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第84話 地獄のハッピーセット

挿絵(By みてみん)



「お?」


 気がづけば原っぱだ。体はハンバーガーのものになっている。隣には布袋に入れられた小瓶。よかった、ちゃんと持ってこれた。空が高く青い、日が出ていても異世界の天体はいくつか大きいものがあるから白い星がいくつか見える。現代の時の空とは全く違う。空気も綺麗だ。うん。ここは間違いなく異世界だ。まずはバンズ呼吸して活動するための魔力を得る。


「すぅーはぁーすぅーはぁー」

「ぐるる……」


 唸り声を見れば狼型魔物がいる。なんと言ったか……ええい、なんとかウルフだ。迷いなく襲いかかってくる、俺はなんとかウルフの突進をひらりと躱す。そして頭を挟んだ。


「解析スタート!」


 解析開始『戦闘狼コンバットウルフから噛みつきバイスを検出。一回使用可能』。


 ああ、戦闘狼コンバットウルフだったか。まあ名前を知ってももう終わりだがな。


「『噛みつきバイス』」


「ぐぎゃ!?」


 戦闘狼コンバットウルフの体に魔力生成された大顎が食らいつく。易々と胴体を噛みちぎった。


「開始早々、生肉を挟めるとは幸先いいな」

「は、ハンバーガー!?」


 横を見ればプルプルと震えている子供がいた。戦闘狼コンバットウルフはこの子供を襲っていたのか。


「大丈夫か?」

「シャ、シャベッタアアアアアアアアアアアア!!」


 この反応は、まさか!


「落ち着けハンバーガーくらい喋るだろ」

「う、うん。……助けてくれてありがとうございました!」


 礼の言えるいい子だな。ってそのリアクションは。


「その反応、もしかしてここはタスレ村の近くか?」

「うん、そうだよ!」


 女神め、いい場所に出してくれたな。


「村にくる?」

「ああ。行くさ、行くとも、行かなくては」


 そうだ、よく見ればここは村外れの原っぱだ。アイナと来たことがあるじゃないか。俺は少年の頭に飛び乗った。


「うわ!」

「狼狽えるな、ハンバーガーが頭に乗ってきたくらいなんだ、タスレ村の男だろ」

「う、うん!」


 ほんとにいい子だな。そんなに距離は離れていないから村には直ぐに着いた。到着早々、見慣れた顔が飛び込んできた。


「ば、バーガーか!?」

「父さん!」

「生きとったんか!! 戦争で戦死したと聞かされてたで!」

「はい、生きてました」


 実際死んだけどな。


「セニャン!」


 ウィルが勢いよく家の扉を開く。間取りから何まで全然変わってないな。


「なんや! クソ漏らしたんか!」

「今日は違うわ!」


 漏らしたことあんのかい!


「見てみい! バーガーや!」

「ただいま母さん」

「ヌギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 セニャンが人の声じゃないものを出した。


「そない驚くなや!」


 ウィルもいい顔してたくせに。


「驚くに決まっとるやろ! バーガー、ああ、生きててくれたんか!」


 セニャンは俺を強く抱き締める。相変わらずの豊満なバストだ。再会に喜ぶのもいいが、今は話さなきゃならないことがある。


「話したいことがあります」


 2人と話してわかったこと。死んでから約一年が経過していた。イズクンゾはあれ以降なりを潜めている、王国の聖騎士達が血眼になって探しても足取りは一切掴めていない。そして、勇者パーティは……


