第63話 修行1
王国に戻った俺たちはその足で王さまに会いに行った、王さまへの謁見はゆるい番兵が生返事一つで許可してくれた。玉座の間に直行だ。
「ただいま戻りました!」
「よく戻りましーた」
「これが伝説の剣、Mソードです」
アイナがクレアに木箱を渡した、クレアは振り返って王さまに木箱を開けてみせる、王さまはMソードをまじまじと見つめた。
「これが伝説の剣。名をMソードと言いましたーね」
「伝説山の地下洞窟で見つけたんだ」
「ほーう。そうかそうか、どーれ」
「あ、王さま!」
王さまがMソードを持ち上げる。
「うっわ! めっちゃ重たくなってきた! こっわ!」
王さまはMソードを放り投げる。おい! 伝説の剣を投げ捨てるな!
「いやぁ、ビックリした、何この剣きっも!」
クレアが苦言を呈した。
「王さま、この剣は人類を救うかもしれない伝説の剣です。もっと丁重に扱ってもらわないと困ります」
「マジごめんて、人類を代表して謝るから」
王さまはごほんと咳払いする。
「では、クレア例のものを」
「はい」
「例のもの?」
クレアが持ってきたのは、いかにもって感じの宝箱だ。
「どうぞ」
「……すまないが開けてもらっていいか?」
「ん? わかった」
勇者パーティは宝箱にトラウマがあるからな。クレアが開けた宝箱を俺たちはのぞき込むようにして見る、中にあるのは立派な鞘だ。金色がメインであとは銀色、各所に宝石が散りばめられている。
「王さま、これは」
「それは伝説の剣の鞘とされているものでーす」
鞘あったんかい!
「これに入れれば誰でも運ぶことができまーす」
「なんでそんなこと知ってるんですか? さっきはMソードの性質もわからなかったのに」
「さっきのは王様ジョーク、取説に書いてありまーした」
取説あんのかよ!
「でも知っているのと実際に体験するのとでは雲泥の差でーす。思っている以上にきもい剣でーす。呪いの剣かと思いまーした」
「王さま、言い過ぎです、これには命運がーー」
「人類代表」
「謝罪を略さないでください」
「ごめんなさい。さて、バーガー、取説読む派?」
「読む派です。それもじっくり」
ゲームを買ったらまず取説をじっくり読む。俺から言わせれば取説含めてゲームなんだ。コース料理を思い浮かべてほしい、食べる順番があるだろう。作品にも最高に楽しめる『順序』と言うものが存在する。取説を読まないでプレイする人も多数いるだろう。だが、プレイする前に取説を読んでその世界観に浸り。意識を現実からゲームの中に向ける。一種のルーティーンだ。ルーティーンが成功すれば、集中力が増してゾーンという極限意識に突入することが出来る。俺は体力任せに一本のゲームをクリアするまで一気にプレイする派でもあるから、この取説を読んで集中するというルーティーンは必要不可欠なのである。よってこの伝説の剣、Mソードの取説も然りだ。特にこれは神武器の取説だ、さぞ製作者の思いが込められているに違いない。
「でも、何故鞘だけがここにあるんですか?」
「前の国王が、伝説の剣を早く見たすぎて、先に完成した鞘だけいち早く持ってこさせたそうでーす」
「剣より鞘が先にできるんですか?」
「形は出来てたみたいだす、だすだってやだ。形を作ってから清めたり、神の力を付与させたりしてたみたーい」
「なるほど。わかりました」
「さ。取説を読んでMソードを使いこなしてくださいーね」
鞘に付属していた取説を取り出す。100年前の物とは思えないほどに状態がいい、触り心地も上質で、素人の俺からしても高級な素材が使われていることがわかる。
「アイナ開いてくれ」
「はい」
アイナはクレアに促されて椅子に座る。膝の上に乗った俺にアイナは子供に読み聞かせるように本を開いた。取説の1ページ目は目次と書かれただけで他には何も書かれていない、次のページを開いてもらう。こう書かれていた。
『やぁ! 勇者! この神強なMソードを手にして魔王を倒そう!』
……やけにテンションが高いな。取説を読み進める。
『え? 魔王は強くて、とても剣一本じゃ倒せないよって? 普通はそう思うよね! でも大丈夫! この伝説の剣! Mソードならね!』
通販かな?
