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第75話 大戦争1

挿絵(By みてみん)



「カカカ! カカカ!!」


 クロスケは数度の跳躍で王都から出る。矢よりも速い。


「ゴーレムの足切り落としてダルマにしてやる!」


 黄金大剣を魔力生成する。その様子を見た王さまが指示を出す。


「ここからでは見にくいですね。クレア、魔水晶で戦闘地域を映し出してください」

「はい」


 クレアは大きな紫色の水晶を取り出すと机の中心に置いた。


映像ヴィジョン


 魔水晶の上にホログラムのように映像が映し出される。


「これで向こうの戦いも見られまーす。さらに幾つか設置してくださーい」

「はい」


 ホログラムから声がする。音まで拾えるのか、魔水晶の一つが魔王城の城壁の上にいる2人を映し出している。


「おや、九大天王の二人ですーね」

「あの2人が」


 声がする。


「見られてるけど気にしなくていいかな。内部までは映せないしね。それにしてもあれはクロスケだ、まずいねゴーレムが解体されちゃうよ。誰が出る?」

「私が行こう」



 クロスケの前に現れたのは。


「私が相手だ、クロスケ」

「ディザスターじゃねぇか! こりゃまた殴りがいのあるやつが現れてくれたな!」

「これは歴史に残る戦争だ。互いに名乗ろうじゃないか」

「はっ、いいねぇ!」

「九大天王が一人、凝縮された星コンデンストスターのディザスター。魔王様を守る最硬の盾だ」

「三騎士のクロスケだ、よろしく!」


 超巨大ゴーレムの股の下で戦いが始まる。股の下の決戦と語り継がれることだろう。クロスケを追うように聖騎士たちが王都から出撃していく。俺はそこまで見守って一息つく。


「あれなら魔物たちも態勢を整えられないな」

「それで済めばこんなに長く戦争はやってませーん。皆さん剣を取りなさーい」


 どうしてだ? まだ魔王軍は展開すらままなってないのに。


「おやおや、流石は人類の王といったところですね」

「誰だ!?」


 背後に立っているのは骸骨スケルトンだ!


