国に差し出す。俺には団員全員の面倒を見る責任がある。だからこそこの子は俺たちにとって邪魔な存在だ」


団長は冷酷にしかし冷静に言葉を発した。3種族を平等に見る団長ですらこう言ってしまうんだ。もう俺にはどうすることも出来ない。団長の発言を聞きティルナシアの目に光はなく諦めたように思えた。月の光は悲しげに俺たちを照らすのであった。


夜も更け月の光が俺たちを照らし続けている時寝ている俺の体は何者かに揺さぶられていた。

「ゼフィス、起きろ」

その声は太くしかし優しかった。


「団長?どうしたんですか?敵の襲来ですか?」


団長はゆっくり首を振り小声で囁いた。


「ティルナシアの嬢ちゃんを連れてお前はここから逃げろ」


俺はその発言に耳を疑うと共に眠気を吹き飛ばした。さっきの発言とは真逆、彼女を逃がすというのだ。



「なぜ?だって貴方は彼女を生かすことに反対したじゃないですか」


「あぁ。だがあれは建前だ。俺だって彼女は殺したくないし国に出したくない。俺はお前と同じ気持ちだ。お前、彼女が流した涙について知りたいんだろ。なら彼女を連れてここから逃げろ」


「ですが、逃がしたと分かれば団長達に迷惑が」


「安心しろ。そこはお前が反乱を起こしたということにする。だが悪く思うな。俺はお前の味方だがそれは隠さなければならない。飯の時に言ったが俺は団員の生活を成り立たせなきゃいけない」


俺は団長に対する気持ちが改めて変わった。団長は混血だとも見捨てない。俺は決心を改めた。


「わかりました。早く彼女の元に行きましょう」


ティルナシアを起こすと彼女は怯えた顔をした。


「安心して。俺は貴方を逃がすのに協力したいんだ」

「ここから逃げる?でもどこへ?」


「まずは隣国テレジアに向かえ。そこに俺行きつけのバーがあるのはお前も知っているな?そこのマスターなら匿ってくれるはずだ。そこから先は精霊の大陸ティファーナへ行け。もしかしたら彼女の親戚がいるかもしれないからな」


「わかりました。SEVENTH-BLUESですね」


彼女はまだ不安げな顔だった。俺にこの不安を取り除けるかは分からない。だが旅を続ければきっと変わるはずだ。


「あと、これを持っていきなさい」


団長が差し出したものは幻式『Butterfly』だった。

「いいんですか?だってこれ最新型ですよ?」


「そんなことは関係ない。ハーフは魔力制御が上手くいかないんだ。そのせいで暴走し命を落とすことだって有り得る。だからこれは嬢ちゃんの魔力制御を補助するために渡す。人間と精霊のハーフであれば幻式を装着し操ることだってできるだろ」


そういうと団長はティルナシアの背中に『Butterfly』を装着すると問題なく起動した。


「どうだ?少しは楽になっただろ」


「ええ。体の痛みがなくなったように思えます」


彼女の表情が少し柔らかくなった。

団長はテレジアまでの食料とLエネルギーパックをくれた。


「ティルナシアさん、俺とコイツはあんたに生き残って欲しい。それだけは決して忘れないでくれ。これから先、今まで味わってきたことより辛いことが何度も起こる。だが絶対に下を向くな。そんな時はコイツを頼って欲しい。ゼフィスはロウギヌス傭兵団一頼れる男だ」


ベルゼハード団長の目は真っ直ぐに彼女を見つめていた。


「よし、もうそろそろお前たちは行け。ゼフィス、嬢ちゃんを泣かたり危険な目に合わせたらお前を殺すからな。これは俺からの依頼だ。ティルナシアを脅威から守れ。ロウギヌス傭兵団なら依頼を守って当然だろ?」


俺は力強く頷いた。

俺とティルナシアは山を下った。団長が作ってくれた機会を無駄にしないために。進み続ける先がどうなっているかは分からない。きっと俺が傭兵団のみんなと回った時よりも過酷な旅になるだろう。だが俺は進まなきゃいけない。彼女の安全とあの涙の意味を知るために。

山を下り俺とティルナシアはテレジアに続く道を歩いていた。会話もなくただひたすらに歩いていた。気まずい。


「なぁご両親はどんな方なんだ?」


俺は会話が思いつかず彼女の両親について聞いた。


「えっと、とても優しい人でした。本を読み聞かせてくれたりいじめられて帰ってきた私を慰めてくれたりしてくれました。けど私のような忌み子を産んでしまったせいでお母さんたちは…山賊の皆さんに言われました。お前がいるから親は死んだんだ。お前みたいな存在を生かしてやっている俺達を敬うんだなって」


俺は何も言えなかった。俺は人間で彼女はハーフ。同じではない。悔しさと情けなさに俺の心は駆られた。


「ゼフィスさんの両親はどんな方なんですか?」


「俺?俺には親がいないんだ。両親は昔戦争で死んだらしくてね。ばぁちゃんならいるけどな。ばぁちゃんはめちゃくちゃ厳しかったけど剣の腕を上達させる度俺を褒めてくれたなぁ」


俺に親はいない。しかも住んでいた故郷も火の海になった。死に方はどうであれそこは彼女との共通点なのかもしれない。そう話していると


「おいゴラァ!貴様ァそこで何をしている!」


という声が聞こえた。それはモヒカン頭の俺の何倍もの大きさの巨漢だった。その後ろには無数の部活と思われる男たちがいて、皆目に血柱を立てていた。


「知り合い?」


そう聞くと彼女はまた脅えた。

「あの方は私を拾った山賊の長であるゼルジェード様です。逃げてください。あの方は危険です!」


逃げろと言うが彼女の顔は絶望に沈んでいた。団長の約束を守るためにもここは引く訳には行かないな。


「おいそこのデカブツ。この子の話が確かならお前、俺たちが来てビビって逃げた山賊だろ」


「俺がビビって逃げたァ?好き放題言いやがってお前、その剣からしてベルゼハードじゃねぇなぁ?なら安心だ。俺はお前から逃げたんじゃねぇベルゼハードの野郎から逃げたんだよォ!」


