第81話 大戦争7
「アイナが勇者!?」
「はい!」
「え、だって勇者は俺だよ?」
「もちろんバーガー様は紛れもない勇者です!」
「でもアイナも勇者なんだろ?」
「勇者は二人いたんです!」
なんだってー!!
「バーガー様、予言を思い出してください」
「えっと確か、奇跡の日にタスレ村で勇者が産まれる。だったか」
「はい」
「だからってアイナが勇者になる説明にはならないんじゃないか?」
「予言した占いおばあちゃん、ジゼルの祖母の二つ名思い出してください!」
あ! わかった!
「五回に一回二回当たる!」
「そうです! 占いおばあちゃんの占い的中率は120%」
「『勇者が産まれる』って予言が二回当たったってことか」
「そういうことです!」
「でももしそうだとして、どうやってアイナは勇者だってことを調べたんだ?」
「……実はこっそりMソードを持ってみました」
「え、Mソードを持ったのか」
「勝手にごめんなさい、バーガー様が寝てるときにこっそり持っちゃいました」
「いや、それはいいんだ、……持てたんだな」
「はい。私も勇者です」
「ふふふ、ふふふふ」
魔王が笑った。
「なるほど、そういうことか、勇者にしては骨がないと思っていた」
そりゃハンバーガーですから。
「二人合わせて一人前の勇者と言うわけだな、ふふふ、愉快なハンバーガーたちだ」
そういうことになるのか。俺たちはまだまだ未熟だ。
だが!
「半熟卵は美味い! そうだろアイナ!」
「はい!」
俺とアイナは駆け出した。アイナには魔王特攻の勇者魔力、俺には魔王特攻の勇者剣(Mソード)がある!
「はあ!」
先にしかけたのはアイナだ。深緑装甲の節々から魔力を噴射して急加速する。深緑弓の矢が篭手から伸びて刃の形状になる、それで魔王を斬りつける。魔王はそれを腕で受ける。ギャリンと金属を舐めるような音がする。斬り裂けない。
「いくら魔力が我に強かろうと、こうやって魔力を固めれば防ぐのは容易い」
「アイナ!」
追いついた俺はMソードを突き出す。魔王はそれを尻尾で受ける。魔王はDソードを構える。
「させない! アイナ!」
「はい!」
「む」
超至近距離戦闘だ。魔王相手に距離は取れない。左右を挟んで俺とアイナは剣を振るう。魔王は俺たちの猛攻を受ける。本体はビクともしない、芯がブレない、なんて体幹だ。でもこんなものじゃない、俺たちのコンビネーションはこんなものじゃない!
「バーガー様!」
「おう!」
アイナが8回転ひねりして魔王を飛び越す。その際に無数の矢を放つ。魔王は翼でそれを受ける。横薙ぎの翼は矢を弾き飛ばす。
「壁ドン!! 七拍子!! Mソードバージョン!!」
俺は防御を捨て、筋肉の精霊で魔王の土手っ腹を狙って全力の拳を繰り出す。魔王は防御せずに俺を斬り裂く、だがすぐに蘇生する、俺はそれでも怯まずにMソードも交えた猛攻を繰り出し続ける。
「不死身を相手にするのは後回しだ」
魔王はアイナに視線を向ける。ふ! そう来ると思った!
「アイナ!」
「はい!」
アイナは特大の深緑矢を放つ。魔王から僅かに外れる。
「ふん、どうした。精度が落ちたぞ?」
「おらあ!!」
「ぐ、なに」
アイナが外すわけがない。アイナは『俺を狙って射っていた』んだ! 俺はアイナから受けた矢を魔力変換してMソードに纏わせ魔王に突き刺す。
「刺さった!」
これが本来のMソードの力か!
「小賢しい真似を」
「はあ!!」
魔王の動きが鈍る。アイナが飛びかかる。足の先から矢を魔力生成。深緑装甲の各関節から魔力を大量噴射して超加速。勇者矢蹴りだ!
背中と正面から魔王を貫く!
