第90話 悪愛の魔女2
「伝説の剣を奪うまでは王国で暮らして魔力草を栽培する毎日を送ったっス」
「狂ってる」
そんな過酷な半生を生きてきたのか、こんな修羅場でも平然としているのも頷ける。
「でも悪いのはイズクンゾだよな」
「そうでス。あの御方は原初の魔人にして全ての元凶。最悪の中の最悪。具現化された悪。醒めることのない悪夢。あの御方こそが悪なんでス!」
スカリーチェは身悶えする。そしてそれはピタリとやむ。
「そろそろ昔話も終わりっスね」
周りを見れば皆揃っていた。敵も味方も入り乱れているが戦う素振りは見せない。全員がスカリーチェに視線を注いでいる、みんな同じ考えなのだろう。それぞれ一時的に休戦している。アヴドキアが叫んだ。
「スカリーチェが裏切りやがりました! 全員でこいつから殺せです!」
姉妹と思われる者たちがそれぞれ意見を述べた。
「ジュは逃げます。任務続行不可能ですもの」
「イッヒも賛成、魔女きらいー」
「ぬ、ヌーも……」
「腰抜けどもが! 怖気づきやがりましたね!」
「逃がすと思ってるっスか?」
なんてプレッシャーだ!
この隙に皆と合流する。俺、ジゼル、エリノア、サガオ(inヒマリ)ルフレオ、ディザスター、ホネルトン、ギア、ポラニア、そして聖騎士300人とギアの精鋭部隊100匹だ。ギアが詰め寄ってきた。
「おいこら、これはどうなってやがる」
「どうってスカリーチェが見ての通り中心を神様ごと消滅させたんだ」
「じゃあ守るものが無くなったってか、向こうに神が渡ることも無くなったってわけか?」
「いや、死ぬとイズクンゾの力になるから、もう……。でもなんか不要だったらしい」
「なんだそりゃ」
サガオが駆け寄ってきた。
「バーガー、無事だったか」
「皆も無事そうだな」
「ああ、長引けばどうなるかと思ったが……あいつは四天王のスカリーチェか」
「ああ、どうだ、やれるか? なにか『見える』か?」
「うむ。全く隙がないな。死線も不明瞭だ。あれは強いな」
自然とスカリーチェを挟むように俺たちとアヴドキアたちは別れた。
「ちょいとよいかの?」
「ルフレオ、どうしたんだ?」
「聖騎士たちはこの戦いにはついてこれぬ。無駄に殺すことも無い。撤退させてやったらどうじゃ?」
そうだな、物量が通用する相手じゃないのはわかった。ここからは実力だけが求められる。彼らが弱いと言っているわけじゃないんだけどね。
「わかった、海少女に頼もう」
聖騎士たちが集まってきた。
「いくらルフレオ様のお言葉でも聞き捨てなりません! 我々はあなた方の盾になりにここに来たのです!」
「あの魔女の前ではお主たちは肉盾にすらならんぞ。勇ましいのはいいが、今は退くんじゃ!」
ルフレオの厳しい言葉に聖騎士たちはグッと堪えて下がった。
「どうかご武運を……」
絞り出すような声だ。
「任しとけ。ワシはめちゃくちゃ強いからのぉ。サガオ!」
「はっ!」
サガオが飛び上がり目を光らせる。海龍を締め上げていた海少女がこちらに泳いでくる。掌を差し出して聖騎士たちを乗せていく。サガオはギアの精鋭部隊を見る。アヴドキアにこき使われて疲弊している者が多い。
「あんたの精鋭部隊も下がらせたらどうだ?」
サガオの言葉にギアは舌打ちをしてから答えた。
「必要ねぇ仕事中だ」
「冷静になれ、部下を無駄死にさせるつもりか!?」
「なんとでも言え、こいつらは仕事を途中で放棄するような半端な奴らじゃねぇ、そうだろてめぇら」
「「「「「オオオオオオオオオ!!!!!」」」」」
「死んでも隙を作れ、死ぬなら働いてから死ね、偉大なる死とは過労死のことと肝に銘じろ」
「「「「「ギア! ギア! ギア! ギア! ギア!」」」」」
ギアが前に出た。
「俺から行く」
「いきなりギアが行くのか」
「それが一番手っ取り早い」
ルフレオが隕石鎧の上から頭を搔く仕草をした。
「これこれ、ちゃんと連携しないか。雑に戦って勝てる相手か」
「言っておくが俺に戦いの才能はねぇ、だがこのボディは別だ、職人どもがいい仕事したからな、魔界の技術の粋が詰まったゴッドキラーは無敵だ。だからスペックこそは高いが連携する才能のねぇ俺の動きにお前ら天才どもが合わせろ、それでも俺が足手まといだと判断したら俺ごと殺すつもりで撃ってこい、いいか、もう一度だけ注文するぞ、お前らが俺に合わせろ。才能あんだろお前らは」
サガオが笑った。
「はっはっは! 相変わらず潔いな! わかった! いざと言う時はギアごとこのレーザーで焼いてやろう!」
「俺らの作ったキラーキラーで何言ってやがる、勝手に改造しやがって、チッ、話は決まったな、仕事を再開するぞ」
ギアが高速で飛ぶ、速い! しかしスカリーチェは圧縮された時間の中で優雅に動く、洗練された無駄のない動きだ、あれを受けるつもりか!?
