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第73話 タイマン

挿絵(By みてみん)



「バーガー様! こんな時間にスカリーチェと何を!」


 アイナがすごい剣幕で迫る。


「じゃあ私はこれで失礼しまス。クスクス」


 スカリーチェは闇に消えてしまった。


「ま、待て! 違うんだ、これには深いわけがあって!」

「どんなわけですか! ぐずったスーをあやして、ふとお皿を見たらバーガー様がいなくなっていたんですよ!? すごく心配したんですからね!!」

「心配かけて済まなかった!」

「本当に、心配したんですから!」


 まさかこんなに心配をかけることになるとはな、夜一人で出歩くのはもうやめよう。


「実はな」


 俺はワッパーのことを話した、スカリーチェが四天王だってことは伏せつつだ。説明を聞いたアイナが深く頷いた。


「ジゼルのところに行きましょう」

「今からか?」

「はい、敵は手負いです、それに拠点を移す可能性だってあります。何より一秒でも早くこのことをジゼルに知らせたいです」

「分かった、ジゼルの家に行こう」


 ジゼルの家にはすぐに到着した。ドアについているベルを引く、少しして明かりが灯る。除き穴から俺たちを確認したあとジゼルが扉を開く。


「入って」

「失礼します」


 ジゼルは賢明な子だ、俺たちがこんな時間に来たからには何かあるのだろうと、何も聞かずに家にあげてくれた。


「単刀直入に言います。バーガー様がジゼルのおばぁさんの仇と遭遇しました」

「詳しく聞かせて」


 俺はアイナに説明した内容をジゼルにも話した。


「すぐに出る。まだ間に合う」

「聖騎士たちに知らせなくていいのか?」

「使い魔を飛ばす。手紙蝙蝠レターバット


 ジゼルが魔力生成したのは蝙蝠を模した使い魔だ。手紙蝙蝠レターバットがぶら下がっている腕を振るとバサバサと飛んでいった。


「急いで。一刻を争う」

「わかった」

「バーガー様、Mソードはどうしましょう、宿に置いてきてしまいました」

「戻っている時間もない、このままいくぞ」

「待ちなされ」


 家の奥から現れたのはルフレオだ。この一年間で再会の挨拶は済ませてある。


「出たのか」

「うん。出た」

「ワシも行くぞ」


 ルフレオの目に火が灯る。彼を止めることはできないだろう。ジゼルもそれを知っている。頷くだけで返事をした。


「よし行こう」


 ワッパーと戦った現場に戻る、ジゼルが視線を床に向ける。


「見て。血の跡がある」

「スカリーチェが与えた傷のものだ」

「下水に続いている」

「地下はどうなっているんだ?」

「長い歴史を経て複雑な迷路のようになってる」

「痕跡を見失わないようにしないといけないな」

「この傷は腐敗系の魔法の持続(スリップ)ダメージによるもの。治癒魔法の回復は遅れる。それに痕跡も残りやすい」


 スカリーチェはそれを見越して腐食攻撃を? いや考えすぎか。にしても下水か……、俺の内なるハンバーガーが食品の衛生観念と品質維持という名目を指さし行くのを拒んでいる。だが行く。


