第8話 蜥蜴軍団3
「改めて作戦を発表する、アイナとジゼルは作業しながら聞いてくれ」
「よ! まってました!」
「食料が俺しかないので長期戦は不可能、なのでジゼルの魔法陣が頼りだ、完成したら範囲攻撃魔法を発動して敵を攻撃してくれ」
「了解」
「その魔法で蜥蜴たちが怯んでいる隙に、正門を少し開ける、そこからエリノアが出て敵を倒しまくる」
「正門を開ける必要はにゃいよ、ここから飛び降りられるよ」
ここ3階建てなんですけど、しかも砦仕様だから普通の3階より高いんだが、さすがは猫の獣人といったところか。
「わかった、ならそれでいこう。着地失敗するなよ」
「よゆーよゆー、これ失敗したら恥さらしだにゃ」
これが俺たちのできる最善の作戦か? まだ見落としがあるんじゃないだろうか。
「バーガー様! 素晴らしい作戦です!」
「マジか?」
「どんな状況になっても諦めない勇者の鏡です!」
「ハハッ」
そうだ、こっちはSランク冒険者とタスレ村1番の弓士、そしてラッパーとハンバーガーがいるんだ! 30分が経ちジゼルの魔法陣が完成する、正門はまだ突破されていない、作戦の最低条件が整った。最終確認だ。
「アイナ、下の様子はどうだ?」
「離れる素振りを見せません、それに蜥蜴たちが木の板を持ち寄って矢を防ぐようになりました、体に当てても致命傷になりません」
「ボスのいる本隊だ、対策くらいしてくるよな。何体くらい倒せた?」
「篭城してからなら22体です」
「全体の2割か、十分な功績だ、いったん射るのをやめよう。ジゼルはいけるか?」
「愚問に疑問」
「うし」
「じゃあミーの番だにゃ」
「エリノアすまないな、俺も下に行くべきなのに」
「にゃにを言ってる、バーガーに死にゃれたら報酬が手に入らにゃいじゃにゃいか。ミーが戻るまで大砲のにゃかに隠れてでも絶対に生き延びてよ!」
金の話をしているようだがこれがエリノアなりの優しさなんだろう······多分。
「さぁジゼル、ラウンド2開始だ、派手にかましてくれ!」
「いえーい」
ジゼルが魔法陣に両手を当てる、ぼんやりと魔法陣が黄色の光を放つ、魔法陣の中心で円を書くように電流が走り出す。魔力が巡り次第に強さを増して膨張して飽和する、雷属性の魔力は真上に跳ね上がると砦の周りに拡散する、そこで雨雲を生成してさらに増幅していく。
「制御された無差別!」
ジゼルの罵倒を受けて稲妻は蜥蜴たちを襲い始める。恐ろしい光景だ、木や避雷針になるものを無視して蜥蜴人たちだけを執拗に狙って落ちている、阿鼻叫喚のその様はまさに地獄絵図だ。
今のだけで30頭は倒したな。蜥蜴剣聖は剣を頭上に投げて、無理やり避雷針にして回避したか、その周りの近衛兵のような蜥蜴たちも無傷だ。
「いってきまーす」
エリノアはバク転して砦から飛び降りる。次はエリノアのターンだ。
エリノアは猫のように四肢全てを使い着地に成功する。体勢を立て直すと正門前に群がる蜥蜴たちを襲い始める。ジゼルの稲妻に直撃していない蜥蜴たちも感電して痺れている者や怯んでいる者たちが多数を占めている。
「まるで稲刈りだにゃ」
瞬く間に門前の10頭の首を刎ねる、そこでやっと原っぱの蜥蜴たちはエリノアへと襲いかかる。蜥蜴剣聖は屋上の俺たちを警戒しながら最後尾で詰めてくる。
「私たちも援護射撃を、きゃっ!」
