第67話 修行5
王国に来てから半年が経過した。俺たちは修行の日々を送っている、俺とアイナは大幅にレベルアップした、と思う。というのも一人ではクゥにもスタンにも勝てていなかったからだ、そんな今日この頃あることが起きた。
俺とアイナはスタンを挟む位置にいる。アイナは肩で呼吸をして、汗だくだ。俺も具材が薬草1枚となり、Mソードは近くの地面に刺さっている。スタンが剣を鞘に収め、一歩下がり俺たちに礼をする。
「お見事でございます」
その様子を見ていたクゥが拍手をする。
「ほう、2人がかりとはいえ、スタンから一本取るとはな」
そう、アイナと俺のコンビネーションでスタンに一太刀入れたのだ。
「お二人ともご成長なさいましたね」
「まだまだです。二人がかりですし、与えたのもかすり傷です」
スタンのスーツの横腹の部分がほんの少しだけ裂け、血が微かに滲んでいる。
「さて、もう一本行きましょうか。今の感覚を忘れないうちに」
「はい! よろしくお願いします!」
授業ではトレース先生が副主任のような立場になっている。彼女もクゥから学ぶことにしたらしい、メモ紙を手放さなくなった。それどころか他の教師たちも暇があればクゥの元を訪れるようになった。教師の質が上がるのはいいことだ。そして俺たちのクラスは学年トップになった。学力も体力も、他のクラスとは比べ物にならないほどに上昇した。ちょっと他のクラスが気の毒になる。いや、他クラスも例年に比べるとレベルは上がってはいるんだが。クゥはどんな質問にも嫌な顔せずに答える、そしてその人にあった方向に導いていく。教師としても素晴らしい才能だ。しかし、そんなクゥでもできなかったことが一つだけあった。
「また……失敗です」
エプロン姿のアイナが申し訳なさそうにしている。宿屋の調理場の机の上に並べられたいくつもの皿に乗るのは石炭だ。唯一できなかったこと、それはアイナに料理をさせることだ。
「おかしい、絶対におかしい。物質を途中で変換しているとしか考えられない、そういう特異体質は聞いたことも無い」
クゥの手がワキワキしだす、アイナはすすすと距離を取った。
休日。
国民が目を覚ます頃。ここは王都が所有する、広大な大地の一角に俺とアイナはいた、城下町から出てしばらく進んだので周りには草原しか見えない。そこに椅子と日傘を設置して、優雅に座るクゥが言った。
「放て」
俺は咥えているMソードに秘められている魔法を発動させる。
「『勇者斬』」
Mソードから放たれる光の魔力が大地を抉る、少し離れた丘を破壊した、それでも威力は落ちない。
「照射止め」
クゥの言葉に俺は魔法を解除した、光は一瞬で消えた。照射されていた大地が融解して赤くなり溶けている。
「勇者斬は一度使うと魔力を貯める期間に入る。その期間およそ丸一日。これからはなるべく使って感覚を掴むようにしなさい」
「わかった、この王都外れでいいのか?」
「王都にいるうちはここを使いなさい。別の場所に行ったら天に向けて撃ちなさい。ここを使う分には許可は取ってある、好きなだけ使いなさい」
勇者斬は一日一回。前に使ったのと合わせて今回で二回目だが、使ってみた感じ融通が効く。たぶん威力を絞ったりもっと魔力を出したりできる。それに操作も、次の技を取説から得ようとするだけでなく、既存の技もしっかりと熟知しなければならないということか。
「これを使えばクゥにも勝てるか?」
「やってみるか?」
「いや、やっぱりやめときます!」
今までの修行においてクゥもスタンも本気じゃない様子だ、俺たちはともかくアイナは13歳とまだまだ幼い。伸びしろは十分にある。クゥが何かを思い出したように言った。
「そうだ、明日から修行も兼ねてグレイブのところに行ってもらう」
「え? え?」
誰だ? グレイブって、というかクゥとの修行は?
