第71話 礼儀杯
私の名前はヒマリ・サンライト。おにぃちゃんの仇を討つために王国聖騎士団に入団しました。そして王国に来て一年が経ちます、未だに見習いマークが取れません、でもなんとか続いています。今は朝の鍛錬の時間です。
もちろん私一人じゃありません。師範としておにぃちゃんが所属していた部隊。月の無い夜の副隊長。リトルスモール・ビッグソード先生が稽古をつけてくれています。リトル先生はドワーフという種族で背が私よりも小さいです、でも私より大きな剣を背負っています。自作だそうです。
「ほら余所見するなよ。しっかり剣を振るんだ」
「はい」
今は剣術の基礎、素振りをしています。この形が綺麗になるほど斬れ味が増すそうです。
「いいフォームだ。正直言ってヒマリはサガオさんに似て才能がある」
「ありがとうございます」
「それにそのなんて言うんだ」
言葉に詰まったリトル先生の言葉を私は黙って待ちます。
「そのどす黒いオーラというか」
「オーラですか?」
私は自分の体をみる。何も出ていない、お風呂も朝入ってきた、動いたから汗の匂いはするかもしれないけど。
「その年で発していいものなのか……俺には判断しかねる」
「何が見えてるんですか?」
「言い方が悪かったな。別に何かが見えているわけじゃない。俺にはそういう特異体質はない。ヒマリが発している雰囲気の話だ」
「雰囲気?」
「ああ。それはれっきとした『殺意』だ」
「殺意ですか?」
「そうだ、今のヒマリはサガオさんの仇を討つことだけがモチベーションといっていい」
「それ以外に何かありますか?」
「……そういうところもサガオさんに似ているな。一直線というか、まぁあの人の場合はそれが『勇者』だったんだが……。とにかくぶれない強い意思はきっとヒマリのためになるんだろう」
そう私はおにぃちゃんの仇を討ちたい。その一心でここまで来ました。
「稽古の続きをお願いします」
正午になりました。
「よし。ご苦労さん。昼飯にするぞ」
「はい。更衣室に行ってきます」
鎧の下に着ている服がベトベトで気持ち悪いです。シャワーを浴びたいけど、その時間ももったいない。早くご飯を食べて午後の訓練に行かないと。私が駆け足で移動していると、聖騎士大隊長のオショーさんが現れました。
「訓練は終わりましたかな?」
「はい、終わりました」
「そうかですか。それはちょうど良かった」
「はい?」
「リトル殿と一緒に聞いてほしい話があるのですが。いまどちらに?」
「食堂です。私も着替えてすぐ向かいます」
なんの話だろう? 疑問に思いつつも。下着を取り替えて、鎧をしっかり拭いてから、食堂に向かいます。
食堂に入ると話し声が聞こえます。
「もうそんな時期ですか」
「ええ、10年なんてあっという間ですな」
「違いない。今回こそはーー」
食堂に着くと、オショーさんとリトル先生が話していました。
「お、来たな」
「遅れました」
「いや、急ぎの話じゃないから気にしないでくだされ。ほれプレートを取ってきなさいな」
「はい」
食堂の係の人からご飯を貰って席につきます。献立は厚切りパンと豆のスープと大きなチキンです。チキンの味付けは香辛料をふんだんに使ってあって、刺激的な匂いがします。よだれが出そうになりますが、まずはオショーさんのお話を聞きます。
「ほほ、食べながらでもいいんですぞ」
「いえ、見習いとは言っても私も聖騎士ですので」
「ふむ、いい心がけですな。では一から話しましょう」
オショーさんは咳払いをして話し始めました。
「近々、礼儀杯が開催されます」
「礼儀杯、ですか?」
「はい、その話をする前にマナーの盾のことはご存知かな?」
マナーの盾は王国が誇る最強の盾です。私は頷きます。
「愚問でしたな。10年に一度、あの盾の所有者を探す大会が開かれるのです。それを礼儀杯と呼んでいるのです」
「所有者ですか、伝説の盾を個人で所有して大丈夫なんですか?」
「それはなんともいえませんな、礼儀杯で選ばれた者は一人もいないのですから」
その話をなぜ私に聞かせたのだろう?