アイナのすぐそばの砦の壁が抉れ破片を撒き散らす。何事かと砦の外を見渡す、原っぱの奥の方に蜥蜴剣聖と同じく体長3mはある蜥蜴人が現れた、クロスボウを右手の籠手の部分に装備している。鋭い眼光が屋上にいる俺にまで届く。
「バーガー様、危険です! 顔を出さないでください!」
「蜥蜴剣聖の次はまさか蜥蜴狙撃手か?」
「伏兵。エリノアが危ない」
奴ら増援に伏兵まで、いままで様子を見ていたのか。俺が蜥蜴たちの狡猾さに驚愕していると、ジゼルがマイクを砦の外に向ける。
「『氷の玉』」
ジゼルの簡略魔法だ。マイクの先からボーリングの玉サイズの氷塊が大砲の弾のように発射された。しかし氷弾は砦から出てすぐのところで粉砕された。水蒸気が辺りを包み込む、ジゼルがマイクを持った腕で払うと周りの水蒸気が一気に晴れる。風を魔力操作したんだ。
「今の爆発は!?」
「火の玉で相殺された。向こうにも魔導師がいる」
「な、なんだと!」
俺はまた砦の外を見る、蜥蜴狙撃手の後ろから更にもう一体、蜥蜴魔法使いの纏うローブよりもボロいものを羽織った年老いた蜥蜴人が現れた、その手に持つ杖の先端はどの蜥蜴魔法使いが持つ杖より赤く輝いている。ルフレオ図鑑によればあれは蜥蜴魔導師だ。
「ボス格が3体だと······」
「バーガー慌てない。私が蜥蜴魔導師の魔法を抵抗する。アイナは蜥蜴狙撃手の相手を。自由にさせてはいけない。エリノアが戦いやすいように」
「は、はい!」
ジゼルは冷静にそう指示を出すと、両手を広げて次々に魔法を発動させていく、アイナも気を取り直して砦の防壁の隙間から矢をに放つ。二人とも狙い撃ちされないように移動しながら戦っている。
その時、砦が大きく揺れる。階下から爆発音がする。次々と事態が急変していく、嫌な予感がする、俺の出番だろう。
「アイナ、ジゼル、ここは頼んだ」
「バーガー様! どこにいくつもりですか! 危険です!」
「今の揺れの原因を調べてくる、俺の合図があるまでこの扉は絶対に開けるなよ!」
「待ってください! 危険です! バーガー様!」
「大丈夫だ! すぐに戻る!」
俺は通風口から砦の中に入る、長くない通風口から出ると3Fの吹き抜け部分から階下を見渡す。何か変化があるはずだ……いた! 蜥蜴盗賊が数体入ってきている、あの揺れと音は正門の真反対側の壁を破壊した音か。そういえば村人が蜥蜴盗賊に裏取りをされて火をつけられたと言っていたな、得意分野ということか。
「ふん、勇者であるこの俺の前に立ったことを後悔させてやろう」
俺は3Fの階段前に陣取る。ここからしか屋上には行けないからここさえ死守すればアイナとジゼルが不意打ちされることは無い。例え正門を開けられてもエリノアなら大丈夫だ、今の俺の役目はここで蜥蜴人たちを通さないことだ。
俺が気張っていると蜥蜴盗賊たちの最後尾に3mの蜥蜴人の姿を見つける。予想していたがあれは蜥蜴盗賊の上位互換、蜥蜴暗殺者だろう。忍者走りで階段を駆け上がってくる、蜥蜴盗賊の数は10頭、そしてボスが1頭。
蜥蜴人たちは俺のいる通路に着くとナイフを構える。半円を作って俺を包囲する、砦が大きいので通路も広い、通路の中心にいかなければ囲まれることはない。しかしそれもまたよし、俺は通路の中心部分に移動する。蜥蜴人たちは自分たちが有利な位置に着けるので俺の邪魔をせずに後ずさりする、包囲が完成する、俺を囲む10頭の蜥蜴盗賊。その後方にいる蜥蜴暗殺者。蜥蜴暗殺者の短い鳴き声で、蜥蜴盗賊たちは一斉に俺に飛び掛かってくる。