『この取説にはMソードの運用方法が書いてあるよ! あと奥義も! この取説を読み終わる頃には君も立派な勇者だ! じゃあ次のページを開いてね!』
文字がデカすぎてページが進む進む。
『レッスンワン! 『勇者斬!!』』
あ、これは解析で検出された魔法だな、あれがレッスンワンだったのか。
『君の『精神力』とMソードの『聖なる魔力』を刀身に纏わせて一気に放つ、第一の必殺技だよ!』
精神力? なんだそれは魔力とは別のエネルギーを使うのか。あ、だから魔法反射を持つクリスやニードルハックにも効いたのか。
「精神力ってなんだ、ジゼル知ってるか?」
「わからない」
「ジゼルでもわからないのか」
「わからないことばかり。先に進もう」
「わかった」
「じゃあ次のページを開きますね。あれ?」
「どうしたアイナ?」
「ページが開けません」
「なに?」
紙がぴったりと張り付いていて剥がれない。
「え!? バーガー様これは!」
「うわ! なんだこれ!」
レッスンワンのページの文字が変わっていく。気味が悪いな。
『今の君に教えられるのはここまでだよ』
「これ……バーガー様に向かって話しかけているように感じませんか?」
「そ、そんな馬鹿なことが、オカルトだ!」
その間にも文字は変化していく。
『壁を超えたら、またページをめくりにくるといい、じゃあの』
「あ! 取説が勝手に閉じました!」
……壁を越えたら、だと? クレアがうなづいている。
「クレアこれはどういうことだ?」
「勇者様はまだMソードに勇者として認められていないということだ」
俺は的中率120%(5回に1回2回当たる)を誇る占いばぁさんに勇者だと占われた。だが、俺はまだ完全な勇者じゃないのか……。王さまが眉をひそめて唸る。
「うーむ。うぐぐ」
「王さま?」
王さまも俺の不甲斐なさに幻滅したのだろうか?
「さっき食べた牡蠣があたったかもしんない」
務めて無視しよう。
「ウソウソー、イッツァ王さまジョーク」
「俺は勇者として未熟です」
「ま、そんな落ち込まないでーさ。未熟ならさっさと完熟してきなさいーよ」
「と、いうと?」
「こんなこともあろうかと学校で特別授業をするよう指示を出してまーす」
「特別授業?」
「言っちゃえば修行でーす。そろそろそういうのが欲しいでーしょ?」
さすが王さまわかってらっしゃる。
「ありがとうございます!」
「冒険はしばらく我慢してくださーい。信頼の置ける人に特別授業をお願いしましーた、中途半端でまかり通ると思わないでくださーい」
「はい!」
「では、健闘を祈ってまーす」
王城を後にした俺たちは、それぞれの場所に戻った。Mソードは王国で預かってもらうことにした。泥棒とか怖いからな。勇者しか持てない剣と言ってもその希少価値だけでいくらでも買い手がいるだろう、運搬方法も確立されているしな。まぁここは王都だ、例の魔物以外に目立った悪党の話は聞かない。治安は他の街に比べても遥かにいい、あとは明日の修行とやらに備えて眠るだけだ、と、宿の部屋で考えているとドアが吹き飛んだ。
「てっ! 敵襲です!」
アイナはパジャマ姿のまま俺を抱くと、直前まで机に向かって嬉しそうに日記を書いていた少女とは思えない素早い動きで、窓を開け、部屋を脱出する。ここは2階だが、アイナなら余裕で飛び降りられる、俺を両手に持ちつつもしっかりと受け身をとったアイナが呟いた。
「部屋に武器を置いてきてしまいました」
「俺も薬草しか咥えてない」
「逃げますか?」
「もちろんだ」
次は2階の窓が吹き飛んだ、何が襲って来てるんだ!? 窓を吹っ飛ばした者が俺たちの前に着地する、素早い……腕を組んでギラリとした笑みを向ける。
「何も逃げるこたァねぇじゃねぇか」
「誰ですか貴方は」
「俺か? 俺はクロスケだ。よろしくな」
そう言って佇むのは黒猫の獣人だった。
「クロスケですか?」
「おうよ、俺は三騎士の一人。黄金騎士クロスケだ、知らねぇ?」
ん? んん!?