「おや、まだ分かりませんか。ヒマリ殿にこの大会に出てほしいのです」
「え、私にですか?」
「はい。今日は推薦しに来たのです。どうですか?」
「やります」
「即答ですか」
「はい」
伝説の盾があれば仇を討てる可能性が高くなる。
「でもどうして私を推薦するんですか?」
「それは伝説の盾は強い心に反応するからです」
「それで私ですか」
「黒いオーラが出ておりますからな」
まただ、そんなに出てるかな?
「大会ってことは戦うんですよね」
「もちろんですぞ」
「規模はどのくらいなんですか?」
「王国全土から」
「そんなに、ですか」
「ええ、そんなにですぞ。王国主催で開かれる大会の中でも最大級のものですな」
「……」
「安心してくだされ、これだけの人数ですので、一人一試合で終わる形式にしていますぞ。なにより最強を決める戦いではありませんのでご安心を」
「勝敗は関係ないということですか?」
「そうですな。勝つに越したことはないと思いますが、勝ったとしても大会に参加した半分は勝っている計算ですので、なんとも、ただマナーの盾に選ばれるような戦いをする必要がありましょうな」
「それはどんな戦い方でしょうか?」
「ほっほっほ。それが分かっていたら10年前に私がマナーの盾を手に入れておりますぞ。大会は一週間後。聖騎士たちは聖騎士同士で戦う決まりになっておりますので対戦相手になった場合はよろしくお願いしますぞ」
数日後。修練場。
リトル先生が重苦しい雰囲気を漂わせて現れました。
「リトル先生?」
「……ヒマリ。お前の対戦カードが決まったぞ」
「どなたですか?」
「……棄権しないか?」
「しません。対戦相手はどなたですか?」
「マジでやめとけ、俺はヒマリに何かあったら天国でサガオさんに合わせる顔がないんだ」
「まさかリトル先生が私の対戦相手ですか?」
「いや、俺は参加していない、装備は自分で作ったもののみと決めている。まぁそれはいい、やめとけヒマリ、無理だ」
「私は棄権なんてしません。マナーの盾が必要です」
「……対戦相手を聞いてから説得した方がよかったな。よく聞けヒマリ、お前の対戦相手はだな」
リトル先生は少し間を開ける。それから続けた。
「三騎士の一人。黄金騎士クロスケ様だ」
三騎士。それは聖騎士たちのトップにして王国最大戦力の一つです。その名を知らない王国民はいません。その生ける伝説とも言える三騎士が私の対戦相手です。
「クロスケ様は手加減が苦手だ。模擬試合とは言っても怪我どころか、最悪殺されかねない。あれだけの力と技術がありながら弟子も取らないほどだ。いや、最近はとったのか、でもあの人たちは例外だ」
「対戦日はいつですか」
「一週間後だ。ってまだやる気かよ!?」
「やります。オショーさんが言ってました。勝ち負けじゃないって」
「ああ、そうだろうよ。勝ち負けじゃない。こいつは生き死にだ! サガオさんがここにいたら絶対に止めてるぞ!」
「確かにおにぃちゃんがいてくれたら、ここにいてくれたのなら。私はあの村で一生を終えられたでしょう」
リトル先生はピクリと震えました。
「でもおにぃちゃんは殺されました。普通の死に方ではありませんでした。それをやったのは魔王軍にです。絶対に許しません。全員殺します。だから私には復讐するための力、マナーの盾が必要なんです」
「……わかった。でもヤバいと判断したら、俺は恨まれても止めに入るからな」
一週間後。大会前日。
一日の作業を終えた私はぼんやりと兵舎の自室から外を眺めます。ここは城壁より高いので城下町が一望できます。日は完全に沈みましたが、街の灯りが王国を照らしています。私はこの景色が好きです。
「おにぃちゃんもこの景色を見てたのかな」
いま私が使わせてもらっているこの部屋は、元々おにぃちゃんが使っていた部屋です。最初にここに入った時、おにぃちゃんが任務に出た時の状態のままでした(なのでほとんど触っていません)