条件は整った、短剣をその場に置いて俺は力一杯に跳ねて素早く横回転する。2mほど飛び上がり最大高度で魔法を発動させる。
「『火炎の吐息』」
火炎の散弾銃は高速回転により全範囲に及ぶ、俺に飛びかかった蜥蜴盗賊たちの上半身が吹き飛んだ。火炎の吐息残り8発。
炎が消えると蜥蜴暗殺者は音もなく距離を詰めて眼前まで迫っていた、ナイフを着地する俺に合わせ走らせる。
「『硬化』」
硬化魔法で体を硬くしてガードした、ギリギリ間に合った、しかし衝撃は受ける。吹き飛ばされて壁に激突してする、痛みは魔法のお陰でほとんどない。ダメージもバンズのクラウン部分の表面が少し斬り裂かれているだけだ、こんなものはかすり傷だ、鉄ほどではないがそれなりの硬さになったよだ。
「ん?」
俺の傷から紫色の液体が滴る。ああ、それ毒ナイフなのね、はいはい。
「また毒か! そんな危ないものでアイナを傷つけようとしていたのか! 万死だ! 貴様に裁きを下すッ! 勇者の俺が直々になぁッ!」
短剣は奴の足元か、硬化の効果が残っているうちに決着をつけたいところだ、俺は堂々と跳ねて距離を詰める。火炎の吐息は見られてしまった、このレベルの相手にはもう一捻りないと通用しない。
俺が近づくと蜥蜴暗殺者は距離を取った、俺は短剣を咥える。硬化の効果時間が終わるのを待っているな、ならば待ってやる、逃げられても面倒だからな、しばらく睨み合いが続く。
硬化の効果時間が終了してパンの柔らかさを取り戻す。それと同時に蜥蜴暗殺者は背を低くして俺に駆け寄る。
「『火炎の吐息』」
蜥蜴暗殺者は火炎の吐息を軽々と飛び越えて俺の背後に着地する。俺はバンズのクラウンの部分のみを素早く回転させる、目標をセンターに入れてブレス!
「『火炎の吐息』」
蜥蜴暗殺者は驚愕をその目に表したがそれは一瞬だ、地面に這いつくばって回避する。本来ブレス系の魔法は連続では使用できない、それは魔力を肺の中の空気と混ぜ合わせて発動させるからだ。クールタイムがある、だが俺はパン、呼吸なんてしていない、具材を挟み念じるだけで女神の魔法陣が勝手に魔法を発動してくれる。
この不意打ちも回避するとは、やはり上級職は格が違う。しかし面での範囲攻撃はどうかな?
「『火炎の吐息』
『火炎の吐息』
『火炎の吐息』」
さすがの蜥蜴暗殺者も3連発のブレスを屋内で交わす術など、あった。
1Fにまで続く吹き抜けに飛び降りた。やるな、だが逃がさん!俺は後を追って飛び降りる、先に着地した蜥蜴暗殺者はエリノアのように上手く着地することもできず、移動できずにいる、その場で俺を迎え撃つようだ。
「『火炎の吐息』」
今度は蜥蜴暗殺者に直撃する。炎で押し潰される。
俺は吐息で発生した上昇気流を捕まえて落下速度を軽減して着地する。急いで蜥蜴暗殺者を見る。蜥蜴暗殺者は粘土を真上から拳で思いっきり叩いた前衛的なアートのようになっている、どうみても絶命だ。ボス格の一角を崩した、ブレスは残り2発。
正門が開いている、蜥蜴暗殺者たちが内側から開けたのだろう。橋の中央に立つエリノアが背後も見ずに俺に話しかけた。
「バーガー! そんにゃところでにゃにしている! 隠れてろって言ったのに!」
「色々あってな、手を貸そうか?」
「猫の手は足りてるから、どっかいって、ニャッ!!」
俺たちの会話を遮るように、蜥蜴剣聖はエリノアに斬り掛かる。エリノアはバク宙をして後ろに回避する。
「ハンバーガーの手も貸そうか?」
「手にゃんてにゃいだろ」
