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第77話 大戦争3

挿絵(By みてみん)


「クレア、現状報告お願いしまーす」

「はっ、後方つまり西側では、聖騎士大隊長オショー、マナーの盾の適合者のヒマリ、そしてヒマリが指揮する月の無い夜ムーンロストナイト部隊が魔獣チワワと交戦中」

「魔獣チワワはまだ遊んでいるようですーね。異常があればすぐに報せなさーい」

「はっ、次に魔王城上空にいるグレイブ様ですが、未だに龍騎士ガリュウと交戦中です」

「まだ怒りが足りないのでしょーう」

「次に魔王城の真下ですが、聖騎士大隊長ロイが九大天王のディザスターと交戦中。聖騎士たちの大多数がそこで魔王城の柱から降りてくる魔王軍を抑えています」

「ロイの持つスパイシーな聖剣とディザスターは相性抜群でーす」

「次に城下町ですが、どこにでも出現する骸骨スケルトンに手を焼いてます」

「これはそろそろ手を打たないといけませんーね」

「最後に九大天王だったセミリオンですが、ご覧の通り魔王により殺害されました」

「嬉しいことですーが、相手にされていない感じが嫌ですーね」


 王さまは髭を撫でた。


「決めにいきますーか、このままでは被害が拡大するばかりでーす」

「何か策があるのか?」

「先の映像で魔王がいることが分かりまーした」

「いない場合も考えられたのか」

「はーい、安全な場所で勇者を倒しに来ることも想定していましーた」

「魔王の場所が分かった今なら、勇者である俺を送り込めるな」

「そうでーす。魔王を倒して、この戦乱の世を終わらせるのでーす」

「よし、みんな準備はいいか」

「はい!」


 アイナは準備万端だ。ジゼルも帽子を被り直した。


「エリーがいない。けどやるしかない」

「来てくれる、来れなくても俺たちのためになにかしているはずだ、そうだろ?」

「イエア」

「さぁ王さま、どうやって魔王城まで行けばいい?」

「クゥとクロスケに道を作らせまーす」

「あれ、他の人たちみたいに翼をさずけてくれないのか?」

「あれは安全な方法ではありませーん。勇者を運ぶ方法にしてはリスキーでーす」

「ならどうやって?」

「勇者なら堂々と行くべきでーす」

「まさか魔王城に入って攻略していくのか?」

「そうでーす」

「マジか」

「そのためのクゥとクロスケでーす。これがいま勇者を魔王とエンカウントさせられる可能性が最も高い方法でーす」

「そうだな、三騎士が二人もついてくれるんだ。こんなに頼しいことはない」

「そして時間は余りありませーん。これは捨て身でもありますかーら、攻撃に力を裂きすぎるので、長引けばこちらが不利になりまーす」

「わかった。なるはやだな!」

「そうでーす。最短距離で到達、速攻で魔王を倒してきてくださーい」



 魔王城攻略パーティを発表しよう。まずアイナとジゼルだ、お馴染みの勇者パーティメンバーだ。本当はスーにも来て欲しかったがあんな様子じゃ連れて行けない。そしてモーちゃんだが攻撃性能ならSクラスあるが総合評価ではAクラスの魔物だ、はっきり言ってこの戦いにはついてこれない。だから国民と一緒に地下に避難してもらっている。ここに来てから築き上げた信頼は厚く誰もモーちゃんを怖がる人はいなくなっている。骸骨スケルトンくらいの雑魚なら余裕で蹴散らせるし逆に頼もしいくらいだろう。


 エリノアはどこにいるんだろうか。見当もつかない。だから今動ける勇者パーティは3名となる。そして強力な助っ人として三騎士、月白騎士クゥと金色騎士クロスケがついてきてくれる。