「バーガー様、私の肩にしっかりと捕まっててくださいね」

「ああ」


 俺はバンズのヒールの部分に力を込めた。それを確認したアイナはマンホールをこじ開ける。細剣は抜いている。


魔力光マジックライト


 ジゼルの周囲が明るくなる、魔力で光らせているんだ。下水の通路の中心を汚水が川のように流れている、左右に進むための通路があり、よく見れば至る所に分岐がある。


「ジゼルや、天井の魔石を光らせないのか。レバーを引けば仕掛けられた魔石が下水道全体を照らしてくれるぞ」

「それだと相手にも気づかれる。ワッパーの逃走を早めてしまう」

「それもそうじゃな。では二手に別れようかの」

「それもダメ。危険すぎる」

「大丈夫じゃよ。ワシ一人とお主たち三人で別れるだけじゃ」

「ダメ。それにもう見つけている」

「なんじゃと」

「この日のために痕跡を辿る訓練もしてきた」

「ほっほ、頼りがいのある子に育ってくれたのぉ。それではこの老いぼれ存分に頼らせてもらおうかの」

「この痕跡。かなり近い」

「ワッパーは魔王に服従してるっぽかったしやっぱり王都からは出ないつもりか」

「この地で魔物から進化している。魔人となりより狡猾になっている。罠にも気をつけないと」

「あれはなんでしょうか」


 アイナが指さすのは水路の曲がり角。ジゼルが光を操作してライトのように前方を照らす。一瞬だが影が見えた。


「いた」

「こんな近くにいたのか、よし追うぞ」

「バーガー様、おかしいです、こんなに隠れる場所があるのに通路にいるなんて」

「移動中だったんだろう、俺たちの対応の早さに面食らっているんじゃないか」

「そうですね、警戒しすぎました」


 俺たちは急いでワッパーの影を追う。痕跡も続いている、確実にワッパーだ。先頭を走るジゼルが止まった。


「止まって」

「どうした」

「痕跡がここで途絶えてる」

「なに、本当だ」


 湿った足跡も、血も垂れていない、一体どこに。ジゼルの視線が下水に向かう、ハッとして叫んだ。


「水の中!」

「GO、ME、I、SA、TU!」


 下水から飛び出したワッパーが背後を取る。そして傷を負っているとは思えない機敏な動きで俺たちに迫る。しまった、通路は狭い、最後尾のルフレオがワッパーと対峙する。


「お前はルフレオだなー? ワッパーの抹殺リストに乗ってるっパー」


 ワッパーの『水魔の水切り』がルフレオの喉元に迫る。


「おじぃちゃん!」

「ルフレオ!」


 ルフレオは魔法使いだ、近接は不味い。


「グワッパッ!?」


 ルフレオの『正拳突き』がワッパーの顔面を捉える。体勢が崩れたところに人中突きを食らわせる。


「グウ!!」

「ワシはな、素で喧嘩が強いのじゃ」

「グググ、このジジイ拳に魔力を纏わせているっパー」


 なるほど石を握って殴るのすごいバージョンってことか。そりゃ痛い。


「近接戦闘ていど出来ずして何が魔法か、その身をもって知るがいい」

「やられてたまるかっパー!」


 ワッパーは再び下水に逃げようとする、ルフレオがそれを許さない。


少隕石ミニメテオ


 天井を突き破りワッパーに隕石が直撃する。ルフレオお得意の隕石魔法メテオマジックだ。


「地下なら使えないと思ったのかのぉ。このくらいの深さで無効化されるような魔法じゃないわい。見くびるのも大概にするんじゃな」

「ぐ、うぅ、強いっパー!」


 頭に乗った皿にヒビが入ってもワッパーは生きている。並の魔人なら今ので勝負がついていた。


「だが! 勝つのは! 最終的に殺す側なのはこのワッパーだっパー!」

「みんな気おつけなされ。何か仕掛けてくるぞ」

「おお!」


 ワッパーは口から水弾を連射する。ルフレオが避ければ背後にいる俺たちに当たる起動だ、アイナたちも回避行動をとっているがルフレオは対応する。ルフレオは拳に魔力生成させた土塊を纏わせる。その拳で水弾を殴り衝撃を緩和。土塊と相殺させる。


「パァ!!」


 ワッパーはその間に距離を詰めていた。ルフレオはワッパーのブレイクダンス武術を堂々と受ける。カポエイラにも似た技の応酬を確実に捌いていく。


「はっ!」


 ルフレオの足払いがヒット、ワッパーは中で3回転する。その中心をルフレオは鋭く殴る。腕をクロスさせて辛うじてガードしたワッパーは数メートル吹っ飛んだ。


 吹き飛ばされたワッパーはダウンしたまま起き上がらない。ルフレオは警戒したまま距離を詰める。


「どうしたもうおしまいか? そんなわけないじゃろ?」


 帰ってくるのは呻き声だけだ。


「おじぃちゃん。気をつけて。確実に殺ろう」


 ルフレオは頷くと魔法を唱えた。


隕石メテオ


 容赦のない攻撃魔法がワッパーを襲う。直撃だ。


「グワッパーーッ!!」


 断末魔と爆音が鳴り響く。ルフレオは魔力操作して素早く煙を払う。


「これは!」


 ワッパーの体が水となって消える。


「偽物!」

「パァ!!」


 背後の下水から飛び出したワッパーが迫る! それにアイナが対峙する。


 アイナは素早く細剣で突く、浅く突いているのは牽制のためだ。回避したワッパーが懐に潜り込む、だが普段から小さな俺を相手にしていたため懐に潜り込まれた時の対策を嫌というほど訓練している。


「はぁ!!」


 アイナは空いていた左手から魔力を放出。ワッパーを地面に叩きつける。


「グワバァ!!」

「バーガー様! これも偽物です!」


 アイナの叩きつけたワッパーが水になる。下水から腕だけが伸びる。その手はジゼルの足首を掴む。


「ジゼル!」

「っ!!」


 ジゼルが下水に引きずり込まれた。攻撃魔法を使えばジゼルに当たってしまう! 魔法が使えない! 気配がどんどん離れていく。どこに連れていくんだ!


