第60話 伝説の剣を抱いて1
「ぐ……ここは」
意識を取り戻す。この感覚、ハンバーガーの体だ。つまりここは異世界、だが前にいた状況とはだいぶ変わっている。
「暗い……何も見えないぞ」
動くことができるから埋まっているわけではないな。とりあえず具材を確認する。
「スーちゃんの前髪の破片が少しだけか……まずいな」
女神のところに行ったということは俺に刻まれた魔法陣が傷ついたということだ。その回復にスーちゃんの前髪の魔力を使ったのだろう。起きるのがもう少し遅ければどうなっていたか……。俺の体は暗くて確認できないが、動かした感じ五体満足(手足ないけど)だ。
「たしかニードルハックの棘を植え付けられた魔物が、魔法反射能力を持ったクリスに向かって魔法を放ったんだよな」
そしてその爆発に巻き込まれた俺は意識を失った。他の人たちは大丈夫なのだろうか、女神は生きているっぽいこと言ってたけどこの目で確認しないとやっぱり不安だ。
「おーい!! 誰かいないかー!!」
ダメだ、俺の声が反響するだけだ。くそ! まだ戦闘が続いているかもしれないってのに、ニードルハックもあの近くにいるかもしれない。魔人が3頭、聖騎士大隊長のオショーがいるとはいえ、かなり危険な状態だ。
「早くここから出ないと」
空が見えないってことは、ここは地下だ。ならば上に進めば出られるはず……、っていってもなぁ。具材の残りも少ない。まずは具材を確保しなければ。そもそもここはただの空洞で出口なんてないのかもしれない。魔力供給するための具材だってない可能性が高い。
一体どうすれば……。俺は女神の言葉を思い出す。
『ハンバーガーの本懐を忘れるな』か。これは助言か、それともただの戯れ言か。やることもない、己の中に眠るハンバーガーの声でも聞いてみるか。俺は目を閉じて内側に意識を向けていく。懐かしいな、筋トレ後期はこうやって坐禅に時間を費やしたもんだ、アニメ見ながら。筋肉との対話に成功した経験上、ハンバーガーもきっと俺に答えてくれるはずだ。
む、声は聞こえなかったが、何やら気になってきたな。ビビビっときた、なんだ? 向こうからだ。俺は開眼して、気配のするほうへ進む、行き止まりではないらしいな。しばらく進むと光が見えてくる。気配が強くなっている。一体何が……。道を曲がると、光の正体がわかる、一部の岩が光っていた。視界を取り戻して分かったことがある、この空洞はかなり広い洞窟だ。気配はさらに奥のほうからだな。俺は岩を跳ねて登る、少し高い場所に『それ』はあった。
「トマトだ!」
俺は目を疑いながらもトマトに這い寄る。茎をしならせてトマトが頭を垂れている。重量感があり、何とも瑞々しい。間違いない、これはトマトだ。
「ごくり」
唾液のないはずのバンズの体が唾を飲み込む動作をする。俺は今とてつもなく挟みたい衝動に駆られている。
「ああ!! もうっ我慢できないよっ!!」
俺はトマトに飛びかかる。クラウンとヒールでトマトを優しく包む、そして茎と繋がっている部分に力を入れていく。ブチッと茎から切り離す。落下した痛みなどなんのそのでトマトを口一杯に頬張る。ツヤッツヤだ、この中にジューシーなトマトジュースが入っている。解析を開始する。
『魔力草から魔法強化を検出、3回使用可能』魔力草? いやいやトマトだろ常識的に考えて! レタスの時もそうだ! なんなんだ! この世界狂ってんな! って、魔法強化? 名前の通りなら魔法を強化するんだろうけど、今の俺にはトマトしかない、スーの前髪はもう使い切るから魂の実体化は使えない。一玉丸々挟んだせいか、相当な魔力量だ。これだけあればしばらくは大丈夫だ。まだまだトマトはある、ここを拠点にして辺りを探索するのも悪くない。視界の先までトマト畑は続いている、それと同じく光る岩がトマトを強く照らしている。……なんか人工的な感じがしなくもないな。たぶんトマトの成長にはあの岩の放つ強い光が必要不可欠なんだろう、じゃなきゃ地下でトマトが育つわけがない。何かいるのか? 農業をする魔物でもいるのかな。俺はトマトの感触を堪能しつつ洞窟内を這い回る。トマト以外にはこれと言って挟めそうなものはない。俺は元きた通路に戻る。うーむ。やはり暗いな。そうだ。俺は光る岩に近寄る。丁度いい大きさの光る小石を頭に乗せる。これなら暗いところでも移動できる。ずっとここにはいられないからな、俺はトマトゾーンをあとにした。