「ホッホッホ。ワシの出番かの」

「ルフレオ!」


 そう、現れたのは攻撃特化型魔法使いのルフレオだ。


「おじぃちゃん」

「まずはワシが先手を打とう。前衛がこれだけしっかりしているんじゃ。隕石魔法メテオマジックも打ち放題じゃ。よろしいかな王さま」

「もちろんでーす、勇者パーティは先にどうーぞ」

「そうさせてもらう。行くぞみんな!」

「おおー!!」


 俺、アイナ、ジゼルが王城から出ると、空が真っ赤に染まった。ゆっくりと巨大な隕石が落ちてきている。実際はとんでもない速度で落ちている、遠くだからゆっくりに見えるんだ。隕石が魔王城に向かって幾つも落ちていく。障壁のようなものが阻むが、砕け散った隕石の破片(破片と言っても巨大な岩だ)が降り注いでいる。


「よし、今のうちに城下町を抜けるぞ!」


 今のところクゥとクロスケは来ていない。後から合流する流れだ。


「バーガー様! 前方、骸骨スケルトンです!」

「俺がやる!」


 俺は機敏に動きMソードで骸骨スケルトンの群れを薙ぎ払った。城下町は聖騎士たちと骸骨スケルトンの戦いが至る所で繰り広げられていた。


「弱いとはいえこの数は脅威だ」


 九大天王ホネルトンか、本人はどこかに引きこもってひたすら骸骨スケルトンを呼び出しているのか。たしかに長引けばこちらが不利ってのは間違いないな。いくら倒しても本体を叩かなければ意味がなさそうだ、それにどこにでも出現するってことは地下の避難施設にも出ているはずだ。護衛もいるが不安だ。



「バーガー様! 魔王城の下から魔物が!」


 聖騎士本隊から抜けて来た魔物がこちらに迫っている。

 かなりデカイな。牛の頭に巨人の体。木のように太い斧を片手で振り回している。Aクラスの魔物、守護牡牛ミノタウルスだ。


「今度は私が」

「ああ!」


 アイナが素早く弓を構え矢をつがえる。僅かに溜める、素早く息を吐いて放たれた矢は先にいる守護牡牛ミノタウルスの左目を貫通して後方に飛んでいった。アイナは射る前の溜めで矢に魔力を纏わせていた、それにより貫通力が格段に上昇している。さらにUターンした矢がミノタウルスの後頭部にヒットそのまま右目を貫いてアイナに帰ってくる。風を操作して操っているんだ。矢がアイナに向かってくる、それを掴んで血を振り払い素早く矢筒に戻した。魔力操作が格段に上昇している。守護牡牛ミノタウルスが遅れて倒れた。


 普通の矢なら傷み具合を確認するところだが、アイナが使っている矢は、龍の筋繊維を使って作られている龍矢と呼ばれる特注品だ。こんなことで傷まないのはよく知っている。


「ほんと強くなったな」

「ありがとうございます! バーガー様もあっという間に倒しちゃってカッコイイです!」

「やめろって、バハハハハハハ!」

「えへへへへ」

「二人とも」


 ジゼルの声に俺たちは切り替える。余裕は大事だがその分しっかりと切り替えていかねばならない。ジゼルのお陰でメリハリが出る。


「魔王城。超巨大ゴーレムの前足部分から登る」

「中はどうなっているんだ?」

「分からない」

「やっぱり空から行った方がいいんじゃないか?」

「空路だと、勇者とバレた時が怖い。格好の的になる」


 まさかハンバーガーが勇者だとは思わないだろうけど、今回は勇者らしくとオーダーされている。やはり正面突破しかない。クレアの念話テレパシーが届く。


『勇者パーティ』

「クレアか、どうした?」


 クレアの念話テレパシーは勇者パーティ全員に届いているようだ。


『予定通りそのまま進んでください』

「ゴーレムの足の中を通っていくんだな」

『はい。前を見てください』

「ん? お!」

「カカカ、よぉ、やっと出番か? ええ?」


 クロスケだ。あんな戦いをしたのにもう回復している。


「クゥのやつは先に向かっている。俺たちも急いでいくぞ」


 クロスケはそう言うと俺たちを一気に背負った。


「お、おい!」

「二歩ってところか、な!!」


 クロスケは跳躍、一歩目で城下町を抜け出す。壁を超えて草原に降り立つ。


「よっ!」


 さらに跳躍。魔王城がみるみる近づいてくる。聖騎士の本体を飛び越して魔王城の真下に降り立つ。ここは!!


