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第59話 怪物の眠る森5

挿絵(By みてみん)



 医療テントからジゼルが出てくる。


「容態はどうだ?」

「原因不明。あの山から離れたら症状の進行が止まった。幻覚解除魔法を試したけど効果がなかった」

「あの山に近づくとダメってわけか」

「魔力耐性の低い者のほうが発症しやすいみたい」

「全体のどのくらいだ?」

「9割。近づいていた部隊からかなり出たのを見ると。もっと増えるかもしれない」

「そうか」


 ここからは数で押せなくなるわけか、量より質か、ハンバーガー的にはナンセンスだ。


「勇者パーティではどうだ?」

「問題ない、と思う」

「俺はどうなんだ? 魔力ないぞ」

「どうやらこの発狂は人間にしか効果がないみたい」

「どうしてわかるんだ?」

「モーちゃんが発狂していない」

「モーちゃん魔力耐性低いのか?」

「前にもモーちゃんは幻影大鷲アパリションイーグルに魔法を掛けられたことがある。力はSクラスある。けどそのかわりに他が疎か」

「なるほどな」


 少数精鋭。それもここの警備もある、戻る場所も守らねばならないのだ。俺はオショーのところに行き、意見を聞くことにした。


「守りは無事だった者たちに任せて、私と側近の聖騎士10名、そして勇者パーティの面々で山の探索に向かいましょうぞ」

「わかった、だがかなり少なくなってしまったな」

「ここは魔物の住む森の真っ只中ですからな。攻めながらも、守ることも大切なことですぞ」

「そうだよな」

「それに私の目の届く範囲にいてくれれば守れますからな」

「わかった。任せる」


 俺たちは部屋を出てテントの間を進む。


「バーガー様」

「どうしたアイナ」

「あの山の名前はなんて言うのでしょうか?」

「名前ね、まだ誰も見つけたことのない山だから名前ないんじゃないか?」

「じゃあ何か名前をつけましょう」

「そうだな、ずっと山って呼ぶのも寂しいしな」

「この森が怪物の眠る森だからー、怪物の眠る山、なんていうのはどうでしょうか?」

「安直すぎないか?」

「そうですか?」

「あそこで伝説の剣が見つかってくれれば、伝説が眠る山とか言えるんだがな。俺が伝説の剣を見つけるまで、それまでは伝説の剣がありそうな山で我慢してくれ」

「長いですよ!」


 準備を整えた俺たちはキャンプ前に集まった。


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいなの!」

「モーちゃん、スーを頼んだぞ」

「んもぉ〜」


 俺たちはスーとモーちゃんをベースキャンプに残して伝説山(アイナに長いから省略された)を登り始める。


 メンバーは聖騎士大隊長のオショー、そしてその側近10名、んで俺たち勇者パーティに、それとシャニー。


「って、なんでシャニー?」

「ぼ、僕は臆病だから、異変にすぐに気づけると思って志願したんだ」

「そうか、エリノアの耳や、アイナの目みたいな感じか」

「臆病とミーの耳を一緒にしにゃいでほしいにゃ、シャニー死んでも知らにゃいよ」

「ぼ、僕だって冒険者なんだ、伝説の剣を見たい気持ちには勝てないよ!」

「ジゼル、シャニーは魔力耐久どうにゃの?」

「問題ない」

「ちぇ、好きにするといいよ」


 こうは言っているがエリノアも心配しているんだろう。そういうやつだ。


 俺たちが伝説山を登り始めて数時間。シャニーが異変に気づいた。


「む、向こうから気配がします」

「にゃら、ミーが見てくるよ」


 いつものようにエリノアが斥候を買ってでる。少しして。


「にゃああああ!!」

「エリー!?」


 エリノアの叫び声だ。ジゼルが真っ先に駆け出した。


「むちゃむちゃ……。はれ、ほうほそ。わたひのすへ」

「にゃんだお前!」


 エリノアの前に立ちはだかるのは、ぶよぶよの体をした赤黒い肉塊だ。細い手足とストレ〇チマンみたいな頭が生えている。


「わたひは、リーチれす」


 リーチだと! 蛭の魔人がリーチと言ったな。まさかこいつが!?