 俺たちが走るスピードよりも速い、移動に集中しているんだ。開けたホールのような場所につく、すでにジゼルとワッパーが向かい合っていた。


「やられた」


 ワッパーはホールの一段高いところに結界を張っている。中にはジゼルも一緒だ。


「グパパパパパー! このタイマンフィールドからは、どちらかが死ぬまで出られないっパー!」


 ジゼルはやや俯いていて表情が読めない。


「そしてホームに立ったワッパーは最強だっパー! 歌詞魔法リリックマジックでぶっ殺してやるっパー!」

「口だけは達者だな」

「パ?」


 今まで聞いたこともないドスの効いた声を発したジゼルは顔を上げる。


「貴様が言うべき言葉は遺言だけだ。誰にも伝わる事のない雑音をブツブツ鳴らして無様に死ね」

「大人しいと思っていたら、仇討ちのためにわざと捕まったッパー」

「そういうこと」

「あの占いババアの娘っパー、そしてそこにいるルフレオも家族だなっパー」


 ワッパーはブルブルと震える。


「孫娘が蹂躙される姿を見たお前の顔が見てみたいっパー!」

隕石メテオ!」


 ルフレオの隕石が結界に衝突する。即座に砂煙を払う。無傷だ。


「無駄っパー、この結界はワッパーの最終奥義、条件を満たしているうちは絶対に解除されることはないっパー!」

「く、ジゼル!」

「大丈夫」


 ジゼルはやる気だ。


「バーガー様……」


 アイナが俺に指を這わせる。その手は震えている。


「信じよう。今はそれだけがジゼルの力になる」

「……わかりました」


 ワッパーは満足げに首を鳴らす。ジゼルが嘲笑する。


「その傷で戦えるのかよ」

「パーッ!! 無傷のときより調子いいッパー!」

「それを聞いて安心したぜ。地獄で言い訳されても困るからよ」

「さぁ! 正々堂々とタイマンだっパー!」


 ジゼルはマイクを構える。ワッパーは背中に背負っていたラジカセを担ぐ。


「パァ!!」


 ワッパーの叫び声とともに、ジゼルの足元から魔力生成された鋭利な水が飛び出し、ジゼルの太ももを切り裂いた。


「おいワッパー! 卑怯だぞ!」

「クハハハ! 黙れ勇者! 不意打ちはワッパーの正攻法っパー!」


 く、なんという説得力だ! ジゼルは、動じない。口を開いた。


「しょうもない不意打ちからの始まり、白けちまうのは自然の摂理、どうしょうもないちゃちな攻撃必死さ見えて反応に困る、それに比べ俺の攻撃一撃が一撃必殺お前の首を吊るし上げる」


 太ももからの出血が止まり、ジゼルの掌から衝撃波が発生する。ワッパーを結界に叩きつける。


「グッ!! ガっ!!」


 ワッパーの体が宙に浮く。ジゼルの魔力が蛇のようにワッパーの首を絞めているんだ! ワッパーの持つラジカセから発せられる音量が上がる。


「ッ……おいおいこんなもんかよハチマキの方がもっと痛い、お利口さんの習った魔法小便臭くてちとキツい、俺の魔法はガチのやつシャレにならんほど力強い、俺の魔法は倍返しお前の命そろそろヤバい」


 ワッパーを締め上げていた魔力が解かれる、そして増大してジゼルに襲いかかる。ジゼルが返す。


「俺は超えた自分の限界、名乗るぜ王国最強魔道士蓄えた魔力がいま臨界、圧倒的な魔力の本流カッパの川流れホームで溺死して他界、井の中の蛙見ること叶わねぇ知らねぇ世界」


 ジゼルの周囲から魔力生成された波が発生する。それがワッパーの返した魔法を打ち砕き飲み込む、ワッパーも波に飲まれる。そうか、溺れてしまえば歌詞魔法リリックマジックは唱えられない。ジゼルの勝ちだ。