「お、おい! 周り敵だらけだぞ!!」


そう、戦争の最前線どころか、ここは敵陣のど真ん中だ。


「カカカ、飛びすぎちまったな!」

「なに呑気にしてるんですか! 早く私たちを下ろしてーー」


そう言ってる間にも敵は来る。口を大きく開いた大蛇が魔力を放出する。魔力咆哮マジックヴォイスだ。避けられない。




「……あれ?」


なんともないぞ。どうしてだ?


「たく、知らねぇのか? 雑魚の攻撃は効かねぇんだよ。俺の半径2メートルに入った時点で自動的に無力化されるんだ」

「それを先に言ってくださいよ」


アイナは俺を庇うように抱きしめていた。気まずい感じで肩に乗り直す。


「カカカ! 普段はつまらねぇからこんな常時発動技能パッシブスキルはオフにしてるんだけどよ。せっかく大物がいるんだ、こんな雑魚どもに構ってるなんて馬鹿だぜ? なぁ?」

「戻って来たか、クロスケ」


 戦争が織り成す騒音の中でもよく通る声で星型の顔をした魔人は言った。九大天王の一人、凝縮された星コンデンストスターのディザスターだ。


「お前の相手なんかしてられるかよ」

「なんだ? その背負っている者たちは」

「おい、ロイ、こいつを黙らせろ」


 クロスケか呼ぶと瓦礫を吹き飛ばして聖騎士大隊長の一人、マスター・ド・ロイが姿を見せた。


「随分やられてんな。相性はいいんだろ?」


 ロイは押し黙っている。両手に構えた聖剣、マスタードソードと、その猛獣を思わせる表情を見れば彼が戦意を失っていないのがよくわかった。


「ここは任せてください、クロスケ様」

「もちろんだ。俺ァ、もっと大物を相手しに行くンだからよ」


 ディザスターが反応した。


「まさか魔王様と戦うつもりか?」

「おう、そのまさかだぜ」

「……その背中の者たちは、まさか」

「いつまで話している! お前の相手はこの俺だ! ディザスター!」


 ロイの聖剣がディザスターの胴体部分を斬りつけた。クリーンヒットだ! しかしディザスターの体には傷一つつかない。魔王軍最強の防御力を誇る魔人らしいからな。攻め崩すのは難しそうだ、と思っているとディザスターがよろめいた。


 クロスケが大声で笑った。


「『痛てぇ』だろ?」

「くっ、この程度の痛み……」


 まさかあのマスタードソードの能力って、俺が行き着いたと同時にジゼルが説明してくれた。


「あの聖剣は魂に直接痛みを与える激辛の力を持った聖剣、激辛聖剣。体に傷がつかなくても痛みは斬られた時よりも遥かに『痛む』」

「なるほど、体が硬いから精神面を攻めるってわけか」

「そういうこと」


 ロイが叫んだ。


「さぁ、ここは大丈夫だ! 早く行け!」


 正直言って、聖騎士大隊長よりも九大天王たちの方が数段上手な印象を受ける。ロイの聖剣がディザスターに有効だとしても、彼を置いていくのは些か不安が残る。しかしあそこに残って延々と戦い続けるのは違う。俺たちの本命は魔王を倒すことだ。魔王を倒さねばこの戦争は終わらない。人類が勝つ条件は魔王討伐なんだ、出来れば和解したいけどさ。クロスケは超巨大ゴーレムの足に空いている大きな穴に入る。中には魔物たちがぎっしりとひしめき合っている。クロスケは黄金大剣を振り回す。乱雑に、乱暴に、ランダムに、それだけで魔物たちが肉塊になっていく。


