第99話 ヒーロー真拳
ーー俺は自分の体を『触る』
自分の腕で体を触って確認する、全身を触る、顔も触る。いつも見上げていたアイナたちが俺を見上げている。そんな俺を見兼ねたジゼルが氷の鏡を作って俺に渡してくれた、そこには。
現代の俺がいた。
全裸だ、筋肉だ、正装だ。筋肉というタキシードをピッチリと着こなしている。
信じられないと感じるよりも、この体が目を覚まさせてくれる。これ以上ない説得力だ。頭がハッキリと覚醒する。身体が、この世界全てを理解させる、全ての感覚が研ぎ澄まされ、原子一つの動きすら容易く把握する。そんな筋肉たちは俺の命令を待って、静寂を保っている。鍛えられた髪も逆だっている。胸筋を撫で下ろす。おおぅ、いえす。あーしー。
「ふぅ……おぅふ、うぅ、ふぅ……」
この高揚感、紛れもない、この身体は本物だ魂の完全実体化のような脆弱な顕現ではない、完全な俺だった。ギアが舌打ちした。
「キメェな、それがお前の本当の姿なのか」
「ああ、もう『大丈夫』だ」
「何言ってやがる、あいつはまだ生きてるぞ」
「いいからいいから俺がやるから、ギアは、いや皆はそこで寛いでてくれ、本当に世話になった」
「バーガー様……」
「あ、アイナ」
この身体に恥ずかしいところなんて微塵もないが、ハンバーガーの愛らしい姿からは逸脱してしまっている。全てお見通しのアイナさんとはいえ、可愛いアバターの中身が筋肉だった、それはネカマじみた凶行だ、ショックなはずだ。でもまずは。
「食べてくれてありがとう」
「すごく美味しかったです! でも私だけで食べちゃったので、次はみんなで!」
上目遣いで少し緊張している様子のアイナだ、赤面して時折俺の下半身を見ている、足腰の筋肉が気にいったのかな?
「どの部位の筋肉に見惚れているんだい? 言ってごらん」
「い、いえ、その、ほら、そこ……」
エリノアが頭をクシャクシャとかき「あーもう!」と叫んだ。
「ちん〇隠しにゃさいよ! ちん〇! にゃんで〇んこ出してるの!」
「そうか! 異世界ではそうか!」
「バカが俺たちの世界でもだ」
もしかしてギアと俺は別の世界から来たのかもしれない。
「で、ここの守りはどうするつもりだ、やつは甘くねぇ、上で戦えば下が守れねぇぞ」
「ん? それも俺がやるよ」
「あ? ワンマンチームじゃねぇんだぞ」
「知ってるけどさ、それくらいなら俺一人でも出来るしー」
「自信過剰か?」
「いやマジだって、大丈夫だってホント、マジで、いける気しかしない」
「ギャハハハハハハッヒーーハーー!!!」
イズクンゾの声だ。
「たった今! 俺様は無限の平行世界を喰らった! 概念の存在に上り詰めた! 俺様という新しい理の誕生だ! もう誰にも負けることはねぇ!」
「うし、じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
アイナたちに見送られ俺は筋肉ワープ(ただ移動しただけ)する、一瞬で宇宙空間に降り立った。
「あーん? てめぇ、生身で宇宙空間に晒されてなぜ平気なんだ、魔法を使ってるわけじゃねぇだろぉ?」
「俺のいた世界にはそんな概念なかったからな、ただの無酸素運動だ、別段気にすることでもないだろう」
「岳人よぉ、勝ち誇った顔してんなぁ? 俺様はお前の世界も食ったんだぜ?」
「ならわかるだろ、俺には勝てないぞ」
「はん、この巨大な俺様にどう勝とうってんだぁ!!」
宇宙の外から声がするな。ああ、なるほど、この空間も嘘偽り、やつの一部というわけか。
「ほんじゃまぁ『外』まで行くか」
筋肉ジャンプする、空間を突き抜けて宇宙の外側にでる。
「やっと見えた」
めちゃくちゃデカイな、頭が見えないとかそういうレベルじゃない、細胞一つだけでも見切れている、いや、やつに取っては原子の一部の一部の一部、エトセトラというわけか。
「ギャハハハハハハ! これだけデカくなりゃあよぉ! 俺様を攻略することなど絶対に不可能だぜぇ!! そして平行世界を食らいまくったお陰で今の俺様は異能力、魔法、その他諸々、全てを手に入れた! 超能力での戦いにおいても負けることは決してない! 大きさこそ強さだぜ!」
「そんなに俺が怖いのか?」
「挫折を知らないのは怖いなぁ!! 岳人ぉ!!」
空間が歪む、この宇宙ごと俺を引き裂くつもりか。力んでアイナたちの星の辺りを守る。そして俺自身は別に防御する必要はない。
「んあ!?」
「空間が切れたとしても俺が斬れるわけないだろ、俺の筋肉はすでにキレッキレなのだから!」
「ギャハハハハハハ! ヒハ!! 切断されたという概念をくらっても平気なのか? まさしく女神の最高傑作だなぁ!」
「違うよ、いちいちビックバンに感謝するか? 筋肉を鍛えたのはこの俺だ、こっちも行くぞ!」
力を貸してください、俺の、俺の英雄たち!