「私との修行は終わりだ。私が教えたことを続ければさらに強くなれるだろう。あとは私や、クロスケには足りないものだ。それを学んでくるといい」
「そのグレイブって人は誰なんだ?」
「知らないのか? 三騎士の一人、紅蓮騎士、グレイブ・ホーリーガーデン。王国最強の魔法使いだよ」
グレイブ・ホーリーガーデン。王国最強の魔法使いにして三騎士の一人、つまるところの魔法騎士だ。という説明を教室の後ろの方で忙しそうにメモをしているトレース先生から聞いた。そして本日、クゥは占領していた教室を解放した。トレース先生は驚いた顔をして、それから、生徒たちと同じように「えぇー」といった明らかに行ってほしくなさそうな反応をした。
「私は遠征に行く、後はグレイブから話を聞け」
「それは分かったけど、三騎士全員に教えてもらえるなんてえらい豪華だな」
「我々は全員問題を抱えている、だから三人で教えて初めて勇者を一人前にできる」
「そんなことないです!」
アイナの言葉を受けてクゥは優しく微笑む。そして手紙を差し出す。
「これは?」
「ブレイブに渡すがいい、もしものための保険だ」
「なんだかよく分からんが、渡せばいいんだな」
「必要と判断した時でいい、じゃあまたな」
最後の挨拶は素っ気ない。すぐに行ってしまった。また会えると確信できるのは何故だろうか、そんな安心感が彼女にはある。
夕方、宿にオショーが伝令に来た。だから聖騎士大隊長にそんなことさせるなって。
「ブレイブ様は海にいますぞ、ここから一ヶ月ほどの道ですが、今回は足を用意しましたぞ」
海! 俺とアイナは顔を見合わせる。だが浮かれるわけにもいかないので視線をオショーに戻す。
「あし?」
「はい、魔物使いです。飛行系の魔物を使役し、運ばせるのです、空路なら一週間も掛からずに到着できますぞ」
俺たちはオショーを見送って部屋に戻る。
最後の三騎士か、クロスケにクゥ、どちらも癖のある頭のネジが多かったり少なかったりするヤバい人たちだったが、グレイブはどうなんだろう。三騎士で唯一王都にいないところをみるに何かの任務についてたりして、それなら常識人の可能性が高いか。
「バーガー様、海ですね!」
アイナはゆらゆらと揺れて嬉しそうな仕草をしている。そうだ、海だ。水着回だ! この世界に水着があるのか確認するのを忘れていたが、そのまま入るってことはないだろう。ああ、待て、俺はどうすればいい? 一緒に海に入ってキャッキャウフフするにはどうすればいい!? ア〇パンマンの水対策よろしく透明なフルフェイスを被ってみるか? 否否。俺は新しい顔だけみたいなものだ。それでは海に浮くビーチボールになってしまう。
「バーガー様、どうしました?」
「あ、いや、海かぁ、着替えは持っていくのか?」
「着替えは持っていきますよ。いつもの旅で使っているものですが」
「ノンノン、海に入る時の、だよ」
「え、海って入れるんですか?」
「入れるに決まっているだろう、もしかして遊泳禁止なのか?」
「分かりません。でもそうですね泳いでみたいです!」
「なら効率のいい服装にしないとな、そのまま入れば服が水を吸い、最悪溺れてしまう、」
「分かりました! 買ってきます!」
よし、自然な流れだ。
「なんの話しなの?」
目を擦りながら現れたのはスーだ。一日眠っていたらしい。
「海に行ってくる」
「海……なの」
「どうしたスー、浮かない顔だな」
「海は危ないの」
「危ないか?」
「危ないの! 大きなお魚に食べられたり! 水がしょっぱくてつらかったり! 知らない島においてけぼりにされるの!」
ああ、それなら大丈夫だな!