私はこの時間になると夜景以外にも、もう一つあるものを眺めます。それは壁に掛けてある双剣です。これはおにぃちゃんの愛用していた聖剣です。魔界で隠密行動を行うには聖剣は目立つそうで、おにぃちゃんはこれを持っていけなかったのです。双子の聖剣サンザフラ、太陽のマークが入っているのがサン、花のマークが入っているのがフラです。王様は私が使うべきと聖剣を没収しないでくれました、でもまだ一度も触ったことがありません。双剣の練習はしてきたけど実践で使えるか不安は残ります、でもやらなければならないのです。私はサンザフラを手に取ります。ずっしりと重い、それでもしっくりくる、不思議な感覚です。
「明日はサンザフラで戦うよおにぃちゃん。私に力を貸してください」
大会当日。この大会は大規模なので広場や大通りなど、王都の至る所が試合場となっています。早朝の王様の開会宣言から夕方にかけて王都は戦いの熱気に包まれます。
「さぁヒマリ気張ってこいよ!」
「はい。リトル先生、ここまでありがとうございました」
「そんな最後みたいな言い方するなよな。……もしかしたら万が一ってことも有り得るかもしれないぜ」
「その顔、リトル先生が一番ないと思っていませんか?」
「あ、わかった? ってなんで甲越しに分かったんだ?」
「ふふふ。では行ってきます」
「ふ、あぁ行ってこい!」
対戦相手がクロスケ様ということで、試合会場は王城内の広場です。王様にその他重鎮、貴族の方々も集まっています。広場の中心に佇む人が皮肉めいて笑います。
「カカカ! まるで保護者だな、なんだこれはお遊戯会か?」
ズボンのポケットに手を入れた。上半身裸の黒猫の獣人が現れました。
「違います。私の先生です」
「そうかよ。どうでもいいが、まったくお前も運がねェな」
クロスケ様は面倒くさそうに頭を掻きます。
「ま、俺もあんな盾には興味ねぇしよ。互いに棄権しあってお茶濁そうぜ」
王さまの前でとんでもないことを言いますが、当の王さまは嬉しそうに笑っています。
「私は興味あります。あの盾が欲しいです」
「けっ、装備がいいもんになったからなんだってンだ」
「お言葉ですが、それは強者の言葉です」
「あん?」
「私は弱いです、一年前まで村娘でした。だから、強くなれるのなら、おにぃちゃんの仇を討てるのなら、私はマナーの盾が欲しいです」
「カッー! なんだよなんだよ。お前立派な戦士じゃねぇか! カカカ! 相手が小娘と聞いてテンション下がってたが、なんだ? あいつといい最近の小娘は皆そんな感じなのか!? エエ!?」
クロスケ様が片手をあげると試合開始の銅鑼がなりました。
「舐めて悪かったな。俺はお前を戦士として認めたぜ。ぶっ殺してやるから掛かってこい!」
どうやら先手は私にくれるそうです。よかった、一振も出来ないまま倒されることはないようです。
「お優しいんですね」
「はっ! 何言ってんだ、これからボコられンのによ」
私はサンザフラを抜きます。クロスケ様が文字通り目を丸くします。
「んぁ? そいつはサガオの双剣じゃねぇか。誰だお前」
「私はサガオ・サンライトの妹。ヒマリ・サンライトです」
「あー、なるほどなあの妹か。そういやあいつ死んだンだったな。それで聖騎士に、へぇへぇほぉほぉ、くぅー泣かせるじゃねぇか!」
クロスケ様の話も聞きつつ私は距離を詰めます。
「カカカ。なんだよ。双剣の使い方分かってんのか? 双剣は盾が持てねぇんだ。その意味わかってんの、かっ!!」
「ぐッうっ!!」
クロスケ様が前蹴りを空に放ちました。まだ距離があるのにも関わらず風圧に耐えるので精一杯です。
「オラ来いどうした! そんなンじゃあよぉ、俺に辿り着く前に大会が終わっちまうぞ! 仇だと思って打ち込んでこいや!」
私はクロスケ様を中心に弧を描くように走ります。直線で向かえばあの蹴りを今度は直で受けることになるからです。
「そうだ! 走れ走れ走れ! カカカ! カカカカ!」