「くぁ、こんな雑魚ばかり相手してると眠くなってくらぁ」


 クロスケは螺旋階段を飛び上がりながら進んでいく。


「比較的に下の奴らが苦戦しそうなのを狙っちゃいるが、にしても骨が無さすぎる。骨のある魔物も少しは用意しておいてほしいもんだぜ」

「なぁクロスケ、絶者の気配は分かるか?」

「絶者か、そういやそんな奴がいるンだったな。知らねぇよ、あったことも無いやつの魔力なんて知るわけねぇだろ」

「それもそうか」


 絶者。対勇者特攻のジョブ、女神が言っていた俺以外の転生者。


「つえぇかなそいつ。エンカウントしたらまずは俺がやるからな、な?」


 クロスケはそう言って子供がねだるような顔をした。


 セギュラが言っていたが、絶者の名はギアと言うらしい。それ以外はどんな容姿かすら分からない。力量が分からない以上は最大限に警戒するしかない。とりあえず俺を倒せるくらいには強いと仮定しておこう。なぁに一人で戦うつもりは無い。俺たちはパーティなんだから。あ、向こうもパーティ組んでる可能性があるのか、侮れん。


「おう、勇者パーティども、そろそろゴーレムの背中に出るぞ」


 もうかなり高いところまで来たようだ。超巨大ゴーレムの中は薄暗い。クロスケは感覚で分かるようだ。


「城下町に出たらそこから魔王城に一気に飛んでいく、お前らも今のうちに戦闘に思考をシフトしとけよ。文字通りおんぶにだっこはそこで終わりだからな。カカカ」


 ずっとこの頼もしい背中にいたくなっちゃうな。


「出るぞ」


 クロスケが天井を突き破り跳躍する。超巨大ゴーレムの足の内部を通り抜け城下町に飛び出した。かなり高く飛んだな。


「いいか坊主ども、上から地形をしっかり目に焼き付けておけよ。魔王城まで運んでやるつもりだが情報は多い方がいいぞ」

「はい!」


 俺たちはクロスケの背中から水平線まで続く大規模な城下町を見る。


 立派な街並みだ。価値観が違うのか禍々しさのあるデザインが多いがそれでも生活感があって俺的にはいい街並みに見える。


 国民たちはこっちと同じように避難しているんだろう。一般国民は誰も見えない。代わりに武装した魔物や魔人の姿が見える。


続いて魔王城だ。城というよりも一つの街のような巨大さがある。黒い城と鋼の城、2つの城がシンボルとなっている。マップをパンに記憶させていく、今の俺は暗記パンだ。


「どっちの城に行くんだ?」

「黒だな。さっきの映像はそっちから来ていた。んぁ、出迎えだ」


 クロスケは前方を見る。俺たちも視線を下から前に戻す。前方から現れたのは二人の騎士だ。一人は大きなコウモリの翼を持った漆黒の軽鎧に身を包んだ悪魔騎士。もう一人は大きな鷲の翼を持ったお揃いの装備をした魔人騎士だ。


 二人ともその立派な翼を羽ばたかせずにその場に停空している。魔法を使って飛んでいるんだ。クロスケも足場に魔力を固めて空に立つ。


「私はブラギリオン様直属の配下。悪魔騎士ガルゾム」

「同じく魔人騎士クゾール」


 ブラギリオンというワードにジゼルが反応する。


「ブラギリオン……」

「九大天王のことだよな、知ってるのか?」

「昔。会ったことがある。底の見えない恐ろしいやつだった」


 クロスケはカカカと笑う。


「おいコラ舐めてんのか? ブラギリオンにはもっと上の部下がいただろうが、というかブラギリオンを出せ。テメェらじゃ相手になンねぇよ」

「下を見られよ」


 クロスケは素直に視線を外して下を見る。民家からゾロゾロと漆黒の騎士達が出てくるところだ。


「家でなにしてた?」

「お茶をしていたのです」

「カカカ!!!」


 クロスケは大声で笑った。


「カカカ!! カカカカ!! あー、おもしれぇなあ戦争中だぜ? それをお茶だぁ? やる気あんのか」

「ないです。ブラギリオン様はやる気がないのです。ですが、それなりに働かなければならないのも事実。なので我々ブラギリオン直属の配下である『漆黒部隊』が御相手致しましょう」

