第88話 海底神殿攻略戦3
「貴様はバーガー・グリルガードでありやがりますか!?」
「よう、地獄から舞い戻ったぜ」
現世からだけどな! 2回目!
「まあいいです。もはや勇者の1人や2人増えたところでヤーたちの敵じゃねぇです」
「まさか海底神殿の結界を解いたのか!?」
「邪魔者がいるのにそんなことするわけないじゃねぇですか。お前らを始末してからゆっくりと開けさせてもらうです」
「なるほど、そりゃそうだな」
俺たちの戦力は、俺、ジゼル、エリノア、そして聖騎士100名。対する向こうは、アヴドキア、ディザスター、ホネルトン、ギアの精鋭部隊100名。
向こうは九大天王が二人もいる。分が悪いな。
「こいつらに聞きましたけど、戦力を5等分したらしいじゃあねぇですか。はっは! 愚かも愚か! こういう事態になったら一気に崩れるじゃあねぇですか!」
アヴドキアが叫ぶとディザスターが浮遊する。そしてこちらに手を向ける。一言もは発さない、ダメだ完全に支配されている。来る。ジゼルが前に出る。
「ジゼル!」
「最善を尽くす」
「ミーも裏切ったぶん働くよ!」
「エリノア!」
「バーガー様、我々もいることをお忘れなく」
「聖騎士たち!」
そうだ、やってやるってばよ! ようはアヴドキアを何とかすればあの軍団は我に返るってことだ、そうなれば形勢逆転だ。
「アヴドキア狙いだ!」
「そうはいかねぇですよ、やれディザスター!」
命令されたディザスターが魔法を発動させた。
「超重力」
重力を何百倍にもする魔法だ! 食べやすくプレスされてしまう!
同時にジゼルが魔法を発動させる。
「無重力!」
重く、ならない!?
「周囲の重力をなくす魔法を掛けた。重力魔法は私が抵抗する」
「任せた! そして俺たちに任せろ! 行くぞみんな!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
カーンという乾いた音が響いた。ホネルトンが杖をついたんだ。同時に操作できるのか。
「気をつけろ! 骸骨が出てくるぞ!」
「こんにゃ海底でも出せるのか。バーガー、ホネルトンの相手を頼んでいいかにゃ?」
「いいけど、まさかアヴドキアと一騎打ちするつもりか」
「あいつもミーの家族だからにゃ」
「わかった。聖騎士たちはギアの精鋭部隊を抑えてくれ! エリノアを戦いに集中させてやるんだ!」
「「「「おう!!!!」」」」
ギアの精鋭部隊とホネルトンに召喚された骸骨がホールになだれ込む。
混戦だ! ギアの精鋭部隊は強い。だが歴戦の聖騎士たちは守りに徹している。守ることなら聖騎士の右に出るものはいない。素晴らしい連携を見せる。重力魔法を抵抗できるジゼルを中心に、聖騎士たちが囲む。踏ん張ってさらに大きく円の陣形を展開していく。俺は戦場を跳ねてホネルトンと対峙する。しかしホネルトンは俺を無視して杖をついて骸骨を召喚し続けている。このままでは海底神殿が骨だらけになってしまう。
「やめろ!」
攻撃すると受けるが、距離を保ってまた召喚を開始する。召喚botと化している。ディザスターもホネルトンも単調な戦い方になっている。意思がないせいだろう、命令のままに動いている。本来の戦い方が出来ていたらと思うとゾッとする。
「エリノア、お父様を裏切るとは馬鹿な事をしやがりましたね!」
「アヴドキアもこっちに来たらどう? 今にゃら降伏を認めてあげるよ」
「はん! ヤーの目標は次期魔王のみです。それが揺らぐことはないです!」
「にゃあ、アヴドキア」
「なんです」
「本当にお父様……イズクンゾが魔王の座をくれると思っているの?」
「何を言ってやがるです」
「イズクンゾは次のフェーズに行こうとしているんじゃにゃいかにゃ」
「神の力を全て手に入れた先のことでやがりますか」
「お父様は約束は守らない人だよ」
「戯言をいいやがるなです。もっとマシな命乞いをしたらどうです!」
「さすがはミーの姉妹だにゃ、くっそ頑固だにゃ」
「言いやがれです!」