「無限はよく分からんからできるだけたくさん……」
「は?」
腕に力を装填。釘をイメージ。うし! 一発目いくぞ!
「無限釘パンチ!!」
「!!?」
ズドドドドドドドドドドド!! っと空間に大穴が空く。イズクンゾの足を粉砕した。
「なんだぁ!? 今ので無数の宇宙が壊れたぞ!! いや壊れ続けている!? この技はなんだ!」
「ヒーローものの作品を見たあとって技の真似するだろ? それだよ」
「お前、人間じゃないぜ、岳人!」
「俺は人間だよ、紛れもなくな。そろそろ目線を合わせて戦おう、パンプアップ! でや!!」
体に力を入れる。正直ここまでパンプしたのは初めてだ、身体は光速を超えて巨大化する。一瞬でイズクンゾの背を超えて大きくなる。見上げるイズクンゾが驚愕の声を上げる。
「バカな! 無数の宇宙を束ね、それらを無数に束ね、それを永遠に繰り返しているというのに!!」
「うーむ、どんどん大きくなるなぁ、俺に限界はないのかもしれない、天井知らず、否、天井を破り続ける! この逞しき筋肉で!」
「チェリオ!!」
またしても時空を裂く攻撃だ、まったくそれだけで幾つの宇宙を無に返しているんだか。ふむ、筋肉たちはいつにも増してキレている、受けなくてもいいや。
「くくく! 時間停止だ!!」
時間が止まる。複数の異能を組み合わせ(ブレンド)しているな。
「これは時間停止に耐性のあるヤツも止められる技だ。あのMAXソードのやつよりも強いぜ」
「やれやれだぜ」
「バカな!!!?」
「筋肉が俺の意思以外で止まるわけがないだろ!! スタープラチナ!」
「ぐ!! 絶対防御空間!!」
イズクンゾの身体がカチンコチンになる。これは。
「ぎゃはは!! ただの硬質化じゃないぜ、破壊不能オブジェクトと化した! 固定する異能など、無数の防御系の異能を組み合わせてやった! もう俺様にダメージが通ることは未来永劫ない!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ」
「グベラボゴラギャグアバラベルボルガラナギャグピャグズアプァポーーッ!?」
ドゴドゴドゴドゴドゴとイズクンゾをひしゃげさせていく。
「バ、バカなーー!!!」
しかし傷ついたイズクンゾの身体が元に戻る、ノンフレーム回復だ。
「ダメージを虚構にしたぜ!」
「ゴムゴムのぉ〜」
「なっ」
拳をさらにパンプアップさせる(必要ないが指を咥えてみる、雰囲気がでた)。武装色の覇気はなんかよくわからんからめっちゃ力むことで再現する。おお、大きくなったな、もうサイズ感がよく分からないが、今一番大きいのは俺のこの拳だ。
「ギガントピストル!!!!」
「ぐッはぁ!!」
イズクンゾの身体が小さく見えるほどの拳を叩きつける。無敵なんてなんのその、力ずくで吹き飛ばす、イズクンゾが通過したあとの虚無空間に宇宙の花が咲く。花火のように美しい。
「綺麗だな、この光景アイナにも見せてやりたい」
「はぁはぁ、まだだぜ、俺様は全然負けてないぜ!」
「衝撃のぉ……」
右拳を掲げて握る。人差し指、中指、薬指、小指、そして親指と、順番に。それを見たイズクンゾは両腕をクロスさせてガード形態をとる。先程よりも強力な防御体勢だ。よくやるね、だが!!
「ファーストブリットオオオオオオオ!!!!」
ヒット、空間が歪む。
「ぐぎゃあ!!」
吹き飛ぶ。アルター使いじゃないからただの右ストレートパンチなんだけどな。
「にしても頑丈なやつだな、よく鍛えてる、何事もしぶとさは大事だもんな」
「ぶち殺してやるぜ!!」
大口を開ける、口の中から出てきたのは魔王砲だ。このよく分からん空間ごと焼き尽くすつもりか。
「ならば使う他あるまい」
拳に力を込める。
「最初はグー!」
念を使えるわけじゃないから。
「ジャン! ケン!」
またしても。
「グー!!」
ぶん殴るだけだ!!