「アイナは? アイナはいまどこにいますか?」


 俺の質問にウィルは珍しく真面目に答えた。


「すまん、知らんねん。アイナちゃんはバーガーにほの字やったからな。バーガーが死んだとなって、どこかに行ってしまったんや」

「まさか一人で戦いに!?」

「焦るなバーガー、今ここで焦ってもなんの意味もないで、ここは堪えて冷静になるんや」

「は、はい」

「また行くんやろ」

「はい」

「止められんよな」

「はい」

「そか。それでこそワイの息子や」


 セニャンもしみじみと言った。


「ウチの息子はエライでほんま。死にかけたのに、怖い思いも沢山したはずやのに、また戦いに行こうなんて普通そうはならんやろ」

「2人の息子だからですよ」


 3人ともニヤける。


「へへへ。このままじゃ多分世界はあかんことになる。バーガー、ワイも戦いにいくで!」

「え、無理ですよ」

「無理なもんかい。ワイだって魔物の一匹や二匹くらいならギリ倒せるっちゅーねん!」

「アホか、バーガーを困らせたらあかん。そんなん倒してもなんの意味もないで。そうやろ」

「はい。ここにいてくれた方が俺も全力で戦えます」

「……そうか。ならせめてここの守りぐらいはワイに任せてもらうで」


 ウィルの体に古傷に紛れて真新しい傷が幾つかできている。彼も彼で修羅場を潜ってきているんだ。


「父さん、母さんを頼みます」

「もちろんや、お前の母さんの前にワイの女なんやで。自分の女は命に変えても守るで!」

「な、何一丁前なこと言っとんねや。アンタが死んでどないすんねん。ほんまアホやわ」

「なんやと!」

「なんや!」

「まあまあ二人とも」


 話は夜明けまで続いた。真面目なのは最初だけで後は他愛ない話だったけれど、それでもかけがえのない時間だった。


「バーガー、その体で王国まで行くのは大変やろ」


 たしかにまた一年掛けて行くのは正直辛い。


「ちょっと待っとれ、いま呼んでくるさかい」


 ウィルは走り出して行ってしまった。一体何を呼ぶんだ? 足になるものかな、馬とか助かるな。ウィルはタスレ村の建物の中でも一番高いものに着くと外付けの梯子を登る。屋上には真上に向けられた大きな大砲。え、撃つつもりか?


「景気良く行きまっせ!」


 ポン! 砲弾は一瞬で上空まで届く。そして、


 ドーーーーン!!


 爆発、これは。


「花火か!」


 って、なんで花火してんねん! 俺も梯子を跳ねてのぼる。


「父さん、なんで花火を?」

「お、梯子も登れるようになったんか! って花火知っとるんか! えらい博識さんやなー!」


 ウィルはウンウンとうなづく。


「しばらく見んうちに逞しなったんやなぁ。で、この花火なんやけどな。ただの花火やない。緊急信号や!」

「え、何を呼んだんですか」

「すぐにくるで、お、見えてきた! 来たで! あれや!」


 ウィルが指さしているのは空だ。馬車じゃないのか、え、あれは! あの光は! 見間違えるはずがない。あの『機体』は!


「お呼びとあらば即参上! 緊急出動キラーキラーマークII!」

「サガオ!?」

「バッ! バーガー!?」

「「生きてたのか!?」」


 俺も驚いたがサガオも驚愕している。キラーキラーマークIIが口を開く。おお、中はコックピットになってるのか。中にはヒマリがいた。


「バーガーさん」

「ヒマリも無事だったか!」

「はい、おにぃちゃんがいてくれましたから」

「サガオ、俺たちは不死身だな」

「そうともさ。童話の勇者は何度倒されようと地の底から這い戻ってきた。つまりはそういうことなのだ!」

「勇者が二人か、心強い」

「……バーガー、自分で言っといてあれなのだが、俺は本当の勇者じゃない。勇者はバーガーとアイナだ」

「何を言うか、サガオも立派な勇者だ。勇者の俺が言うんだから間違いない」

「……」


 サガオの一つ目から水が溢れ出す。


「お、おにぃちゃん冷たい!」

「あ、ああ、嬉しくて泣いてしまった。バーガー、積もる話があるのだが!」

「俺もだ。一年も経っていたとは思わなかった」


 ウィルが割って入る。


「なんや作戦会議か? ならワイの家に来るといいで!」


 サガオに運んでもらって、ひとっ飛びだ。さぁ我が家へようこそだ!


「……」

「……」


 俺たちの家にキラーキラーマークIIのボディがぎゅうぎゅう詰めに入っている。というかドアからどうやって入ったんだよ。


「ここでいいのだろうか?」

「かまへんかまへん、ワイの家や! 好きに使ったってな!」

「初めて会うて緊張してるんは分かるけどウチら気にせんからそう縮こまらんでもええんよ?」


 いや物理的に縮こまってるよね。体育座りしてるサガオを見て?