「何奴!」

「待ちなさーい」


 親衛隊が抜刀するのを王さまは言葉のみで止める。


「これは九大天王のホネルトンの術でーす。いくらでも出てくるのでーす、話くらい聞いてからでも遅くないのでーす」

「よくご存知で人の王。簡潔に申し上げますとこれから王国全土に骸骨スケルトンを召喚したく思います」

「ダメと言ってもやるでしょーが」

「もちろんです。ですが一声かけるのが私のマナーですので」


 王さまが立ち上がり、骸骨スケルトンの頭を掴む、豆腐を握るように頭蓋骨を粉砕した。


「と、言うわけでーす。すでに魔王軍からの攻撃は始まっていまーす。気を抜かないように」

「はっ!!」

「それにしてもスー様がこれほど近くに居るのに骸骨スケルトンを作り出せるとは恐れ入りまーす」

「それはどういうことだ?」

「知らないのですーか? スー様は死を司る龍、いえ、死そのものなのでーす」


 横目でスーを見る。とてもそうは思えない。


「スーが死の化身だったらなんなんだ?」

「この世界で死んだ者の全てはスー様に吸収されているのでーす」

「全て?」

「故人の持っていた知識、魔力、技術、そして魂に至るまで、余すところなくその全てがスー様に蓄積されているのでーす」

「マジでか!?」


 俺は再びスーを見る。震えながらちょっとドヤ顔している。


「つまりこの世界にはおばけの類はいないということか」

「例外もありまーす、稀に漏れることもありまーす。ね、スー様」

「そうなの」

「じゃああの骸骨スケルトンは」

「その例外でーす。ホネルトンはスー様に唯一抗える死の才能を持った魔人なのでーす」


 兵士が報告にあがる。


「王さま! 王都全域に無数の骸骨スケルトンが出現しました!」

骸骨スケルトン自体は弱いでーす。地下避難場所の結界を二重に張り直しなさーい」

「はっ!」


 王さまはお茶を啜る。


「ではそろそろ次の一手を打ちましょーう」

「どうするんだ?」

「まずはあの魔王城に辿り着かなければジリ貧で負けまーす」

「あんなに高く飛んでいる魔王城に行く方法があるのか?」


 あの4本の足から登るか? 中には敵がうようよいるが。


「落とせればいいんですーが、守られるでしょーね」

「じゃあどうすればいいんだ」

「こちらから飛んでいきましょーう」

「マジか」

「マジでーす。少数精鋭を送り込みまーす。地上では防衛戦に徹し、魔王城内では攻略を試みまーす」


 同時進行か、そうでもしないと勝機がないんだろう。


「作戦は分かった、俺はどうすればいい」

「もちろんバーガーは魔王を倒せる最強の矛でーす。攻めに使わない手はありませーん」

「なら俺も少数精鋭部隊に」

「ちっちっち、戦争はそう甘くはありませーん。いきなり王を取れるわけがありませーん。この少数精鋭は決死、ほとんどが死ぬでしょう」


 俺は言葉を返せない。


「何度も、何度もそれを繰り返して、勝利への道をこじ開けるのでーす。そうして出来た道をバーガー、貴方が進んで行くのでーす。いいですーね?」

「分かった。必ず魔王を倒す」

「信じてまーす。では事前に準備しておいた少数精鋭部隊を呼びなさーい」


 兵士たちが慌ただしく動き始めた。俺はそのうちに勇者パーティの点呼をとる。


「アイナ」

「はい!」

「ジゼル」

「オウ」

「スー」

「なの……」


 エリノアはいない。いまだ行方不明だ。


「一緒に戦ってくれ」

「はい!」

「モチ」

「……」


 そう、今回も彼女たち(スーを除いて)が俺に着いてきてくれる。一番息のあった連携を取れる勇者パーティこそが今の俺を最高に旨くしてくれる。


「来ました、第一陣、精鋭部隊は10名でーす」


 さすがに少な過ぎないか?