 リーチの名乗りが終わり数秒後、パーティの背後に何かが降ってきた、落下物が叫んだ。


「そしてオラがクリスなんだな!」

「もう1頭!!」


 背後に立つのは3メートルはある青い水晶の体を持つ魔人だ。リーチよりもさらに太い体だ。


「挟み撃ちですかな」

「だな」

「ど、どうしよう!?」

「決まっている。戦闘開始だ!」


挟み撃ちは有効な手だが、今回はこっちも数がいる。


「2手に別れるぞ」

「私は中心(ここ)からカマさんを振り両方同時に援護しましょうぞ!」


 となると、俺たちの相手はエリノアに近いリーチだな。


「わかった! 俺たち勇者パーティはリーチの相手をする」


 俺の言葉を聞いた聖騎士たちがクリスを取り囲む。シャニーはまだオショーのところだ。シャニーが強くても連携を取ったことないからな、中央で様子見しておいてくれるだけでもいい牽制になるだろう。


「人、人、今日はごちそうなのれす」

「にゃあ!!」


 エリノアは即座に抜刀、リーチのぶよぶよの腹に無慈悲な斬撃を繰り出す。繰り出した斬撃はリーチに命中、そのぶくぶくに太った腹部を大きく切り裂いた、しかし。


「いたいれす!」

「にゃ!?」


 リーチの腹部から大量の血液が噴出する。エリノアは大きく飛び退いて回避した。


「なにそれきたにゃいにゃあ」

「ひどいれす」


 リーチの傷がみるみる塞がっていく。


「高速再生能力持ちだにゃ、ジゼル!」

「オーケー。氷突風アイスブラスト!」


 エリノアが横に飛んだ直後、ジゼルの魔法がリーチを襲う。凍えた風を吹き付ける魔法か、アイナの突風(ブラスト)に氷雪魔法を組み合わせた感じだな。瞬く間にリーチの体が凍りつく。


「さむいのれす」


 堪えてるようには見えないが動きが鈍くなっている。


「アイナ射れ」

「はい!」

「」


 アイナの矢継ぎ早に放った2本の矢がリーチの両目に突き刺さる。


「ぬああああ!」


 リーチは目を抑えて悶え苦しむ。チャンスだ、エリノアが斬り掛かる。リーチの窄んだ口元が歪むのが見えた。


分離セパレーション


 エリノアの攻撃がまだ命中していないのにも関わらずリーチの体が弾ける。これは!


「こいつ! 群れてるのか!」


 リーチの正体、それは小さな蛭が集まった集合体だったのだ!


 蛭の群れがエリノアを襲う。


「『旋風』!」


 エリノアを守るように風が渦巻き、近寄る蛭を切り刻む。蛭が集まりリーチの上半身が再生する。


「いだだ。今のはなんでふか?」


 リーチは怪訝そうに距離を取っている、オショーの援護(アシスト)だ。背後から金属音がする、向こうの戦闘音だ。俺はクラウンの部分のみを高速で一回転させて、背後を確認する。聖騎士が隊を組み、二重にクリスを囲んでいる。前衛が剣を振り下ろす、クリスはそれを受けようともしない。硬い金属音を響かせるのみで全く斬れていない。


「勇者様と比べるのは可愛そうですが、些か情けないですぞ! 武器に性付加魔法エンチャントマジックを使いなさい!」

「はっ!」


 聖騎士たちは剣の刃の部分に手を当ててそれぞれ魔法を唱える。燃えたり、水を纏ったり、電流が流れていたりと、相手の苦手とする属性が分からない以上、被らないように配慮している。