「では情報共有を始めましょう」


 ヒマリはサガオのボディの中にあるコックピットでスペースを確保している。俺たち家族で話したことも改めて伝える、そしてここからだ。


「イズクンゾは隠れている。それは何故かわかるか?」

「さあ、目的を果たしたからもう用がないとか?」

「それだけは違うと言えよう。あの魔族たちがそんな謙虚なことをするはずがない。実はいま世界中である事件が起こっているのだ」

「ある事件?」

「神の失踪事件だ」

「……神が失踪??」

「驚くのも無理はないだろう。しかし事実だ。既に観測されていた神のほとんどが失踪している」

「誰かにやられたのか?」

「分からない。現場に行くころには神が消えているのだ」

「神クラスは文字通り神揃いのはずだ。それをどうこうできるのか?」

「出来るだけの備えがあるのだ。つまり魔王を倒しただけで世界を救ったとは言えないのだ」


 このタイミングで神が神隠しか。


「間違いなくイズクンゾが関わっているよな」


 あいつはスーとネスを食べたんだ。神すら食える魔人なんだ。


「俺もそう思う」

「イズクンゾを倒す、か、でも」


 イズクンゾと戦うならエリノアとも戦うことになる。


「エリノアの事を考えているのなら……望みは薄いと言わざるを得ない。あの場で完全に向こう側についたのは明白なのだ。庇い用がない。捕らえても死罪だろう。戦うしかないのだ」

「……戦うさ」

「頼りないぞバーガー」

「正直なところ。かなりショックなんだ」

「気持ちの切り替えには時間が必要だろう。俺はエリノアと長くいたわけじゃないからまだいいが……ともかくまずはバーガーを王国に連れていこう」

「なんや、もう行くんか?」

「ああ、お邪魔した。変形!」


 キラーキラーマークIIの機体が人型に変形した。質量は魔力変換しているのかな。ヒマリに密着しているような形だ。そうやって入ったのかなるほど。って、家の中でもそれでよかっただろ!


「バーガー、今度はちゃんと仲間を連れて帰ってきぃや!」

「はい! アイナを、勇者パーティ全員を連れてきます!」

「その意気やで、祝砲や!」


 タスレ村の人たちが花火を上げてくれた。何発も何発も。俺はキラーキラーマークIIのコックピットに入れてもらう。ヒマリの膝の上だ。


「徒歩だと1年だが、どのくらいかかる?」

「このボディなら王国までひとっ飛びだ。そうだな1時間も掛からないだろう!」


 歩いて1年掛かったというのに、なんて速さだ! 飛べるから山やら谷やら湖やらを無視できるんだな。ロケット型に変形すると爆速で空を駆ける。


「あれ、そういやヒマリ、マナーの盾はどうしたんだ? ずっと持ってただろ?」

「恥ずかしい話なんですが、魔獣チワワとの戦いで怖気付いてしまい、適合者から外れてしまいました」

「そうか……じゃあ今は王国に?」

「はい。マナーの盾は、それだけで最強の防御装置ですから、あれがあるだけで魔物たちは迂闊に仕掛けられなくなります」


 ヒマリは俯く。


「結局私はマナーの盾もおにぃちゃんの剣も使いこなせなかった」

「何を言ってるんだ。サガオの仇討ちのためにあんなに頑張っていたじゃないか。一時的とはいえ誰も認めなかったマナーの盾を認めさせたし、あの短い訓練期間でよく鍛えられたと俺は思うよ。ナイス筋トレ!」

「バーガーさん」

「さすがバーガーだ、我々兄弟にも勇気を与えてくれる」

「ふ、筋トレは裏切らないってだけさ」




____________________________________________________________





「マジでバーガーなのですーか!?」

「はい、生きてました」


 王国に着いて早々王さまに会った。というかサガオが王さまの部屋のベランダに直接行った、もちろんアポなしである。そして俺は死んだと思われていた身だ、王様からしたらオバケを見ている気分だろう。すぐに近衛兵が来るも、王さまは片手を上げて下げさせた。