クロスケ様は猫背を反らせ。上を向いて笑います。背後に回った私のことなんて意にも留めていません。
私はジャンプしてサンザフラを振り下ろします。クロスケ様の頭に直撃……しませんでした。
「ぐっ」
突然出現した黄金に輝く大剣がサンザフラの斬撃を防いだのです。
「俺だって剣くらい持ってンだぜ」
周囲がざわめき立ちます「やりすぎじゃないか」とか「大人気ない」など、そう言った言葉が飛び交います。王様だけは笑っています。
「黄金大剣。こいつは俺の魂そのものだ。魂で真摯に向き合わねぇと失礼ってもンだろ、なぁ!?」
「その通りです! 手を抜かないでいただきありがとうございます!」
たぶんクロスケ様は十分すぎるほどに手を抜いてくださってます。じゃなきゃ今頃私はここに立っていません。
「けっ、サガオの妹ってだけはある。狂ってるぜ、俺が言うのもなンだけど、な!」
クロスケ様は黄金大剣を振り下ろします。私は避けることも出来ずにサンザフラを交差させて防御します。衝撃が私を襲います。叩き潰されそうです。さらにクロスケ様は押し込んできます。
「踏ん張れ。潰れちまえよ」
「どっち……です……かっ!」
「ジレンマってやつだ。戦いてぇけど殺してぇ。どうにかなんねぇもンかね」
「なりま……せんよ……だからジレンマって……言うんです」
「カカカ! 違ぇねぇ! ほれ気張れ! このまま潰れて楽になれや」
クロスケ様は万力のように徐々に力を入れていきます。私はサンザフラに魔力を注いで能力を発動させます。
「サンライトフラッシュ!」
サンライトフラッシュは斬撃属性が付加された閃光と熱線を飛ばす技です。強い光によって使用者以外の視力を一時的に奪う効果もあります。私はサンライトフラッシュを発動させた瞬間に体の重心をずらして黄金大剣の圧から逃れます。私のいたところに黄金大剣が落ちて地面を砕きます。クロスケ様はニヤリとしたまま私がいた所を見ています。今の私は見えていないのです、チャンスは今しかありません。私はできる限りの力を入れてサンザフラを振るいます。
「気合武装! 黄金装甲!」
「え?」
サンザフラが弾かれました。硬い金属音です。私は確かにクロスケ様の背中を狙ったのに……なんで黄金を斬りつけて。あ、鎧だ、これは黄金の鎧、どうやったか分からないけどクロスケ様は一瞬で鎧を装備したんだ。さっきの黄金大剣の時もそう、いきなり出てきた。
「俺って手加減が下手だからよぉ、すげぇ痛ぇぜ?」
「うっ!」
クロスケ様はこちらを見ています。もう視力が回復して? いえ、クロスケ様は元々視力を失ってないーー
「どうした殴っただけだぞ。って壁に激突したまま失神したか?」
「予定通りのつまらねぇ幕引きだ。審判なにをボサっとしてやがるさっさとーー」
「……す」
「お! おお!?」
「まだ……終わって……ません」
めちゃくちゃ痛いです。両手の感覚がありません。多分折れてます。背中も痛いです。サンザフラもどこにあるかわかりません。でも。
「まだ……戦えます」
「おおおお!! いいぞ! いいぞお前! よく立ったな!」
クロスケ様は私を褒めながら歩み寄ってきます。
「その軟弱な体で! 失神不可避な痛みを耐える! 同じ状況下で俺の拳を耐えられるやつなんざ。一握りだぜ!」
「ありがとう……ございます」
「だから故にもったいねぇ。ここで粉々に粉砕されちまうんだからな!」
私は構えます。体が震えます、でもまだ戦えるのです。だって、おにぃちゃんが、私のおにぃちゃんが
「うおおおおおおおおお!!」
私は今まで出したことのない雄叫びを上げてクロスケ様に殴りかかります。クロスケ様は凶悪な笑顔で迎えてくれます。黄金大剣を振りかぶります。あれで終わらせるつもりです。勝ちたい! たった一年鍛えただけの私がおこがましいかもしれない! それでも勝ちたい! 勝たなくちゃ! ならない!
『覚悟認識シマシタ』
「え」
今の声は?