「ふぅん。ま、俺は戦闘狂じゃあねぇからいいけどな」


 どの口が言ってんだ。


「だから別に戦いたくねぇならいいんだ。俺たちゃ勝てればそれでいいからな」


 ガルゾムはホッと胸をなで下ろす仕草をした。


「よかった。もし我が主人と戦いたいなどと仰ったらどうしようかと」

「その心配はいらねぇよ」

「では、我々と戦ってください」

「それも嫌だよ。お茶会なんて俺はごめんだ。ほらあっち見てみろ」


 クロスケは首を動かして誘導する。そこは先鋒として送り込まれた精鋭エリート部隊たちが戦っていた。


「行くならあっちだろ。ここで無駄死にするよりいいと思うぞ」

「そうでござるな」

「ブラギリオンか」


 クロスケが視線を前に戻すと、僅か数メートル先に今までいなかった男がいた。クロスケがブラギリオンと呼んだそれはクロスケの死線を受けても意にも返さず続けた。


「その方がいいでござるな。じゃあ漆黒部隊はあの騒いでる所に行くでござる」

「はっ!!」


 漆黒部隊が遠ざかっていく。


「なんだ、いるじゃねぇか」

「もちろんでござる」


 あれが九大天王ブラギリオン。元四天王で『魔剣』を冠する男か。漆黒の鎧に包まれた偉丈夫だ。しかし見たところ剣を所持していない。


「やるか?」

「やらないでござる。めんどいでござる」


 ブラギリオンは俺に視線を合わせた。


「お主でござるか」

「!?」


 『バレた』そう確信した。ブラギリオンは俺が勇者だと気づいた。しかし何故? クロスケが体を動かしてブラギリオンの視線に入る。


「おい、立ち塞がりやがって、やるのかやらないのか、聞いてンだぞ」

「だからやらないでござる。邪魔したでござるな」


 ブラギリオンは降りていった。


 どういうわけか分からないが、ブラギリオンがこの戦争から降りてくれた。おっと、危ない危ない。純粋に喜べないよな、油断させといてからっということもある。振り返った瞬間に後ろからバッサリと斬りかかってくるかもしれない。向かってくる敵より、ああいった謎の行動をされるほうが厄介かも。


