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第47話 サンライト4

挿絵(By みてみん)



 千足サウザンドレッグの突進を、魔物たちは広場の中心で隊列を組み受け止めた。盾というよりも分厚い鉄板を使い、先頭の10数頭の魔物が突進の勢いを殺す、後方にいる100頭近い魔物たちがその背中を支える。千足サウザンドレッグが体勢を立て直す前に、斜面に潜伏していた魔物たちが跳躍して背中に飛び乗る。これまた、辛うじて剣や斧の形をした大きな金属片を使い採掘と同じように何度もその武器を打ち付ける。


 千足サウザンドレッグの外骨格はその住処によって異なる。山なら岩、森なら硬い土、海なら塩、火山ならマグマと言った具合に、同じ種とは思えない容姿になる。この魔鉱山の場合なら魔力を多分に含んだ金属製の外骨格で体が覆われている。力だけでどうにかなるのなら、Sクラス魔物ではないのだ。千足サウザンドレッグは軋んだ鳴き声をあげてうねり回る。


 それだけでも十分に脅威だ、魔力を纏っている物を振り回すだけでも殺傷能力の高い凶器となるのだ。魔物たちは盾持ちの背に隠れたり、回避しきれずに吹き飛ばされるものもいる。だが怯むものは一人もいない、単純な戦闘力でもAクラス上位はあるのだろう。


 レイラが笛を吹く、少し複雑な吹き方だ。その笛の音を受けて魔物たちが陣形を組み直す、少し距離をとっているようだ。広場の中央でのたうち回る千足サウザンドレッグを取り囲むような形になる。レイラが続けざまに笛を吹く、今度は長く高い笛の音だ。千足サウザンドレッグの足元の地面が割れる。現れたのは千足サウザンドレッグと同等の大きさを持つミミズだ。種族名は巨大蚓ジャイアントアースワームだがここまでの大物は初めて見た。ムカデとミミズが絡まり合う、巨大蚓ジャイアントアースワームが押されている、千足サウザンドレッグには金属でできた外骨格がある。巨大蚓ジャイアントアースワームの体が裂けて至る所から体液が吹き出す。巨大蚓ジャイアントアースワームの作った隙を魔物たちは見逃さない、一斉に距離を詰めて袋叩きにする。数百の魔物、それもAクラス上位はあるものたちの攻撃を長時間受け続ければ流石のSクラス下位でも一溜りもない。最後に体を仰け反り軋んだ断末魔をあげて千足サウザンドレッグは絶命した。



 数十分後。


「さぁ、できあがりましたよ!」


 レイラが採掘場中央のキャンプ場に戻ってくる、背後には2匹の魔物が大鍋を持っている、テーブルの中央にその大鍋を設置する。


「こ、れは、なに」


 コスモはあからさまに嫌そうな顔をする。レイラはあっけらかんとした顔で答えた。


「何ってムカデ鍋ですよ、ムカデ鍋」


 ムカデの魔物を倒したレイラたちはその魔物をすぐに解体した、外骨格はトロッコに、残った肉は鍋の中に放り込んだ。


「ここでは貴重なタンパク源ですからね、もしかして嫌いですか? ムカデ」

「え、いや、旨いのか?」

「味は気にしないでください」


 一番大事なところだろ……。まぁ、ここは戦場みたいなところだ。俺だって戦場では魔物の肉くらいいくらでも食べてきた。虫型のはまだ食べたことないけど。俺は横目でダリアを見る、皿に盛られた肉をじーっと見つめている。


「食べたいのか?」

「モチロン」

「……食っていいぞ」

「アリガトウございマス」


 ダリアは肉に食らいつく、ムカデと言っても魔物だからな見た目だけでいえば甲殻類に近いものがある。魔物たちもガツガツ貪っている。魔物は魔物を食べるとその魔力を吸収してさらに強くなる、これがこいつらの強さの秘訣か。俺は横目であるものを発見する。魔物たちが千足サウザンドレッグとの戦闘で戦死した魔物を運んでいるのだ。運ぶ先は調理場だ。