アヴドキアが翼をはためかせて超低空飛行。エリノアに襲い掛かる。
「戦闘マニアのエリノアに小手先の技なんて使わねぇです。最初からこいつでぶち殺してやるです! 『八咫烏モード』!」
アヴドキアは三本の猛禽類の足を構える、対するエリノアは尻尾を増やした。
「こっちも漆黒線状魔力を使うよ! みんにゃ離れてて! 『猫又モード』!」
アヴドキアの足技だ。なんという猛激だ。飛んでいるため足技が弱点としている着地狩りや軸足を狙われることが絶対にない、さらにアヴドキアは足先をすぼませ、鋭利な槍のようにして攻撃する。エリノアはそれを超低姿勢で受ける。口に剣を咥えて4本腕になって動く。地面との接地面が増えればそれだけ柔軟な動きが可能となるのだ。エリノアは咥えた剣でも戦うことが出来る、彼女にとって剣は爪でもあり牙でもある。鳥の動きVS獣の動きだ。
剣戟の中でもアヴドキアは叫ぶように捲し立てた。
「ヤーたちは五姉妹! でも魔王になれるのはただ一人! ですがヤーは慈悲深いので姉妹たちに役職を与えて使ってやるつもりでした! が! こうも堂々と反逆されたのであれば粛清するしかあるめぇです! 支配しようにも魔物じゃねぇですし!」
「そいつはどうもだよ。血は争えにゃいにゃ、お前たちはイズクンゾ似だからにゃ!」
ガトリングのように次々と繰り出される無慈悲なアヴドキアの蹴りをエリノアはギリギリのところで受け切っている。
「魔獣王斬!」
「『盾』!!」
アヴドキアは迫る赤黒獅子を、周囲の魔物たちを使い防がせる。防御姿勢も取らせていない、肉盾のように使っている。ギアの精鋭部隊が……。
「卑怯だよ!」
「ここは戦場です、仲間ごと斬れないような甘ちゃんはこの場にいる資格がねぇです!」
「ぐ!!」
アヴドキアの蹴りが魔物ごと死角からエリノアを貫いた!
「ここで死ぬがいいです!」
エリノアの周囲の魔物たちが防御を捨てた特攻を始める。体勢の崩れたエリノアを押さえつける。
「離せ!」
「よーし、そのまま抑えてろです」
「エリノア!!」
ダメだ! 間に合わない! アヴドキアのギロチンのような蹴りが振り下ろされる!
「くっ! な、なに!?」
エリノアがアヴドキアの足を咥えている。ぺっと弾き返した。
「根性、底力、執念、逆境、不屈、同時発動!!」
押さえつけられているにも関わらず力だけでエリノアは立ち上がった。まるで屈強なラグビー選手のようだ、見た目は華奢だけど。
「ミーは追い詰められてからが強いよ。それに覚悟も決めた、みんにゃを守るという覚悟がにゃあ!」
「ほざくです! 技能を使ったくらいでヤーを倒せると思っていやがりますか!」
「互角だと、ミーは思ってるよ!」
エリノアが一振で魔物たちを吹き飛ばした。俺は叫んだ。
「やっちまえ! エリノア!」
「にゃああーーッ!!」
エリノアは高速跳躍。指をくい込ませ天井に張り付く、剣を咥えなおした。
「魔爪!」
二つの魔力が折り重なった赤黒い鉤爪が魔力生成され精神力でコーティングされる。跳躍、アヴドキアを狙って一直線だ。
「盾!」
またしても魔物たちが肉壁になる。
「ふ、何度突っ込んできても同じーー、はっ!」
咄嗟にアヴドキアが頭を下げる、背後にいたエリノアの横薙ぎの斬撃がアヴドキアの頭のあったところを通過する。空中で魔力を蹴って飛び、肉盾の死角を利用して背後に回り込んだんだ。ナイス攻撃だ、しかしアヴドキアも凄まじい、回避と同時に鞭をエリノアの首に巻き付つけていた。
「捕らえた!」
そのまま飛んだ。エリノアが宙ずりになる。空中でアヴドキアは足でエリノアの頭を文字通り鷲掴む、そして高速飛行して壁に擦り付けた。エリノアは頭と壁の間に剣を挟んで間一髪で防ぐ。押し付けられた剣がギャリギャリと音を立て火花を散らし、壁を削っていく。
「にゃあ!!」
四肢を壁にくい込ませて無理やり停止させる。
「くっ!? 止めやがったです! なんたる馬鹿力! なら頭をもいでーーくあッ!!」