「この10名は仲間が近くにいると戦えないタイプの者たちでーす。簡単に言えば敵も味方も全てを攻撃してしまうタイプでーす」

狂戦士バーサーカーってことか」

「概ね正解でーす。さらに魔法が付加された防具に武器、そして王国魔道士たちが丹精込めて魔法陣の刺青をいれてありまーす」

「どのくらい強いんだ?」

「攻めだけなら三騎士に並ぶくらいでーす」

「それはない」

「クゥ!」


 現れたのは三騎士である、月白騎士クゥだ。隣には執事のスタン・フロードもいる。


「はっはっは、王さまジョークでーす。でもめちゃくちゃ強いでーす。先陣には持ってこいの勇ましさでーす」

「私はいかなくていいのか?」

「クゥは王国の守りの要でーす。三騎士を全て投入しては九大天王が攻めてきときに抑えきれませーん」

「しょうがない。座して待つ」


 クゥは「クロスケに任せないで私が行けばよかった」「その通りでございます」とスタンと話しながら部屋からでていった。



精鋭狂戦士エリートバーサーカー部隊、いつでも行けます!」

「放ちなさーい」

「はっ!」


 俺たちはテラスから顔を出す。広場の中心に10名の巨躯戦士がいる、あれが精鋭部隊か。


「どうやって運ぶんだ?」

「あれを見て」


 ジゼルが指差す、城から王国魔導師が出てきた。フードを深くかぶっているのは王国魔導師たち共通(ジゼルは例外)のファッションだが、異質なものが背中に生えている。


「あれは翼か?」


 白い翼が生えている。


「あれは翼の魔導師。高性能な飛行能力を付与させる魔法が得意」


 翼の魔道士が呪文を唱える。


高速飛行フライハイ


 精鋭狂戦士エリートバーサーカー部隊の隊員たちの背中に魔力生成された大きな翼が現れた。続けて魔法を唱える。


初速最速スタートダッシュ


 精鋭狂戦士エリートバーサーカー部隊が吹き飛んだ。目指すは魔王城だ。


 部屋に10箇所設置された魔水晶が様々な角度で魔王城を映し出す。王さまはその様子を数秒眺め、指示を出す。


「クレア、魔水晶を一つ使って、魔王城とは逆の地域の映像を映してくださーい」

「はい」


 クレアはすぐに一番端の魔水晶に手をかざす。その様子を見た王さまが数秒悩み。そして決断した。


「全体に念話テレパシーで伝えてくださーい」

「なんと?」

「背後から魔獣チワワか迫っていまーす」

「まさか、映像には何も……あっ!」


 クレアが映像を拡大をしていく。それでもやっと砂粒程度の影が見える程度だ。


「本当に魔獣チワワだ……」


 クレアの顔は見る見る青ざめ身震いする。


「クゥ様に向かって頂きましょう! 対応を間違えればあれ一つで王国が落ちます!」

「なりませーん。クゥを後方に出してしまえば正面からの攻撃に耐えられなくなりまーす」

「では誰を向かわせると言うのですか!」

「ヒマリでーす」


 魔獣チワワと言えば九大天王だ。それをヒマリに任せるというのか。


念話テレパシーでヒマリを呼びなさーい」

「はい。ですが大丈夫なのですか?」


 クレアも同じことを思ったようだ。


「大丈夫な戦争などありませーん。我々で最大限にバックアップするのでーす」

「分かりました。腕利きの聖騎士たちをつけます。翼の魔導師に翼をさずけてもらい、直ちに現場に向かわせます」

「そうしてくださーい」


 ヒマリを一人には出来ない。


「俺も行こう」

「ダメでーす。バーガーは魔王を倒すことのみに集中してもらいまーす」

「くっ」


 俺は言葉を噛み殺す。


 魔水晶が映すヒマリたちのリアルタイムの映像を俺たちは食い入るように見つめる。ヒマリはこめかみに人差し指を当てて返事をしている、クレアからの念話テレパシーをキャッチしているんだ。


 数度頷いて。ヒマリの瞳がどす黒いものに変わっていくのがわかる。少しして翼の魔導師が飛んでくる、ヒマリと聖騎士たちに高速飛行フライハイを施す、ヒマリは軽く飛んで動作を確認した後、飛び立って行った。


 対する魔獣チワワは呑気に歩いている。それでも確実にこっちに近づいている。見たところ部下や他の九大天王の姿は見えない。たったの一頭だ。ヒマリたちが着く前に後方を警備している聖騎士たちとぶつかる。


「魔獣チワワ接近! 弓兵構え!」


 見張り台の兵士が叫ぶ。街を囲む壁の内側にいる弓兵たちが空目がけ矢を引き絞る。矢尻がぼんやりと光る。あの弓矢全てが魔法武器マジックウエポンなのだ。


「放て!」


 合図とともに魔法矢マジックアローが放たれる。貫通力が強化されている魔法の矢だ、魔獣チワワは降り掛かる矢を眺めている。矢の軌道が変化する。自動追尾魔法(オートホーミングマジックも掛かっているんだ。あれなら小さな魔獣では一溜りもないだろう。その時。












「グワアアッキャアアーーンーーッぅウオオオオオオオンンンン!!」













 魔獣チワワが吠えた。その咆哮は魔水晶からでなくとも聞こえるほどの音量だった。


「や、矢が!?」


 驚きを隠せない見張り台の兵士が、なんとかそれだけ呟いた。魔水晶モニター越しに見ていた俺たちからはよく分かった。


「咆哮で矢を砕きやがった」


 魔獣チワワはぺろりと舌なめずりをして、突如、人のような笑みを見せる。それを直視してしまった兵士はあまりの不気味さにガクガクと震え出す。チワワとは名前ばかりで、俺の知っているチワワじゃない。