「なぜ死んだ魔物を調理場に運んでいる?」

「あのままだと食べにくいじゃないですか」

「……まさか仲間を食べるのか?」

「食べますよ」

「よくそんなことが……」

「これもギアの提案です、私も最初はオガサさんのような反応をしました、でも慣れちゃいました」

「なれたって」

「慣れるしかないんです。それにこのムカデだって魔物ですし、死んだ仲間だって魔物です。食べてもなんの害もないし、むしろより魔物たちは魔力を吸収して強くなれる」


 レイラはどこか自分を納得させるように言っている。そうだ彼女が望むはずもない、ギアに脅されているのだ。レイラは空を見上げる。日の位置を確認している。


「あ、そろそろ精鋭部隊が帰ってきますね。ムカデをもっと切らないと」

「ん? 彼らが精鋭部隊ではないのか?」

「いえ、ここの『犬小屋』の表面をカンカンしているのはまだ入隊して日の浅い新兵たちです。新兵といっても他の部隊から志願してきたり腕に自信のある魔物たちですけど」


 ギアの私兵にはさらに上がいるのか。


「来ましたよ。おーい」


 レイラが山頂に向かってランタンを振る。肉眼でその姿はまだ確認できないが、チカチカと何かが光っている。


「あの光はなんだ?」

「彼らの合図です。こっちに異常がないか確認しているんですよ」

「異常?」

「はい、以前、こっちの方にヤバい魔物が来たことがあって、疲れて帰ってきた彼らを襲ったことがあったんです。それ以来ああやって確認するようになったんです」

「そうか、その時もここにレイラさんはいたのか?」

「はい、死ぬかと思いましたよ。実際ギアが来なかったら死んでたんじゃないかなぁ」


他人事のように言うのだな。


「その魔族は誰だ?」


 ここにいる魔物たちよりも重厚な装備に身を包んだ者達が現れた。山頂にいた精鋭部隊だ、もう中腹まで降りてきたのか。


「新兵のオガサさんです」

「分かった」


 というか、こいつら普通に喋っているな……まさか。


「彼らは魔人ですか?」

「はい、つい最近、進化したんですよー!みんな自我が強くなって流暢に喋れるようにもなってコミュニケーションがとれるようになりました!」


 魔人。魔物が進化したもの、旧魔王も魔人だったという事実だけで、魔人の危険性がよくわかる。


「レイラさんは襲われないのか?」


 魔人は魔物以上に人を殺したがる傾向がある。それに知能も人並みまたはそれ以上あり、様々な残虐な方法で殺しにくる。


「んー、私はギアの親衛隊ですから、特別枠みたいなものなんじゃないんでしょうか? ねー」


 そうレイラが魔人たちに聞くと、魔人たちは深くうなづいている。魔人たちは口々に言った。


「レイラ様に命を救われた者がここまで来れた、私ももちろんそうだ」

「レイラ様が疲れきった俺をギア様から隠してくださらなかったら、いまごろ俺は過労死していた」

「レイラ様がこっそり作ったスイーツ班に何度も救われた」


 そのあとも魔人たちは『レイラ様が』『レイラ様が』と、この場を借りて感謝の言葉を口にしだした。


「もぉー、大げさなんですからー」


 レイラは困った顔で笑っている。


「さぁ、今夜はムカデ鍋ですよ、たくさん食べてくださいね」


 食事会が始まる。山のようにあったムカデ肉があっという間に姿を消した。夕食のあと、魔人たちが支度を始める、俺は近くにいる蛇型魔人に問いかけた。


「今日の仕事は終わりじゃないのか?」


 すると蛇型魔人はすぐに答えた。


「仕事に終わりなんてない、まだまだノルマが残っている」


 俺は知っている彼らが持ってきた魔鉱石の量を、あれだけあれば、しばらくは大丈夫だろうと言えるくらいの収穫だ。


「あれで足りないのか?」


 その質問にはレイラが答えた。


「使えるのはあの中の1%もないので」


 あの魔鉱石は十分に魔力を含んでいる。それでも質が足りないとなると……。


「一体何を作っているんだ?」

「勇者を殺せる機械兵です」


 俺は絶句した。魔王軍がここまで準備をしているとは思わなかった、ここ100年間は魔王が変わったせいか、大きな戦争は無かったからだ。油断させるための罠だったということか。


「その機械兵とやらの名前は?」

「キラーキラーっていいます」

「キラーキラーか、強さはどうなんだ?」

「私はよく分かりませんがSクラス程度はあるんじゃないでしょうか?」


 各クラスには下位、中位、上位がある。Sクラスと言われただけでは戦闘力や、その脅威の判断がつきにくい。しかし、周りの魔人たちがSクラス下位はあることを見るに、キラーキラーは中位……いや、あれだけの魔鉱石を素材にしているんだ、Sクラス上位か、それも最上位クラスは想定しておいた方がいい、つまり(ドラゴン)クラスだ。魔王城に戻らねばならない。



 そのとき『犬小屋』の山頂部が崩れる。現れたのは数え切れないほどの千足サウザンドレッグの群れだ。真っ直ぐにこちらに向かってくる。レイラは数秒それを眺めて『あれは無理』と呟いたあと、笛を吹く。


「総員退避! 総員退避!」


 魔物と魔人たち瞬く間にその場から逃げ出す。トンネルに避難しないのは千足サウザンドレッグは地上と同じ速度で地中を移動できるからだ。


「オガサさんたちも早く避難してください!」


 俺が避難しようとコスモとダリアの元に駆け寄ったタイミングで空から音が聞こえた。


「あれは……なんだ?」


 金属の塊が空を飛んでいる。


「あ! キラーキラーだ!」


 空から声が聞こえる。


「持ち場を離れんじゃねぇ」


 この距離でも聞こえるということは相当な音量だ、風魔法で声を全体に広げているのか?