 聖騎士5人が同時に属性付加エンチャントした剣でクリスに斬り掛かる。クリスは避けない、聖騎士の剣が触れた瞬間、爆発が起きた。


「な、なんだ!?」


 攻撃した聖騎士たちが吹き飛んでいる。何が起きた、砂埃の中から無傷のクリスが出てくる。


「オラに魔法は効かねぇ、クリスタルは魔力を反射するんだな」


 属性付加エンチャントした力がそのまま跳ね返ってきたってことか。


「勇者様、カマさんの風も効果が薄い相手です。クリスに専念してもよろしいか?」

「ああ、こっちは俺たちで何とかする」

「助かりますぞ!」


 よし、俺の出番だな。


「アイナ、火炎草だ!」

「はい!」


 アイナはポシェットから火炎草を3枚取り出す、それを俺に挟む。


 『火炎草から火炎の吐息ファイヤーブレスを検出、3回使用可能』。よし3枚とも認識されたな。


 俺はリーチに向かって跳ね寄る。リーチの動きは遅い、群れとはいえ小龍ワイバーン火炎の吐息ファイヤーブレスと同等の技を食らえば一溜りもないはずだ!


「バーガーあぶにゃい!」

「うお!」


 リーチの体から何本もの触手が伸びる。それらが鋭利な刃物のように周りの木々を切り裂いている。


「あれに当たったら一撃で死ぬよ」

「ああ、ハンバーガーはサンドイッチじゃない。切られてたまるか」

「バーガー、今にゃに挟んでる?」

「火炎草、3枚だ」

「わかった、ミーが道を開けるよ」


 俺がエリノアの肩に乗ると、エリノアは走り出した。迫り来る触手攻撃を剣一本で捌いていく。


「今だよ!」

「おう!」


 俺はエリノアの肩から飛ぶ。復活したリーチの目が俺を捉える、さらに迫る触手もエリノアが弾いてくれた。喰らえ!


「『火炎の吐息ファイヤーブレス』」

「!?」


 まさかハンバーガーが火を噴くとは思わなかったのだろう、リーチはまともに魔法を受ける。再生されていた上半身が吹き飛び、辺りに血をまき散らす。まだ蛭は残っているがそれも潰していけば倒せる!


 よし、勝てるぞ。そう思った矢先、シャニーが叫んだ。


「な、何か来ます!」


 現れたのは魔物だ。そしてその体には、見慣れた棘の鱗が刺さっている。


「ニードルハックだ!」


 ニードルハックの支配下にある魔物だ。数は少ないが、前より種類が偏っている、人型の魔法を得意とする魔物たちだらけだ。選んできたのか?


 魔物たちの向ける杖の先には……クリス。まさか!!


「みんな離れろ!!」


 魔物たちが一斉に魔法を発動させる、火の玉や氷の球がクリス目掛けて飛んでいく。そして被弾した瞬間、大爆発が起きた。























「あーはいもしもし女神じゃよ」


 鈴のなるような美しい声にハッとした俺は体に目をやる。魂の姿だ、ハンバーガーじゃない。辺りは白い空間、すると俺はまた生死の淵をさ迷っているのか?


「はいはい、そうです。……じゃよじゃよ。あいわかった、明日の昼じゃな……はいはい……いいともー!」


 通話を終えた女神が携帯電話ガラケーを懐にしまう。


「おい、今誰と話してたんだ?」

「タ〇さん」

「い〇ともじゃねぇか!!」


 もう終わっただろ!


「はっ! 貴様は知らないじゃろうがな、別の世界線ではまだ続いているんじゃぞ! お昼休みはうきうきウォッチじゃ!」

「マジかよ、すべてが救われた世界があるのか……」

「知らない方がいいこともある、今の記憶を消してやろう」

「頼む」

「わかった」


 女神が指を鳴らす。





「ここは……体が戻っている、俺はまた生死の淵をさ迷っているのか?」


 俺は視線を前に向ける、女神が携帯電話で誰かと話している。


「もしもし女神じゃよ。……ん? 見てないよ。……ああ、テレフォンな。で、二択は? ……えっ! 愚か者!  フィフティ・フィフティ使ってからテレフォンを使えとあれほどいったじゃろうが! 金額は? ……何!? 10万じゃと!? 阿呆ぅがっ! 100万超えてから使えと、もう、ええい、分からぬのであれば仕方ない! 問題を言え! ……ん? ……んん? 何じゃそれ! わからん!」