「ハハハハハハ!」


 人の声だ、軽快に笑うオペラ歌手のような声だ。ゾッとする、その声を発しているのは人ではなく異形の怪物なのだから。



「遅くなりました」


 ヒマリが壁上に着地する。そして魔獣チワワを見る。いまだに人の声帯を使い叫んでいる。近づいてきた兵士に問う。


「あれは人ですか?」

「いえ、あれが魔獣チワワです。人から奪った声帯で遊んでいるのです!」


 憎しみの篭もった兵士の声色に対してヒマリは冷淡に答えた。


「そうですか、では生きた人質はいないんですね」


 ヒマリは高速飛行フライハイを使い。壁を飛び降りて門の裏手に回る。遅れて月の無い夜ムーンロストナイト部隊副隊長リトルスモール・ビッグソードが到着する。


「どうするんだヒマリ『隊長』」


 そう、ヒマリはマナーの盾を得てから月の無い夜ムーンロストナイト部隊の隊長になっていた。


「殺します」

「分かった。お前たち聞いたか! 俺たちで魔獣チワワを討伐するぞ!」

「おお!!」


 次々に到着した聖騎士たちが雄叫びのごとき返事をする。門を放ち次々に展開していく、瞬く間にヒマリたちは隊列を組み終える。少しして魔獣チワワが到着した。


「あれは九大天王だ。対抗できるとすれば聖騎士大隊長クラス以上からだ。そうですよねオショー大隊長」


 リトルはそう言うと、隊列の後ろから聖騎士大隊長のオショーが現れた。


「相性が良ければ、も、付け加えていただければ完璧ですな」


 オショーはすでに聖鎌のカマちゃんを手にしている。ヒマリが首を傾げた。


「ここに召集されたということはあの魔獣に対して有効な攻撃手段があるということですか」

「そうですな。と言いたいところですがな。あの魔獣チワワは相性云々の次元を超えておりましてな」

「では勝てないんですか?」

「やってみないことには、ですがこれは戦争、勝つだけが全てじゃないのです」

「時間稼ぎ、ですか。だったら私が」

「でしょうな。他の地域の戦闘が終わり援軍が来るまでの間、ここで魔獣チワワの侵攻を食い止め、ここを突破されないようにするのが我々の役目。マナーの盾の適合者であるヒマリ殿ならばそれが可能、と王さまは判断されたのでしょう。滅ぼす前に段取りがありますぞ」

「わかりました」

「いいですかなヒマリ殿、決して深追いしないように。しなくとも向こうから来ますゆえ」


 ヒマリは頷くだけで返した。オショーはやや肩をすくめる。


「リトル殿、いっちょう『守り』ましょうか!」

「はっ! ご一緒いたします! 必ず『守り』ましょう」


 二人の視線はヒマリに向けられている。魔獣チワワはその様子を人のような顔で微笑み見ていた。まるで愛する我が子の成長を喜ぶ母のような優しいほほ笑みをたたえている。そして終わったのを確認して破顔する。


「ああああああアアアァァァあああああンンンん!!!!」


 魔獣チワワが鬼の形相で迫る!


「カマさん、行きますぞ、鎌鼬」


 聖鎌から魔力生成された風の性質を持つ鼬が飛び出す。と言っても視認しにくい風の魔法だ。魔獣チワワは直進したまま、もろに直撃する。しかし無傷。


「ヴァルヴァル!!」

「小手調べ効果なし、旋風」


 今度は設置型の風魔法だ。魔獣チワワの周囲に風の刃が発生する。


「ヴァHAHAHAハハハハーー!!」

「皮膚が変化していますな。今のチワワは岩石よりも硬い外骨格を纏ってますぞ!」


 リトルが前に出た。


「私が行こう、小隊連携だ!」

「おお!!」


 聖騎士を引き連れリトルが先陣を切る。


「おおおお! ビッグソード!」


 リトルは小柄な体型にも関わらず大剣を軽々と振るう。ビックソードは重力魔法によって軽くなっている。そういう魔法武器マジックウェポンだ。リトルは軽業師が行うようなナイフ捌きを大剣で実現させる。あんなもの俺でも受けきれないだろう。