「どうした? 止まりやがって」
皆には聞こえていない? 確かに耳元で囁かれたように鮮明に聞こえました。幻聴なんかじゃありません。
「臆したか、最後の最後で。しゃあねぇよくある事だ」
クロスケ様が黄金大剣を振り下ろします。回避不可の一撃を私にーー
「なに!」
クロスケ様と私の間に見たことの無い盾が出現しました。元からそこにあったかのように空間で停止しています。盾は黄金大剣を微動だにせずに受け止めています。
「こいつは……そういうことでいいンだよな」
私がぼんやりしているとクロスケ様は何か納得したように距離を取ります。
「王さま、こいつ適合者だわ」
「それマ?」
「マジだよ。じゃあ仕切り直しだ」
クロスケ様は黄金大剣を両手で握り直します。
「行くぜ。この一撃で終いとしようや」
「はい」
何がなんなのか分からないまま返事をします。
『私ハマナーノ盾。マスターノ守護ノ心ニ応エ馳セ参ジマシタ』
声の主は眼前に浮く盾からだ。
「貴方がマナーの盾?」
『ハイ。マスターヲ待ッテイマシタ』
「私を?」
『サーマスター。今コソ守リ抜ク時。私ヲ手ニ取リソノ覚悟ヲ再度示シテクダサイ』
私はマナーの盾を掴みます。手の感覚がありませんが、思ったよりも軽いのでなんとか持てました。盾は私の手にフィットします、まるで私のために作られたような気さえします。
「準備できたか?」
「クロスケ様」
「なんだ?」
「本当にお優しいんですね」
「またかよ。調子狂うぜ」
これから来るのは三騎士の一撃。私はそれに耐えなければならない。クロスケ様が構えると黄金大剣が光り輝きます。
「行くぜ。黄金の煌めき!」
光が私を包みます。凄まじい衝撃です。
『マスター。一歩モ引クコトハアリマセン。私ヲシッカリト握ッテ前ヲ見テクダサイ』
「はい……!」
マナーの盾が光を割ってくれています。でも光がどんどん強くなっていきます。
「まだだ! もっと輝きやがれええええ!!」
光が反射して増大します。これはーー
光の柱。
照射が終わり、クロスケ様が笑いました。
「カカカ。こんなもんか。さ、どうだ生きてるか?」
「生きてます……」
「そうかい。やったじゃねぇか」
クロスケ様は振り返って試合場から離れます。
「続きは?」
「あん? 最後っつったろ? あれを防がれたら俺の負けって事だ」
「それじゃあ」
「ああ。ヒマリの勝ちだ。勝ち誇りやがれ」
その後はトントン拍子で話が進みました。王国魔道士による手厚い治癒魔法を掛けていただき、身なりを整えていただき、そのまま閉会式に出席。その場で王様が宣言して正式に私がマナーの盾の適合者であると発表されてました。閉会式も終わり帰ろうとした私を勇者様が呼び止めます。
「や、やあヒマリ! やったじゃないか!」
「ありがとうございます」
「いやぁ! めでたいなぁ! はっはっはっは!」
なんだか様子が変です。無理に元気に振舞っているように見えます。隣にいるエリノアさんがにゃははと笑います。
「バーガーは我こそがマニャーの盾を持つに相応しいとずっと言っていたんだよ」
「こ、こら! やめろ!」
「でも結果は惨敗。ドレッドヘアのプロレスラーに負けちゃったんだよ」
「まさか大喧嘩祭りの時のあいつが来てるとは思わないだろ!」
なんてフォローしていいか分からずおろおろしてしまいます。アイナさんがフォローしてくれます。
「バーガー様、マナーの盾を手に入れたとしてもMソードとの併用は難しいですよ!」
「そ、それもそうだな! Mソードを持っていなかったら、きっと俺の手元にきたに違いない、手ないけど」
終始和やかだった会話でしたが、去り際にジゼルさんが耳打ちします。
「気をつけて」
「え?」
なんのことか分からず変な声を出してしまいます。
「この街には私の祖母を殺した魔物がいる」
「それって通り魔のことですよね」
「そう。奴は実力者を狙う傾向がある。この王国に必要な要を狙う」
「マナーの盾の所有者も狙われると言うことですね」
「うん。だから気をつけて。王城内が必ずしも安全とは限らない。マナーの盾だって万能じゃない。気を引き締めるべき」
「心配してくださってありがとうございます」
気をつけるのは通り魔の方だ。仇の一人に違いないのだから。