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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
カンレーヌ編
18/61

Time flies

「ティルナシア、回復魔法の準備を2分50秒辺りから用意しておいてくれ」


「ええ、ではご武運を」


ガルシアスは作戦を説明したあとマントを投げ捨てた。ガルシアスの体には弾丸が巻き付けられ、その弾丸し一つ一つに魔石が嵌められていた。そして腰にはリボルバーが装着されていた。


「いいか、タイムリミットは3分だ。それ以上の先送りは無理だ!」


ガルシアスがリボルバーに手をかける。


「Time flies!」


その言葉を言った瞬間地下4階を何かが覆った。なぜ彼は花の影響を受けなかったのか。それが疑問だった。だがその疑問はすぐに解決された。彼のリボルバーは幻式らしいのだ。俺たちは掛け声を聞き、真っ直ぐヤテベオへ走った。襲いかかる触手は全て足場にしていき、あっさりと間合いを詰めることに成功する。


「龍轟斬!」


俺は魔剣に雷を帯びさせ、ヒートソードを展開し、12連撃を繰り出す。切った感触はない。ただ攻撃を当てているだけという気持ち悪い感触だ。ヤテベオに傷が着くことはなかった。そう、攻撃はしているが攻撃されたことは全てなかったこといや、先送りにされているのだ。


「雷キーック!続けてファイアーキーック!」


ミホノも負けじと攻撃を繰り出していった。俺たちはヤテベオ全体に攻撃するのではなく、一点にのみ攻撃をし続けた。ティナは後ろから杖による魔法を撃ち続けていた。やはり、杖を媒体にする魔法は威力が高くなっていた。魔石による魔力の増幅と、魔法を練り上げる時にサポートがあるため使いやすく、強い攻撃ができるらしい。


「次は俺の出番だな。下がってな!」


ガルシアスは触手を避けながら距離を詰めた。攻撃を受けてもなかったかのように失速することなく走り続けた。瞬間、彼はリボルバーを3回発砲した。見えなかった。昔、ロウギヌス傭兵団にいた頃、2連同時発射を見た事があったが3連同時発射を見た事はなかった。放った弾丸は着弾すると炎を帯びたり、雷に変化したりした。魔弾だ。あの弾はリボルバーと魔石で魔法を発現させ、魔弾に変化させているのだ。俺はムスカリに魔法を帯びさせ続け、属性による攻撃をたたみかけた。もちろんヤテベオも攻撃してくるのだが、異変は突然起こった。


「ぐっ、なんだこれは」


何故か攻撃のモーションが目に映る。そしてその軌跡通りに攻撃が飛んでくるのだ。何が起こっているかはわからない。だが俺の体に異変が起きつつあるのは確かだった。俺もあの化け物ののようにるのか?そうなると嫌だし、怖い。旅が続けられなくなる。自分が自分でいられなくなるのは嫌だ。


「大丈夫ですか?」


「ああ、俺のことは心配するな! ミホノは引き続き攻撃頼む!」


俺たちは2分間ひたすら攻撃を浴びせ続けた。攻撃は全て意味のないように感じられた。だが、ガルシアス曰くこれでいいらしい。ヤテベオは触手だけでなく、生えた刺を射出してくるためそれを避けることが難しい。弾こうにも幻式の効果内では弾かれず、軌道を変えられないよだ。


「よし、もうそろそろ種明かしとするか。おいヤテベオ、耳があるならかっぽじって聞きやがれ!俺の幻式『Time flies』の能力は事象の先延ばしだ」


事象の先延ばし。文字通り起こったことを先送りにする能力だ。使用者が3分とタイムリミットを設定すれば3分間で起きた事象は全て3分後に起こる。攻撃した、攻撃を受けたなど全てだ。そして3分間で起こった全ての事象は3分経過した直後に開放される。つまり