と言い斧を振りかざした。斧は円弧を描きながら宙を割く。俺はティルナシアの腕を引っ張り、間合いをとった。


無数の部下は俺たちとゼルジェードを取り囲むように群がる。四方八方からの怒号と罵声。うるさいな。盗賊のひとりがティルナシアに手を伸ばす。


「気安く触るんじゃない!」


俺は部下めがけて小型炎魔法(ファイク)を撃つ。部下の体は勢いよく燃え上がり、その場でのたうち回っていた。


「その子に指一本でも触れてみろ。お前らの血であの月を紅く染めてやる」


のたうち回る部下を見てみなが武装した。だが腰が引けている。ここにいる全員が警戒心を強めた。


「ティルナシア、少し離れていてくれ。大丈夫、あんな奴に負けるほど俺はヤワじゃない。ここで君の不安と恐怖を断ち切ろう」


俺はそう言い剣を抜いた。奴に対し幻式を使おうか迷ったが最終手段としてとっておこう。巨漢は斧で攻撃をすると同時に魔法攻撃を仕掛けてきた。やつは第2世代の幻式を装着しているが使い慣れていないように思える。ならば防御は容易い。なるべくいなしながら間合いを詰めるとしよう。斧を振る姿は大振りで防御なんて考えることは無い。パワーこそ全て!と言いたそうな戦い方だった。盛りに盛られた筋肉は俺に降り注ぐ月光を妨げていた。体が大きい分、一発一発は強力なものなのだろう。だが体が大きければその分回避は難しく、刃を当てる面が大きくなるためいい的だ。


「ぬぅ、どきやがれ!」


巨漢は蹴りをかましてきた。蹴りは大振りで難なく避けることが出来た。


「次はこちらから行くぞ!一乃太刀!」


一乃太刀、防御を斜めからの強力な斬撃で崩し2連撃目を与えるが相手の体制は崩れているため2連撃は巨体に綺麗なVの字を刻み込む。


「うギィィ貴様ァよくも俺の体に傷をォ!」

「お前なんてなぁ団長の地獄のレッスンに比べれば月とすっぽんなんだよぉ!」



そう言い、2回目の攻撃を繰り出そうとしたが間合いを取られてしまった。


周りの仲間は誰一人として動こうとしない。数では優っているのだから数で襲えばいいものを。原因は長であるゼルジェードの戦い方だろう。大振りであるがために巻き込まれることを酷く恐れている。


「仲間はだーれも加勢してくれないようだが?まさか嫌われてるんですか?」



「ふん!こいつらは邪魔なんだよ!仕方ねぇお前には使わなくていいと思ったが、この幻式の力を見せてやらァ!」


そういい巨漢は幻式の力を解放した。


「俺の幻式は魔法によるバリアを形成する!これを突破出来るやつァいねぇ!」


魔法によるバリアか、これは幻式の力と言うよりかはただの障壁なんだがな。ならばこちらも幻式を使うとしよう。


「俺はお前に対して能力を使いはしない。それでこそ対等、いやそれでも上回るがな」


【幻式起動。ヒートソード展開。】


「お前には幻式の強奪、夢幻の襲撃の罪がある。それ以上に俺はティルナシアを操ったことで苛立っている。だからこそ、お前がその気なら心置き無く使える。俺の必殺技『龍轟斬』を!」


幻式を使い慣れたやつなら均等に魔力を流し込み強固なバリアを形成することが出来る。しかし奴は素人だ。魔力制御を軽んじている。ならば突破は容易だ。『龍轟斬』これは幻式のヒートソードと剣で12連撃を繰り出したあと高濃度の魔力を属性魔法に変え相手を倒す技だ。唯一ベルゼハード団長から認められた技であり、この戦況だけでなく彼女の不安を取り払える技だ。


「へ、お前がいくら切ろうが魔法の壁は越えられねぇ!貴様、あいつを守るだの不安を断ち切るだの言っていたな。貴様にそれができるのか!世界を敵に回したとしてもその気持ちは持ち続けられるのかよォ!」


「お前には分からないだろうさ。俺はこの子をティルナシアを守るとあの月に誓った!それを止めることは誰にもさねぇ!ましてや、魔力制御を幻式に頼りきってるようなお前にはなぁ!」


そういい12連撃目を繰り出すとバリアの一部に穴が空いた。すぐさま魔法発射体制に移行した。


【魔力濃度60%、中型雷魔法サレンディル発射可能です】


「強化サレンディルを喰らえー!」


サレンディルはバリアを壊し巨漢の体を吹き飛ばした。

戦いが終わるとゼルジェードの部下たちは一目散に逃げだしていた。もう俺たちに危害を加えることは無いだろう。多分。ティルナシアの元に戻ると彼女は耳を塞ぎ丸まっていた。俺は肩を揺らし終わったことを告げた。


「本当に終わったのですか?あの山賊を倒したのですか?」


「ああ。君を守ると言ったのはハッタリじゃなかっただろ?」

そういうと彼女は初めて笑顔を見せた。


「ええ。貴方は私を助けてくれるのですね」


「もちろん。俺は君の仲間だ。あと俺のことはさん付けじゃなくていい。じゃないとむず痒いからさ」


「ええ。わかりました。ゼフィス、私のことはティナと呼んでください」


彼女の中の俺の存在は少しは変わっただろうか。そう思いつつ俺とティナはテレジアに向かうのだった。


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