「いけえええええ!!」
魔王の体が膨張、爆発する。距離を取られるわけにはいかない。こんなことで魔王を倒せるはずがない! 爆発を繰り返し。燃えたぎる体でも魔王は平然としている。
「来い、暗黒星」
「バーガー様! 空が!」
あれは真っ黒な星か!? 月より遥かに近いところに黒星が出現した。
「あれは先程の暗黒石と同じものだ。規模は些か大きくはなったがな」
規格外すぎるぞ。アイナががくりと膝をつく。
「ち、力が」
ぐ、まただ。力が霧散する。力が入らない。
「この星全ての生物の性能を大幅に下げた。さらに」
魔王は両手を広げる。ボディの煮えたぎるような爆発が収まっていく。打ち込んだ勇者魔力が消えていく。
「十二の暗黒星」
「嘘だろ……」
同じものが十二も、だと。
「ふん、我は宇宙の暗黒を統べるもの。暗黒を集める猶予を与えたのが間違いなのだ」
「く、うぅ。ち、力が、ぐ、うう」
空中に留まるのもキツい、魔力操作するにしても空気中の魔力を固めることが難しくなってきた。体からも魔力が逃げていくのを感じる、霧散していく! アイナはもっとキツいはずだ。俺は筋肉の精霊でアイナを抱える。
「バーガー様?!」
「少しでも体力と魔力を温存してくれ。アイナの勇者魔力だけが魔王を倒せる切り札なんだ」
「はい!」
腹の傷を癒した魔王がカツカツと階段を下るように空中を歩いてくる。
「一つ教えてやろう」
「なんだ」
「アイナは正式には勇者ではない」
「何を言っている」
「形で言えば勇者は2人だが、メインの勇者はバーガーお主だ。お主はその体の特性上、魔力を持てぬ」
「……だからアイナが俺の代わりに勇者の魔力を授かったとでも言うのか」
「そう言っている」
「バーガー様」
「アイナ、どうしたんだ?」
「私を挟んでください」
「何を言ってるんだ!」
生き物を挟んだことなんていままでないぞ。スーは別として。
「死ぬかもしれないぞ」
「それは嫌です。バーガー様ともっと一緒にいたいです」
「それじゃあ」
「だからこそです!」
「どうしてそこまでしてくれるんだ」
「私は、私はバーガー様のことが
好きなんです。大好きなんです。自分の命よりも。
だから、命を掛けるんです! 世界で一番大切な人に全てを託したい!!」
「アイナ……」
「バーガー様」
「俺もアイナが好きだ! 大好きだ!」
バンズの体が火照る。照れ焼きバーガーになってしまう。
「この戦いが終わったらデートだ」
「はい!」
アイナは手を差し出す、俺は手を取るように挟んだ。解析を開始する。女神、頼む、一生で一度の願いだ。アイナを殺さないでくれ。録音された女神の声が魂に響く。
『アイナから勇者魔力を検出。Mソードとリンクできます』
ああ! やってくれ!
『リンク。Mソードに勇者魔力接続。リンク完了。MソードはMAXソードに覚醒』
「アイナ!!」
気合武装が解除される。アイナは糸の切れた人形のように倒れる。筋肉の精霊で抱き上げる。
「はぁはぁ、バーガー……様」
呼吸が激しく乱れている。魔力がカラになっている。アイナを支えていた勇者魔力を吸い取ってしまったんだ。
「私は大丈夫……です。その覚醒した……Mソードで、魔王を、倒して、くだ、さい」
「アイナ!!」
アイナは気を失った。こんなにも……こんなにも軽いのか。こんな華奢な体で、こんな場所まで来てくれたというのか! もし同じフィジカルで俺は同じことができただろうか。アイナは本当に強い子だ。
「勇者だよ、ほんと、すげーよ」
「終わったか?」
魔王は空間で椅子に座るポーズで頬杖をついている。
「スー、アイナは大丈夫か?」
『魔力がほとんど残ってないけど命に別状はないの。でもここは危険すぎるのノヴァに預けるの!』
「ノヴァに? 大丈夫なのか?」
『保証するの!』
「わかった。ノヴァ」
「お、難しい話は終わったか!」
「お願いがある」
「いいぞ!」
「この子を守ってくれ」
「わかった!」
潔く受けてくれた。ノヴァはアイナを抱き抱える。
『これで遠くに置くよりも安全になったの』
「よし、じゃあ頑張るか!」
俺はMソード、否、MAXソードを片手で構える。
「それが覚醒したMソードか」
「ああ、真の名はMAXソード」
「ふん。ならば我も真の姿に戻ろう」
魔王の真の姿。今は人型の龍だが、さらに上の姿があるのか。
「制限解除。暗黒とは我、我とは暗黒」
魔王の体が闇に消える。空から声が響く、激しい地鳴りがする。
「神々の戦いの際ですら、制限していた我が魔力。受けて闇に沈むがいい」
世界が闇に飲まれていく。草木が枯れ、石が浮く。現れたのは……。
「……こんなのってありかよ」
この星を睨みつける、闇を背負った超巨大な龍がそこにいた。西洋の蛇のようなフォルムではなく。二本足で経つタイプの東洋の龍だ。この星よりデカい!