「KILLソード。展開」
腕に内蔵されていたKILLソードを取ると、精神力を使って刃を具現化する。魔力に頼っていない。純粋な灰色の精神パワーだ。あれで俺は殺されたんだよな。正しくKILLソードだ。
「殺戮空間」
ギアの背中にあるクリスタルから円状に結界が張られる。結界はギアを中心に一緒に移動する。あれはなんの結界なんだ? スカリーチェが結界の中に入る。僅かに動きが固まる。
「障壁ではなく、範囲内にいる者の魔法を使えなくさせる結界っスね。反魔法結界だったっスか」
「パロムがチクりやがったな。悠長に分析しやがって、魔女が魔法を封じられたんだ潔く死ね、死角移動」
ギアは高速で背後に回るとKILLソードを振る。スカリーチェは為す術もなく斬られた。ばたりと倒れた。あっけなさすぎる幕引きだ。いやギアが強いんだな。俺も瞬殺されたし、あれと戦って無事でいるサガオが凄いんだ。ギアは振り返り、アヴドキアたちを睨む。
「終わった。次はそこの娘どもだ」
「何が終わったんスか?」
「……」
ギアは首だけをスカリーチェに向ける。
「確かに斬り殺したはずだ」
「クスクス。殺すことはいくらでもできるのに、殺されるのは一回しか出来ないなんて、なんだかズルいじゃあないでスか」
「何か、仕込みがあるな? ポラニア任せたぞ」
俺の横にいるポラニアが頷いた。
「魔法は封じてあるんだ、何かしらの手品か」
「さぁ、試してみたらどうっスか?」
「そうだな」
血も出ていない。ギアのもつKILLソードにも血がついていない。まるで時間が巻き戻ったみたいだ、ギアは確認するように言った。
「俺の目に幻覚の類は効かねぇ。さっきは確かに斬った」
サガオがギアに追いついた。
「ギア、一気に行くぞ」
謎な現象で不気味だが、ギアの反魔法結界でスカリーチェは魔法を封じられている。これはデカい。現にスカリーチェは消滅魔法どころか魔法一つ使えていない。そしてギアとサガオは魔法がなくても近接戦闘で戦える。有利なのはこっちだ! サガオは正面から、ギアが背後からスカリーチェを挟撃する。2人に挟まれるなんて想像したくもない。サガオが4本の腕を別々に動かす。人の時では出来ない、関節に制限されない動きで柔軟な連撃を繰り出す。ギアは確実にスカリーチェの急所を狙う。
「クスクス」
有利なはずなんだ……なのになんだ? なんで不安が拭えない。スカリーチェは体術だけで受ける。手に持った槍は使わないのか?