「どこだろうがかますぜライム水中でもビートは現在、音なくたってできるぜラップ、俺のソウルは消せやしない全人類滅ぼすまで止まりやしない、僅かな悪運持った非力な人類魔王様に蹂躙される前に俺の魔力で滅ぼすぜ」


 ワッパーのやつ水中でラップをかましやがった! ワッパーの体から滲み出る黒い煙のようなオーラがジゼルを包む。火災時の煙に巻かれたように口元を塞ぐジゼル。向こうも喉を潰しに来たか! だがジゼルはそれでもラップをやめない。ガラ声で怒鳴る。


「死んでもやめねぇごのリリック 終焉ば貴様の死のみ、惰弱な魔力垂れ流ずだげの卑怯者 水を得で得意になっでるのがぞの証拠、俺の怒りが限界突破 真紅に燃えるば我が魂 神々の怒りを授がり 仰げば天彩る星々の瞬ぎ 我に力を世界を照らず正義の力を 俺ば問う 矮小な水魔の童 蹴散らざず進む道理ばない 今ごごに宣言滅ぼす確定 神の怒りゴッドラーズ


 ジゼルの体全体から発生した稲妻がワッパーを襲う。歌詞魔法リリックマジックを繰り出す隙もなく稲妻に抱かれる。


「ガガガガギギギギ!!」


 ワッパーはそれでも持ち直そうと体を捻って脱出しようとする。


「お前ば間違いを犯じだ」

「バッ!」


 ジゼルはワッパーの目の前に立つと拳を振りかぶる。


「お前に殺ざれだ人だぢが! 必ず殺ぜと! 私に力を分げでぐれた!」


 ジゼルの雷撃を纏った拳がワッパーの顔面を捉える。痺れて動けないワッパーは防御も出来ずに結界に叩きつけられる。そのままワッパーの顔を鷲掴みにして、結界に顔を押し当てる、肉が焦げる音がする。


「ギャギャギャギャギャ!!!!」


 ジゼルが追撃の拳を振りかぶる。その時ワッパーが仰け反っていた上体を起こす。まさか今のも演技だったのか!? ジゼルの肩に鋭く噛み付いた。


「バババババババババ!!」


 深くくい込んだ傷口から血が吹き出す、ワッパーは痺れながらも口角を歪ませる。しかし。


「グェッ!!」


 ジゼルは片手でワッパーの首を掴み。さらに拳を引き絞っていく。


「言いだいごどばぞれだげが?」


 鬼気迫るジゼルの表情にワッパーの顔が遂に恐怖を帯びる。抵抗しようにも電撃の強さが目に見えて上がっているため震えることしか出来ない。


雷の拳サンダーフィスト!」


 ジゼルの放った拳は雷のような音と威力を持ってワッパーの顔面を粉砕した。



 終わった。決着だ。


 頭部を破壊されたら歌詞魔法リリックマジックは使えない。というか絶命確定だな。ジゼルはふぅと一息つく。俺たちは異変に気づく、結界が解除されない。


「どういうことだ? ワッパーが死ねば結界は解除されるんじゃないのか?」


 俺の問いにルフレオは冷静に答えた。


「まだ生きているんじゃ。魔物はしぶといからの、ジゼルや、消滅させるまで気を抜くんじゃないぞ」

「わがっだ」


 ワッパーの腹部が大きく膨れ上がる、裏側から何かが出ようとしている、腹が裂ける、中から質量を無視した肉塊が溢れ出す。アルミホイルで包焼きにされたハンバーグのようだ。つまり最高の状態の化け物が現れた。


