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第57話 怪物の眠る森3

挿絵(By みてみん)



「は、はははは! こうなったら徹底的に邪魔してやる、伝令だけを執拗に狩ってやる!」


 おいおい、なんて最悪な宣言だ。チーターズはどんどん離れていく、追尾する鎌鼬よりも速い。


「覚えておけ! 最後の一人になるまで狩り続けてやる! そして最後の一人はじっくりと、おおあッ!!?」

「なんだあれは!?」


 チーターズを横から飛び出した影が襲う、喉元を噛みつかれて組み伏せられている。


「がっああ!! お、ま、えば……魔人っ!?」


 そう、飛び出したのは棘の魔人、ニードルハックだ。言葉を返さずチーターズの喉をかみ続けている。


「あアッ!! やめろ!! なぜだ!! ながまだろ!! ぎゃあ!!」


 ボキンと首の骨が折れる音がする。最後のチーターズは絶命した、そして遅れて鎌鼬が襲いかかる。


「ふん」


 ニードルハックが首を振ってチーターズを振り回して鎌鼬に当てる。盾にされたチーターズだったものは、いくつもの鎌鼬に当たってズタズタに切り裂かれる。そして首を咥えたまま、ゆっくりと立ち上がる。見ているのはオショーの周りにある肉片だ。


 俺たちが呆然としていると、ニードルハックは視線を戻して、森の方へと走っていった。


「な、何だったんだ?」


 なぜ共食いを? 人間は魔人たちの共通の敵ではないのか? 隣のジゼルが呟いた。


「共食いをすると強くなる。ニードルハックは人を殺すことよりも強さに固執している」

「最強になりたいってのか?」

「うん。仮にここの魔物や魔人を食い尽くしたら。九大天王に匹敵する魔人になるかもしれない」

「そうなったらどうなる」

「そうなれば。オショーでも適わなくなる」

「心外ですぞジゼル殿」

「本当のことを言ったまで。チーターズはもういない。伝令を出して」

「承知しました。……伝令は出しますが、ここで待つだけでは済まなくなりましたな」

「わかっている。ニードルハックは優先して討伐するべき魔人。これ以上力をつける前に倒さないといけない存在」








「援軍が来るまでの間も悠長にはしていられなくなったな」


 部屋に戻った俺が言っても、周りの反応は悪い。どうすればいいのか、俺もいい考えが思いつかない。アイナが口を開いた。


「援軍が到着するのが2週間後ですよね」

「そうだな、早くても2週間だな」

「そんな短時間で九大天王並の強さを持つ魔人ができるのでしょうか?」


 言われてみればそうだな。というか、九大天王ってなんなんだ。


「九大天王って魔王の幹部なのか?」

「イエス。魔王軍の10本指に入る強さを持っている連中」


 やはり四天王みないなもんか。


「話はズレるが、九大天王のことを教えてくれないか?」

「オーケー。九大天王で判明しているのは7名」

「残りの2人は?」

「まだ確認されていない」

「じゃあ分かる範囲で頼む」

凝縮された星コンデンストスターのディザスター。魔術のパロム。光速のグラップ。無限のアリス。骸骨のホネルトン。魔剣のブラギリオン。魔獣チワワ」

「……チワワ?」

「小型魔犬のチワワがどうかした?」

「いや、なんでもない」


 あのチワワか? 否、そんなはずはない、それなら俺でも勝てる。


「その中で魔人なのは?」

「ディザスターが惑星の魔人。パロムが白鳥の魔人。グラップが鴉の魔人」

「魔人は最低でもその3名が最高戦力に数えられているのか」

「旧魔王も魔人らしい」

「旧魔王?」

「現魔王に敗れて追い出された魔人」

「まだ生きているのか?」

「それは分からない」


 なるほどな。魔人はヤバイ、それだけは覚えておこう。


「でだ、この短期間でそこまでのパワーアップは可能なのか?」

「あのニードルハックにしろ他の魔人にしろ。まだ実力が分からない。もうすでにかなりの領域まで達している可能性もある」

「ならばやはり、ここで叩いておかないといけないってことか」

「その通り。それにここにいる全員か戦闘員。魔人側からしても私たちの存在は脅威」

「そうだな。俺たちは強い、打って出るべきか」

「勇者が率先して戦場に経てば指揮が上がる」

「分かった。魔人狩りをオショーに提案してみよう」





「というわけだオショー」


 俺がさっき話した内容を説明する。全軍を持って進軍し敵をサーチアンドデストロイして回るという単純なものだ。タスレ村でも定期的に狩猟団を結成して森へ魔物狩りに行っていたな。今思えばあれも魔物が増えすぎないようにするための防衛手段だったんだ。


