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第44話 サンライト1

挿絵(By みてみん)



 俺の名前はサガオ・サンライト。

 可愛い妹のために魔王軍のスパイをしにやってきた。



 ここが魔王が収める城下町か。王国の城下町も大きいがそれ以上に大きいな。この町は縦にも広い。飛行する魔族がいたり、背の大きな種族がいるからだろう。人と違い多種多様な種族が入り乱れている以上、それに対応できるようにできているのだ。そんなことを考えつつ俺は町を練り歩く、目先の目標は魔王城に侵入する事だが、まずはこの町で情報収集をしなければならない。



 そして人間である俺が抱える問題が一つある。この町に人はいない。俺が変装もせずに歩けば、瞬く間にそこいらにいる魔物や魔族どもに襲われる。だが俺は今も誰にもバレずに町に溶け込んでいる。なぜか? それはこの仮面をつけているからだ。我ながら完璧な変装だ。肌色の魔族もいるからな、顔さえ隠してしまえば奴らとて俺が人間であることを見破るのは困難だ。


 ……なんてな、この仮面の裏側には魔法陣がビッシリと書かれている、そのせいで目の部分が光っている。魔法陣に書かれた常時発動魔法(パッシブマジック)変装ディスガイズ。俺の姿を魔族に見えるように錯覚させる魔法だ。さらにこの全身を覆うマントにも魔法陣が書かれている、常時発動魔法(パッシブマジック)の効果は隠蔽ハイディングだ。


 この2つの魔法道具マジックアイテムのお陰で、傍から見れば俺はれっきとした魔族に見えるだろう。この魔法道具マジックアイテムを譲ってくれた彼女(クレア)に感謝だ。


 ともあれこれから長い任務になる。村に置いてきた妹のことも気になるが、これも戦争を終結させ、妹の時代に争いを残さないようにするためだ。俺は童話の勇者に憧れているのだ。魔王を倒し世界に平和をもたらすという童話の勇者に……



 とか、使命感に燃えつつ闊歩していた俺はようやく目当ての施設を発見する。この施設から魔王城侵入への道が開けるのだ。



 冒険者ギルド。

 王国にもある施設だ、ここで名を挙げてSランクの冒険者になれば魔王城の兵士として働くことも容易となるだろう。まずはFランクからだ。ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fとあり、それぞれランク分けされている。


 最初はFランクの簡単なクエストをこなしていき、実力を認められてEへ、といった具合だ。






 変装は完璧かもしれないが、言葉はどうするかって?


 実は魔族の扱う言語は俺たちとまったく同じものだ(希に違うパターンもあるがそれは魔族に限ったことではない)。言語統一を果たした人物は不明だが諸説ある、とにかくやったのは大昔の偉人だ。童話では勇者が世界を周りその歌声で言葉を広めたという、ああ、なんてカッコいいんだ。訛りなどもあるが、普通に話していれば誰も声だけで人と判断することはできない。



 俺は冒険者ギルドの受付嬢に登録の手続きを頼む。受付嬢は手馴れた手つきで契約書を用意する。俺は契約書に嘘を書く。種族も鼻長族って書いたし、得意なのは剣だが、魔法と書いた、使えないわけではないから大丈夫だ。俺が差し出した契約書を受付嬢がまじまじと見つめる、見誤ったか? まさかこの受付嬢は凄腕で俺の嘘を看破したというのか、ならば。


「本当に鼻長いんですね!」

「はっはっは! 自慢の鼻ですよ? 触りますか? なぁーんちゃって! はっはっは!」

「はっはっは!」


 セーフ。ただの人懐っこい魔族か。よし、これで冒険者ギルドと契約を交わして魔界の冒険者になれた、早速何か狩りに出かけるか。俺が掲示板を見に行こうとしたところで受付嬢が俺を呼び止めた。


「えーっと、オガサさん?」


 オガサとは契約書に書いた偽名だ。


「なんですか?」

「初心者にオススメのクエストがありますよ!」

「お、なんですかそれは?」

「これなのです!」


 受付嬢は引き出しから1枚の依頼書を取り出す。内容は驚くべきものだった。


「人狩りの依頼?」

「はい! この地域にも人間の隠れ里がいくつもあります! そこに潜んでいる人間を1人でもいいので狩るまたは捕獲するだけという簡単なクエストなのです!」

「いいね、けど俺にできるかな?」

「人は鋭利な爪もなければ鋭い牙もありません、簡単に殺せます! だからこそ初心者にオススメしているのです!」

「そっかぁ、俺の行く地域にもそのクエストはあるかな? ちょっと最初は決めた場所で活動したくてな」

「え、それは失礼しました。初心者なのにちゃんと考えているなんて将来有望ですよ」


 受付嬢はペコリと頭を下げる。


 ふぅ、人を狩るか。魔界じゃ人の扱いなんて奴隷以下だってのは知っていたが、こういうこともしているのか。俺は野良の魔物でも狩ってさっさとランクを上げてしまおう。













 半月後、俺はAランク冒険者になっていた。普通ならまだE、早い奴でCの序盤と言ったところか。なんせ俺はソロで野良魔物を討伐し続けていたからな。どうして1人なら昇格が早いのかだって? 例えばクエストに成功して昇格に必要なポイントを5ポイントもらったとする。5人パーティならそのポイントも5等分されるわけだが、ソロなら独り占めってわけだ。そしていま俺は冒険者ギルドの2階にあるVIPルームにいる。Sランクの依頼は2階の掲示板に貼られることになっているのだ。Aランクから2階に入ることができ、依頼を閲覧することもできる。俺は1枚の依頼書を取る。なぜAランクなのにSランクの依頼書を取るのかって?