「クスクスクスクス」
……仮に三騎士のクゥがギアとサガオの間にいたとしよう。なるほどそれなら確かに受けきれてもいいだろう。つまりスカリーチェは三騎士に並ぶ実力を持っているということだ。ギアが疑問を口にした。
「おい、こいつホントに人間か?」
「そのはずだが、こうも当たらないとは」
「回避に専念してるからか? たく、出力アップだ」
ギアは後方に縦回転しながら飛び、重量を感じさせる着地をする。そして周囲に電流が発生する、エネルギーが迸っている。
「おにぃちゃん、私たちも」
「ああ! わかった!」
サガオも隙なくブレイクダンスで後退すると地面に武器を突き刺した。
「変形!」
キラーキラーマークIIが人型になる。
「キラーキラーマークIIセカンド!」
「チ、名称がどんどんめんどくさくなっていきやがる」
「なんだギア、カッコよくて妬いているのか?」
「勝手なこと言いやがって」
「クスクス、もういいでスか?」
「ああ、いいぞ!」
「余裕ぶっこいたまま死ね!」
ギアの特攻は凄まじい。超高速の横ぶりの斬撃をスカリーチェは回避する。あれを躱すのか。しかしギアは逃がさない。KILLソードが変形する。刃の部分から更に複数の刃が伸びる。回避するスペースがない、面の攻撃だ。スカリーチェの体に鋭利な刃が何本も突き刺さる。
「足りねぇ」
「おお!!」
サガオがサンザフラでスカリーチェを5等分にした。ボトボトと崩れ落ちる。
「死んだか?」
「のようだな」
「念には念をだ。跡形もなく消すぞ」
ギアが反魔法結界を解く。焼却するつもりだ。
「あ?」
死体が消えていた。
「目を離していたわけじゃねぇ、予備動作もなく一瞬で消えやがった」
「クスクス」
ギアの背後にスカリーチェが立っていた。まただ、またしても無傷で復活した、サガオたちの武器に付着していた血も綺麗に消えている。
「後ろを取ったつもりか」
ギアの背中が開く。中には小さなキラーキラーの目がたくさん詰め込まれている。
「背中レーザービーム」
無数の細いレーザが照射される。スカリーチェはそれを消滅させる。結界を解除したから使えるようになっているんだ。
「これを使いまスか」
「それはなんだ?」
「三又槍。そこのMAXソードと同じく神の武器でス」
スカリーチェが初めて武器を構えた。
「剣のほうが得意なんスけどね」
「ギア!」
「名前だけ呼ぶんじゃねぇ、なんだ」
「気をつけろ! スカリーチェから放たれる死線が増大したぞ」
「また反魔法結界に入れるか」
「それが無難なのだ。やつは人間だ、人間ならば疲労する。長期戦になれば機械の体である我々が有利になるはずなのだ!」
スカリーチェは笑う。
「クスクス、どっちでもいいでスよ」
スカリーチェは神武器に地面に舐めさせる。カラカラと鉄パイプを持ったヤンキーのように獲物をぞんざいに扱う。
「ギアは戦いにくそうでスね。私は知ってまスよ、その反魔法結界はここら一帯を覆える力を持ってるっス、なのにそれをしないのは、海を割いてる重力魔法まで無効にしてしまうからっスよね。仲間が溺れ死ぬのは嫌っスもんね。正直なところ魔法を縛られるとちょっと辛いっスから出やすいのは助かるっス」
「うるせぇな、こっちのことなんて気にしてんじゃねぇよ。お前を殺しきれるならいつでも最大出力にしてやる」
「ギア乗るな。スカリーチェは反魔法結界の中でも何かしらの能力を使ってみせた。魔法を封じれるのはデカいが、それならそれで奴には別の戦い方があるのだ。結界は小さいままでいい」
「わかった」
「海底神殿を半壊させた大規模な消滅魔法をまた使われたらやっかいなのだ。ギアは結界のサイズを維持するのだ。やばい時はスカリーチェに近づいて魔法を無効化させるか、味方を包めばいいのだ」
「ち、半径3メートルくらいで反魔法結界を展開」
ギアが結界に包まれる。
「そろそろ行くかの」
ルフレオが動く。ジゼルも動き始める。ルフレオはそれを止めた。
「ジゼルは後衛もできる、下がっていた方がいいぞい」
「スカリーチェはどうやってか知らないけど。致命傷を受けたら即座に全快して。僅かにずれた場所に現れる。その時の死角を人数でカバー。遠距離ではカバーにラグが生じる」
「すでにそこまで見抜いておるか。しかし相手は1人じゃ囲むにも限度がある。多すぎればかえって戦いにくかろう」