「ごれば過剰再生じだ細胞」


 肉塊は攻撃してくるでもなく結界内部を埋め尽くす勢いで増殖している。


「圧殺が目的。ラッブに負げでも殺ぜる仕組み」

「ジゼル! 悠長に解析してる場合か! いまMソードを持ってくるからーー」

「ぞの必要ば無い」


 ジゼルは小袋を取り出す、中にあるものを手のひらに乗せる。あれは2つの小さな星型のオブジェだ。


「それは?」

「見でで」


 ジゼルは両手に一つずつ握る、ルフレオが低い声で唸るように言った。


「まさかそれは両親と同じ」


 ジゼルの体が輝く、拳に星型の籠手が魔力生成させる。


「命を魔力に変換しているのか! やめるんじゃ! 寿命を縮めることになるぞ!」

「ごいづだげば生がじでおげねぇ」


 ジゼルは両拳を前に突き出す。


英雄の星スターオーラ!」


 ジゼルの構えた両拳から星型の閃光が放たれる。それは肉塊と化したワッパーを粉微塵に粉砕していく。


「グワッパー!」


 肉塊からワッパーが現れた。頭部も再生している、肉塊の中で超再生したんだ。


「この糞ガキがあああああ!!!!」

「disにもなっでねえ!!」


 ジゼルは閃光の照射を止めてワッパーに人差し指を向ける。


星々の煌めきスターズライト


 圧縮された魔力がレーザーとなってワッパーを切り裂く、今度は頭部だけでなく胸部を確実に破壊する。パリンと何かが割れる音がワッパーの体内からした。頭部を破壊され肺を潰された、それでもワッパーは喉の奥から言葉を発した。


「魔王様、に、栄光、あ、れ!!」


 言葉のあとワッパーは爆発した。結界内部が真っ赤に染まる、壁一面にワッパーの血液が付着した。


「ジゼル!」


 これじゃジゼルの様子が分からない。中から反応はない。


「結界が解けていきます!」

「ということは……」


 どちらかが死んだ。決着したんだ。ボタボタと血の雨が降る。その中で立っているのは……。



「ジゼル!」


 立っていたのはジゼルだ!

 星の籠手を装備した両手で正面をガードして爆発に耐えたんだ。


「倒したんだな!」

「うん」


 ガラ声で小さく言った。放心状態のようだ。ルフレオが着ていたローブをジゼルに掛ける。


「本当に良くやってくれたのぉ。ありがとう」

「うん」

「ジゼル、早く喉に治癒魔法を掛けてください」

「うん?」


 アイナに言われて気づいたように自身の喉に治癒魔法を掛ける。


「あー、あー、うん。もう大丈夫」

「終わったんだな、仇討ち」


 ジゼルは黙って頷いた後、地下なのにも関わらず野外で星を見るように天井を見上げた。













 王国に来てから一年ちょっと、俺たちはまた大人に近づいた。ハンバーガーの俺はいつ大人になれるのだろう。多少大きくなっている気がするが、生まれた頃より成長速度は大幅に落ちている。グラムの増加は期待しない方がいいだろう。それにこれ以上大きくなったら食べにくいからな。


 アイナはすっかり立派になった、否、元からしっかりしてたな。年齢が追いついてきた感じだ。


 ジゼルもワッパーを倒して吹っ切れたようだ。魔法の研究に没頭している。二人とも真面目だ。


 スーは変わらずだ。カンストしてるんだろうから変化がないのは当たり前だろうと思っていたら最近少し太ってきたとかなんとか、変わっているようには見えないが、もっと太ってもそれはそれでむちむちしてて可愛いと思う。ハンバーガー的には「たくさん食べる君が好き」だ。


 エリノアはここんとこ見てないな。冒険者家業に本腰を入れ始めたようだ。便りがないのは元気な証拠ってやつだ。


 ヒマリもアイナとジゼルに負けないくらいの真面目さんだ。いや2人よりも鬼気迫る感じがする。ジゼルは復讐が終わり心に整理がついたが、ヒマリはまだなんだ。だがヒマリの仇は漠然としている、魔王軍全てを根絶やしにしない限りヒマリは戦い続けるだろう。逆に考えれば魔王軍がある限りヒマリは頑張れるだろう。むしろその後が心配だ、俺たちで支えていこう。