三騎士って、オショーの言っていた三騎士か? 王国の誇る最強の騎士の一人だというのか。
「ンだよ。俺をしらねぇのか? そいつはとんだ無知さんだな!」
「三騎士様が私たちに何の用ですか?」
アイナは警戒を解かない。俺だって強ばっている。
「カカカ。そう怖がンなよ、好きでこんな姿じゃねぇンだからよ」
「見た目のことを言っているわけじゃありません」
うん、別に上半身裸のド〇ゴン〇ールスタイルに驚いたわけじゃないさ。俺だって生前はそんな感じだったしな。
「何故私たちを襲ったのですか?」
「は? 襲ってねぇだろ?」
「いいえ、襲いました。ね、バーガー様」
「あ、ああ。あれは襲撃と言って差し支えないな」
「はぁ? あんなの挨拶みてぇなもンじゃねぇかよ!」
「毎回ドアを壊すつもりか!」
「俺の蹴りに耐えられねぇドアが悪ぃ!」
あれ蹴りだったのか……、爆裂魔法とかそういうレベルのものだと思ってた。
「話が見えません。用がないなら。私たちはもういっていいですよね」
「ダメに決まってンだろ!」
「どうしてですか!」
「修行すンだろ?」
その言葉で俺は理解した。
「俺に任せろよ、立派な戦士にしてやるぜ」
クロスケはギラリと笑った。
「クロスケが俺たちを鍛えてくれるのか?」
「おうよ、『この体』になってから久しく運動してねぇからよ、俺自身のリハビリも兼ねてだ」
リハビリ? 怪我でもしていたのか? 見たところ腕、肩、腰、尻尾に包帯を巻いてはいるが、具合が悪そうには見えない。
「そういうことでしたら。明日からクロスケ師匠よろしくお願いします」
「は? なに言ってンだ? 今からやるぞ」
「え?」
「俺が挨拶だけで済ますわけねぇだろ。ほら行くぞ」
「行くってどこにですか!」
「ンだよ、要領悪ぃな。学校で修行するって言われてねぇのか?」
「ぱ、パジャマですよ!」
「敵が時と場所を選んでくれると思ってンじゃねぇ! ハナタレが。敵は紳士か? 少しは見ただろ、違うだろ?!」
クロスケの言葉にアイナは黙ってしまう。
「わかった! クロスケ俺たちを鍛えてくれ!」
「おうよ」
俺たちは学校にある訓練場に移動した。クロスケが足で地面を数回ならした。
「整備されたいいグラウンドだな、平たい場所で戦うなんてこと滅多にねぇのによ」
「ここで修行するのか?」
学校でするとは聞いていたが、修行ともなれば、魔法とか危険な訓練とか色々するはずだ。朝になれば学生たちで溢れかえるし、王さまが言ったとはいえ学校でわざわざやらなくてもいいんじゃないか?
「考えてもみろ、俺たち聖騎士やお前みたいな勇者はよ。修行の成果は人前で見せるものなンだよ。なら人前で修行するのもありだろ?」
妙な説得力だ。確かに戦闘時は周りで何が起こるか予測できない。クロスケの言うように都合のいい場所で戦えるなんてことはまずない、それはこの世界ですでに学んでいる。
「わかった、ここでやろう」
「潔いいな、もっと反発しろよ。んじゃ手始めに」
クロスケはポケットから何か取り出す、砂時計だ。
「お前、バーガーだっけ?」
「ああ、俺はバーガー・グリルガードだ」
「そうか、バーガー。まずそのエルフの、名前なんだ?」
「アイナ・フォルシウスです!」
「そのアイナ・フフフフンから降りろ」
誤魔化すな!
「……わかった、あとフォルシウスだ」
俺はクロスケに言われた通りに地面に降りる。クロスケが俺の前に砂時計を逆さにしておく、砂が下に落ち始める。……なんだこれとてつもなく遅いぞ、一粒ずつ間を開けてゆっくりと落ちている。
「砂時計の砂が完全に落ち切るまでの3日間、そこから動くな」
「は?!」
待て待て待て待て! 修行だよ? 俺も生前は座禅とか瞑想を嗜んだが、それは後半になってからの話であって、今は体を動かした方がいいんじゃないのか?