「にゃらミーが行くよ。ジゼルはルフレオの言った通り下がってるといいよ。ミーは接近戦しか取り柄がにゃいから前に行くよ、ミーの腕前なら邪魔ににゃらにゃいよ」
ルフレオは咳払いする。
「お主もじゃエリノア」
「にゃんで!」
「スカリーチェは魔王の血を引く者を殺そうとしておる。つまりそれが済めばここから逃げることも考えられる。今やつは私利私欲で動き魔王たちから完全に孤立しておる、このチャンスを逃すわけにはいかん」
「にゃるほどにゃ……ミーがスカリーチェを留まらせているんだにゃ」
さすがだ、2人とも下がらせた。
「そうだ、2人ともかなり疲弊しているんだし、体力と魔力の回復に務めてくれ」
「オーライ」
「わかったよ」
前衛はギア、サガオ、ルフレオだ。後衛はジゼル、エリノア、ディザスター、ホネルトン、ポラニアとなる。ギアが反魔法結界でスカリーチェの魔法を封じ、3人で物理で攻める。
ジゼルとエリノアの二人は気丈に振舞っているが消耗しているためなるべく温存。ディザスターは海を割るのに力を使っているから結界に近づかないように後衛だ、ホネルトンも後衛だ。ポラニアはギアに何かを頼まれて、スカリーチェを見ては何かを書いている。解析中だ。俺はMAXソードを放つタイミングを狙う。
「そろそろ行くっスよ」
スカリーチェが跳躍。そして魔力を固めて空中に立つ。サガオが注意した。
「ギア。あの三又槍に気をつけろ」
「どういうものか説明しろ」
「伝承によれば、あの槍は海を支配する力があるとされているぞ」
「抽象的な説明だな、具体的に何が出来る。性能を言え」
「俺も見たわけじゃないからなんとも、しかし海においてあの槍は絶対的な力を誇るのだ」
「よくわかんねぇな。まずは俺の結界に入れて空から下ろす」
ギアが関節部分、足底、手のひらから炎を吹き出して発進する。スカリーチェが三又槍を振るう。すると横から海水が太い円柱の形で噴射、スカリーチェを飲み込んだ。
「あいつが操作してるのか、制御が出来ていねぇのか?」
「いや、違うな、溺れていないように見える」
「あの槍の効果で水中で呼吸ができるってのか」
「クスクス。こんなもの無くてもいいんスけど、折角なんで使わせてもらうっスよ」
「水中でも喋れんのかよ」
槍の持ち主は、魚のように水中で呼吸ができて、さらに話すこともできるようになるのか。しかしここまでは魔力操作に長けた者でも出来る。
「ほいほいっス」
スカリーチェが三又槍を振るうと、いくつもの海水の円柱が飛び出し横に突き刺さっていく。どんどん出てくる。サガオが構え直す。
「気をつけるのだ、見失えば危険なのだ」
「無論だ、レーダーに捉えている。他人の心配をしてる暇があるなら打開策を考えやがれ」
スカリーチェの姿が消えた。
「ギア!」
「後ろか」
ギアの背後の海柱の中にスカリーチェが出現する。高速移動なんてレベルじゃない、消えて現れたようにみえる。
「海流流奥義、三又無双連撃」
無数の突きが繰り出される。三又槍の矛先に海水がまとわりつきただでさえあるリーチーをさらに伸ばす。ギアはそれを尻尾で防御する。そしてKILLソードを振るう、だが外したまた消えた。
「このレーダーの反応からすると、海中で瞬間移動しているな」
「そういうことっス」
最初の海柱にスカリーチェが出現した。
「じゃあ次行くっスよ。深い海」
特に何も起きない。なんだ? なんの魔法だ? ディザスターが叫んだ。
「海側からの水圧が上昇。形状を維持できない」
「なに!?」
「クスクス、海に潰されてしまえっス」
「水圧を上げる魔法か!」
まずいな、ディザスターが作ってくれた円柱の空間がどんどん狭まっている。すでに上に関しては海で蓋をされている。
「ぐううぅ!」
「ディザスター! 堪えろ!」
どんどん狭くなる。元の海底神殿と同じくらいにまで押されていく。
「ディザスター!!」
「わ、かって、いる!!」
収縮が収まる。野球ドームくらいにまで圧縮されてしまった。
「……く、長くは持たない」
「何か手伝えることはないか?」
「重力に関しては私がずば抜けている。君たちが手伝ったところでほとんど意味が無い。ここは私に任せ、打開策を探してくれ」
ギアとサガオは海に飲まれている。あの二人は大丈夫なのか?