「けっ、つまんねぇやつ」


 クロスケは警戒する素振りも見せずに魔王城に向かって飛んだ。


「ほっといていいのか?」

「構わねぇ。今は時間がねぇからな。また雑魚に絡まれてもシラケるだけだろ」


 その時、紅蓮に染まっている空から何がが落ちてきた。龍騎士、ガリュウ・バーミリオンだ。自力での飛行ではなく、力なく頭から落ちている。


「上も決着が着いたみたいだな」

「グレイブが勝ったのか」

「当たり前だろ。あいつは強いからな。ブラギリオンに絡まれて時間を無駄にした、グレイブはあのままの高度で魔王城の真上に行くつもりだ、先を越されてたまるか」


 クロスケが速度をあげる。そして魔王城にそのままの速度で突っ込んでいく。


「ま、待て! ぶつかるぞ!」

「カカカ、衝撃に気をつけろよ」

「わあああああああ!!」


 魔王城の頂上付近に激突。壁を拳で突き破る。


「む、無茶苦茶するなぁ」

「いいじゃねぇか、下の階をかっ飛ばせたんだからよ。魔王は奥だな。ここからは歩きだ、ほら降りろ」


 冷静になって辺りを見渡す。魔王城内部は黒を基調とした悪魔調のデザインだ。カッコいい。


「敵は出てこないな」

「もたついてたら邪魔が入る、オラ行くぞ」


 しばらく走っているが一向に敵が出てこない。さすがのクロスケもこれには驚いた。


「マジで出迎えが来ないな、うなってんだこの城は、侵入者が来てンだぞ?」


 魔王城内は不気味なほどに静まり返っている。


「誘ってんのか、いいや、行こうぜ」

「クゥたちは待たなくていいのか?」

「あいつらはすぐに追いつく、今のうちに陣地を広げておくぞ」


 クロスケを先頭に魔王城内を進む。王の城ということもあり綺麗だ。ちょっとした扉にも彫刻が施されており。これからここが戦闘地域になると思うと惜しい気がする。価値なんて分からないけど。


「この奥だな。この奥が玉座の間だ」


 ラスボス前の最後の場所か。ここで体力を全快して、しっかりセーブしないとな。クロスケが扉を開こうと手を伸ばす、しかしそれは肩透かしに終わる。扉が勝手に開き出した。重々しい開き方だ、なんとも威圧感がある。開け放たれた扉からはひんやりとした空気がなだれ込んでくる。勇者パーティは覚悟は出来ているが、冷や汗をかくなというほうが無理な話だ。冷や汗くらいかかせてやってくれ。それくらいに空気が重い。部屋の中は薄暗く先が見えない。


「さ、入ンぞ」


 クロスケはズカズカと入っていく。俺たちも陣形を組みつつあとに続く。中ほどまで進むと部屋に明かりがつく。宝石のような美しさを持つ最高級の魔光石が照らしているのだ。



 さっき見た映像と同じ人が玉座に腰掛けている。その目は深淵を覗いたように黒く、見つめ続けていると落ちてしまうのではないかという恐怖すら与える。あの人がスーの兄貴、魔王龍ダークネスドラゴン。


「よく来たな」

「けっ、出迎えもなしとはな、舐められたもンだな」

「見定めねばならん。誰が勇者だ? いるのだろう?」


 魔王は順番に俺たちを見る。そしてMソードに目がいく。


「その剣を咥えているということはお主が勇者だな」


 魔王は立ち上がり語った。


「勇者と魔王。この世界では初の邂逅だな」

「この世界? 別の世界があるみたいな言い方だな」

「その通りだ。別世界の話だ。別の世界では勇者と魔王はよく争っている」

「それって…、」


 俺の世界のことか? 俺の世界ではアニメとかになるけど、それとも、それとは別に世界があるのか、魔王はどこまで知っているんだ。


「こんなことを言っておいてなんだが、我が直接見たわけではない。我はこの宇宙一つのみを支配することしか出来ん。別世界パラレルワールドを行き来出来るのは、我が兄。転移龍ドラゴンカーセックスのみだ。我は兄から聞いた話をお主たちに話しているに過ぎぬ」


 クロスケが前に出た。


「それで別の世界とやらの勇者と魔王はどっちが勝つんだ?」

「勇者だ」


 クロスケはカカカと笑った。


「おもしれぇ話じゃねぇか、ええ? 負けるために魔王になったのか?」

「ふ、別世界は無数にある。魔王が勝つ世界もある」

「へ、だとよ。バーガー」

「これから俺たちは戦うのか?」

「そのために来たのであろう。お主が我を倒さなければ人類は滅ぶ。それだけで争う理由になり得るだろう」

「そうだな。そんなことはさせない」

「ならば名乗れ。勇者とはそういうものだろう」

「……俺は勇者! 勇者バーガー・グリルガード! 魔王を倒すものだ!」


 魔王はそれを聞いて初めて平たい口の口角を上げた。


「我は魔王龍ダークネスドラゴン。世界を闇に染める者なり」





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