「ぐはぁ!」


自分が受けた攻撃も全て開放されるということだ。ガルシアスは吐血をした。3分間の攻撃の蓄積が開放されたのだ。俺とミホノにも蓄積された攻撃が入るが軽微なものだ。彼の場合、能力の制御と攻撃を併用していたため、ヤテベオの攻撃を避けきれなかったのだ。


「ガルシアスさん!すぐ治癒しますからね」


「ははは……美女に直してもらえるとは幸せなもんだ」


「ゆっくりしててくれ。ヤテベオは?」


ヤテベオの方を見ると丁度全ての攻撃を受けているところだった。3分間の全ての攻撃を受けたヤテベオは悲鳴をあげていた。連続した攻撃であればご自慢の再生能力でリカバリーできただろう。だが今回の攻撃は3分間貯め続けた攻撃を一度に受けるのだ。再生能力でカバーできる領域を超えているはずだ。ヤテベオの茎は真ん中あたりで折れる。抽出機に繋がった部分は枯れ果てた。が、切り裂いて倒れた部分は触手を足のようにしながら俺たちへ突っ込んできた。これが最後の足掻きだろう。今ではどんな花の品種かもわからない。人間に無理やり変化させられ、綺麗な花をつけるはずが魅惑の花をつけてしまったんだ。せめて俺の手で終わらせてあげたい。その花を綺麗だと思った俺の手で。


「……」


一撃を研ぎ澄まし、今放てる全力を乗せる。斬ったことを認識させない。これが俺にとってせめてもの救いだ。抽出機からのLエネルギーの供給がなくなったヤテベオは再生能力を失い、そのまま黒い塵となった。


「やっと回復したぜ。ありがとうティルナシア」


「ええ、あなたのおかげで倒せたんですから、こんなことお安い御用ですよ」


俺たちは回復したあと帰る準備をしていた。ミホノは抽出機を止めるために機械類をいじり、俺たちは報告書らしきものを掻き集め今回の事件の原因を探っていた。この事件の計画は3年前からあったらしい。これは時間をかけた犯行で、実験動物も少しづつ確保していったらしい。中には職員を騙し人体実験を行っていた。ティナ曰く地下3階で見たらしい。なぜLエネルギーを投与したのか、その力の進化はどんなものなのか、その後何に使われるのかは一切記載されていなかった。


「抽出機停止完了。これにて全てのミッションはクリア。そちらはどうですか?」


「ああ、俺たちもちょうど終わったところだ」


俺は書類を全てバックパックに保管しエレベーターのボタンを押した。


「あなた、私がやった事覚えてます?」


「あ、」


抽出機を止める=電力の停止だった。


「ほんと、馬鹿ですね。なぜお姉ちゃんはこんな人を信用してるのか。謎です」


「う、うるさいわい!てか、ティナ普通に魔法使ってよかったのか?ミホノ居たけど」


「ええ、彼女は私の味方で妹?ですから」


「はてなつけないでくださいよー」


もう存在バラしたのね。だがその光景を見た俺は作戦が終わった事での安堵感と、二人の仲睦まじい様子を見て急に力が抜けた。今回、モンスター討伐での成果は抽出機停止だけではない。この計画の首謀者らしき者の名だ。報告書には「アダム」の名だけが記されていた。おそらく偽名だろうが、こいつは夢幻の中に存在している。俺がこの手で。まだわからないことが多いがこれで街は元に戻る。そう思いながら発電所を後にした。



「なあ、お出迎えご苦労なんだがこんなに手厚くなくていいぞ」


発電所を出た俺たちを待ち受けていたのは武装した夢幻社員だった。モンスターの駆除かと思ったが、それは多分違うだろう。もっと違う理由だな。


「発電所を止めてくださりありがとうございます。あなたたちには感謝しています。ですが、そちらにいらっしゃる方は私たちの敵のようだ。」


課長の指さす先にはティナがいた。


「ティルナシアさん。あなたを混血であることで逮捕並びに処刑します」


なぜティナが混血であることを知っている?仕事から帰還した俺たちを待ち受けていたのは、賞賛ではなく、絶望だった。

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