ジャジャン拳の前には、魔王砲は踏みとどまることすら叶わずにかき消される。うむ、やはり素晴らしい技だ。これも殴っただけだが、力も気持ちの込め具合も常時ベスト更新中だ。イズクンゾの身体が大きく仰け反る。
「か、か……」
膝をがくつかせている。
「ブラフはやめな、早く来いよ」
「確殺の槍!」
俺たちのサイズ感にあった確殺の槍が無数に出現する。
「それ一生に一度とか言ってなかったか?」
「その縛りすら俺様は克服したんだぜ!」
「そうかい、いいよ来なよ」
「やれ!!」
槍の雨だ。ぶっといなぁ。刃物か、ならばこちらも!
「卍ッッッッッッッッッッッッッ解!!!!」
「は!?」
「足腰強過ぎ金色筋肉地蔵!!」
コツは漢字をとにかく沢山並べることだ。
「月牙天衝!!!!」
もはや剣すら使わない、ただの素振り、エア月牙天衝だ。しかし俺がそれを真剣にやるとどうなるか。
結論。
"起こる"
無数に迫る超巨大確殺の槍をエア月牙天衝が粉砕する、無機物にだって俺の渾身の一発芸は届くんだな、当たり前のことだが。
「呪いの槍が!?」
「呪いがなんだ、こっちは筋肉だ!」
残った超巨大確殺の槍を掴むと自分の胸に当ててみた。まぁ、無傷だ。
「俺の細胞一つ殺せない軟弱な槍だ、人を呪う暇があったら一回でも多く腕立て伏せをしたほうがいいに決まっているだろ!!」
「ギャハハハ!! おー、強い強い、恐ろしいぜ、ならこれならどうだ!!」
「やってみろ!」
しかしイズクンゾは動かない、ただ笑っている。
「まさか」
「いま過去に刺客を送った、過去の弱い時のお前か、胎児の状態か、そもそも産まれないようにして存在を抹消してやる!」
「なんだ、そんなことか」
「あぁー? そんなことだとぉ?」
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過去。
高校生時代の番重岳斗、忌まわしき事件の日。イズクンゾがボロ雑巾にされて校舎から投げ飛ばされた。
「げほー!! な、なんだぁ!? こいつ暴れ回ってやがる! この時点で俺様より強いぃ! もう少し過去に行くしかねぇ!」
中学生時代の番重岳人。
「ガキが、いきなりだが死ねぇ!!」
「やだ! なに! こわい!」
中学生岳人がイズクンゾを弾き飛ばす、技あり、突き出し一本だ。
「つ、強すぎるー! こいつマジで、ダメだ、次はーー」
失敗。
「次はーー」
失敗。
「まぁいいぜ、もう親を殺してやるぜ!」
「そこまでだ」
「あ!? な、なぜここに、ここは過去だぜ!?」
現代の番重岳人がいた、しかし別の時代の岳人だ。
「ん? いや過去が五月蝿いから来てみただけだが?」
「そんな隣の部屋がうるさいから注意しに来たみたいなノリで」
「分かってるじゃあないか、なんかよく知らんキモイ糸おばけめ喰らえ、五月蝿い隣人を黙らせる壁ドンパンチ」
「ギャッ!!」
消滅した。
「ふ、未来で何かあったな? ま、俺は、俺たちは、過去だけを守っていればいい、未来にも俺はいるのだから!」
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「ちぃ」
「俺という存在が、俺という筋肉が、努力が、情熱が、信念が、そんなことで潰えるはずがない、ここに至る全てが俺であり、過去の俺が俺を支え、現代の俺が未来をこじ開けるこの逞しき上腕でな!」
「時間停止も、存在抹消も、概念操作も受け付けない、全知全能かぁ?」
「否! 断じて否! 俺は全知全能では無い! 全身筋肉だ!」
「全身筋肉ねぇ、ならよぉ、これならどうだ!」
イズクンゾの身体がパンプアップしていく。
「岳人ぉ、お前を超える能力がねぇならお前になっちまえばいいってことだろぉ? おお? 俺様も努力だけはお前に負けねぇ自信があるぜ!」