「あれはなんだ?」

「機械兵のキラーキラーです、ギアが入っています」

「機械兵だと?」


 あれが工場で作っている兵器か、飛行能力があるとは。って。


「本人が操縦しているのか!?」

「え? はい、まだ1号機しかできてないので、訓練がてら乗り回してるんです」


 1号機と言うことはあれを量産するつもりか。


「さて私もギアに返事をしないと」


 レイラはそばにいる荷物持ちの魔物から見なれない道具を受け取る。


「それは?」

「ギアは拡声器って言っています、中には魔法陣が内蔵されていてこのすぼんだ所から声を出すと、先の広がった部分から、音を増大させて全体に届けてくれます」


そう説明するとレイラは拡声器を口元に当てて話した。


「ギアー! 助けてー!」

「クソが、世話の焼ける部下共が、排除するから仕事の準備をしてそこで待機してろ」

「はい!」


 口は悪いが本人が前に出て戦うのは好感が持てるな。だがあの千足サウザンドレッグの数はちょっとやそっとでどうにかなる戦力差じゃない。


「レーザー光線を使う」

「は、はい!」


 レイラは勢いよく笛を吹く。


「総員対ショック体勢! 総員対ショック体勢!」


 魔物と魔人たちが土魔法でシェルターを作ったり、穴を掘って潜ったり。盾を構えてじっと待ったりと各自で衝撃に備えるような体勢をとる。


「オガサさんたちも早く来てください」

「その必要はない、ダリア、防壁を作れ」

「血ヲ使ってモ?」

「ここの考え方なら問題ないだろう、構わん」

「承知シタ。バウッ!」


 ダリアが吠えると血が集まってくる。この血は千足サウザンドレッグにやられた魔物たちの血や、千足サウザンドレッグの血も含まれている。それらは黒ずんでいたが、ダリアの元に近づくにつれて鮮血に戻っていく。ムカデの緑色だった血も真っ赤になる。ダリアの魔力が干渉している証拠だ。その血でダリアは俺たちが入れるほどの半球形のドームを作った。


「コスモは奥の方にいろ」

「う、ん」


 これで安全は確保できた、さてキラーキラーは一体どんな攻撃をするんだ? 範囲攻撃を使ったとしても、さすがにあの範囲はカバーしきれないはずだ。俺は顔を出して空を見る、ここからじゃキラーキラーがどんな機体かわからない。



「ファイヤ」



 俺が見たのは、キラーキラーから発射される滝のような紅蓮の光線が岩肌を薙ぐ光景だった。極太の光は千足サウザンドレッグたちを薙ぎ払っていく、山すら貫通している。衝撃がここまでくる。


「主人、顔ヲ入れナイと危険ダ」

「ああ、わかってる」


 だが俺は見続けた。その光景を目に焼き付けた。



 レーザー光線は5分続いた(とてつもない魔力量だ)。キラーキラーは千足サウザンドレッグを執拗に焼き払った。こちら側に落石が少ないのは、被害が少ないように攻撃する場所を計算しているからだろう。キラーキラーは光線の照射を終えると山頂付近に降り立つ。地中に逃げた千足サウザンドレッグをキラーキラーは腕力だけで引きずり出す、地中にいる相手の位置もわかるようだ。引きずり出した後は無造作に空中に放り投げる、千足サウザンドレッグの巨体がいとも容易く空を舞う。そしてギアは容赦なくレーザー光線を空中にいる千足サウザンドレッグに撃ち、確実に始末していく、これを淡々と繰り返す。徹底的だ、恐ろしい戦い方だ。禍根を残さない絶対強者の戦法だ。まるで害虫駆除をしているように黙々と作業をこなしていく。程なくしてキラーキラーは飛翔する、ギアの声がした。


「後片付けくらいできるだろ」


 そういうと魔王城の方に飛んでいってしまった。レイラがそれを見送る前に笛を吹く。


「総員平常運転! 総員平常運転!」


 魔物や魔人たちは何事もなかったかのように作業に戻る。俺の目にはまだあの光景が残っている。キラーキラーが山を焼く光景を、自ずとそれは俺の故郷へとすり分かる、焼かれる小麦畑、倒壊した家屋、肉片も残らずに殺される人たち、残された人たち。そしてヒマリの笑顔を思い出す。


 あれは絶対に破壊しなければならない。


 俺は礼もそこそこに『犬小屋』をあとにした。魔王城内の自室に戻り、ぐったりとソファーに腰をかける。肉体的にはこの程度の移動どうということはない、ただショックが大きい。スパイ内容を王国に報告するころには、キラーキラーの軍勢ができあがっていてもおかしくはない。


 二択を迫られる。スパイとして生きるか。勇者として死ぬか。いや、二択ではなかったな。


「俺は童話の勇者に憧れているんだ。どうしようもないほどに」


 勇者として死のう。ヒマリを守って死んでやるのだ。





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