「完全に消滅したと聞かされてましーた。こちらからの蘇生魔法にも一切応じなかったのは生きていたからですーね」


 いや死んでたんだけどね、魂は女神の管理下にあったから引っ張って来れなかったのかな。さて。


「王さま。イズクンゾを止めよう」

「いえーす。バーガーが来てくれれば打つ手もありまーす」


 王さまはパジャマのまま机に向かう。パジャマがめっちゃ可愛い。今度から寝室に突撃するのは止めよう。机を囲むは人型になったサガオ、ヒマリ、そして王さまだ。俺は机の上だ。机には世界地図が広げられている。


「現在イズクンゾと四天王の居所が掴めていませーん」

「みたいだな」

「私が思うに彼らは用意をしていると思いまーす」

「用意?」

「はーい。この世界を手にするための用意でーす」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

「それにはまずイズクンゾの話をしておく必要がありますーね。バーガーが知っているイズクンゾの事を教えてくださーい」

「旧魔王ということしか知らないな」

「おーけー。彼は初代魔王であり原初の魔人、名をイズクンゾ・ダークロード。詳しい出生は不明ですーが、神々の戦いの時代から存在している神話の中の魔人といえまーす」

「随分長生きなやつだな」

「魔族の中の魔族。彼こそが今の魔族たちの性質の基礎を作ったと言えまーす」

「原点にして頂点というやつか」


 確かにあのスカリーチェの心酔ぷっりは凄まじかった。それで一回殺されたもんな。カリスマ性があるのだろう。


「イズクンゾの目的は世界征服。世界を自分のものにしたいという願望が彼の行動力の源となっているようでーす」


 典型的な絵に描いた悪だな。あ、だから原初なのか。悪の王道なんだ。


「そしてこれまでの話ですが、どうやら全てイズクンゾが仕組んだことだったらしいのでーす」


 その事については俺も思い当たる節があった。


「あいつは勇者が魔王を倒すのを知ってたんだ」

「そうでーす。だからこの100年間『あえてネスに魔王の座を明け渡した』。もしかするとネスが魔王になろうと思った切っ掛けもイズクンゾが仕組んだものだったのかもしれませーん」

「つまり勇者とネスの排除」

「排除とはまた違いまーす。ネスは取り込まれたのでーす」

「取り込む?」

「イズクンゾの特性は捕食したものの力を全て奪えるというものでーす」

「それってネスの力とスーの力を吸収したってことか」

「その通りでーす。しかし直ぐには力を制御できなかったのでしょーう」

「ああ、あのときイズクンゾは胃もたれしてそうだった」

「だからこそのこの準備期間なのでーす。隠れて神の力を馴染ませているとすれば、この不気味な静けさにも納得いきまーす」

「全てはイズクンゾの手のひらの上だったってとこか」


 何から何まで計算尽く。悪知恵の働くやつだ。悪しくも正しき悪魔の魔人、か。


「これからどうすればいいんだ」

「唯一の異変がありまーす」

「神の失踪か」

「はーい。イズクンゾが消えてから起こっているので間違いなくイズクンゾ絡みと見ていいでしょーう」

「なるほど、つまり神クラスがいる所を張っていればイズクンゾの尻尾を掴むことが出来るってわけか」

「察しがいいですーね。その通りでーす」

「なら話は早いな。近くに残っている神さまはいるか?」

「残念ながらこの辺りにはそもそも神クラスはいませーん。しかしここから最も近くにいる神の場所は知っていまーす」

「それはどこなんだ?」

「王国と魔界に挟まれた海のその海底でーす」


 その日のうちに俺が復活したという話は王国全土に広まった。広めるかどうかという話にもなったが、全体的に士気の下がっている聖騎士たちを励ますためにも公表した方がいいと王さまが判断した。それで士気が高まるなら安いもんだ。俺は王都を出て城下町を跳ねて進みある場所に向かった。


 アイナは行方不明。エリノアは裏切り、スーはイズクンゾに食われた。勇者パーティも半壊状態だ。でも無事な者もいる。


「モぉ〜〜!」

「モーちゃん!」


 モーちゃんは無事だった。俺がいなくなったあともしっかりと世話をしてくれていたようだ。


「んモぉ〜〜!」


 おお、一段と大きくなったな。ん?