洞窟を直進する。幸いにも入り組んではいないようだ。横道こそ多いが、この直線の洞窟が一番太いため迷わず進める。木で言えば幹のような部分に当たるのだろうか。ならば先には何がある? 行き止まりだけは勘弁だ。トマトの魔力が半分を切ったら引き返そう。あれ以来トマトどころか、光る石も見当たらなくなった。暗い道を頭に乗せた光る小石が照らす。この石に魔法強化を使ったらどうなるんだろう? 今は魔力が勿体無いから使わないけど、試してみたいな。
「ん?」
トマトの魔力をほとんど残して、俺は異変気気づく。
「かなり開けた場所に出たみたいだな」
徐々に洞窟が広がっているとは思っていたが、こうも一気に広がるとはな、かすかに見えていた天井も見えなくなっている。
「それでも空の光が差し込まないとなると、思っていた以上に深いな。ここが地下世界か?」
きっとケモナー歓喜の母性溢れるママが現れて俺を暖かいお家に連れて行ってくれるんだ。
「と、ふざけている場合ではないか。ここからさらに真っ直ぐ進むか否か……」
迷っている場合じゃないか、この先に何があろうと俺はここから脱出しなければならない。俺は進む、ひたすら進む。体感ではかなり時間が経ったようにも思えるが、意外と経っていないかもしれない。この小石の光がなかったら、かなり怖かっただろうな。野太い声で叫んでいたかも。
「む!?」
石の光が弱くなっていく。まさか魔力が切れたのか?
どうしよう! 電池は?! 単三か? 単三なのか? 単三だよな!
「まだ魔力に余裕はある! トマトの魔法を使ってこの光を強化してみよう! 『魔法強化』」
俺は光る小石に魔法をかける。次の瞬間、閃光玉のように小石が光り輝いた。
「なんて光量だ!」
俺は目を閉じる、光が収まるのを待つ。少しして目を開ける。
「周囲の石も光ってる!」
どうやらここらの鉱石は魔力を得ると光る性質があるようだ、なんて都合のいい洞窟なんだ。高い天井もよく見える。ここら一体が昼間のように明るくなった。
「……え」
先に見えるのは巨大な岩。……いや岩なんかどうでもいい。問題はその岩の根元だ。
「人?」
そう、人が岩にもたれ掛かっている。
まさかクリスの爆発に巻き込まれたのか? 俺は慌てて跳ね寄る。女の人だ。
「うわ……」
近ずいてわかった、この人の異常性に……。
「腹に剣が刺さってる」
剣は腹部を貫通、もたれ掛かる岩にまで突き刺さっている。どうみても致命傷だ、だが不思議と血は流れていない。
「妙だな」
血のこともそうだが、この人、まったく腐っていない。それどころか目を閉じ微笑んでいる、今にも起き出しそうだ。それに俺たちが戦っていたあの場にこんな人はいなかった。天井は岩に覆われているから、落ちてきたわけでもなさそうだ。
「わからん。おい、大丈夫か?」
何やってるんだ俺は、死体が喋るわけないだろ。きっと魔力的な何かで腐らなかっただけだろう、知らんけど。今は花の一つも置いてやれないが、俺が無事に生還できたらここに戻り彼女の亡骸を回収して、ちゃんと供養してやーー
「なんスか」
「え」
貫かれた女性が喋った。
「……生きてるのか?」
「当たり前じゃないっスか」
女性は糸目に手を当てて眩しそうにしている。腹に刺さっている剣のことなんて気にも留めていない。
「なんでこんなに明るいんスか」
どこから突っ込んでいいのかわからない。人なのか?