「よく言ったな、その気持ちが強い筋肉を作る、高級トレーニング設備や上質プロテインサプリが筋肉を作るんじゃあない、確固たる強い意志が何よりも必要なんだ、それがなければ筋肉は答えてはくれない、筋トレとは自身との対話だ、ストイックになるべきだ、そして互いを称え合う、筋肉は俺であり友、細胞との語り合いだ、わかるか? 殴りあった人達が翌日は友となり打ち解けるやつと一緒だ! ……それに俺も今の俺の限界に興味があった! ふん!」
俺も負けじと更なるパンプをアップする。筋肉が温まってきた。
「筋肉に後退はない成長するのみ、全速前進だ」
イズクンゾもそのことに気づいたようだ、敵ながらあっぱれだ。いずれにせよ強者たちはこの答えに辿り着く、筋肉、強大さこそ全て、パワーオブパワー。
「|筋肉こそ俺であり俺は筋肉だ(I'm the muscle. I'm the muscle.)」
「いくぜ岳人! 悪いのはいつだってこの俺様! イズクンゾ・ダークロード様なんだぜーーッ!!」
とっ組み合う。それだけで衝撃波が凄まじい。
「ギャオオオオオオオオオッ!!」
「中々のパワー、ナイスマッスル、前々から思っていたがその漆黒線状魔力、筋繊維に似てるよな。ほらやっぱり筋肉じゃないか」
「ギャハハ! これならどうだ!」
イズクンゾの身体がさらに膨れ上がる。この規模から更に、か。それに膨らみ方がおかしい、パンプアップというより、これはまるでヤケクソセルの爆弾……
「まさか!!」
「悪意の大虐殺!!」
逆ビックバンで終わらせるつもりだ。
「ただの爆発じゃないぜぇ、この爆発は全方位、全次元に干渉している、防ぎ切るのは不可能だぜ!」
今ある全てを滅ぼさんとする、最悪の爆弾がここに生まれた。エネルギーの膨張の最中。その刹那の一瞬とも呼べない短い時間、否、止まっている時間の中で俺はすでに構えていた。
「かーーーーーーーー」
両腕を腰に落とし、手のひらに力を溜める(という気持ちで)
「めーーーーーーーー」
「はーーーーーーーー」
「めーーーーーーーー」
「波ーーーーーー!!!!!」
突き出した手のひらからはなんにも出でてこない、あくまでも真似だからな、しかしーー
『起こる』
「ば、バカな!! ぎ、ぎゃああああああ!!!!」
イズクンゾの爆発を粉砕する。
「ば、馬鹿な……」
「再生ご苦労さん、満足したか?」
「いいや、だがこれで『最後』だぜ、俺様の全身全霊をもってお前をぶち殺すぜ!!」
イズクンゾの身体が変形していく。外骨格がバキバキと膨れ上がる。これは……
「『最悪の大魔王』」
それは魔王城型の巨大ロボットだ。
「ここまで俺様を引き上げてくれてありがとうよぉ、張り合う相手が必要だったんだぜ、噛ませ犬ちゃん。これほどの力、外なる神どもすら超えたこの力、まずはお前のその筋肉に味わってもらうぜ!!」
胸の部分が開く、巨大な大砲、あれが主砲か。
「『大魔王砲』ってんだぜ、こいつぁ破壊するものの強大さも強度も、耐え生きるための全てを無視することが出来る最悪兵器だぜ! 物理的な破壊力も、この未来永劫に束ねた宇宙の因果すら壊し尽くす、なぁに岳人の魂は俺様が吸収してやる、肉体もそれよりは劣るが用意してやるよ、俺様は強欲だからな、全てが手に入らなきゃ盤上を喰らうまでだぜ!!!!!」
ふぅ、やってみるか。
「必殺マジシリーズ」
拳を構える、ギュッと握る、美しいフォームで一直線に殴る。
「大魔王砲発射!!」
「マジ殴り」
ぶつかり合う力と力、しかしエネルギーの鍔迫り合いは起きず、力の方向性は一方的にイズクンゾに向けられた。ロボットイズクンゾのボディに風穴が空いた、切り札の大魔王砲も消え去った。
「がふっ……」
跪く、ロボットイズクンゾの口から漆黒線状魔力が黒煙となって溢れる。
俺は拳を握りしめギリギリと音を立てる、そして地面(空間)を叩き跳躍、回転して飛び蹴りの構え。喰らえ。
「ライダーキック!!」
「ぐああああ!!」
爆発、連撃によりロボットイズクンゾの力が小さくなっていくのを感じる。が、止まる、そして再び増大する。
「負けてたまるかよォ!!!」
瞬く間に再構築、巨大化していく。また破壊できないほどでかくなろうとしているな、底なしの顋に俺のぶっとい拳が収まりきるかな?