どうやら、後は蜥蜴剣聖だけらしい、周りには蜥蜴剣士の死体が幾つも転がっている。
「こいつの相手はバーガーにはまだ早いにゃ、ミーの戦いをよく見て学ぶといいよ」
「死んだら骨は拾ってやるからな!」
「不吉にゃこと言うにゃ!」
エリノアは腰ベルトの魔法巻物を一本取りだして指で弾き口に咥える。魔法巻物が青白い光を放ちボロボロと消滅する、するとエリノアの剣に青い光が灯る、刃の部分が冷気に纏われた
あれは氷属性付加の魔法陣だ、今のエリノアの振るう剣には氷の力が宿っている。ルフレオ図鑑によれば蜥蜴人系の弱点は例外はあれど基本的に氷属性だ。
「うわ、にゃんだこれ、つめて」
「お前も食らうのかよ!」
その隙を蜥蜴剣聖は見逃さない、エリノアの喉元に剣を走らせる。
「にゃんちゃって」
エリノアの切り返しの一撃だ、さっきのは演技だったんだ。蜥蜴剣聖の胴体を斬り付けると同時に剣に纏っていた冷気が吹き付ける。決まった蜥蜴剣聖の胸当てが凍り付く、しかし蒸気を上げて氷が溶けていく。
「にゃ! このデカブツ特異体質か! にゃ?!」
エリノアは魔法巻物を取り出して握る、するとエリノアを半透明な円が包み込む。飛来した矢が障壁にぶつかって弾き返される。物理攻撃のみを弾く防御魔法、物質障壁を発動させたのだ。
「向こうの弓兵が邪魔だにゃ」
「俺が行ってこよう」
「にゃら、ミーがこいつの注意を引きつけるから、その隙に橋を渡るんだ」
俺は全速力で蜥蜴剣聖に向かって跳ね出す、エリノアを信じる。
エリノアは魔法巻物を取り出し握る。エリノアの両腕に魔法でできた半透明の蔓が生成される、拘束蔓だ。エリノアが左手を蜥蜴剣聖に向けると、半透明の蔓は急速に伸びて、蜥蜴剣聖に絡みついた。
「今だ!」
俺は蜥蜴剣聖の脇を抜けて原っぱに跳ね出す。
原っぱを跳ねて進むと、奥の方に蜥蜴狙撃手と蜥蜴魔導師が見える。それぞれが木を盾代わりにしてアイナたちと応戦している。砦の屋上から矢と氷塊が俺の向かう方向に何発も飛んでいく、ここを決めれば俺たちの勝ちだ! む!
「『硬化』ぬうッ!!」
俺のバンズのクラウンの部分、眉間の中心に矢が突き刺さる。蜥蜴狙撃手の反撃だ。この矢、硬化しているのにも関わらず俺の体を貫いてきた、めちゃくちゃ痛い、鉄串で太ももを刺された気分だ、やられたことないけど。魔法陣に当たれば一発で昇天してしまう。くそ! 何をビビっているんだ! 臆するな! 進めぃ!
「『激怒の力』」
なぜこのタイミングで俺はこの魔法を使ったのか、実はこの激怒の力はただの攻撃力上昇魔法ではない。
副作用としてめっちゃムカつくのだ、興奮状態に陥り痛みなどまるで意に介さなくなる!
「あー、ダメだめっちゃムカつく! 隣人の部屋がうるさくて壁ドンしたら壁貫通させちゃった時のことを思い出す!」
俺は矢など気にせず突っ込む、なにせクッソムカついてるからな、ああクソ、下の階がうるさくて足で床ドンしたら床をぶち抜いた時のことを思い出した。アイナの矢の援護もあり、蜥蜴狙撃手も集中して俺を射ることができない。よし目の前まできたぞ!
「矢のお返しだ! 『火炎の吐息』」
木の影から出ることができない蜥蜴狙撃手は俺のブレスをまともに受けた。上半身が吹き飛とんだ、即死だ。
その奥にいる蜥蜴魔導師は引きつった顔でこちらを見ている。
「やるのか? どうなんだおい!!」
意を決して俺に杖を向ける。火の玉を打ち出してきた。ならば!