「あれ、角が生えてる」


 折れたはずの角が生えていた。どっちが折れていた角か見分けがつかないほどだ。


「ぶもー」

「こいつぅ、角生えたのか、よかったなぁ、あはは、あははは」

「ぶふぉー」


 俺らがイチャついていると小屋の扉が開かれた。


「……バーガー?」

「ジゼル!」


 干し草を持ったジゼルが現れた。


「バーガー。生きていたか」

「ジゼル、その目」


 酷いクマだ。見るからに疲労が溜まっている。


「大変だったな。俺が来たからにはもう大丈夫だ」

「おういえ。すぐに支度する」

「まだ何も言ってないぞ」

「行くからここに来た。違う?」

「正解だ。一緒に来てくれるか?」

「愚問すぎて笑っちゃうYO」


 俺がモーちゃんとジゼルを連れて王城に戻ると城内が慌ただしくなっていた。なんだ? この感じは敵が攻めてきたみたいな反応だ。


「バーガー。警戒して」

「わかった」


 しかし道中に敵の姿は見えなかった。今はサガオもいるし、どうしたんだ? 俺たちを見た聖騎士が駆け寄ってきた。


「バーガー様! 至急玉座の間へ起こし下さい!」

「何があったんだ?」

「絶者が来ました」

「……なん、だと」


 もうか、もう嗅ぎつけてきたのか。十中八九俺を殺すためだろう。俺は殺された時を思い出す。容赦のない一撃だった。あんな殺意は生まれて初めて経験した。


「バーガー。行ける?」

「もちろんだ。俺に用があるなら行ってやる。戦いになるだろうから、援護頼んだぞ」

「オーライ。じっとしてて七光セブンドリーム


 ジゼルは俺に強化魔法を掛けてくれた。いつものと違うな。


「俺の体が7色に光っているぞ」

「様々な強化魔法を掛けた。それぞれが効果を阻害しないようにブレンドした結果。光った」

「職人の技というわけだな」

「そういうこと」


 俺は聖騎士に聞いた。


「よぉし、MAXソードはどこだ」




____________________________________________________________




 玉座の間の前に来た。途中でサガオ&ヒマリと合流した。


「よし、入るぞ。戦闘になるだろうから気を抜くな」

「オーケー」

「任せるのだ!」


 聖騎士が扉を開く。俺たちは部屋に飛び込んだ。さあ何でも来い! 俺はMAXソードを構えた。


「おせぇぞ」

「え?」


 ギアがいた、が攻撃してこない。それどころか背を向けて王さまの方を向いている。


「バーガー。油断しない」

「そうだな、おい絶者」

「ギアと呼べ、その方が効率がいい」

「ギア、俺を殺しに来たんじゃないのか?」

「勇者を殺すって仕事はやった。そのあと復活しようが何しようが俺の知ったことじゃねぇ」


 ギアはズカズカと俺に歩み寄る。


「ツラ貸せ。二人で話すことがある」

「バーガー。気を抜かない」

「わ、わかってる!」


 俺たちの様子を見たギアは舌打ちをした。


「バカが、最低限の武装はしてるが、間合いに入っても仕掛けてねぇだろうが。やろうと思えばこの城ごと消し飛ばすことだってできるんだぞ。敵意がないことくらい察しやがれ」

