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二人だけの野原

どもども! サイコロステーキが食べたいサトマロです!

この度イラノベ様主催者のWeb小説大選挙にこの作品が参加させていただくことになりました!

上位目指して頑張ろう!

昨晩再び怪奇現象が起きて眠る所の話では無かった信夫は充血した目を擦りながら熱いお茶を(すす)る。


 「信夫や、夜更かしはいけないよ? 人間は朝起きて夜寝て朝起きる、その繰り返しだからね」


 祖父が呆れたと言わんばかりの声で信夫に注意をする。


 「うん」


 とだけ言葉を発する信夫、頭の中には 眠い の二文字しか浮かんでなかった。そしてカクンと体制を崩してお茶が入った湯飲みをひっくり返してしまう。


 「ばあさん! 台布巾!」


 祖母が小走りで台布巾を持ってきて台を拭く。そして信夫の頭に軽くげんこつを落とす。


 「顔でも洗っといで!」


 げんこつの衝撃で少し眠気が覚めた信夫、蛇口から流れる水を手の器に貯める、その水は夏場にも関わらず肌にチクチクとした痛みを与えるほど冷えきっていた。


 顔に浴びせると


 「冷てっ」


 その言葉が溢れる頃にはもう瞼がはっきりと開いていた。


 その時


 「キュウリ姉ちゃーん!」


 と、子供達のつんざくような甲高い声が食堂に居る4人の耳に響き渡る。


 「はーい」


 と、返事をする千尋が玄関に急ぐ。


 信夫は微塵の興味も示さずキュウリの糠漬けをおかずに米を口に運んでいた、すると千尋が


 「師匠、脚立借ります」


 と、一言告げると


 「はいはい、気を付けるんだよ」


 と、祖父も一言。


 脚立なんて一体何に使うんだ? そんな事を考えると残りの米を一気に掻き込み千尋の後を追いかける。


 外に出ると佐々木家の屋根に引っ掛かっている小型ラジコンヘリ。子供達はこれを取ってほしかったらしい、「脚立は登り慣れています」と、言わんばかりに素早く登る千尋はラジコンを取るや否や


 「ガキんちょー! 返して欲しければひれ伏しなー!」


 なんて大人げない女だろう…… 子供達も大声で文句を言い放つ。


 「お前ら、脚立片付けちまうべ」


 と、信夫が言うと子供達は一斉に脚立に群がる子供達。その姿はまるで獰猛な肉食獣が食べ残した死骸に群がるハイエナの群れ。


 「バーカバーカ!」


 と挑発する子供達に待っていたのは例えるならばアンゴルモアの化身だろうか。平屋だったからと言う事もあり、まるでブロック塀を降りるかのように屋根を降りる。そして豆粒より少し大きく見える位遠くまで子ども達を追いかけ回す千尋。

  

 「あ、一人転んだ」


 仲間から置いていかれる可愛そうな子供1号……


 すると一人の少年がこちらに向かって走ってくるのがわかった。正樹であるビニール袋を片手に走ってくるのが確認できた。


 「しのぶー!」


 と、叫ぶ正樹はあっという間に信夫の元へ到着した。


 「やるよ」


 と、一言。


 「何これ」


 ビニール袋の中身を確認すると魚が4匹


 「釣ってきた、塩焼きにすると旨いぜ?」


 信夫は「ありがとう」と、伝えてそれを受けとる。


 「それよりもさ、クワガタ捕まえにに行こうぜ」


 こいつ忘れてなかったか…… そんな嘆きを心の中で呟く信夫は


 「い、いいぜ? オオクワガタ捕まえようぜ」


 祖母に魚を渡した信夫達は山に入る。その山の空気は少しカビのような臭いがするが緑が生み出した新鮮な酸素で胸がスカッとした。


 木の根本を掘ってみたり、ウロの中をスマホのライトで照らして覗いたり、そんなことをしてみるが集まるのはコクワガタやノコギリクワガタ、カブトムシ等の都会でも少し自然のある場所に行けばお目にかかる事が出来る様な甲虫のみだった。


 「まあこんなもんさ」


 と、正樹が言うがやはりウジャウジャ動く6本足は気持ち悪いとしか思えない信夫だった。


 「こんなに集めてどうすんの?」


 「油で揚げて食べる」


 信夫はマジなトーンで


 「え、キモ……」


 と、言ってしまう、すると正木が


 「バカかお前、イナゴじゃねぇんだぞ?」


 二人は笑いながら山道を降る


 イナゴじゃないんだぞ? と言う言葉は必死に聞かなかった事にしようとする信夫だった。


 結局捕まえた虫は全て逃がし、二人は野原でねっころがっていた。


 優しく、弱く吹く風は収まっていた眠気を誘い、自然と目を瞑ってしまう信夫、すると正樹が


 「お前んとこのキュウリ姉ちゃん、さっきガキンちょ追いかけ回してたぜ?」


 「ああ、屋根に引っ掛かったラジコンヘリ取ってやってるのに脚立を奪ってゲラゲラ笑ってたからその報いだね、脚立奪うって提案したのは俺だけど」


 二人の大きな笑いは風に乗ってどこまで届くのだろうか、回りの迷惑にならないだろうか、そんなことを考える必要はない。なぜならこの広く壮大な野原と大空は今、この瞬間だけは二人だけの物なのだから。


 少し離れた所にラジコンヘリが飛んでいるのが確認できる。子供たちが千尋からラジコン本体を取り返して遊んでいるのだろうか。


 いや違った。千尋が子供達を差し置いてラジコンで遊んでいるだけだった。


 信夫達は千尋達の元へ移動する。すると子供達が


 「兄ちゃんどうしてくれるんだよ! ラジコンを奪われちゃったじゃんか!」


 「待てって、俺はただ脚立を片付ける事を提案しただけだろ?」


 「知るか! このままじゃ電池が無くなっちゃうよ!」


 確かにそうだ、そう思った信夫は千尋に


 「返してあげたらどうですか?」


 しかし千尋は


 「あと5分」


 これは絶対返す気無いな、そう感じた信夫はラジコンのリモコンを奪い子供達に返す。


 そして今度は信夫が標的になったのだ。


 佐々木家のキュウリ畑まで追いかけられた信夫、すると千尋が


 「あ、やっべ」


 と、一言、もう祖父は仕事を始めていたのだ。


 「千尋さん、仕事の時間は守らなきゃいけないよ?」


 「はい、すみません」


 「さすがの千尋も師匠には頭が上がらないと言う訳、か」


 そう呟く信夫も畑仕事を手伝うのだった。

子供の頃自然公園とかに行って空を見上げると

この空は自分だけの物、そんなことを良く思っていたのですが皆さんもそう言う覚えはありますか?

行こうと思いついた週の土日が曇りとか雨だったら絶望していました。

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