「今の電話はなんだ?」

「ミリ〇ネアじゃよ」

「はぁ!?」


 あれはもう終わった……いや特別番組でやってるな。最近見てないけど、


「みの〇んたの術中にハマりおって、情けないのぅ」

「……ツッコまないからな」


 小休止。


「で、なんで貴様がここにおるのじゃ」

「爆発に巻き込まれたっぽいな、死んだか?」

「死んではなさそうじゃ」


 女神はタンスの上に置いてあるロウソクを指さす。まさかあのロウソクが俺の命だとでもいうのか!?


「あれはただのロウソクじゃ」

「じゃあなんで指さしたし! その意味深な顔やめろ!」

「ぷはは、まぁ、なんとなく分かるってことじゃ。余は万能じゃからな!」

「丁度いい、聞きたいことがあるんだ」

「あーん? 死なれたついでに聞かれてもなぁ、答える気がせんぞ」

「伝説の剣のことなんだが」

「これ話を聞かぬか愚か者」

「なんだよ教えてくれてもいいだろ、いまピンチなんだよ」

「あんなものをピンチじゃと? ははは! やっぱり貴様はユーモアのセンスがあるのぉ」

「いや俺からしたらマジでヤバい状況なんだが……、というか、少し離れていた俺がこうなっているってことは、他の人は大丈夫なのか?」

「他人の心配をしとる場合か? まぁよい、貴様が一番重症じゃから安心せい」

「そうか、なら誰も死んでないな」

「まぁの」


 女神は飽きたように指を鳴らす。

 巨大なクッションが出現する。女神はそれにボディプレスを喰らわせる。


「そうじゃな。一ついいことを教えてやろう」

「いいこと?」

「伝説の剣はすぐに見つかるぞ」

「本当か!?」

「余が嘘をつくものか」

「そ、そうだな。あの地にあるんだ」

「余の助言通りに動いておればそこまでは問題あるまい」

「そこまで?」

「ああ、全部手伝ったらつまらぬからな。そろそろ無様に散ってもよいぞ?」

「誰が散るか。俺は絶対に生き残ってやる」

「ははっ! ハンバーガーの分際でよく言うのぉ」

「ここまで来たんだ。行けとるところまで行くだけだ」

「なら、さらに一つ教えてやろう」

「羽振りがいいな」

「いやか? いやなら」

「お願いします!」

「よろしい。トマトじゃ」

「はい?」

「トマトがある」

「トマトだと?」

「そうじゃ、貴様はハンバーガーに魂を支配されかけておるが、ハンバーガーの本懐を理解しておらぬ」

「ハンバーガーの本懐か、食べられることだろ?」

「被食願望は最終的なものじゃ。その前にあるじゃろうが」

「……美味しくなりたい、か?」

「ピンポーン、珍しく正解じゃ」

「それにはトマトが必要なのか?」

「ハンバーガーと言えば、パテ、レタス、トマト、チーズ、そして○○○○じゃろうが」

「なに? 最後の言葉が聞こえなかったぞ」

「全部言ったらつまらぬからな、編集した」


 その4つとあと何かを挟めば俺は旨くなるのか。


「他の転生者は自らの力に溺れて、そこに付け込まれて死んだ。結構な割合でじゃ。貴様にはその心配はないが、ハンバーガーを理解することじゃな」


 女神は指を鳴らす。クッションが消える。


「さて、そろそろ行くがいい。まず戻ったら、選択は間違えないことじゃな」

「選択?」

「ハンバーガーの本懐を忘れるな、ということじゃ。にひひ」





 俺は白い光に包まれて消えた。



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