数日後、王城前。
しばらく帰ってこれないだろうから、また学校に一言伝えておいた。現代だったら終わってたな。今回のメンバーは俺とアイナとスーのみだ。スーは海が怖いらしいが、寂しいから付いてくることにしたそうだ。これを機に克服させてやろう。アイナの水着回の件だが、王都には水着がなかった。薄手のシャツと短パンをとりあえず持っていくことにした。少し遅れてオショーが到着する。
「お待たせしました。魔物使いを連れてきましたぞ」
オショーの隣にいるのはフードを深くかぶった人だ。
「ああ、魔物使いは皆こんなファッションなので大丈夫ですぞ」
「ああ、それならいい」
魔物使いは口笛を吹く、すると空から巨大な鳥が降りてきた。
「これが俺たちを運んでくれる魔物か」
「その通りですぞ、この鳥は巨大鴉、Aクラスの魔物ですぞ」
たしかにこれだけでかければ背中に乗って移動できる。
「バーガー様! 本当に飛んでますよ!」
「壮観だな」
空からの景色なんて現代のころはよく動画で見たもんだが、たしかに実際こうやって見れば、いいもんだな。
スーは巨大鴉の背中に設置された座席の真ん中で縛られ固定されている。何故かって? これまでに何回落下死したと思う?
「スーは身を乗り出しすぎなんだ。不死身だからってもうちょっと慎重にならないとダメだぞ」
「わかったの! あ! あの雲美味しそうな形してるの!」
ダメだ今の俺にはどうすることもできない。 神に説教しようなんて頭が高いにもほどがある。
「……ちなみにどの雲だ? 挟みやすそうか?」
「バーガー様……」
「はっ!!」
いけないいけない! だって雲を挟むってなんかメルヘンチックでいいやん?
「あの雲です。ハンバーグの形に似ています。ほら上部の薄い雲が湯気のようになっています」
アイナもかよ! ダメだこのパーティ、食に対して弱すぎる。そうこう話していると、先頭で手網を握る魔物使いがため息をこぼした。
「いい加減にしてくんねぇですか? 気が散ってしょうがねぇです」
「すいません、つい」
魔物使いは気難しい人のようだ。いや、何度も落ちれば気を張るのは当然か。苛立ちもするだろう。旅仲間だし、敵対したくないな、ここは静かにしておこう。
適度に地上に降りて休息を入れつつ空の旅は続いた。夜間飛行、魔物使いが巨大鴉の目となり進む先を手網で示している。アイナとスーは仲良く寝ている。休めるうちに休むのも冒険の鉄則だ。落ちないようにしっかりと座席に括りつけられている。ただ起きているのも暇なので魔物使いと話してみることにした。
「かなりの高度で飛んでいるな」
「低いと飛び道具を使う魔物や、人間に射られることがありやがります」
そうか、俺たちが乗ってるって気づかないこともあるよな。……俺はコミュ障だから、会話が止まってしまう。なんて話そうか考えていると、向こうから話しかけてきた。
「斧牛を手懐けやがったそうですね」
「え? あ、ああ、そうだモーちゃんという」
「どうやって手懐けやがったんです。魔物使いがいやがったんですか?」
「いや、愛情をもって接した、それだけだよ」
「……わけがわからねぇです」
「最高のスパイスは『愛』なんだよ」
魔物使いは黙りこくってしまった、そりゃそうだ、俺は彼女もいたことないし、親から与えられた愛情もいま思えば歪なものだった。そんなやつから愛を語られたとあっちゃ納得もいかないのだろう。でも、そうとしか言いようがない、俺が出せる全力を持ってしてモーちゃんを愛でたつもりだ。そこに嘘偽りはない。
「無駄話は終わりにするです。もうつきやがるです」
数時間後。
「ここが海ですか!!」
アイナが目を輝かせるのも無理はない。白い砂浜、透き通った綺麗な海に雲ひとつない青空。そして何より人っ子一人いないプライベートビーチ! 現代にいたら逆に見れない光景だ。
「じゃあ、ヤーはこれで」
そういうと魔物使いは巨大鴉に乗る。アイナが礼を言った。
「ありがとうございました」
「……」
返事もせずに魔物使いは行ってしまった。名前も教えてくれなかったが切り替えていこう。
「よし、まずは泳ぐぞ!」
「え! 泳ぐんですか?」
「おう! 海といえば海水浴だ! 知らないのか?」
「またバーガー様のどこから得たかわからない知識ですね!」
「ふっ! さぁ! さぁさぁさぁ!! 泳ぎやすい格好に着替えてくるんだ!」
「ふふ、わかりました!」