2本の尻尾をアヴドキアの首と胴体に巻き付けて無理やり引き剥がし、思いっきり地面に投げつけた。あの尻尾、イズクンゾの漆黒線状魔力と同じものだから筋繊維のように自在に動かせるのか。アヴドキアのぶつかった地面が陥没してひび割れている。それでもアヴドキアは怯まない、目を閉じず決してエリノアから目を離さない。猛禽類特有の鋭い目付きだ。エリノアは間髪入れずに壁を蹴って追い打ちを仕掛ける。アヴドキアも鋭く足を突き出す。あの漆黒の足は業物の武器を超える強度と斬れ味を誇っている。二人の攻撃が交差する、僅かな間の後、周囲に突風が吹く。鍔迫り合いだ、どちらも引かない。アヴドキアが腹を蹴ろうとするがエリノアは体勢を変えて躱し、さらにその回転の力を足に乗せた回転蹴りをアヴドキアの頭部にヒットさせる。
「がっ!」
地面に叩きつけられてもアヴドキアは目を離さない。上から来る連続突きを素早く回避する。僅かに距離が出来る。
「ふー、ふー」
「はー、はー、ぺっ! やりやがるです」
「こっちのセリフだよ!」
「近接戦闘では埒が明かねぇです」
アヴドキアの口が鳥類特有のとんがった嘴に変化する。そして笛に似た鳴き声を発した。
「よく考えたら、ここにはヤーの味方はいねぇです。なので一帯ごと攻撃してやるです」
「にゃに!? うわわ!?」
凄い地響きだ。海が騒がしい。深海魚たちが逃げ惑っている。海の奥から何かが来る。
「まさかあれまで使役したのか」
「ヤーは次期魔王になるです。あれくらい使役出来なくてどうするです」
「あれは……まずいにゃ」
もう肉眼でも見える。あの巨体は海龍だ!
「海底神殿は海月ヒトデという生きた神殿でやがります。クラゲのように透明でヒトデのように再生するです、ここごとやっても直ぐに再生するです! さあ! やるです! 海龍!」
「そんにゃことしたらアヴドキアも巻き込まれるよ!」
「ヤーは海を得たペンギンのように超高速でここから離脱してやるです!」
「く! 陸にゃらともかくこんにゃところで海龍の相手は無理だよ!」
……仕方ない。やるか。
「みんな、俺に任せろ」
「バーガー!?」
「俺が外に出て海龍を何とかする」
「無理だよ! スーの素材もにゃいのに!」
確かに、正直どうしようもない、いい策なんて全く思いつかない。
「任せろ。俺にいい考えがある」
やっと仲直り出来た二人を死なせるのは絶対にダメだ。二人のイチャイチャをもっと見ていたい、それを守るためならなんだってしてやるさ。
「ジゼル、なんか海の中で活動出来るやつくれ!」
「オウイエー。重力を相殺しつつその無茶に応えよう。気泡鎧」
シゼルが片腕をこちらに向けて魔法をかけてくれた。俺の体をシャボン玉が包みこむ。
「普通のシャボン玉とは違う。剣を振り回してもオーケー故にアーマー」
「ありがとう!」
「くははははは!! ヤーを笑い殺すつもりでやがりますか!? あんなやつが、くはははは! 海龍を倒すなんて不可能です!」
「バーガーをにゃめるにゃ!!」
エリノアの怒号だ。ライオンの咆哮のようだ。
「大声を出すなです!」
「バーガーは馬鹿にされるようにゃ男じゃにゃいよ」
……無策なんて死んでも言えないな。セコンドがマウスピースをはめるがごとく、聖騎士が俺に混合肉パテ(めっちゃ焼いたヤツ)を挟んでくれる。準備はOKだ。俺はMAXソードで壁に切れ目を入れて外に出る。シャボン玉が海水から守ってくれる、これなら海中て動ける。海龍は質量任せの突進をしてくる。やはりアヴドキアに使役されていると動きに制限が掛かるようだ。アヴドキアの出した命令は『海底神殿に体当たりしろ』と言った感じのものだ、吐息を使わせないのは巻き込まれるのを恐れたんだ。しかしアヴドキアが近くにいる以上、いくらでも命令は書き換えられる、追い詰められればやりかねない、倒すしかない。MAXソードの勇者斬は一日一回しか使えない、これは使えない温存しなくては。
まずはパテからだな。混合肉を解析だ。『混合肉を確認。真向鯨、口笛海豚、過剰殺鯨鯱から殺戮音波を生成。4回使用可能』
栄養満点なせいか、使用回数が多い気がする。よし! 全部行くぜ!