「……わかった。二人で話そう」

「待ちなさーい」

「王さま?」

「この部屋を使いなさーい。私たちは部屋の外に行きまーす」

「いいぞ王。効率的だ。オラ、そういうわけだから取り巻きどもはさっさと出てけ」


 聖騎士たちと勇者パーティが部屋から出ていった。


「バガ」

「バーガーだ」

「チッ、バーガー、現世での名前はなんだ?」

「おい、誰が聞いてるかわらないんだぞ」

「俺のセンサーにはなんの反応もねぇよ。聞き耳立てるほどのバカはいなかったらしいな」

「……俺の名前を聞いてどうするんだ?」

「いちいち理由を聞きやがって1から10まで説明しねぇと分からねぇやつなのか? 呼びやすい方で呼ぼうと思っただけだ」

「……番重岳人だ」

「岳人か、バーガーと呼ぶよりは早く呼べるな」

「二人だけの時にしてくれよ」

「わかってるっつの」

「で。あんたは?」

「なんで俺のを教えなきゃらなねぇ、こっちは二文字だぞ」

「不公平だろ、これから話し合いをするならなるべく公平に行くべきだと思うけどな」


 そういう所では引いてはいけない、堂々とした態度を示さなければ。


「それもそうだな廻谷鉄也めぐりやてつやだ」

「すんなりと教えるんだな」

「言ったのは岳人だろうが」

「じゃあ鉄也」

「おいこらギアの方が早く呼べるだろうが」

「対等だ、俺たちは」

「ちぃ。バカが、同じ世界から来た人間とは思えねぇ」

「俺もそう思った」

「今はそんなことはどうでもいい、単刀直入に俺の目的を言うぞ。俺はイズクンゾに会って部下の魂を取り返さなきゃならねぇ、だから協力しろ」

「部下の魂?」

「部下とは、岳人を殺したら自由にしてやるって約束をしていた」


 物騒な約束だなぁ。


「それで魂を取り返して蘇生できるのか?」

「肉体の方は維持してある」

「なるほど、あんた見かけによらず約束を守る人なんだな」

「俺をなんだと思ってやがる」

「絶者って言うくらいだからさ」

「バカが、いいか仕事ってのは報酬を受け取るまでが仕事なんだよ。それをレイは使われるだけ使われて用済みとなったら殺された。それも俺をコケにするためだけにだ」

「なんだそれ、誰にやられたんだ?」

「パロムだ」


 パロムって言えば三騎士に呪いをかけた魔人か。あいつそんな酷いことまで……


「まあパロムはどうでもいいんだけどな」

「どうでもいいって、復讐とかしないのか」

「時間の無駄だ。部下が生き返ればそれでいい、それで次の仕事に行ける」

「次の仕事?」

「俺を殺した神が、この世界で勇者を殺せば元の世界に戻すと言った。それが仕事だとな」

「それなら俺を殺した時に戻されたりしないものなのか?」

「そういやなんも来てねぇな。俺はまだ仕事を終えてねぇから気にしてなかったがよ。今はいいんだよ、そんなことは。俺の仕事は終わってねぇからな。それで手伝うのか? 手伝わねぇのか、さっさと決めやがれ」


 刺客であるはずの絶者と協力プレイか。鉄也を転生させた神様はこれも想定のうちなのか?


「わかった。協力しよう、一時休戦だ」



 王さまたちを呼んだ。


「話がまとまったのですーね」

「ああ、終わった。俺とバーガーは組む。イズクンゾの件が終わるまでな」

「バーガーはそれでいいのですーね」

「ああ、毒を食らわば超再生と言うだろ」

「ほー……。ん? ……ほほほ。聞いたことのない諺ですーね。これはとんだ博識さんでーす」

「造語なだけだろうが」

「こほん、では作戦を説明しまーす」


 玉座の間に大きな机が運ばれる。俺たちはそれを囲んで座った。


「現在の目的はイズクンゾの居所を突き止めることでーす。そしてそれにはイズクンゾが関わっているであろう神隠し、その次のターゲットの居場所に行ってもらうのが手っ取り早いでーす」

「海底って話だな」

「はーい。しかし生身では海底にはいけませーん」

「俺のボディならいけるぞ」

「貴方だけの話をしていませーん」

「それもそうだな、どうやって行くんだ?」

「手配してありまーす。海底神殿まで運んであげまーす」

「着いたら待ち伏せしていればいいんだな、よし行くぞ」

「待てギア、せっかち過ぎるぞ」

「バカが相手の準備がどこまで進んでるかも分からねぇのに悠長にしてられるか、バーガーも来い」

「どこにだ、まさかもう行くのか」

「その前に俺のねぐらに来てもらう」

「ねぐら?」

「超巨大ゴーレムだ」



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