「大技いくぞ!」
俺は拳を構える、クルクルと手首を回転させる。イズクンゾは大口を開けて俺を飲み込もうとする。
「ギガァ……」
「ドリルゥ……」
「ブレイクウウウウウウウウウ!!!!(ただのコークスクリューパンチ)」
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
イズクンゾを粉砕した。
「やったか!? これが終わったら俺は、アイナと挙式を上げるんだ。これからは真っ当に筋トレして慎ましく生きていくんだ」
パンプアップしていた体を元に戻す、こうして戻っていくと俺がどれだけ大きなスケールで戦っていたかがよくわかる、我ながらここまででかくなれるとは思わなかった。宇宙を無数に束ねたものを無数に束ねたものを無数に束ねたものを……言うのも馬鹿らしくなる。それすらも踏みしめて戦っていた。戦いの最中でも何度も巨大化したし、俺の筋肉は限界知らずだな。イズクンゾも自他ともに認める悪いやつだが、今回は相手も悪かった、俺という筋肉を相手にしたのがそもそもの間違いだった。
アイナたちの星の辺りに戻る、まだ宇宙空間だが問題ない、宇宙遊泳はマスターした、真空を漕ぐ感覚に慣れれば造作もない。宇宙の様子は、うむ、防御7割、攻撃3割で気を配って戦っていたからこの辺りは無傷だな。
「さて、どうする?」
力なく漂っているイズクンゾに聞いた。あいつのサイズも戻っている。能力を使うだけの体力がもうないんだろうか。
「スーの力に助けられたな、上手く言えないけどお前がどれだけ酷いことをしようと、そうして生きてこられたのは、今までに奪ってきた人たちのお陰なんだぞ」
「なぁ、全部返さないか? そうすればまだやりようはある、俺はイズクンゾの努力は認めているんだ、方向性が悪かっただけで、俺と張れるやつなんてそうはいない」
現に俺に勝てるのなんて女神くらいなもんだ、今でも転生トラックが来たら100台くらいは打ち返せるかもしれないが、それでも殺られるだろうしな。俺の次に強いのがイズクンゾだ、ここまでは不動かな、まぁ俺は小さな世界で生きてきたから当てにはならないな、チート転生者たちもいるし。
「……ギャハハ」
「まだ笑えるのか、それとも笑うしかないのかどっちだ?」
「悪手か、死んだフリで誤魔化すのもダメかよ」
「俺はあんたの悪さを信じている、あんたの強さを信じている、だから生きている」
「ギ、フフフ、俺様は到ったぜ」
「ああ、なんか『仕上がってる』な」
俺という筋肉に叩かれて鍛え上げられた刀のような……あ、そっか。
「『行く』のか?」
「俺様はな、和解なんて笑えないオチは望んじゃいねぇんだぜ。全て奪う、それだけが俺様の生きる意味だぜ!」
イズクンゾの身体がほどけていく、漆黒線状魔力が魔法陣を描き出す。
「魔法か、やっぱりこの世界の道理が好きなんだな」
「ギフフフフ、そんな感情は微塵もねぇぜ、ただ使い勝手がいいってだけだぜ、邪魔しねぇのか?」
「別に、物好きだなとしか言えないな」
マジで理解出来ん、よりにもよって好き好んであそこに行くなんて。でもまぁ門出だ。背中を押してやろう。
「行ってこいよ『女神のところ』に」
「ギャーーーーーッハハハハハハハハァーーッ!!」
あの魔法陣は超高度な転移魔法だ。女神の真白空間に到る、超魔法を超えた超魔法。超魔『王』法。
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「……ここが、女神の住処かぁ」
イズクンゾは白に覆い尽くされた場所に超転移した。当たりを見渡す、人がいた、否、人型の何かがいた。
イズクンゾにはそれが何か理解出来た、あれこそが世界を作った絶対神、全知全能、無敵無敗の、
「女神かぁ?」
無粋な質問をしたことに気づいたイズクンゾは、ハッとしてその上がった口角をさらに歪ませる。尻込みしている自分に驚きを隠せなかった。あの恐るべき筋肉の化物と対峙したときでさえこんな感情は抱かなかった。
女神から反応はない。
「ギャハハ、そうだよなぁ! 俺様は挑戦者だぜ! 物怖じくらいするぜ! しかしそれもこれまでだ!」
イズクンゾの身体がムキムキになっていく。
「岳人に鍛えられたこの身体は、万物最強の強度を誇るに至った。加えてその特殊能力の数は数えるのすら馬鹿らしくなるほどまでに増大した、ふ、今の俺様は全てが思うがままなんだぜ!」
女神から反応はない。
「あの八百万の神とか、外なる神を作ったのも女神だろう? 神の中の神、いや唯一神、他の神は所詮神を名乗るだけの贋作、劣化コピーというのも烏滸がましいぜ!」
女神から反応はない。
「しかしだ、今の俺様なら、女神を食うだけのパワーがある! お前を食って俺様が神を超えた王になるぜ!」
女神から反応はない。
