序章
「ハァ…ハァ…ハァ…」
情けなく呼吸しながら階段を上る。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
ふらつく足を叱咤し、手すりにしがみつく。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
視界はぼやけ、頭の中で騒音が鳴り響く。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
ようやくたどり着いた屋上の扉、震える手で盗んだ鍵を差し込む。
カチャッ
薄汚れた扉を開く、その動きは錆によってぎこちない。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
目の前にはフェンス、その向こう側には自由があった。
「ハァ…ハァ…ウゥ」
必死にフェンスをよじ登る。自然と上履きは脱げ、防音のヘッドホンが頭からとれる。頭の中の騒音がより一層ひどくなる。
「ハァ…ハァ…」
フェンスの外側に立ち、周りを見渡してみる。雑音だらけの頭の中とは対照的に、空はどこまでも澄み渡っていた。運動場で体育をしている生徒たちの声がここまで聞こえてくる。
「俺が死んだら両親はなんて言うかな…。まあ、あの人たちは喜ぶだろうな。なんせ俺は怪物だから」
俺が考えていると、にわかに運動場が騒がしくなってきた。どうやら俺が屋上にいることに気づいたらしい。彼らの動揺、焦り、そして少しの好奇心が徐々に騒ぎを大きくしていく。しばらくその様子を眺めていると誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
「明智!そこで何している!」
俺は小さくため息をついた。よりにもよって体育教師の佐々木がくるとは…。
「何って…、見ればわかるでしょう。飛び降りようとしているんですよ」
「馬鹿なことはよせ!そんなことをしても何も変わらないぞ!先生が話を聞いてやるから、こっちに戻ってこい!」
俺は思わず顔をゆがめた。佐々木の言葉は聞くに堪えないものだからだ。
「先生のことを信じてくれ!お前の力になることができるぞ‼」《何してやがんだよこの馬鹿は‼俺が自殺を止められなかったら俺の責任になるじゃねえかよ!自殺したいなら勝手に一人でやってろよ‼》
俺は大きくため息をついた。自己保身にまみれた男が何か言っているが、もはや聞く気はない。下に集まってきている生徒たちの声を聴いてみる。
《あれって確か明智ってやつだな。何してんだあんなところで》《まあ、あいつが死んでも別にいいか。俺には関係ないしー》《彼いっつも一人だったもんね、カワイソー笑》《何であいつに時間を取られなきゃいけないんだよ》《えっ!マジで飛び降りるつもりなの。うわやっべ!人が飛び降りるところ初めて見るわw》…………………
俺は吐き気を必死にこらえた。人の本性の汚さ、醜さ、その負の声はいつになっても耐えられるものではない。だから俺は終わることのない苦行を、理不尽な拷問を終わらせる覚悟をした。下をのぞき込むとそこには誰もいない。後ろからの雑音を無視して、俺は屋上から飛び降りた。
こんにちは、作者の食い倒れ達磨です。
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