「さすがは勇者様、誠に勇敢な提案ですな」

「言っておいてなんだが、無理そうか?」

「いえ。私もこの地にいる者たちの命を握る身、進退窮まった状態でどうしていいものか悩んでおりました」


 ジゼルがずいっと入り込んでくる。


「引くか攻めるかの二者択一。半端な判断は反対せざるを得ない」

「わかりました。ここから出て全軍を持ってして事に当たりましょうぞ!」


 ここからは早かった、オショーは聖騎士隊長たちに命令して各聖騎士たちに命令を下す。


「明日の朝には聖騎士全軍が進撃可能となります」

「よし」

「ですが、冒険者たちはどうしたらいいか。戸惑っている者が多いと聞きますな」

「それは俺たちがなんとかしよう」

「おお、頼もしき言葉。では冒険者たちのことは勇者様にお任せしましょうぞ」


 俺たちはオショーのいる部屋を後にする。


「エリノア、一緒に冒険者たちのところに来てくれ」

「にゃんだかんだ言って結局はミーの力を借りるんだから」

「貸しは返すさ。エリノアなら冒険者たちにも顔が聞くだろ?」

「さぁにゃ、命が掛かってるときは、人間どうにゃるかわからにゃいよ」

「なぁに、何とかするさ。彼らの協力も必要不可欠だろう」

「バーガー様、私も行きます!」

「わかった来てくれ」


 俺とアイナとエリノアは食堂に向かう。冒険者は酒場が大好きなんだ、ここでは食堂がその役目を担っている。俺たちが食堂に入ると冒険者たちの視線が集まる。ここにいるだけで50人くらいか、ほとんどの冒険者が集まっていると言える。この部屋にいる俺とアイナ以外すべてSランク冒険者。つまり小龍ワイバーンより強い者たちが50人いるのだ。


 その視線は鋭い。冒険者で殺されたのは4人、それぞれペアで行動しているところを狙われた。


「俺はバーガー・グリルガード。見たまんま勇者だ」


 ざわめくわけが無い、知っている事だ。


「君たちはこれからどうする?」


 俺の問いかけに一番奥に座っている男が答えた。


「一時的に冒険者全員を一つの大きなパーティとして結成し、王都に帰還する」


 そうだよな。命あっての物種だもんな。これがCとかBランクの冒険者ならまだ残ったかもしれないが、彼らはエキスパートだ。無理に危険を犯したりはしないだろう。ならば、こちらも情報を開示しちゃおう。




「伝説の剣」


 俺のその発言に冒険者たちの目の色が変わった。エリノアが耳打ちした。


「バーガー、そのことは言いふらさにゃいほうがよくにゃい?」

「背に腹は変えられん、伝説を手にするためなら彼らの助けが必要だ。」

「わかったよ」

「ごほん。冒険者諸君、伝説の剣とやらは知っているか?」


 冒険者たちは一同に首を横に振る。そう誰も知らないだろう。しかし、その名の響きは冒険者たちの興味を引きつけるには十分だ。


「王さまがそう呼ぶものがこの地に確かに存在する。伝説の剣つまり伝説の盾と同等の代物がここに存在するんだ!」


 冒険者たちは身を乗り出してくる。いいぞ。


「君たちが人生の分岐点において、聖騎士といった安定した職を選ばずに冒険者になったのは、ロマンを求めていたからではないのか!? それがいつからか生き残ることに必死になって、旨い依頼をこなす日々になっていた。違うか? うすうす嫌気がさしていたのではないか? 今回だってそうだ、魔人が出現する前は『こんなチョロい仕事ほかにはにゃいぜ』と内心思っていたのではないか?」

「にゃんで口調がミーにゃんだよ」

「残れば死ぬかもしれない、だが君たちが冒険者になったときを思い出せ、あったはずだ、命をかけてもやりたいことが、確かにあったはずだ!」


 静まり返る食堂。ダメか、それもそうか、俺もなんだかんだ言って安全な部屋に長年引きこもっていたニートだ。ジゼルの真似をしてみたがそう上手くはいかないよな。奥にいたリーダー格の冒険者が前に出てくる、その顔は険しいものだ。


「私が子供のとき、親に読み聞かせてもらった童話がある」


 何の話だ?