アイナは向こうの岩陰に走っていった。俺は俺の下に寝そべっているスーに視線を向ける。
「大丈夫か?」
「うみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわいうみこわい」
「これは重症だな」
「お待たせしました!」
アイナは白いシャツに短パンという肌の露出が多い服を着て現れた。水温の心配はない、この王国領土内は年中安定した気候を保っているからな、年中絶好の海水浴日和だ。
「泳いだことあるか?」
「タスレ村にいた頃に少し」
「よし、なら浅瀬でいちゃつ……げふんげふん、慣れようか」
「はい! あ」
アイナは何かに気づいたような仕草をする。
「どうした?」
「バーガー様はどうしましょう?」
「それは俺も一緒に……」
俺はそこまで言って口を閉ざす。そうだった俺はバンズだ。ふやけてしまうじゃないか。
「くっ!!」
ここまでバンズだったことを悔やんだ日はない! アイナと一緒にうふふあははしたい! 海水を掛け合ったり! 砂浜で追いかけっこしたい! オイル塗りてぇ!! やむを得ない!
「『魂の実体化』」
「え? バーガー様!?」
そう、俺はことのすべてを筋肉の精霊に託すことにした。青いオーラが俺を覆っているから、水中でも動けるはずだ! 腹から上半身しかない筋肉の精霊だが、元々がデカいためアイナを見下ろす形になる。
「さ、遊ぼう」
「ふふ、あはは、もう無茶苦茶ですよバーガー様」
アイナは笑ってそう言った。
「スーも来いよ!」
俺が呼んでもスーは反応しない。岩の後ろに隠れている、隠れきれないお尻がぷるぷると震えている。
「あ! 海の中に美味しそうなのがいる!」
「どこなの!」
スーは一心不乱に海にダイブした。かなり浅瀬で。
「ぷぁ!! 謀ったの!? ごぼごぼ!! ごぼごぼ!!」
「いや、足つくだろう、水深10センチだぞ」
俺がそういうとスーは静かに立ち上がる。そして海からでる。
「冗談なの!」
「はいはい、ほら海に入れたじゃないか」
「あ!」
気づいたスーは再び震え出した。
「いやなの! こわいの!」
「大丈夫だ。ここは浅瀬で、それに俺たちもいる。溺れるようなことはないよ」
「でも」
「大丈夫ですよ。スーは私たちが助けますから」
「……。分かったの」
スーはアイナに先導されて恐る恐る奥に進む。
「冷たいの」
「ひんやりしてて気持ちいいだろ?」
「うん、きもちいの」
「じゃあ、一緒に遊ぼう。修行が始まればこんなことは出来なくなるからな」
「……うん! わかったの!」
ひとしきり海を堪能したところで、俺たちは気づく。
「バーガー様、たしかあちらから迎えに来ていただけるんですよね」
「そのはずなんだが。予定より早く来すぎたかな、こっちは空路だし」
「あれはなんなの?」
スーが指さすは水平線。
「雨雲だな……それもかなりデカい」
雨雲はこちらに向かってくる。不自然なほど突如として現れたその雨雲は、瞬く間に青い空を多い尽くす。ゴロゴロと雨雲の中を稲妻が走っている。
「海から離れよう、波が強くなるかもしれない」
「あんな雲初めて見ました」
「そうだな」
この世界に来てから温暖な気候が続いていたからな。雨は降れど、雷なんてほとんど見なかった。
「こ、こわいの!」
「大丈夫だ。あれは海のせいじゃない」
あれは明らかに異常気象だ。
「アイナ、なにか見えるか?」
「……いえ、でも強い魔力を感じます」
「魔力を? 何かいるってことか」
俺たちは丘まで移動する。高波に飲まれたら一巻の終わりだ。
「あそこをみるの! 海に何かいるの!」
空ばかりを見ていた俺とアイナはスーに言われた通り海面を見る。
なんだあの影は! クジラ? 否、それ以上に巨大な影だ。
「バーガー様……」
「なんなんだあれは!?」
海面から出てきたのは、巨大なウミヘビのような生物。胴体部分までしか出ていないのにも関わらず、すでに巨大化したニードルハックよりも巨大だ。
「あれは海龍なの」
「海龍だと?」
「海龍……」
「アイナ、知っているのか」
「たしかSクラス上位の魔物です」
「そうなの」
珍しくスーが話に入ってくる。それもそうか同族の話だ。
「龍、空龍海龍は魔物の中でもトップの力を持つの」
見ただけでも分かるが、大きさだけでもどうしようもない感じがする。あれには兵器が必要だ。
「じゃあ、あの雨雲は海龍の能力か?」
「少し違うの、あれは別の何かなの」
「別の何かって」
他にも何かいるってことか?