「神を超えた王、神王! 神大魔王! なんていい響きなんだぜ! じゃあ早速頭から頂くぜ!!」
イズクンゾが飛びかかる、女神が苛立った様子で目も合わせずに言った。
「なんじゃうるさいな! テレビは置いてないのじゃ! 受信料は絶対に払わないぞ!」
『パチンッ』
「ギャアアアアアア!!?」
女神の指パッチンを受けたイズクンゾが弾けた、一本の漆黒線状魔力のみとなる。
「ば、バカなーー!!」
「宗教の勧誘も結構ですと言ってるじゃろう!」
「ぐええーー!!」
グリグリと踏まれる。
「息子もおらん! 交通事故で示談金なんぞもってのほかじゃ! ていうかそれ詐欺じゃろ! 引っかからんぞ! 余は詳しいんじゃ!」
「ギャア!! ギャア!!」
ドンドンと踏む。
「ち、違う、俺様は俺様だ!」
「なんじゃ? 違うのか、うわなんじゃこいつ、きっしょいのぉ!」
小さくなったイズクンゾをつまみ上げる。イズクンゾの持っていた恐るべき権能の数々が、あの指パッチン一発で剥がされたことを理解した。もちろん能力を奪われたり無効化されたりすることに対しての耐性も無数に施してあり万全のコンディションだった、たとえ無効化を無効化するといった、そういうものが無限に繰り返されようとイズクンゾの特殊能力の数々は止められない代物に至っていた。不造作に選んだスキル一つだけでもラスボスを張れるほどに強力無比だった。
それをほんの一発の指パッチンで剥がされたのだ。
「なんて虫じゃ? どうやって入ってきた? んー? あ!」
逆さに持つと上下に振った。
「やべろやべで! でる! ながみが!!」
「ほれほれ出せ出せ!」
「ぐええ!!」
吐いた、吐瀉物は煌めいている。どんどん山積みになっていく。いままで蓄えたものが失われていく。
「ああああああああ!! 俺様の!! 全部俺様のものなのに!!」
「おったおった」
女神は一欠片の羊羹を拾う。
「お主の力か、スーよ」
羊羹は人型になる、不滅龍、スーサイドドラゴンが現れた。
「そうなのスーなの」
スーは悲しそうな顔をしている。イズクンゾが目を丸くして叫んだ。もういつもの余裕はない。
「なぜ出てこれたぁ!? 完全に取り込んだはずだ!」
「スーはスーなの、イズクンゾに僕を押さえつける力は残ってないの」
イズクンゾは歯噛みする、ギリギリと、ギリギリギリギリと、羨ましそうに。女神がいつの間にか持っていたスリッパで引っぱたいた。
「ぎゃあッ!」
「五月蝿いぞ、殺虫スプレーどこいったかのー? こういう時にしか使わんから、あれで殺したいのじゃ」
「やめるの!」
「あー? なんじゃスー、いつから余に命令できるほど偉くなったんじゃ?」
「命令なんかしてないの、ただ可哀想なの」
「ふうん、可哀想、これがか?」
「そうなの、イズクンゾはすごく可哀想なの」
「その顔、なーんかもの悲しげな顔じゃ、意味深顔じゃ、ムカつく、スーよ、ここまでの未来を見ていたじゃろ」
「なに?!」
「虫は黙っとれ、これを哀れんでいた、ずっと回避する方法を模索していた、そうじゃな?」
「そうなの、イズクンゾはバーガーに負けるの、全部欲しいのに最後は全部奪われちゃうの、止めても止めても、いくら考えても、どの未来でもイズクンゾは諦めずに進み続けるの」
「なら、宿命じゃ、本来この領域に来れるものは余が呼んだものか、貴様くらいじゃ。それ以外は勝手に入ってくる侵入者じゃ、まぁそれも数えるほどしかおらんがの、この程度の間で随分と難儀するらしいからな、ふふん。そして招かれざる虫は総じて余に潰される運命を背負っておる」
「許してあげて欲しいの!」
「なぜじゃ? 意味がわからぬな、可哀想だからといって、これは貴様に酷いことをするばかりか、大切なものも奪ってきたじゃろ」
「……そうなの、たくさん痛いことされたし、たくさん奪われたの、でも最後はここでこうなるってわかってたの、……うぅ、わかんないの! かわいそうなの! 弱いものいじめはダメなの!」
「俺様が……弱い……だとぉ?」
「そうなのイズクンゾは弱いの! すっごく弱いの、情けないの、雑魚なの、笑い方がキモいの、弱すぎるから他から奪って、奪って、それでも弱いから奪い続けて、奪う相手がいなくなれば弱いとかなくなるからって、ずっと、ずっと、どこまで行っても孤独で、だから不安だったの!」
「なにを知った口を! 俺様がそんな惨めったらしい感情でここまで来たと言うのかよぉ!」
「そうなの、それだけで来ちゃったの、イズクンゾはここで散る気だったの、ぼく自殺龍でもあるからわかるの、イズクンゾは死に場所を求めていたの、自分の性に逆らえないほど弱いから、ならこの性を粉々に粉砕してくれる絶対強者に踏み躙られたかったの、最強に負ければ強いか弱いか、有耶無耶になるから」
「なにを……なにをバカなこと」