「その童話には勇者がよく登場してな。人々を苦しめる魔物や魔人を次々に倒していった」


 童話の勇者? サガオの言っていた童話と同じものか?


「俺もそうなろうと思い剣を振るってきた。野蛮な貴族に喧嘩をふっかけて聖騎士への道こそ絶たれたが、それでも冒険者となり率先して危険な任務をこなしてきたつもりだ」


 ちょっと言いすぎたかな?


「それを理解してもらった上で、勇者様の言うことも一理ある。その伝説の剣。本当にあるのか?」

「あるという噂だけで俺はここまで来たぞ?」

「ふっ! 愚問だったな。しかし私もパーティメンバーの命、延いては私を含め57名の命を預かる身だ。独断では決めかねる。検討させてくれ」

「分かった、話を聞いてくれて感謝する」


 冒険者たちの目を見る。俺は確信してその場をあとにした。





 翌日。


「我々冒険者たちも伝説の剣の捜索に尽力しよう」


 そう言って、冒険者たちは俺たちに協力してくれることなった。俺はシャニーの元を訪れる。


「悪かったな。帰りたかっただろう?」

「う、ううん! 怖くないと言えば嘘になるけど、これでも僕は冒険者だからね、伝説の剣を一目見てみたいよ!」


 オショーが俺たちの元に現れた。


「勇者様、伝説の剣のことを話されたのですな」

「やむを得なかった」

「いえ、責めているのではありませんぞ。この場合、そうすることも一つの方法です。しかし」


 オショーは俺と俺の乗っているアイナを部屋の外に連れていく、そして俺たちにしか聞こえない声でオショーが話した。


「全員を味方と考えるのは些か危険かと思われますぞ」

「どういうことだ?」

「王都での事件は知っていましょう?」

「あの占いばぁさんを殺したっていう魔物のことか?」

「そうです。これだけ探しても見つからず、警備を増やした結果、以前に比べれば減りましたが、未だに被害は出ております」

「どこに敵がいるかわからないってことか」

「その通りです」


 だが、ここには人間しかいない。

 外には魔人がいるが、それもここに住み着いている者たちだ。


「人間側にも魔王に与する輩がいるということです」

「人間がか?」

「はい。旧魔王のときはよく寝返ったそうですぞ」

「わかった。気をつけるよ」

「よろしくお願いします」


 難しい話になってきたな。でも今は運命共同体だ。今の俺に筋繊維はないが、頼もしい仲間たちがいる。


「勇者様。冒険者のリーダーと私、そして勇者様で怪物の眠る森攻略の作戦会議を開きたいと思うのですが」

「わかった。アイナも同席していいか?」


 また難しい話になったら助け舟を出してもらうのだ。


「勇者様が認められた方なら問題ありますまい」


 会議室には聖騎士大隊長のオショー、勇者の俺と相棒のアイナ、そしてこの任務の間だけ冒険者たちのリーダーを務めているフォーカードの計4名がいる。


 口火を切ったのはオショーだ。


「では、怪物の眠る森の攻略会議を行います」

「はい!」


 アイナは紙とペンを持っている、秘書係だ。


「先程、二度目となる伝令を出しました。この伝令が届けば半月ほどで援軍が来ると予想されますな」


 フォーカードが質問した。


「その間はどうする?」


 ここは俺たちの考えを言うべきだろう。


「あの棘の魔人、ニードルハックと言ったか、やつは魔人を捕食していた」

「それは私も見た」

「その前には魔物も食べていた、魔物や魔人は同族を捕食することでも力をつけるんだったよな?」

「その通りだ」

「単純計算でニードルハックは魔人二人分以上は強くなっていると見ていいだろう」


 現実は魔力の吸収効率もあって、そう上手くはいかないらしいがな。


「この森で一体だけ強い個体が生まれた場合、そいつがこの森の魔物を食い荒らし瞬く間に成長、なんてこともあり得る。俺たちに時間はほとんど残されていないのかもしれない」