『きゅるるるるるる、ぐおおおおおおおおおお』
「……」
糸目の女性はお腹を抑えている、剣が邪魔そうだ。
「腹減ってるのか?」
「大丈夫スよ」
女性は平然としている、空腹は耐え難い苦痛のはずだ。
「これ食うか?」
俺のその発言に糸目の女性は初めて俺を見る。
「さっきからなんスか、見たことない魔物っスね」
「魔物じゃない、ほら食うか?」
俺は何を言ってるんだ? その体で食えるわけないのに。
「それ魔力草じゃないっスか、いいんスか」
「ああ」
彼女の最後の晩餐かもしれないしな、俺は持たれて彼女の顔の前まで運ばれる。
「トマトだけにしてくれ、それと全部はダメだ」
「トマト? この魔力草のことっスか?」
「ああ、そうだ、これは俺の生命線でもある」
「そんなもの食べちゃっていいんスか」
「腹すいてるやつを見ると俺の……否、ハンバーガーの本能が食わせてやれって、そう叫ぶのさ」
「なんだかよくわからないスけど、いいって言うなら遠慮なくいただくっス、あーん」
柔らかい唇がバンズに触れる。いい匂いがする、そして鋭い牙が……牙?
ぐちゅ、ぶちゅ! っと音を立てて俺が挟んでいたトマトが破裂する。
「ああ! 何してんだ! トマトはうまく食わないと中の液体がこぼれるぞ!」
「そんなこと気にしたことなかったっス。もぐもぐ、やっぱり魔力草はおいしいっス」
トマトを半分食べた彼女は、俺から口を離す。
「足りたか?」
「全然っスね」
「取ってこようか?」
「悪いっスよ」
「気にすんなよ、だから耐えてくれ」
「耐える? 何をスか?」
「いや、え? その腹に刺さった剣だよ、見るからに重症だろ」
「ああ、これっスか」
女性が剣に触る。
「おい、迂闊に触るな。奇跡的に重要な臓器を傷つけずに貫通しているんだろうからな。助けも呼んでくるから待っててくれ」
「クスクス、こんな真ん中刺されてそんなわけないじゃないスか、大事なところ、やられてるっスよ。それにここからは出られないっスよ」
「どうしてわかるんだ。諦めるなよ」
「諦めるも何も、私は自分からこうしているんスよ」
「なに?」
どういうことだ? 自分で刺したとでもいうのか?
「自己紹介がまだだったっスね。私は」
次の彼女の言葉に俺は戦慄した。
「魔王軍四天王が一人。『魔女』のスカリーチェっス」
その言葉を理解した瞬間に俺は距離をとる。なんだ何が起きている?
「クスクス。驚いてるっスね。まー無理もないっスよね、勇者さん」
「な!?」
俺が勇者であることもバレているのか!?
「この洞窟は私の固有結界なんスよ。入れるのは魔王様と勇者だけっス」
わからない謎だ。なぜ自分からバラす? 俺がハンバーガーだから油断しているのか?
「なんでバラした?」
「挨拶は基本ッスよ、勇者も名乗ったらどうっスか」
「……俺は勇者。バーガー・グリルガードだ」
「バーガーっスね。覚えたっスよ」
戦闘が始まる気配はない。
「そう身構えないでほしいっス」
「それは無理な相談だろ」
「ほらこの剣。これを取りに来たんスよね? じゃなきゃこんなところまで来ないっスもん」
「まさかその剣が」
「そうっス。伝説の剣『Mソード』っス」
あれが伝説の剣……Mソード。名前は初めて聞いたな。
「なんでそんなものがスカリーチェに刺さっているんだ?」
「だから自分で刺したんスよ」
ますます意味がわからんぞ。
「ほら抜かないんスか?」
「抜いたら出血してしまうだろ?」
「敵の心配をしている場合スか、別に構わないっスよ」
「ちょ。ちょっとまて」
「なんスか?」
「スカリーチェ、君はどっち側なんだ?」
「どっち側スか。簡単な質問スね」
スカリーチェの頬に赤みがさす。
「魔王様に決まっているっス! ああ魔王様に早く会いたいっス!」
スカリーチェは体を抱きしめて悶えている。恍惚の表情だ。
「魔王のためにこんなことをしているのか?」
「はぁはぁ……ん、く。……そうっス、100年くらいスかね」
なんたる忠誠心だ。
「自分で抜けばいいだろう?」
「抜けないんスよ。勇者じゃないと」
「そうなのか」
「そうっス。ほら」
スカリーチェは両手を広げている。
「近寄ったら襲いかかってくるんじゃないだろうな」
「だったらさっき食い殺してたっスよ」
……Mソードに刺されているから力が出せないとかじゃないだろうな、抜いた瞬間に襲いかかってくるかも。
「はぁ、警戒心が強いっスね。ならこれならどうっスか」
スカリーチェは左腕で右腕を掴んだ、そして少しずつ力を込めていく。
「な、何してるんだ!」