「イズクンゾの夢は絶対に叶わないの、どんなに頑張ってもそれだけは叶わないの、知ってるはずなの、でも諦められなかったの、それがイスクンゾだから、叶えるまで満足出来ないの、この強欲の悪魔!」
イズクンゾの身体から力が抜けていく、女神が笑った。
「ぷぷぷー! バーガーサイドの行く末を憂いあんな顔をしとったと思っとたったが、まさかこんな糸くずに同情していたとはな! この糸くずが一番バカにしていたのはスーなのにのぉ! ぷははははははは!! ぐぷぷ! 弱い弱い言われてやんの! 見下してた相手に情けを掛けられる気分はどうじゃー?」
「笑っちゃダメなの、誰でも間違いは犯すの、そしてまだ取り返しがつくの、これを返せば」
スーは胸に手を当てた、光があふれだす、イズクンゾが奪ってきた生命の塊だ。
「それは俺様のーー」
「ううん、違うの、これはイズクンゾのものじゃないの、なんでも自分のって言っちゃダメなの、それぞれがそれぞれのものなの、こんなこと言っても性は変えられないってわかってるの、でもそれで僕が言わない理由にはならないの」
女神は呆れたように言った。
「ほんとどこまでも甘いやつじゃなぁ、羊羹のように甘い、ほれ」
女神はイスクンゾをスーに投げ渡した、スーは目を見開いた、初めて予想外のことが起きたと言わんばかりだ。
「いいの!?」
「ふ、貴様の完璧な未来予知なんぞ、いとも容易く変えることができる、ということを何となく見せつけてやりたくなった、それだけじゃ」
「ありがとうなの!」
「さっさと行くがよい、余の気分が変わらぬうちにな、全ての宇宙も元に戻るぞ」
「うん! またね! ○○○!!」
「あー、そこ編集じゃ、丸3つじゃ」
「なんのことなの?」
「貴様には関係ないことじゃ、ほれいけ」
女神が指を鳴らすと、スーとイズクンゾは光に包まれて消えた。
「あとはあいつがどうなるか、じゃな」
誰もいなくなったのを確認してから布を被せて隠してあったテレビを出して電源を付けた。
「クライマックスじゃ」
____________________________________________________________
何時からだろう、この世界に敵がいないと気付いたのは、世界を制覇できると、誰でも思うように如何様にも殺せると気付いたのはいつからだろう。長い長い勝利の歴史、怠惰の日々、悠久の時を過ごしてきた。
退屈していた。
これこそが最大の敵なのだと思わせるほどに、退屈していた。最強になっても叶わない夢、いや、最強だからこそこの夢だけは叶わない。
あぁ、死合いたい。
殺されるかもしれないし、殺せるかもしれない、そういう五分の勝負、一つのミスが永劫の後悔に変わるような。それは太陽光で、その日のコンディションで、気の持ちようで、他者によって、流れる汗一滴で、遥か彼方で蝶が飛んだ程度のほんの些細なことで勝敗が左右されるような、贅沢を言うならば勝てる見込みが低い方がいい。だがそこまでの贅は望まない。
敗北なんて万に一つすらない戦いの日々、万に一つと言えど当たりのないテキ屋のようなイカサマな日々だ。
あぁ退屈だ、永遠の牢獄だ。誰か救ってくれ、この最強を、最強たらしめる因果を打ち砕いてくれ。
生きているという感覚をくれ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ブラギリオン様! これはどういうことよ!」
「……」
「ブラギリオン様?」
「魔王様は負けたでござる」
「負けたの!? なんで助けなかったのよ!」
「魔王様と交わした約束は一太刀の助太刀のみ。そしてそれは前に使ってしまったでござるよ。ネス氏の最後の攻撃は魔王様を殺しえたのでござるよ」
「わけわかんないわ!」
二人が話していると、下からスカリーチェの叫び声が聞こえた。
「イズクンゾ様!!!」
スカリーチェが最上階に戻ってきた、武装解除しており戦う気はないらしい。後を追ってクゥが来た。
「バーガーはどこだ、戦況は、魔王はどうなった!」
「クゥ様! バーガー様はまだ……」
「空を見にゃ!」
「え? あ!!」
「おーーいみんなーー!!」
俺は全裸で大気圏突入する、そして踏ん張って真魔王城の最上階で止まる。うむ、我ながら見事な着地100点満点だ。
「す、凄いです! 魔法も使わずに体術のみで着地を!」
「モ○ハンのハ○ターみたいなもんさ、ってわからないか、まぁ、こんなこと造作もないさ。あ、イズクンゾはやっつけといたぞ」
「つ、ついにやったんですね!!」
「ああ、もう大丈夫だ」
「イズクンゾ様ぁ!!!!」
次に真魔王城を駆け上ってきたのは魔獣チワワだ。全身の目という目からどす黒い涙を流している、魔力触手がなわなわと蠢いている、あれは感覚器だ、イズクンゾの存在を探っているのだろう。
スカリーチェは放心状態、パロムはもう下にはいないな……そしてあいつはーー