「動くなッつッてンだろ!!」
クロスケが小石を俺に向けて指で弾く、小石は俺の横に銃弾のような速さで地面に着弾する、着弾地点には煙が上がっている。俺は生唾を飲み込む、いや唾とかないんだけどさ。
「バーガー様!」
アイナは慌てて俺に駆け寄ろうとする。クロスケはギラリと笑う。
「アイナ危ない!」
「え、ぐっ!」
アイナがクロスケの蹴りを喰らい、ふわりと宙に浮く。
「お前は俺の相手をしてもらう」
「やめろ! こんなの修行じゃない!」
「お前に修行の何がわかんだ? ええ?」
「それは……勘だ!」
「勘か。どっちにしても、これが嫌なら俺は降りるだけだな」
「な……」
王国最強の一角であるクロスケに稽古をつけてもらう。これはまたとないチャンスだ。……だがアイナがやられているのを俺は黙って見ていられない。
「ああ、わかった! やめーー」
「バーガー様!!」
「アイナ?」
アイナは苦しそうにしているが自分の足で立ち上がっている。
「修行を続けましょう!」
「だか、アイナ」
「私のことなら大丈夫です! 必ず強くなってみせます!」
アイナのあの目は絶対に譲らない時の目だ。
「……ああ、わかった。俺はここを1ミリも動かない」
修行が始まった。俺はというと訓練場の端でジッとしている。砂時計の中の砂が落ちきるまでの3日間、俺はここから動かない。そういう修行だ。
俺は瞑想をする。本来ならアニメを消化しつつ瞑想、坐禅に取り組むものだが、当然ここにはテレビはない。俺はアイナの修行を見る。アイナは拾った木の枝を振るいクロスケと対峙している。
「ハァ!!」
アイナの上段をクロスケは右足を真上に蹴り上げて防御する。木の枝が粉々に砕け散る。
「何も持たねぇよりはましだがよ。せめてもっとマシなもンを探せ」
「はい!」
その間もクロスケはアイナに迫る。クロスケはかなり手を抜いているように見える、その証拠に両手をズボンのポケットに突っ込んで片足立ちで、蹴りを主体に戦っている。
「くっ! うっ!」
それでも今のアイナにはキツい相手だ。捌ききれずに何発かもらっている。そもそも眠いはずだ、ベストコンディションとは程遠い。
見ていられないが、アイナも本気だ。俺はここを動かないぞ。アイナの心配もそうだが、俺もヤバい状況に変わりはない。3日も具材の補給がないということだ、安眠したくて新しい薬草を挟んだのは不幸中の幸いか。それでも薬草内部にある魔力は少ない。普通に動けば一食分と言った感じだ。つまり数時間で魔力が切れる。
魔力切れ、それすなわち女神の魔法陣を維持できなくなるということ。魔法陣が消えれば縛り付けられていた魂は昇天してしまう。元の体ならいくらでも絶食できたが、この体は魔力を切らせば即座に餓死する。動くのにも魔力を使うため、動かなければ魔力消費は抑えられるが、それでもジワジワ減っていく、3日まで持たない。何か挟まないと俺は死ぬ。俺は周りを見る、……何も無い。ここはトランテス王立学校だ、訓練場も綺麗に清掃されている。地面は固められた土だ。芝生なら芝を挟むこともできた。それでも足りないが……。夜が開ける、アイナは徹夜でクロスケに稽古を付けてもらっている。もう枝もないので、徒手空拳でクロスケと対峙する。すでにアイナは肩で息している、疲労困憊だ、休息が必要だ。
「クロスケ! アイナを休ませてやってくれ! 限界だ!」
「お前がこいつの限界を決めンじゃねぇ」
「どうみても限界だろ! 死ぬぞ!」
「お前は敵に命乞いすンのかよ? ああ?」
「これは稽古だ、死んだらどうする!」
「死んだらそれまでのやつだったってだけだろ? それに見てみろよ」
俺はクロスケに促されてアイナを見る。集中してクロスケを睨みつけ続けている。
「本人が諦めてねぇンだ。信じてやれよ」
生徒たちが登校してきている。俺たちをポカンとした表情で眺め、そして通り過ぎていく。スマホがあったら写真を取られてSNSに投稿されていたに違いない、異世界でよかった。
アイナはもう限界だ。クロスケが手加減しているのは目に見えているが、それでも王国最強の三騎士、クロスケの攻撃を受けて無事で済むわけがない。
「まだまだこんなもんじゃねぇ。アイナには3日間、俺と戦い続けてもらうぜ」
「無理だ!」
「だからてめぇが決めつけンなよ」
「やぁ!!」
「お?」
俺の方を向いたクロスケの隙(隙になってない)を突いてアイナが距離を詰める。ああ、あれは最後の力を振り絞った一撃だ。普段よりも洗練された無駄のない相手の急所を狙った最短距離の拳だ。
「あらよっと」
それをクロスケは無慈悲にもそれを受け流す。アイナの体が宙に浮く、そしてクロスケを飛び越して背中から地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
「アイナ!」
「う……ぐぅ……」
アイナは必死に立とうとするが、もう立つ力も残っていない。クロスケは疲れも見せずにアイナに歩み寄る。
「終わりだな。一発で楽にしてやる。起きたらベッドの上だ」
クロスケが足を振り上げる。それを待っていたかのようにアイナは右手をクロスケに向ける。
「突風!!」
「お」
アイナの右手から突風が発生する。発生の早い魔法だ。それも至近距離、これは決まった!