「ゲヘヘ」

「むっ!?」


 魔獣チワワは文字通り手数を増やした。そう3本目の腕が生えた。否、それどころか背中から大量の腕が生えてくるではないか。伸びる腕がリトルを捕まえようと執拗に迫る。


「旋風!」


 オショーの魔法援護により魔獣チワワの腕が幾つか切断される。生えたての腕は切断できるようだ。


「挟み込め!」


 尚もリトルは挟撃指示を出す。指示を受けて聖騎士たちが左右に分れ魔獣チワワを槍で突く。背から生えた長い腕でその槍を掴んで止める。そして無造作に振り回す、聖騎士たちが空を舞う。


「槍は掴まれて不利だ。剣を抜け! 魔力を込めて切りつけろ! 少しでも削るんだ!」

「おお!!」


 リトルが魔獣チワワの腕の殆どを相手取っている。そのお陰で聖騎士たちに腕の追撃はほとんどない。リトルは正面からやや外れるように立ち回っている。


「ヒマリ! 今だ!」


 リトルが大きく右に飛ぶ。背後にいたヒマリが素早く剣を構える。


「サンライトフラッシュ!」


 双子聖剣サンザフラのサンの方から放たれた熱光線が魔獣チワワを襲う。魔獣チワワは顔を顰めている一時的に視力を奪った!


「今だ! 続けえ!!」

「ヴァハハ!!」

「なに!?」


 魔獣チワワが飛んだ。一瞬にして蝙蝠のような皮膜を腕と脇の間に作ってばたつかせて飛んでいる。


「魔獣チワワが視力を取り戻しました。そして制空権を取られました!」

「まだだ! 翼の魔導師から授かった翼を再展開すれば取り戻せる! それに対空ならオショーさんがいる!」

「おまかせを!」


 オショーが聖鎌を大きく振るう。空が唸る。


「対空には少々自信がありますぞ、唸れカマさん!」


 聖鎌がケタケタと笑うように震える。魔獣チワワの周囲に竜巻が発生する。


高速飛行フライハイが掛かっているものは飛んで魔獣チワワを囲め! 絶対に王都に入れるな!」

「おお!!」


 魔獣チワワはまだ余力を残していそうだが、今はなんとか抑えているようだ。クレアが視線を移す。


「王さま、魔王城の方でも動きが」

「むむ、忙しいでーす」

精鋭狂戦士エリートバーサーカー部隊が魔王城に侵入成功いたしました。侵攻開始。相手は」

「相手は……あれ誰でーす?」



「ミッミッミッミッ」



 あの鳴き声は。


「勇者様から報告にあった九大天王かと」

「『魔夏』のセミリオンですーか、しかし報告にあるとおりならば精鋭狂戦士エリートバーサーカー部隊でも勝機はありますーね。次の兵士たちをどんどん投入しなさーい」

「かしこまりました」


 精鋭狂戦士エリートバーサーカーの体に刻まれた魔法陣が光る。肉体強化の魔法が発動したのだ。


「私は魔夏のセミリオン。……ってまた話を聞かないタイプですか」


 振り回された棍棒をセミリオンはその細長い腕で防御する。


「重い一撃ですね。ですがそれだけです。『超振動』」


 棍棒が砕ける。精鋭狂戦士エリートバーサーカーは本能によって、すでに棍棒を手放していた。他の精鋭狂戦士エリートバーサーカーたちは近くにいる魔物たちを手当たりしだいに襲っている。そうして魔物が落とした武器をセミリオンと交戦していた精鋭狂戦士エリートバーサーカーは拾う。