「我が名は魔王龍、ダークネスドラゴン。神龍の三男にしてこの宇宙の闇を統べるものなり」
魔王が腕を振るう。
「十二の暗黒星解除」
黒星が闇に溶けた。
「なんで解いた」
「もう必要ないからだ。元の姿に戻った今、宇宙の闇を統べることなんぞ容易い」
『バーガー。ぼくの全魔力をバーガーの身体能力の強化に使うの』
「ああ! ありがとうスー! みんな! 俺は! アルティメットMAXバーガーだ!!」
MAXソードを掲げる、光り輝く!
「うおおーーッ!!」
突っ込む! それしかない!
「闇に抱かれて消えるがいい!」
地震のような、
津波のような、
雪崩のような、
稲妻のような、
爆煙のような、
噴火のような、黒か迫る!
否! 断じて否! 迫るのはこの俺だ! MAXソードから発せられた勇者魔力が闇を照らすズバズバと斬り進む。だがどこまで行っても、見渡す限りの闇! 闇! 闇!
『このままだと宇宙に出ちゃうの!』
「宇宙でも活動できるか?」
『出来るの!』
「ならこのままだ!」
幸いにも今の俺の体は生き物じゃないパンだ! 無限に続く闇だというのならば、無限に戦い続ける気合が必要だ! 俺はこのまま。永遠に闇を照らし続けてやる!
「ぐあ!!」
まさかさらに闇が濃くなって……ぐ、キツい! 押しつぶされる! ふざけるな! なにを弱気になっている! 俺は!
「俺はアイナが信じる勇者だああーーッ!!」
闇を抜ける。魔王の2つの目が俺を捉える。
「駆け上がってきたか。ならば我もこれを使うしかあるまい」
魔王は口を大きく開ける。
「死ぬがよい、魔王の吐息」
なんていう質量の魔力だ。俺たちのいる星が雪崩に巻き込まれる狐のように見える! それを星に向けて撃つか!? 魔王は俺が受けて立つと信じているんだ! 俺も腹を括らなきゃならない! オーダーに答えてやる! MAXソードを再解析する。『MAXソードから勇者斬を検出。1回使用可能』よし、アイナからもらった勇者魔力で再補充されている。これに掛けるしかない!
「喰らえ! 『勇者斬』」
今までの勇者斬とは桁が違う! 完全に壁を越えている。
「うおおーーッ!!」
拮抗している!圧倒的な魔王魔力に勇者魔力が鍔迫り合いだ、一進一退を繰り広げている。さらにMAXソードを解析する『MAXソードから笑顔零式を検出。一回使用可能』
これは? また効果がわからない魔法だ。しかし撃つしかない、MAXソードの3つ目の魔法だ!
「これで最後だ! 『笑顔零式』」
俺の顔が! 口角が釣り上がる! こ、これは!! 笑顔だ! 筋肉の精霊もナイスな笑顔になっている! というか、勇者斬が解除されてる! やばい! でも笑顔やめれないんだけど!
「うわああああああ!!」
って言いつつも笑顔やめれないんだけど!? 張り付いた満面の笑みから叫び声が出てくるのキモすぎる!
「最後の行動が奇行とは、残念だ」
そんな魔王の言葉にも満面の笑みで返す。ほんと残念だよ! ちょっと待て! 殺される!!
「む、この魔法は」
「ニコッ!」
笑顔で返す!
「我が兄と同じ……」
パァン、とコミカルな風船のはじける音がする。は? 魔王の吐息が消えた?
