今も
今回はティルナシア視点です。
私たちは薄暗い階段を下りていった。ミホノさん曰く、この発電所は地下4階まであるらしく、最深部の地下4階はLエネルギーの掘削及び抽出を行っているそうです。
「お姉ちゃんはいつからあの馬……ゼフィスとガルシアスと旅をしてるんですか?」
「うーん、3週間ぐらいですかね?ガルシアスさんとは7日前ぐらいかな」
「そうなんですか。まだそんなに時間は経っていないのですね。お二人とも仲が良さそうでしたから。なぜそんなに仲がいいのですか?あんな馬鹿と」
あー、馬鹿って言っちゃうんだ……なぜ仲がいいのかは私にもわからない。まだ一週間しか一緒に旅をしていなくて、私自身彼のことを知らないことが多すぎる。人間に対しての恐怖心は拭いきれてない。だけどあの夜に言った言葉は。
「守るって言ってくれたからかな」
「お姉ちゃんは十分強いと思いますけど」
ミホノさんは分からない顔をした。まあ私自身まだ分からないことが多いから多くは語れない。けど彼は私の両親の次に私という混血を理解してくれた人だ。
「ではガルシアスはどんな関係なんですか?」
「ガルシアスさんは私に生きることを教えてくれた人かな」
「お姉ちゃん、闇でも抱えてるんですか?」
私は焦る顔をした。私が混血だと言うことをバレてしまったらこの場で殺されかねない。多分この子ならそこまで察しないとは思うけど……
「安心してください。お姉ちゃんには私が着いていますから」
「だからお姉ちゃんじゃないってば」
ミホノさんは目を輝かせながら言った。彼女は気づいていないようだった。良かったー、この子がいい性格で。私が混血だということがバレてしまっては彼女は今のように接してくれないだろう。そう、ルイスさんのように。あの人には悪いことをしてしまったかもしれない。私はまだこの世に受け入れてもらえない人間なんだ。
「もうすぐ地下3階です。お姉ちゃんと一緒にいられるのもあと少しなのが悲しいです……」
「けど、この場にいたら危ないですから。終わったら一緒に買い物行きましょ?ね?」
「はい!」
初めての約束かもしれない。どこかへ遊びに行くとか、買い物に行くとかの約束は今までしたことがなかった。私は混血でほかの子たちは純血。私は悪魔と罵られる存在で相手はいつも罵る側だったのだ。私は約束という物に胸が高ぶった。約束するという感情はこういうものなんだろうな。いや、私だけかもしれないな。この気持ちはずっと大切にしたいな。私が物思いに耽っているとミホノが肩を叩いた。
「お姉ちゃん、敵です」
敵?私は前を見た。そこには人の形をした何かがいたのだ。さっきのゴリラとは明らかに違う。腕も太くなく、体の大きさもゼフィスぐらいだった。モンスターたちは服を着ていた。研究者みたいな白衣を身につけていた。だが身体中に傷や欠損した部位が見られた。そして白衣は血にまみれ、顔も青白く白目を向いていた。
「ガグァルァ」
目の前に映る人達は私が住んでいた村の住人のように見えた。その瞬間私の目の前は赤くなった。彼らの叫びはただの叫び声ではない。「混血だ」「悪魔め」「ここから居なくなれ」そう聞こえるのだ。お腹あたりからなにか物体が込み上げてくる。それは段々と昇ってきて口元まで達した。
「ゔっ……かは!」
吐いた。私はなぜ吐いた?少しづつだが人間に慣れてきたと思っていた。だがそれは違った。私はいてはいけない存在だったんだ。テレジアの時は甲冑をかぶっていた分特徴は見えていなかった。しかし、今は隠すものは何もない。私はその場に倒れ伏す。「死ね」「いたぞ、殺せ……殺せ!」嫌だ。私は死にたくない。生きたい。生きたい!やっと生きる希望が見えてきたのに、いつも私の前には何かが立ち塞がる。なぜ?私はなにも悪いことはしてないのに。ただ一人の少女として生きていたいだけなのに。ただ、みんなと笑いたいだけなのに!