ルフレオが海に篭手を入れ、水圧を確かめる。
「ダメじゃわい」
隕石製の篭手がペシャンコになった。ルフレオは篭手を魔力操作で形を整えて装備し直した。隕石でダメならハンバーガーなんてペーパーバーガーにされてしまう。
「皆の者気をつけるのじゃ。ここから出れば魔力で体を守ったとしても持たぬ。死ぬことになるぞい」
「あの二人……いや、ヒマリも含めて三人か、大丈夫なのか?」
「どうじゃろうか」
木の板を机がわりにカリカリと文字を書き続けるポラニアが目もくれずに言った。
「ゴッドキラーは大丈夫だポメ。キラーキラーマークIIセカンドもビルディー様が手を加えたと言うのならまだ大丈夫ポメ」
「まだ、か」
「上を見てみるポメ」
「……海しか見えないぞ」
「水面がどんどん低くなってるポメ」
「なんだと!?」
「海が圧縮されつづけているポメ」
「そんなことしたら」
「海の生物が全滅するポメ」
……悪だ。なんたる悪だ。悪愛の魔女だ。
「俺はここで見てることしか出来ないのか」
「バーガーはこんなことで諦めるポメか?」
「こんなことって、平気なのか?」
「少なくともギアは、ここに至るまでにこんな絶望、何度も乗り越えてきているポメ。脳内で膨らませた最強の勇者を倒せるようにって、人知れず、そして人知ってても寝ずに努力し続けていたポメ」
「なんたる精神力だ」
「でしょポメ。僕らの絶望がこんな絶望に負けるわけないポメ」
ギアに視線を向ける。体を動かしてテストしている。
「け、おいこらサガオ、まだ戦えるか?」
「今は平気なのだ、だが水圧がどんどん上がっている。じきに機体が持たなくなるだろう」
「ちぃ、いい手はねぇか?」
「スカリーチェは神武器の三又槍の加護によって海の神の力を手に入れている。海の中ならどこでも瞬間移動できる上に、海底にはバーガー達が取り残されてしまっている」
「倒せねぇ、逃げられねぇ、耐えられねぇ」
「ああ、認めたくないが我々は圧倒的に劣勢だ」
「そうか、そりゃよかった」
「よかった? どういうことなのだ」
「俺はそこまで頭良くねぇからな。それなりにいい頭持ったサガオが俺と同意見ってんなら」
「同じだとどうなる?」
「追い詰められたら秘密兵器を使うしかねぇな」
「なに?」
秘密兵器? まだ何か隠してあるのか?
「ポラニア、もういいか?」
「OKポメ! データを送るポメ!」
ギアの目に文字が浮かぶ。それに目を通したギアが呟いた。
「いい仕事だ」
「でしょポメ」
「スカリーチェの能力が分かった。対応可能な外付武器を射出しろ」
「もちポメ、ポメっとな!」
ポラニアが懐から出したスイッチを押した。
どこからともなくアラームが響き渡る。
「なんスか?」
「これは知らねぇだろうな、俺とポラニアだけの秘密兵器だからな。来い!」
何かが高速で沈んでくる。この水圧でも平気なのようだ。つまりギアたちのボディーと同等かそれ以上の代物だということだ。来た、鉄塊だ。それも50メートルはある。
「来い」
鉄塊が変形する。5つのパーツに別れる。
巨大な腕、巨大な足、巨大な胴体、それぞれが意志を持ったようにギアを取り巻く。
「合体」
ギアを収納して再構築されていく。
胴体から頭と翼と尻尾が生える。これは……。
「龍なのか……?」
現れたのは機械龍。変形し終わると頭の目つきの悪い目が光った。
「GIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
凄まじい咆哮だ。周囲の魔力が『殺龍』と形取る。この世の全てを絶望させると言わんばかりの大咆哮だ。