「なるほど笑顔で相殺したというわけか! バーガー!」
何がなるほどなんだよ! でもチャンスだ! 俺は動きの鈍っている魔王の額の中心にMAXソードを突き立てた! もちろん笑顔で! 今までとは明らかに違う手応えだ。ザクッと何かを突き刺した! 勇者魔力と魔王魔力がぶつかって相殺していく。闇が霧散する、暗黒に包まれた世界に光が戻る。魔王城に降り立つ。人型に戻った魔王が膝をつく。
「……見事だ。勇者、バーガー・グリルガード」
「勝ったのか?」
「お主の勇者魔力が我の魔王魔力と混ざり完全に中和した。制御を失った闇は霧散した。……我との勝負、お主の勝ちだ」
終わった、俺たちは勝ったんだ。
「ふあぁ、なんかよくわかんないけど、約束終わったから帰っていいよねー」
ノヴァは抱いていたアイナを近くにいたクゥに渡すと流星のごとく飛んで行った。俺らからの礼とか、別れの挨拶とか、そういうのを一切受け取らずに、……たぶん知らないんだろうな。とんだ無知さんなんだから。でも約束を守ってくれた。信仰しようかな。
「魔王様!」
ホネルトンが駆け寄る。周りを見れば戦争中なのにも関わらず通夜のように静まり返っている。みんな宇宙で行われた決戦に釘付けになっていた。
「スー、生きてるか!?」
『大丈夫なの』
「よかったスーの魔力を使い切ったらどうなっていたか」
俺は魔法を解除させる。筋肉の精霊が消えて、バンズの隙間から紫色の魔力が出てくる。人型には戻れず、羊羹の破片になっている。でもスーも大丈夫だ、休めば戻れる。
「スー、みんな、ありがとう!」
「どういたしましてなの!」
三騎士たちも辛そうにしているが、うなづいてくれた。終わったんだ、何もかも。これで世界に平和が。
「ニャッハハ」
聞き慣れた特徴的な笑い声だ。振り返れば猫の獣人、獣戦士エリノアがいた。
「エリー!」
まっさきにエリノアに駆け込んだのはジゼルだった。
「ジゼルじゃにゃいか、よく生きてたにゃあ」
「どこにいってたの」
「ちょっとにゃ」
そう言うとエリノアは魔王に視線を移した。
「まさか本当に倒しちゃうにゃんてにゃ。流石は勇者さまだにゃ」
「エリノアも無事でよかったよ、これで勇者パーティ勢揃いだ」
「ん」
エリノアは肩をすくめる。
もう戦いは終わったんだ。魔王との戦いに来れなかったかなんて聞くわけもない。この国全体が戦場だったんだ、エリノアもどこかで頑張っていたに違いない。
「じゃあ、まあ、そういうわけで『始める』よ」
エリノアが肌身離さずにつけていた胸当てに手をあてる。装飾の宝玉に指を這わせる。線状の漆黒の魔力が溢れ出した。それは意思を持ったように蠢き、1箇所に集まって人の形になる。
「ギャハハ!!」
漆黒の魔人が現れた。
クゥが強まった呪いによろめきつつも呟いた。
「あれは旧魔王、イズクンゾ・ダークロード」
旧魔王、この人が、というか、エリノアとイズクンゾがなぜ……どういうことだ……。俺はエリノアに視線を向ける。エリノアはいつもの不敵な笑みを浮かべるだけだ。いくら否定しようと、俺の脳裏に、最悪が浮かぶ。
魔王が問う。
「何をしに来た、イズクンゾ」
「何をしに来た? だと、ぎゃははー! 笑わせるなよぉ〜。ここは俺様の城だってなんど言えばわかるんだぁ?」
イズクンゾは魔王との距離を詰める。まるで親しい友人のようにフランクに。イズクンゾは魔王を見下ろす。
「今の我になら勝てると思っているのか?」
「じゃなきゃ来ないぜーー!!」
「我が本当にお主を滅しきれないと思って……な」
膝をついていた魔王が倒れる。
「この100年、この日のために準備していたんだぜ」
「……これは、呪いか、この魔王城ゴーレム全体を魔方陣として、我に呪いを」
「言ったじゃあねぇか、ここは俺の城だってな。ここはゴーレムの中心、最も呪いが強まるエリアだぁ」
「舐めるな、悪魔風情が」
「あーーーーん? 魔王魔力が底をついてるお前に何が出来るっていうんだぁ?」
魔王は立ち上がり怒鳴った。
「なめるな!」
魔王の手刀がイズクンゾの喉に。
「ござる」
魔王の腕が宙を舞う。
「おうおうおうおう! ブラギリオン! よっ! 俺様の懐刀! 助かったぜぇ」
「勿体なきお言葉でござる」
ブラギリオンが漆黒の剣で魔王の腕を切り飛ばした。パロムが笑った。
「ネス様、この呪いを侮らないでください。この呪いはネス様専用に組んだ呪いです」
「パロム……」
「裏切ったと言いたいですか? 裏切ってませんよ、最初からボクは魔王様の下僕。現にネス様、貴方のことを魔王とは一度も呼ばなかったでしょう? ネス様のおごりです。神ゆえに、神だからこそボク達はこうして神を下したのです」
「最悪は避けねばならない。こうするまでだ」
空が再び暗黒に染まる。
「ここにいる全てを消し去る」
魔王の最後の意地か! って俺たちも巻き添えかよ!
イズクンゾはいやらしい笑みを絶やさない。ただ名前を叫んだ。
「スカリーチェ!」
空が消えた……? 虚ろに光る亜空が広がっている。
「ハッ!」
空飛ぶ箒に立って現れたのは魔女スカリーチェだ。あれを魔法で消したのか!? なんて魔法だ!