「手足をもげば、抜いてくれるでしょう」
「バカ! やめろ!」
「じゃあ抜いてくれるんスか?」
スカリーチェはその間にも手に力を込めていく。血は出ないが握られた腕が痛々しく歪んでいく。
「わかった! 抜いてやるからその手を放せ!」
「わかったっス」
スカリーチェは再び両手を広げる。
「さ、一思いに抜いてほしいっス」
「やっぱり痛いのか?」
「当たり前じゃないスか、腹に異物が刺さってるんスよ?」
「取り除いても死なないな?」
「魔王様の命令以外で死ぬわけがないじゃないスか」
本当に抜いてしまってもいいのだろうか、と思いつつも俺は飛び跳ねてMソードの柄を咥える。というか、この体勢から抜くとなるとかなり動かさないとダメだろ。上下に動いて少しずつ抜いていくしかない。
俺は重心を移動させて少し動かしてみる。ダメだビクともしない、剣は深く刺さっている。
「抜けそうっスか」
「かなり硬い」
「頑張るっスよ」
諦めずに俺はMソードを上下に揺らす、僅かだがMソードが揺れ始める。
「んっ……ふ、くっ……」
スカリーチェが変な声を出す。気が散る。
「だ、大丈夫か?」
「……そのまま続けてくださいっス」
俺は全力でMソードを揺らす。激しく上下に、次第にMソードの揺れが大きくなっていく。
「抜けるぞ!」
Mソードが引き抜かれる、カラカラと床を滑る。
「あん!」
艶のある声を出してスカリーチェは腹を抑える。
「おい!」
「……ふっ、ふっ。はぁ……気にしないでって言ってるっス」
「腹に穴が空いてるんだぞ」
「こんなのへっちゃらっスよ。それよりMソードはどうっスか」
「どうって、こんな大きな剣、俺に使えるはずないだろ」
「使えるっス。勇者なんスから」
「謎理論やめろ」
「咥えてみるといいっス」
俺は困惑しつつもスカリーチェの言われた通りにする、Mソードの柄の部分を咥えなおす。
「……軽いな」
小枝のようにMソードを振るうことができる。発泡スチロール製の剣なのかってくらい軽い。空気抵抗もめちゃくちゃ少ない。
「それはバーガーが勇者だからっスよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものっス、現に私じゃ抜けなかったわけっスから」
スカリーチェは立ち上がり伸びをする、それからストレッチして体をほぐしている。
「ふぅ、私の役目はこれで終わりっスね。じゃ私はこれで失礼するっス」
「……ちょっとまて」
「なんスか?」
「どういう意図で俺にMソードを渡した?」
「動けるようになりたいからっスよ」
「自分で刺したんだろ?」
「あの時はそうするしかなかったっスから」
「あの時?」
「これ以上は言えないっス。私は戦う力も残ってないっスから、逃げさせてもらうッスよ」
スカリーチェが手を叩くと、辺りの景色に変化が生じる。光る岩以外の光源が一切なかったはずが、天井の一部から光が差し始めたのだ。
「何をした?」
「結界を解いたっス。ここ結構浅い場所っスよ。頑張ればハンバーガーでも出られるっス、外に仲間もいるみたいっスから助けを呼ぶのも手っスね」
スカリーチェは手を振りながら洞窟の奥の方へと進んでいく。そして足を止める。
「……はぁ」
「どうした?」
「来るっスね」
天井を破壊して何かが落ちてくる。あいつらは……。
「リーチにクリス!!」
現れたのは蛭の魔人リーチと、水晶の魔人クリスだ。着地するとこちらに近づいてくる。
「あいつらは魔人だ」
「見ればわかるっス」
この状況かなり不味い。最悪の場合、スカリーチェ、リーチ、クリスの3人を相手にしないといけない。リーチが口火を切る。
「さがひてまひた、魔力の塊を」
「オラもだす、ここにあっただす」
リーチたちは、俺に目もくれずに、スカリーチェに近づいていく。
「どういうことだ? 魔人はそっちの仲間じゃないのか?」
「一括りにされると困るっスよ。物事はそんなに単純じゃないっス。魔界は弱肉強食、強さを証明して上に立つんスよ」
つまりスカリーチェの魔力に釣られてリーチたちは来たのか。俺はスカリーチェを見る、リーチたちに視線を向けている。ここは潰しあってもらうのを見るべきじゃないか? 両方とも王国の敵。スカリーチェも力を取り戻せば王国の脅威となるのは間違いないだろう。
だが……。
「私の前に立ってなんのマネっスか?」
「下がっていろ、いや逃げろ。ここは俺に任せるんだ」
否、断じて否! 弱った者がいじめられようとしている状況を見て、無視できるはずがない! 勇者として? 否! 1人の男としてだ!