 そうだ。アイナはSクラスの冒険者になった。はぐれワイバーンを狩りに行き仕留めた。肩に乗っていた俺の出番は全くなく、一人で射殺していた、強くなったもんだ。


 俺はと言うと具材頼りなのは変わらない。誕プレに何が欲しいって聞かれたら筋繊維が欲しいって答えるよ。具材の方じゃなくて俺の体の方のな、ちくしょう。





 アイナと街を散策していると市場である物を見つけた。


「バーガー様、あれ魔力草では?」

「え、スカリーチェが持ち込んだものしかないはず、出回るはずは……あった」


 丸々とした大玉のトマトが大量に籠に乗せられている。アイナが商人に質問する。


「あの、お尋ねしますが、この魔力草どうしたんですか?」

「魔力草を知っているのかい、それはとんだ博識さんだね。最近とても安く下ろしてくれる業者が現れたんだ」

「バーガー様、スカリーチェですね」

「ああ、間違いない」


 あいつのやることは謎だ。


「買っていかないのかい? なんとリンゴと同じ値段だよ」

「10玉くれ」


 どういう訳かスカリーチェはトマトを流通させている。まぁスカリーチェに頼まなくてもこうして手に入るようになったのはいい事だけど。真意が気になる。


 俺たちが商店を散策していると、エリノアが店を構えていた。目が合う。


「げ」

「あ、エリノアですよ」

「こんなところで何してんだ?」

「と、トマトを売ってるよ」


 俺たちが近づくと店の前にいたローブを着込んだ人が足早に去っていった。


「あー、商売の邪魔したにゃー!」

「すまんすまん、俺も買うからさ」

「バーガー様、すでにかなり買ってますけど?」

「アイナすまん、プラス10玉だ」

「そんな謝らなくても、そうですね、トマト美味しそうですしもっと買っていきましょう」

「まいどー」

「それで今は店主やってるのか?」

「うん。ま、リンゴと同じ値段だから対して稼げにゃいけどね。ほら抱き合わせで骨董品も取り扱っているよ。一緒にどう?」


 エリノアは隣の売り場を指さす。変なオブジェが沢山ある。


「それ売れるんですか?」

「使えにゃい三級魔法道具マジックアイテム)とはいえ、こういうのはオンリーワンってだけで価値があるんだよ」

「へぇ、戦闘には役立たないんですね」

「そういうのはジゼルに回してるからにゃ。ほら、これにゃんてどう、恋愛成就の人形だよ」

「いくらですか?」


 即買いだ!


「なぁエリノア」

「にゃんだよ、バーガーはにゃに買ってくの?」

「スカリーチェは?」

「知ってるわけにゃいでしょ」

「なんでトマトをこんなに流通させているんだ」

「知らにゃいってー、調べたけど、この魔力草は本物だよ、変にゃ呪いとか毒物は含まれてにゃかった、品質は一流だよ」


 ならいいのか? 相手が四天王じゃなければ手放しに喜んだんだがな。


「何も無いならいいか。……アイナ、そんなに買っていくのか?」

「はい!」

「まいどあり〜」



 帰路。


「この街での生活にもすっかり慣れたな」

「そうですね、最初の頃は浮き足立ってました」

「そうは見えなかったぞ? しっかりしたものだった」

「中身はけっこう背伸びしてたんですよ」

「まだ14歳だもんな」

「もう14歳です、あと1年です」

「何があと1年なんだ?」

「あ、いえ、それは」


 15歳、あ、確かこの国では15歳から大人として認められるんだっけ?


「そっか大人になるんだな」

「はい、成人すればなんでも出来ます」

「今も対して変わらないだろ? それとも俺から離れて自由に生きたいか?」

「そんなことありません!」

「そ、そうか」


 そんな大声出さなくたって。ビックリした。



 幸せな日々だ。ハンバーガーの体もみんな可愛い可愛いと言って可愛がってくれるし中々悪くないもんだ。こんな日々がずっと続けばとさえ思ってしまう。現代への未練なんてものもそんなにないし、人型になろうと思えばスーの前髪をもらえば出来ないこともないんだしな。女神が見たら退屈であくびをするだろう、でもやっぱり平和が一番なんだ。と、思った矢先。


「スカリーチェ……」


 いつも通りの張り付いた笑みを浮かべて、手招きしている。あっちは路地裏だ。


「何用でしょうか?」

「ちょっと行ってく……一緒に来てくれるか?」

「もちろんです!」


 どんどん進んでいく。


「秘密ごとならもうこの辺でいいんじゃないですか?」

「クスクス」


 スカリーチェは笑うばかりだ。アイナはムスッとしながらもしっかり警戒している。いつでも細剣を抜き払える状態だ。しばらく進む、この城下町に1年いた俺もこんな路地があったのかと驚くくらいのマイナーな通路だ。まぁよく行くところか、大通りくらいしか通ってなかったってのもあるが、かなりきな臭いところにきた。