「『火炎の吐息』」
火炎の吐息は火の玉を飲み込む、衝撃が蜥蜴魔導師を襲う。これで吐息の残弾は0だ。
俺は短剣で果敢に攻める、戦闘タイプではない蜥蜴人だ! 体はデカイが単純な戦闘だけなら剣士にも劣る、つまり俺とどっこいのいい勝負だ!
魔法を使われないようにインファイトに切り替えて、距離を開けずに絶え間なく攻める、杖で殴りかかってくるがそんなものが当たるわけもない。
俺は蜥蜴魔導師の両方の膝裏を斬り付けて跪かせる、そして真正面から首を突き刺す。夥しい返り血を浴びて俺は真っ赤に染まる、喉元を抑えたまま蜥蜴魔導師は倒れた。
後は蜥蜴剣聖だけだ!
振り返るとエリノアが魔法巻物を発動させている、刃先に魔力がコーティングされる、あの魔法は鋭利だ、剣の斬れ味を強化する魔法だ。次の瞬間、エリノアは蜥蜴剣聖の持つ鉄製盾を紙切れのように切断した、凄まじい切れ味だ。
体を捻らせてエリノアは連撃を繰り出す、蜥蜴剣聖の腹を防御した剣ごと斬り裂く。蜥蜴剣聖はその場に倒れる、トドメと言わんばかりにエリノアは蜥蜴剣聖の首を豆腐を切るように跳ねた。
「やっと片付いたにゃ」
と言うエリノアの周りは蜥蜴人の惨殺死体で死屍累々だ、かなり血なまぐさい、これをほとんど一人でやったのか。
「切り傷だらけだな、治癒魔法を掛けてやる」
「どうみてもバーガーの方が重症だにゃ、頭に矢が刺さってるよ」
「なに頭に矢を受けただけだよ、ほら治癒魔法いらないのか?」
「上級治癒の魔法巻物もあるけどもったいにゃいから頼むよ」
俺はエリノアに治癒を掛ける、深い傷は一つもない、見切って躱していたのだろう、こんな切り傷程度なら一回で足りる。
「ありがとう、あぶにゃい!」
「え!?」
俺はバンズのクラウン部分を急速回転させる背後から火球が飛んでくるのが見えた。ダメだすでに目の前だ、これは躱せない。
「······あれ?」
目を開くと俺はオーロラ色の円に包まれていた。間一髪でエリノアが魔法攻撃のみを反射する魔法、魔法反射の魔法巻物を発動させたんだ。
火球は術者の蜥蜴魔導師に打ち返された、瀕死の蜥蜴魔導師はなす術なく火だるまになる、今度こそ死んだだろう。
「あ、ありがとう」
「バーガーは爪が甘いにゃ、首を切り飛ばさにゃきゃしばらく生きてるよ」
こうして俺たちは蜥蜴軍団を殲滅することに成功した。急いでツナコマ村に帰還した俺たちは事の顛末を村長に報告する。
「なんと言っていいのか、村を代表して礼を言わせてください」
「勇者として当然のことをしたまでだ、して一つ気になることがあるんだが」
「なんでしょう」
「蜥蜴人たちは砦を占拠していたのだが、それについて何か知っているか?」
「ええ、たぶんその砦なら、その昔、王国軍と魔王軍の戦争が激しかった頃に作られたものでしょう。ここら一帯も戦争地域だったと記録されております、それをまさか魔物が利用するとは」
「なるほどな、じゃあこれからは周囲の村々と連携を取り砦を管理してくれ、二度と魔物に利用されないようにな。国王には俺から言っておく」
「国王と会ったこともにゃいのに······」
「お、おほん。当面は砦でそのままになっている蜥蜴の死体の処理、武具や防具の回収をしてもらおう、ほっとくと死体を食べに魔物が寄り付きそうだしな。あと各村への伝達もだ、村長を集めて会議を開くなりなんなりしてくれ」
「わかりました、私たちが責任をもって砦を守ります」
「うむ、任せたぞ」
こうして俺は後始末を丸投げすることに成功した。エリノアが「武具と防具を売れば結構にゃ金ににゃるのにー」と算盤を弾いては肩を落としていた。数日休んでから俺たちはツナコマ村を出立した。