リーチたちは足を止めて、初めて俺に視線を向ける。
「そのハンバーガーの体で何ができるだす、邪魔しなければ何もしないだす」
「そうれす、邪魔れす」
「うるさい黙れ!」
俺は伝説の剣、Mソードをしっかりと咥える。俺にはもうトマトと、Mソードしか残されていない。しかもそのトマトだってスカリーチェに半分あげたから魔法強化だってもう使えない。
「勝てなくても、戦わなければならない時がある。俺は勇者だ!」
勇者というワードに魔人が反応する。
「勇者だすか。なら生きて返すわけには行かなくなっただす」
「そうれす」
リーチたちは余裕をもって俺に近づく、俺はMソードを構える。そしてギリギリまで近づいたのを確認してから一気に横に跳ねる。
このMソードの威力はわからないが、両者とも斬撃に対応できるのを俺は先の戦いで知っている。だが武器はこれしかない。俺はリーチのほうにMソードを滑らせる。リーチは避けようともしない。Mソードの刃が触れる。
「ぎゃああーーッ!!」
Mソードを受けたリーチが弾けとんだ。
リーチだった蛭の塊は弾け飛ぶ、飛び散った蛭が弱々しく蠢いている、再び合体する気配はない。なんだこの威力は!? 俺がMソードの力に困惑していると、背後から笑い声が聞こえた。
「クスクス。なーに殺った側が困ってるんスか。伝説の剣は神クラスの聖剣っスよ。雑兵を薙ぎ払うことなんて造作もないっス」
「神だと」
スーと同じクラスというのか?
……なんかそれだと強く感じないな。
「ほら試し斬りには打って付けのがまだ残ってるっス」
スカリーチェの言葉を聞いたクリスが一歩後ずさる。
「いや、あれは……いけるのか」
なんだかいけそうな気がしてきた。俺はMソードを構えて跳ねる。クリスの体は魔法を跳ね返す、跳ね返された魔法は威力が増大していた。このMソードのさっきの攻撃が魔法によるものだとしたら、さらに強い力で跳ね返されてしまうかもしれない。
「ええい! ままよ!」
クリスも覚悟を決めたのか拳を振り上げて俺に殴りかかろうとしている。だが、俺の方が圧倒的に速い。クリスの股下を潜り抜け、背後から斬りつける。ボゴンッと爆発音をさせてクリスの背中が爆発する。今のはクリスの能力ではないMソードの力だ。
「さすがっスね、最強の聖剣ともなると魔を断つ力も絶大っス」
クリスは前のめりになりつつも裏拳で俺を狙う。俺は避けずにMソードで迎え撃つ。またしても爆発するような威力でクリスの腕が吹き飛ばされる、クリスはバランスを崩して膝をつく。俺はトドメにクリスの頭を斬り裂く、頭部を失ったクリスの体は力なく崩れる。
スカリーチェが拍手をする。
「本調子じゃなさそうっスけど、なかなかやるじゃないっスかー」
「勇者舐めるな」
「クスクス、じゃあ後1頭くらいいけまスね」
いたずらに笑うスカリーチェの視線の先に人影が……。
「ニードルハック!」
今度は棘の魔人ニードルハックが現れた!