「意外と全体を見ている、いい直感を持っているんですね。しかし手練ではありますが、及びませんね」


 精鋭狂戦士エリートバーサーカーの攻撃を凌ぎつつ。セミリオンは発動させる。


「これで終わりです『超振ど……うぅ?」


 セミリオンがよろめく。魔王城は揺れていない。


「これは……まさか、やっと……そのときが、そうですか、来ましたか」


 蹲って動かないセミリオンは滅多打ちにされながらもそう呟いた。


「魔王様。しばしお時間を」


 セミリオンはのそのそと這って魔王城の中心へと移動を開始する。魔王の声がこだまする。


「魔物たちよ、土足で踏み込む蛮族に鉄槌を下せ」


 魔王城から上級と見られる魔物たちが現れる。精鋭狂戦士エリートバーサーカーたちと交戦を開始する。


「もう、少し、です、魔王様、約束の刻、必ず」


 王さまは次々に精鋭部隊を魔王城に送り出している。


「九大天王の動きが鈍いうちに出来るだけ敵を屠るのでーす」

「はっ! 精鋭魔導師エリートソーサラー部隊前へ!」


 これで各職業の精鋭が魔王城に飛んで行った。セミリオンは体調不良だ。今は少しでも遠くに行こうと魔王城の城壁を登っている。


「あれが九大天王ですーか? いままで出てこなかったのは戦力として不安だったからですかーね」


 王さまは髭を撫でる。


「そんなはずがありませんーね。あれは潰しておくべきでしょーう。グレイブを『投下』しなさーい」

「はっ」


 三騎士の投入か。

 ん? いま投下って言ったか?


「グレイブが来てるのか?」

「はーい、彼なしでこの戦争を乗り切れるはずがありませーん」


 一体どこにいるんだ。あれだけ怒り散らしているんだ近くにいれば気づかないわけがない。


「クレア、魔王城の遥か上空を映しなさーい」


 魔水晶の一つが空を映す。魔王城も雲より高いがそれよりさらに高い、宇宙に近い場所まで高度が上がっていく。


「いた、グレイブだ」


 グレイブは下を睨みつけている。そしてクレアからの念話テレパシーを受信する。即座に気合武装『紅蓮装甲』を魔力生成して身に纏い、降下を開始する。


「そのまま魔王城の中心に落ちなさーい」


 速度がドンドン上がっていく、真っ赤に染まり火の玉になる。


「ずっと上にいたのか」

「敵が来るのを分かってて準備していないわけがないでーす」


 画面越しのグレイブが叫んだ。


激怒衝突レイジフォール!!」


 直撃すれば超巨大ゴーレムを落とせるかもしれない。しかし。


「あれは骨か」


 何千何万何億もの骨が魔王城から出てくる。一本一本が意思を持ったように動き。魔王城の上に骨の屋根を作りあげた。


「ちょございなッ!!」


 グレイブが骨の屋根に激突する。骨が砕け散っていく。あんなものではグレイブの怒りはおさまらない。


「このままッ!! 消し炭にしてやるッ!! ヴアア!!」


 グレイブは魔力を噴射して、骨を砕き進む。いける!!