「いいそよ風だな」
クロスケは直立不動だ。どうしてだ……。今のはアイナの渾身の魔法だ。
「どうしてって顔してるからひとつ教えてやる。魔力ってのはこの空気中にも含まれている。目に見えねぇけどな。それを自分の魔力で操作して固めたり、動かしたりして、相手の魔法を凌ぐことができる」
アイナはクロスケに向けていた右手を力なく落として膝を着いた、立つこともできない。万事休すか。
「じゃ、お疲れさん」
「待て!!」
俺は動いていた。アイナの前に移動してクロスケを睨みつけてやる。
「動くなッつッてンだろ!!」
クロスケの怒号が響き渡る、学校どころかここら一体に轟いただろう。
「馬鹿野郎!! 俺は動くぞ!!」
俺も負けじと大声を出す。
もはや修行どころじゃない。アイナがボロ雑巾のように扱われているのを見て黙っていられるほど俺は馬鹿じゃない!
「ほう。いい度胸だ。まだ動くッつうのか?」
「ああ、今のアイナは疲れている。回復させてまた修行させた方がいい」
「カカカ。なんだ? 随分と知ったような口を利くじゃねぇか。ンン?」
「どうしてもというなら俺がアイナに代わって修行を受けさせてもらおう」
俺は一歩も引かないと決めた。アイナが這って俺のところに来る。
「バーガー様……」
「アイナはよく頑張った。あとは俺に任せろ」
「……はい……!」
クロスケが俺の目の前まで移動する、その一連の動作がとても遅く感じる。まさか俺はここで終わるのか? 修行に耐えられず、勇者失格として、廃棄処分されてしまうのか? なら、最後はアイナを守って死んでやる! 今の俺が使えるーー
「合格だ」
クロスケは俺を跨いでアイナの腕を掴んで立たせる。
「え? ええ?!」
「合格だ。試して悪かったな」
「ど、どういうことだ?」
「お前を試したンだよ。こいつを助けなかったら、マジで俺はお前を踏み潰していたぜ」
クロスケはそう言いつつアイナを背負う。
「は、離してください」
「は? 医務室で休んどけ、限界だろうが」
「で、でもバーガー様が!」
「カカカ、安心しろ大丈夫だ。おいそこのやつ! こいつを医務室につれていけ」
クロスケは通りがかりの生徒にアイナを連れて行かせるように頼むと俺のところに戻ってきた。
「じゃあ、俺も」
「動くな」
「え、でも試したんだろ?」
「これはマジだ」
「は、はぁ!?」
「この場から動くな。その砂時計の砂が落ち切るまでだ」
「……知らないかもしれないから言っとくがな、俺は挟んでいる具材の魔力が切れると餓死しちゃうんだぞ」
「らしいな。ま、俺も一緒に付き合ってやっからよ。見張りとしてだがな! カカカ!」
クロスケはドカリと俺の横に座る。
「そうそう、その場から動いたら殺すからな。これは本気だ」
クロスケの体から殺気が漏れ出す、どろりとした重みがある。実際に魔力が漏れ出しているのだ、押さえつけられている感覚がある。
「修行名はそうだな。『餓死が嫌ならなんとかしろ』だ!」
「やっぱり無茶苦茶だ! あんたホントに修行させたことあるのか?!」
「ねぇよ! ついでに言うと弟子もお前らが初めてだ!」
「間違ってると思いますうううううう!!」