 こんな平和な王国でも悪党はいるんだろうな。とかぼんやり考えていると、スカリーチェがマンホールの蓋を開けた。


「下水道……」


 アイナが露骨に嫌な顔をする。ワッパー戦の時に嗅いだ臭いを思い出したんだろう。俺も衛生面で嫌悪感を抱く。


「クスクス、ここは綺麗でスよ」

「まって、どうして綺麗なんですか、それに一体どこに」

「着いてこなくてもいいんでスよ? ねぇバーガー」

「着いていくさ」


 何をしようとしているんだ? 下水道の入口は暗かった。だが進んでいくと明るい場所に出た。


「下水道がこんなに明るく、魔光石もこの通路だけとても多いです、どうして」

「住みやすく改良したからに決まってるじゃないっスか」

「そんな勝手に、というか住んでるんですか、ここに?」

「住めば都、ん、違いますね。私はここで生まれたんで故郷っスね。古巣はいいもんスよ」

「ここにいたのは100年前なんだろ?」

「クスクス、ほらもう着きまスよ。ほらあそこ」


 開けた空間に出る。この感じ既視感がある、そうだ、Mソードのあった伝説山の地下にあったトマト農園だ。


「ここは洞窟を掘って作ったものっスね」

「ほんとトマト好きなんだな」

「美味しいじゃないスか、ねぇ?」


 俺はともかくアイナも頷くしかない。実際美味しいのだ。


「これ個人で栽培してるのか?」


 よく見れば他の部屋もあり、伝説山の地下より大規模なものとなっている。


「あの流通具合から協力者がいると思います」

「クスクス。正解でスって褒めてあげればいいでスか?」

「結構です」

「今は第5エリア辺りで作業している時間でス。見に行きまス?」

「ああ、ここまで来たんだ、見ておきたい」


 トマト部屋を6部屋ほどすぎた辺りから声が聞こえ始めた。出入口の上に5番と書かれている部屋に入ると人がいた、スカリーチェに気づくと慌てて並んで跪いた。身なりは清潔そのもの、髪の毛は丸坊主、眉毛まで剃られている、徹底した衛生管理意識だ。


「この人たちは……?」

「奴隷っス」

「奴隷だと!? 王国民を攫って奴隷にしているのか?」

「はい、そうでスけど?」


 なにか悪いことでもしましたか? みたいな顔をしている。


「あのな、こんなの犯罪だぞ」

「窃盗」

「なに?」

「強盗、闇取引、人身売買、麻薬密売、婦女暴行、快楽殺人、詐欺、放火、あー、あげたらキリがないっスね」


 スカリーチェは張り付いた笑みを向ける。


「色々呼び方はあれど、カテゴライズするなら彼らは犯罪者でス」

「だからって、こんなこと、許されるはずが……」

「おやおや、アイナでしたっけ? いま悩みましたね? 言いよどみましたね? 彼らは守るべき人類、人間ではないんでスか?」

「そうです! だから悪いことをしたのなら法によって裁かれるべきです!」

「大義名分を得ようとして法を口に出さないでくださいよ。誰かが悪いと言ったからなんて理由、つまらなすぎてあくびがでるっスよ」

「でも」

「いいんでスよ。彼らは一生懸命働いてトマトを作っている、それも地上の人間とは比べられないほど必死に働いて、じゃなければあれだけ流通するわけないじゃないですか」

「更生施設みたいなものか」


 俺が独りごちるとスカリーチェはクスクス笑った。


「無期懲役でスけどね、地上に出てゲロられても困りまスし。さ、いつまで膝まづいてるっスか、もういいでスよ、作業を続けてください」


 スカリーチェの言葉を聞いた作業員たちは、深く頷くと足早に作業に戻る。


「逃げないのか?」

「魔法を掛けてありまス、ここから出るとドカンっス」


 スカリーチェは手を開くジェスチャーをする。


「悪魔め」

「魔女でス。でもほらその手に持ってるのここのトマトじゃないでスか、食べるんでしょ? トマト」

「それは……」


 返答に悩む。すげぇ挟みたい。


「それはそれ、これはこれです!」

「意外と欲望に忠実な子なんでスね」

「頑張って作ったのなら食べないといけません、ここの問題は後後です! 必ず法で捌きます!」


 スカリーチェは何かに気づいたように振り返り声を漏らす。


「長かった」

「なんだ?」

「長かった。本当に」

「おい、なんのことだ……」

「バーガー、王城に向かってください」

「どうしてだ」

「詳しい話は王にでも聞けばいいっス。それじゃ、あ、ここのことは内密に、わかってまスよね。クスクス、クスクスクスクス」




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