「『殺殺殺殺戮音波』」
俺の口からエコロケーションのイメージそのままに音波が広がっていく。しかしそれは壊滅的に破壊的で殺戮的な音波だ。音波の通ったところが沸騰して熱湯に変わって爆発していく。
「ギャーース!!」
海龍に直撃、悲鳴をあげる。あの身のくねらせ様からして相当痛いようだ。小龍なら一撃でやれたな。やはり龍の中でも三龍と言われる存在だ、痛がりはすれど死ぬ気配はない。
「そんなものが聞くわけねぇですよー!」
「く、使うしかないのか」
俺はMAXソードに意識を集中させる。ネスがいなくなったから龍種はもう敵ではないと思う。出来れば使いたくはなかったが……
『ボゴン!!』
「は?」
い、今の音は? 何が起こった?
なんで海龍が大きな拳に殴られているんだ。俺は拳の後を目で追う、そこには海小娘がいた。
「な、なんでありやがりますか!? あのデカい人間は!?」
「助けに来てくれたのか!」
海小娘は海龍よりも遥かに大きい。遠くから見ればゆっくりな動きで海龍を殴っているように見える。しかしさっきの魔法よりも痛そうにしている。つ、強い。
「海小娘ありがとう! 助かった!」
海小娘が親指を立てた。聞こえていたんだ!
これでエリノアはアヴドキアとの戦いに専念できる。俺は外に出た僅かな隙を利用して周囲を確認ことにした。素早く上昇して海底神殿の全体を見渡す。むう、超巨大ゴーレム程ではないがやはり大きいな。海底神殿は侵入当初に確認したヒトデ型(実際、海月ヒトデという大きなヒトデだ)をしている。
五角の先を見ていく。あの先端でそれぞれのチームが頑張っているんだな。
それぞれ強い光が見える。激しい戦闘をしているに違いない。1箇所は光が消えている、アヴドキアがいたところだ、あそこは無人で問題ない。ここからじゃそれしか分からない、しかしそれだけ分かれば十分だ。各自奮闘しているってことだからな。誰も諦めていない。よし得るべき情報は得た。戻るか。
「ん?」
海底神殿の真上が光ってーー
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それは光の柱だった。というか、何も無い空間が太い円柱の形をして海底神殿まで届いたのだ。
「な、なんだあれは!?」
海を削っている。無理やりこじ開けたと言うより、海水が触れた途端に消滅している。って、おいおい、海底神殿の中心すら貫通しているぞ。俺は慌ててジゼルたちのところに戻る。中は激しく揺れていた。
「バーガー。この揺れは」
「ジゼル! 海底神殿の中心に異常発生だ!」
「どこかのチームが負けた?」
「いや、外から見てきたんだが、中心に虚無の柱というか、海水が円柱状に消滅しているんだ、それも海底神殿を貫いて」
「消滅……まさか」
ジゼルの顔が険しいものになる。そして呟いた。
「スカリーチェが来た」
アヴドキアが驚いた声を上げた。
「この魔力はスカリーチェの魔力でやがります!」
援軍か。それも四天王クラス。そうか、スカリーチェは消滅魔法を使っていたな。なるほどそれで海を消滅させて海底まで一直線で来たのか、って、なんて魔法だよ!
「バーガー。どうする?」
ジゼルが俺の指示を仰ぐ。
「皆と合流しよう」
「クラーケン様は守らなくていいの?」
「それは俺たちが生き残るのが前提の話だ。全滅するくらいならこの任務は放棄する」
スカリーチェがどこに行こうと、向かう先が危険な状態になる。ここに来られてもヤバいしな。対抗するには皆と力を合わせるしかない。
「オーケー」
「みんな! 強行突破だ! 中央まで走るぞ!」
俺の指示に聖騎士たちは勇ましい雄叫びをあげる。数秒で矢印型の陣形を組んだ。いつでも行けるって感じだ。あとは。
「エリノア!」
「あいよ!」
エリノアはアヴドキアをドームのほうに蹴り飛ばした。
「ぐあ!! 何してやがりますか! お前らも何してやがりますか! アイツらを殺せです!」
ギアの親衛隊の攻撃が一層激しくなる。エリノアは最後尾に陣取って数十名の聖騎士と共にそれを受けている。
「ミーが殿を務めるよ」
「頼んだ! ジゼル! 行けるか!?」
「魔力を集中させて重力魔法に隙を作る。合図をしたら真っ直ぐ走って」
「わかった!」
アヴドキアが怒鳴った。
「逃がすと思ってやがるですか!」
「おっとミーが相手だよ!」
「邪魔をするなです!」
「いいやするよ!」
ジゼルが手を叩く、魔力の出力が一瞬大幅に増大、それから通路を指さした。魔力が流れる。隙が出来た!
「ゴー!」
「全力後退だ!!」