「ああ……魔王様、このときをどれほど待ち望んだことか、私の命は貴方様のためだけに」
跪くスカリーチェの頭をイズクンゾは掴むように撫でた。
「わーてるよ!わーてる! よくやった!」
「ん、んん、ふ……ハッ!! 勿体なきお言葉!」
魔王が恨めしそうに呟いた。
「消滅魔法か」
「ヒヒヒィー。ご明察、こいつは俺が唆してきた人間の中でも最高傑作だ」
その言葉にスカリーチェは身悶えしている。
「シチューはマナーの盾を抑えている。全て俺様の計画通りだ、四天王よくやった。そして、バーガー、ずっと見てたぜー、よくここまでお膳立てしてくれたなサンキュ! それじゃあ、まああれだ、俺様は行儀がいいからちゃんと言うぜ」
「いただきます」
イズクンゾが魔王を齧った。硬い魔王の体を粉々に噛み砕く。
「我の力を、得ようというのか」
「俺様は食ったものの力を余すところなく完全に吸収する特異体質を持っている。ネスを食えば俺が世界3位の神になれるってわけだ」
「そんなことをしてなんになるのだ」
「いまさらそんなこと聞くなよ、いけずー。この世界は俺様の宝箱、俺様の自由にならないものはあっちゃあならない。俺様が最強じゃなきゃならないんだよーん。はっはぁ!」
最後に残った魔王の頭を噛み砕き飲み込んだ。
「ご馳走様でした。うっぷ、おっと失礼」
「魔王を食った……だと?」
イズクンゾはその場に佇み満足そうに腹を撫でている。すぐに動き出そうとはしない。
「エリー!」
ジゼルがエリノアを呼ぶ。エリノアはジゼルを睨めつける。
「ジゼルか、にゃに?」
「どうして」
「どうしてもにゃにも最初からそういうことだったってだけだよ」
「……洗脳されてない」
「そりゃそうだよ。ミーは正気だよ」
クゥが俺に耳打ちする。
「私たち三騎士でここを抑える。勇者パーティは逃げろ」
「そんなことできるわけがない」
「お前たちが最後の希望だ。行け! 立て直して来い」
「……わかった」
俺はMAXソードを咥え直す。スーを回収してーー
「デザートは羊羹かあぁ?」
「やなの!」
イズクンゾが魔力体になったスーを掴んでいる。いつの間に!?
「あーん」
「バーガー! 助けてなの!!」
「やめろ!!」
ゴクリ。
「ああ、あ、スー……」
「くくく、ははは、ぎゃッはははははははははーー!! ひひひひひ! くひひひひひひ! あーーーーーーッ!! ははははははははーーッ!!」
スーを丸呑みにした魔王が嘲り笑う。パロムが感服したように言った。
「さすがです、魔王様。これで世界3位と4位の神をその身に宿しました」
「スーを返せ!」
「もう遅せぇよ食っちまった。ってーか、バーガーも挟んでたじゃねぇかよ〜。なんでよぉ、そのまま取り込まなかったんだぁ? こういうのは早いもん勝ちなんだぜ」
魔王は腹を抑える。
「おっと、へへ。食いすぎたか、力に体が馴染むまではまた隠れるとするか。やい人類ども俺様に降伏なんてしなくていいぞ。抗おうと降参しようと、どっちにしても俺様がみーんな食ってやるからな!」
魔王は背を向けて動き出した。その動きは酔っ払いのごとくにぶい。腹があれだけ膨れていれば素早く動けないのは当然だろう。
逃げるのはやめだ、今しかない!
「待て! イズクンゾ!」
「おいおい、バーガーの相手は俺様じゃねぇだろ〜。忘れてねぇかぁ? 大事な『設定』」
何かが鉄の城から飛んでくる。
「……」
機械人形が現れた。
「……」
なんだあの機械人形は、なんだあの纏う灰色のオーラは、魔力っぽいけどどこか違う。挨拶もなしに機械人形は構える。その手には魔力が渦巻いている。
「くくくー、あとのことはギアに任せて俺様はいくぜ」
ギア、ギアと言ったか!? こいつが絶者か!?
「……」
ギアは無言で手に溜めた魔力を放つ。放たれた魔力の塊をMAXソードで斬る。よしこれくらいならーー
「……」
「え、」
はや、剣が頭にささってーー
「KILLソード、展開」
「ばっ! がぁ……」
俺は消滅した。