「海龍がこっちに向かってきてるぞ」
「ネスが魔王になってから龍族の大半は魔王軍側なの。あの子もきっと王国を目指して進んでいるの」
「なんだと、それなら止めないとならないな」
俺はMソードを抜く。Mソードのこの勇者斬ならあるいは太刀打ちできるかもしれない。
「あのスピードのままならもうすぐ上陸します」
「アイナとスーはできるだけ離れていろ」
「嫌です」
「ここにいてはアイナを庇いながら戦うことになる。分かってくれ」
「……分かりました」
「大丈夫だ。勇者斬で倒してくる。ダメだったら筋肉の精霊に俺を投げ飛ばさせて逃げるさ」
「絶対ですよ」
「ああ、絶対だ」
離れていくアイナとスーを見つめて、それから海を見る。修行の成果を見せる時だな。
「頼むぞ。筋肉の精霊」
筋肉の精霊は俺の意思で動くから命令は必要ない。だが現代にいた頃はこういうピンチのときはいつも筋肉に話しかけてきた。筋肉の精霊はフリスピー移動する。俺は高速で海龍に接近する。
海龍はその体のほとんどを海に沈めているため全貌は把握できない、海面から出ているだけでも電車を何編成も束ねたように太い。陸が近いからか頭を出している、あの頭を狙えばあるいは……。半分ほど接近したところで海龍が吠えた。俺に気づいたらしい。
「あの巨体で随分とナイーブらしいな。筋肉とバンズが飛んできたくらいであんな反応をするなんてな、リアクション芸人さながらの迫力だ」
海龍は咆哮し終えても口を開いている、そのまま口内が輝き出す。
「吐息か!? 筋肉の精霊!! 全力で俺を飛ばせ!!」
「うおおーーッ!!」
全力のフリスピー移動だ、十分に近づけた。
「喰らえ!! 『勇者斬』」
海龍の津波のような吐息と勇者の斬撃がぶつかり合う!
「うおおーーッ!!」
海龍の吐息と勇者斬の間では何度も爆発を起こし、その規模を拡大させていく。勇者斬と海龍の吐息がほぼ同時に消えた。
エネルギーのぶつかり合いが終わった直後、海龍は俺に向かって突進してくる。あの巨体でぶつかるだけで俺の体を粉々にするのに足りると判断したんだ、実際そうなるのは明白だ。俺は筋肉の精霊に両腕をクロスさせてガードさせる。海龍の突進が直撃する。弾かれたおはじきのように俺は浜辺まで吹き飛ばされる。筋肉の精霊が俺を抱える、筋肉のクッションで俺へのダメージを軽減した。つ、強すぎる。まるで相手にならない。人生バーガーモードだからな。この体になってから楽だった戦いなんて一度もなかった。
俺は体勢を直す。撤退か……、それもできるかどうか。俺がフリスピー移動で撤退しようとしたそのとき、雨雲が赤く染まり、赤く光る何かが降ってきた。