「バーガー様、気をつけてください! まだ四天王がいます!」
「大丈夫だって、へーきへーき、おい、四天王! もう魔王は倒したんだ、争う理由は薄くなったが、どうする?」
魔獣チワワが歩いてくる。
「やるのか?」
「主人がやられて黙っているのは魔犬じゃない、ただの負け犬だ」
「そうかい、ま、いいよ来なよ」
「ヴァルァアア!!」
「バーガー様!!」
魔獣チワワは持てる全ての力を出し切った一撃を繰り出す、グレイブとの戦闘でだいぶ疲弊しているはずだが、この忠誠心だけは見事と言わざるを得ないな、後はクソだけど。
「おしおきだ、デコピン」
「グギュルアアアア!!!!」
範馬○次郎のデコピンを真似たものだ、魔獣チワワがちっちゃな肉片になった、今まで奪ってきたものを吹き飛ばしてやった。
「魔獣チワワ討伐完了っと」
「あ、あの魔獣チワワを一撃で!?」
「ふ、サガオ、見てみろ俺のこの筋肉を!」
「おおおお!!」
説得力にも力とつくように、この筋肉こそが力の証明だ。筋肉を見たサガオは興奮の色を隠さず、ヒーローを見た子供のように目を輝かせた。エリノアが呆れ顔で言った。
「ほんとにバーガーにゃのか?」
「ああ、俺は俺だ」
「確かに声はバーガーだにゃ……でもあとは、ムキムキマッチョにゃちん〇丸出し変態おじさんだにゃ」
「……泣きそうになるからそういうこと言わないでくれる?」
「あー、その反応はバーガーだにゃ、で、バーガーと呼べばいいのかにゃ? それともガクト? だっけ、そっちで呼べばいいのかにゃ?」
「不思議に思うかもしれないが俺にとっては両方ともしっくり来てるんだ、だからこっちの世界では慣れ親しんだバーガーでいくことにする、ややこしくなっちゃうしな」
「バーガー様!」
「アイナ! さぁ、式を挙げに行こう、幸いにも世界中の人が外で待ってる、今なら全員に釘をさせる!」
「釘?」
「アイナは俺の女だってな」
「ひゃう!!」
アイナの顔がポンっと赤くなる。汗がピュピュピュピューンとなる漫画的描写が似合う顔だ。
あーかわい。好き、大好き。
「バーガーなの!」
「スー!」
スーが空から降ってきた、俺はお姫様抱っこで受け止める。みんなが駆け寄る。
「スーちゃん! よかった! 生きてたんですね!」
「もちろんなの! ぼくは死の神様なの! えっへん!」
なにか握ってるな。
「その手にあるのは?」
「イズクンゾなの!」
「ダメだろそんなもの拾ってきちゃ捨ててきなさい」
「それは出来ないの」
「うちでは飼えないぞ」
「可哀想なの……」
俺は肩をすくめる。
「もうお父さんに相談してみるわね」
「ウィルおじさんにですか?」
アイナに冗談は通じない、覚えておこうね。
「コントしてる場合じゃないか、なぁスーそれ、ほんとにイズクンゾか?」
「そうなの、女神にボコボコにやられちゃったの」
こんな糸切れにされて、もうなんの力も感じないじゃないか。命があるだけめっけもんだな、俺は女神に殺されたし。
「イズクンゾ様!」
正気を取り戻したスカリーチェが駆け寄る。みんなが警戒するが俺が腕を上げてやめさせる。
「みんな、いいんだ。スー、持ち主が来たよ返してやりなさい」
「……うんなの」
スカリーチェに渡した。
「イズクンゾはもう再起不能だ、それなら持っていってもいいだろう、主人に問題があっただけでスカリーチェだけなら問題ないさ」
スカリーチェは糸くずを抱きしめて真魔王城から去っていった。
この世界の秩序を乱したのはイズクンゾだ、他は上下の差は激しいもののこの世のバランスは取れていた。これで世界は救われたんだ、良くも悪くもなっていくだろう。俺の役目は終わった、そうだろ、女神。
「おいコラ」
「ひっ!」
ギアがスーに詰寄っていた。
「レイの魂を出せ」
「あ、え、えーと……」
スーは困った顔で俺を見る、優しく頷いて答えた。
「出してやってくれないか、約束したんだ、それに死ぬにはまだ早すぎる」
「わかったの!」
スーの胸から青白い炎が出てきた。
「これがレイの魂か、イズクンゾが見せたのと違うな」
「イズクンゾが本物の魂を出すはずがないの、別の魂だったの」
「けっ、どこまでも……。よし、レイは確かに受け取った。こっちは先に上がるぞ、撤収作業開始だ」
魂を機体内部に収納したギアは下に降りていった、ポラニアたちと合流するつもりだろう。
「バーガー様、いいんですか? あれはまたバーガー様を殺しに来るかもしれませんよ」
「その時はその時だ。それにさっきまで協力してた相手を後ろから殴るようなやつがアイナの旦那になるなんて、そんなのヤだろ?」
「……バーガー様ぁ」
胸に飛び込んでくる、俺の逞しい胸筋が優しく受け止める。こらこら他の筋肉たちがヤキモチを妬いちゃうぞ。
うふふ、あはは。
「ござるんるん」
漆黒の騎士が現れた。