 それを聞いたオショーが唸った。


「むぅ、勇者様の言葉も頷けますな」

「だから俺は全軍で怪物の眠る森に突入して、手当たり次第に脅威の排除をしたいと思う」

「全軍とはそれはまた思い切りましたな。ここの警備はどうされるのです?」

「それはもう移動するしかない。怪物の眠る森は深い。だが食料となる魔物もいるし、森での生活に長けたアイナや、冒険者たちもいる。それにここにいるのは鍛え抜かれた聖騎士や冒険者たちだ、森で自給自足しながらの進撃は十分に可能だ」


 それを聞いたフォーカードが顎に手を当てて呟く。


「それなら魔人たちの動向を探り、同時に伝説の剣を探せる」

「脅威の排除と、目的の達成。この2つが同時に行えるというわけですな」

「戦略について俺は素人だ。俺が勇者だからといって甘やかさないでくれ」

「いえ、時として大胆な行動力が要求されることもありますぞ。それには決断する勇気が必要です、勇者様は今それを我々に示したのです、聖騎士側として賛成しますぞ」

「ああ、オショーさんの言う通りだ。こういう時こそ何より攻めの姿勢でいることが重要だ。冒険者側も勇者様の意見に賛成させてもらおう」

「よし! ならば全軍を持って怪物の眠る森を攻略するぞ!」

「おおー!!」



 荷を馬車に詰めるだけ詰めて、俺たちはベースキャンプをあとにする。聖騎士の数は1000人ほどだ。本来のオショーの本隊はもっと多い。それに精鋭ってわけでもなくて、Bクラスが殆ど、Aクラスの聖騎士隊長が数名いる程度だ。冒険者たちは総勢57名。5人パーティが9組、4人パーティが2組。3人パーティが1組、そして残る1人がシャニーだ。


 組自体は崩さずに、聖騎士たちと混じってもらい前線を押し上げてもらう。


 7班に分かれて。矢印状に進軍する。俺たち勇者パーティとオショー、そして1人パーティのシャニーもこの中心の本隊にいてもらうことになった。


「おお、勇者様。次々と魔物の発見報告がありますぞ」

「対応できているのか?」

「それはもう。現れる魔物はBクラス、よくてAクラス下位と言ったところです。問題なく討伐できていますぞ」

「魔人の報告は?」

「今のところございませんな」


 これだけ大規模の進軍だ、魔人も気づくだろう。人並みに賢いなら逃げるだろうな。聖騎士が走り込んで来た、伝令係だ。


「オショー様!」

「どうかしましたか?」

「中央部隊が魔人と接触しました!」

「さっそく来ましたな! どの魔人ですか?」

「棘の魔人、ニードルハックです!」


 早速お出ましか!


「よし! 勇者パーティ行くぞ!」

「おおー!」


 俺たちは駆け足で移動する。聖騎士たちの通ったあとが道となっている、お陰ですぐに最前線に追いついた。


 ニードルハックが力任せに聖騎士たちをなぎ倒している。狂犬のような戦い方だ、木々がなぎ倒されて広場ができている。ニードルハックの後ろにあるのは?


「魔物の死体か、また食ってたのか」


 このニードルハックという魔人。どこまで貪欲なんだ。


「ここで討つぞ」

「はい!」


 俺たちの存在に気づいたニードルハックが視線をこちらに向ける。10メートルほどまで近づいている。あの無数の棘の生えたスリムなボディのどこにあの力が隠されているのだろう。前の世界では質量こそ全てだったが、魔力の存在によってそれだけでは力量を判断しかねる。ニードルハックから話しかけてきた。


「またお前たちか」

「ニードルハック、ここでお前を討伐させてもらうぞ」

「面倒だが力を試すには丁度いい」


 魔人との戦闘が始まる。





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