「お姉ちゃん!いえ、ティルナシアさん!しっかりしてください」
ミホノさんが肩を揺らす。やめてください。殺さないでください。私はただの人間なんです。みんなと一緒にいたいだけなんです。助けてゼフィス……
「……えろ」
このままじゃダメだ。みんな殺さなくちゃ。みんな殺さなくちゃ。私が殺される。どうやって殺す?『銀の翼』に頼ってはダメだ。私を害するものに頼ることになる。私は腰に着けた杖を取り出す。燃えろ。燃えろ。燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ!
「ティルナシアさん……あなたまさか」
「燃えろー!」
目の前に炎が広がった。その炎に燃え苦しむ人達。私は初めて人を殺したのだ。私の心はぐちゃぐちゃになった。罪悪感と自身の肯定が混ぜ合わさり、複雑な気持ちを作り出した。
「ミホノさん……あなたも邪魔をするのですか?」
「いえ、私はあなたの味方です。混血であろうとなかろうと」
嘘だ。みんな嘘つきだ。どうせ裏切るどうせ殺される。
「あなたも私を裏切るのですね!」
私は炎を打ち出した。それを見てミホノは回避行動をとり、攻撃を避けた。その後もひたすら魔法を連射したが全て避けられた。
「あなたが混血であるならば今まで壮絶な人生を送ってきたでしょう。先程までの言動を照らし合わせれば納得です。だが私はあなたの味方です。それは嘘ではない!」
彼女は身に付けた武器を全て外し、私に近づいた。嘘だ。みんな私にそう言って近づいてきた。その結果私を殺そうとするんだ。私の脳には「死ね」「殺す」「悪魔」など今まで言われてきた言葉が響き続けた。彼女も裏切るんだ。私は炎を杖に集中させた。そして打ち出す。彼女に向かって真っ直ぐに。しかし彼女は避けなかった。目をそらすことなくただ私をじっと見つめていた。なぜ避けないんだ。避けないと死んでしまう。私は彼女を殺そうとしている?先程まで会話をし、遊ぶ約束までした彼女を。すぐさま私は魔法を解いた。炎に反応したのかスプリンクラーが雨のように水を降り注ぐ。
「なぜよけなかったんですか」
「あなたが優しい方だと思ったからです」
私が優しい?私は人間を殺し、彼女をも殺そうとした。ただ自分の怒りに任せて。なのに何故優しいと言えるんだ。
「あなたは会った時の晩。私に有無を言わずおかわりをくれました。しかもゼフィスとの勝負の際気絶した私を看病してくれました。そんな人を優しい以外なんと言うんですか」
「それはあなたが混血だと知らなかったからであって」
「混血も純血も関係ありません、私はそれに温かさをもらいました。それはあなたが否定しようと紛れもない事実です」
私は今まで負の感情だけを周りに振りまいてきていた。ただ混血だという理由で。だが彼女は違った。混血であったとしても私に温かさと優しさを感じたというのだ。彼女は私を一人の人間としてみてくれているのだ。
「私が近くにいては煙たがれますよ」
「構いません。私の友を煙たがる人間に、興味はありませんから」
目の前は赤からいつもの色に戻り幻聴もいつのまにかなくなっていた。ミホノは私を抱き抱えて頭を撫でた。
「安心してください。ティルナシアさんには私がいると言ったじゃないですか。なにより、あなたとは約束がありますからね」
目元が熱い。あれ?スプリンクラーの水かな?目から水が溢れてくる。彼女は他の人とは違うのと思えた。ゼフィスやガルシアスさんのように私の味方でいてくれる人だ。私の世界が少しづつ広がっていく。そう思えた。
「さあ、行きましょう。早くこんなところから抜け出してお姉ちゃんとごはん食べに行きたいですし!」
私は少し前向きになれた。ありがとうミホノちゃん。