「アアッ!?」


 グレイブの体が大きく上に弾かれる。吹き上がる骨の中から何かが現れる。真紅の龍防具ドラゴンアーマーに身を包んだ有翼の騎士だ。王さまが驚きの声を上げた。


龍騎士ドラゴンナイトッ!!」

龍騎士ドラゴンナイト?」

「三騎士の龍版のようなものでーす!」


 最高戦力の一人か。


「まさかダークネスドラゴンについてきていたとーは」

「それって意外なのか?」

「本来は龍の里を守護するのが彼の役目のはずでーす」


 ジゼルが帽子を深く被り直した。


「魔王だけじゃない。魔族と龍族が手を組んだ」

「むむぅ、魔王がネスになってから想定してましたーが、まさか来ているとーは」


 スーが這ってきた。


「あのナイトはネスの考えにのったの」

「考え?」

「外敵を排除すれば守る必要も無いって言ってたの」

「それで魔族と龍族で協力して人族をボコるってわけか。たしかに均衡は崩れる」

「そういうことなの」

「でも人族を滅ぼしたあとは魔族との一騎打ちにならないか? まだ三つ巴で睨み合っている方がいいんじゃ?」

「ネスが魔族を抑えるつもりなの」


 魔王も悪ってわけじゃないんだな。自分なりの正義を持っている。


「皆さん始まりますーよ。紅蓮騎士と龍騎士の一騎打ちでーす」



 真紅の龍騎士(ドラゴンナイト)が剣を胸の前に掲げる。


「我が名はガリュウ・バーミリオン!」



 バーミリオンだと。たしかバーミリオンといえば……。アイナも俺と同じことを思っていたようで俺の考えを口にした。


「以前戦ったセギュラ・バーミリオンと関係が?」


 その疑問はすぐに解ける。ガリュウが言葉を続けた。


「戦う前に問おう!」

「なんだッ!!」

「私の娘、セギュラ・バーミリオンは死んだのか?」


 やっぱり血縁関係があったか。しかもよりにもよって娘か。


「知らんッ!! 敵が王国領土ここから生きて帰れると思うなッ!!」

「ふっ、私の『人生』の敵は、どこまでいっても人間というわけか、つまらぬことを聞いた」


 グレイブの爆炎とガリュウの真紅の炎がぶつかる。



 クレアがセミリオンの動きを定期報告する。


「セミリオン、魔王城頂上まで登ったところで活動を停止しました」

「……ううむ、まさか」

「王さまどうしました?」

「あれは虫の魔人ですよーね」

「ええ」

「虫がとる行動で類似しているものがありますーね」

「類似……あ」


 クレアは顔を青くする。


「ですが、まさか」

「自体は最悪かも知れませーん」


 なんだなんだ、話が見えないな。


「セミリオンが何をしようとしているのか分かるのか?」

「多分ですーが、セミリオンはいま『羽化』しようとしていまーす」

「あの状態がまだ途中だと!?」

「だから焦っているのでーす。虫系の魔人のデータはこの長い歴史で沢山ありまーす。そして羽化するタイプの魔人は総じて蛹のときの数倍の力を発揮することがわかっていまーす」

「止めないと!」

「……どうやら手遅れのようでーす。あれを見てくださーい」


 セミリオンの背中が裂ける。中から出てくるのは、


「あれは、この戦争を終わらせるに足りる、化物でーす」



 羽化したセミリオンは抜け殻に掴まって体を仰け反らせる。確かにあれは蝉の成虫に似ている。その禍々しい虹色に輝く羽を除けば。


「クゥを呼びなさーい!」

「はっ!」

「それと各地にいる結界師たちに最大出力の結界を張らせなさーい!」


 城内が慌ただしくなる。


「バーガー、魔王はこの戦いを終わらせるつもりでーす」

「俺はどうすればいい?」

「温存でーす。ここでバーガーを切れば敗北の先延ばしにしかなりませーん。勇者は魔王と対峙するまで魔法一つとして使ってはなりませーん」


 アイナが肩に乗る俺に指を這わせる。


「バーガー様、きっと大丈夫です。魔王城の下にはクロスケ様が、そして上にはグレイブ様がいます」

「そう、だよな」


 く、なんだこの不安感は、底知れぬ相手に俺はビビっているのか?


「クロスケとグレイブをセミリオン討伐に向かわせなさーい」

「はっ!」



 魔王城真下。テレパシーをキャッチしたクロスケが舌打ちする。


「チッ、なんだってンだ、いま遊んでるとこなのによぉ!」


 黄金大剣でディザスターを吹き飛ばしながら言った。


「まぁ……そうだな、まんまと時間稼ぎさせられたってンならな。わかった真上だな」


 クロスケは巨大な支柱足を駆け上がる。それをディザスターが先回りして止める。


「行かせると思うのか?」

「はっ! ディザスター、お前はお預けだ。おいロイ!」

「はっ!」

「な、あいつは!」


 現れたのは聖騎士大隊長のマスター・ド・ロイだ。


「久しぶりだな、ディザスター!」

「く、あのマスター・ド・ソードだけは……」

「カカカッ!  苦手だよな『あの剣』だけはよ、じゃあな!」





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