 昇格試験代わりに特別な依頼があるのさ、これをこなせれば晴れてSランクの仲間入りってわけだ。


「あ、オガサさん、もうSランクのテストを受けるんですね」

「厳しい狩りになると思うが、必ずここに帰還してみせよう」


 受付嬢はパァっと笑顔になる、やはり女性の笑顔はどんな種族でもいいものなのだ。


「あ、一応義務なので確認させていただきますね。このクエストは死者多数の危険なクエストです。死亡された場合も自己責任となりますがよろしいですか?」

「もちろん」

「かしこまりました。いってらっしゃい。気をつけて」

「いってくる、土産でも持ってくるよ」


 とは言ったものの、ソロでSランクとなるとそれなりに時間がかかりそうだ。っと、依頼の確認だ。


 『針山ニードルマウンテンに現れた魔獣の討伐』か。魔獣、その名がつく生物はすべてSクラス以上の怪物だ。ちなみにSランククエストの内容は龍属、魔人、魔獣、魔物の討伐が殆どとなっている。人海戦術が通用するのはAランク止まりだ。ちなみに魔界の冒険者ギルドは人間も討伐対象なので、そこに聖騎士が加わったりするが、だいたいはそんな感じだ。そして魔獣と言われれば誰しもが思い当たる魔獣がいる。そう『魔獣』の名を冠する小型魔犬、魔獣チワワだ。仮にこの針山ニードルマウンテンにいるのが魔獣チワワだった場合、俺は確実に殺されるだろう。九大天王にはクラスなんて付けられないからな。もしつけるならトリプルSか? 強さの上限が判明していない連中ばかりだから憶測でしかないがな。



 さて、話を戻す。


 俺は依頼書をよく見る。場所は針山ニードルマウンテン針山ニードルマウンテンはその名の通り、木々の代わりに鋼の針が生えている異形の山だ。そして異常の起きている土地は魔力濃度が濃いと決まっている。魔界自体が魔力が不安定だ、そしてそういう異常な場所はより一層濃度が高くなっている可能性がある。


「魔力を喰らい更なる進化を目論んでいるのか」


 だとすると討伐は早いに越したことがない。怪鳥を従える魔物使いに頼んで現場まで乗せてもらうか。俺が支度をしようと宿屋に戻ると、そこには人集りができていた。みんな俺よりずっと先輩の魔族の冒険者たちだ。ランクは俺と同じAだが、ここではあいつらの方が一般的(ポピュラー)な冒険者だ。4、5人で結成されたパーティが6組、リーダーが一つのテーブルに集まっている。俺はカウンター席に座ってさりげなく話を聞くことにした。


 魔族の剣士が大きな声で話している。


針山ニードルマウンテンの魔獣は強い。針山ニードルマウンテンを監視していた監視塔が破壊されたって話だ」


 魔族の魔法使いが驚いた声を上げた。


「監視塔の監視員は魔王軍の兵士が担当していたはずだ。常駐している兵士の数は私たちと同じ30名ほどで、それぞれAランクはある魔物の兵士たちだぞ?」


 魔族の弓使いが肩を竦めた。


「つまりここにいる俺たちと同程度の戦力が屠られたってことになるな」


 魔族の盾使いが唸った。


「Sクラスに上がるのは先送りにするか?また別の依頼が来るのを待てばいいのではないか?」


 魔族の槍使いが机を叩いた。


「何を怖気付いている! 次の依頼も! その次の依頼も! この依頼と同レベルのものに違いない! ならば今やっても後でやっても同じではないか!」


 魔族の斧使いが腕を組んだ。


「んがー」



 なるほど、こいつらもあの依頼を受けているのか。

 Aランククエストをこなしている時に彼らとは何度か出くわしたことがあったが、そうか、こいつらと一緒になって行動すれば依頼もスムーズにこなせるかもしれない。よし。


「よ!」


 割って入ってきた俺に魔族の剣士が真っ先に反応した。


「お前はソロのオガサ」

「話は聞かせてもらったぞ」

「なんだ、お前もあのクエストを受けたのか?」

「ああ、魔王軍の兵士がやられたとあっちゃ、参加せざるを得ないだろう」

「ほう、やはりお前は志が高いな」

「どうも、で、俺もこのクエストを受けたんだが、さすがにソロじゃ時間がかかる」

「……時間をかければこなせるような言い方だな」

「事実を言ったまでだ。だがその時間が惜しい。だからあんたたちも協力してくれないか?」


 リーダーたちは互いに顔を見合わせる。そして、


「もちろん協力しよう。オガサが来てくれれば心強い」

「よし、そこに座らせてもらうぞ」


 会議は順調に進んだ。



 2日後、俺たちは針山ニードルマウンテンに向けて出立した。彼らが使う馬車に乗せてもらったから数日で目的地に着くだろう。


 馬車の中は意外と広い、人間用じゃないからな、あの斧使いの魔族は背丈が3メートルくらいあるし、人数が人数だ。


 大型馬車は6台(それぞれのパーティに分けられている)。装備もいま選べる最高のものを持ってきたらしい。この物資の量、一体何日かけるつもりなのだ?ふと、俺は布のかけられた四角い何かに目がいった。あれは最初から積まれていたものだな。


「おい、あれはなんだ?」


 俺の質問に冒険者の下っ端(それでもAクラス)が答えた。


「人間だよ」


 そう言うと下っ端はかけてあった布をとる。簡素な四角い檻だ。入っているのは人間の子供。


「こいつをどうするんだ?」

「ソロだとこれ知らないのか、奴隷だよ雑用させたりするんだ」

「なるほどな」

「他にも用途があるんだ」

「ほぅ、どんなことに使うんだ?」

「非常食だったり、逃げる時の囮に使ったりする。今回は魔獣を誘い出すための餌だな」


 魔獣は人間の悲鳴に敏感だ、針山ニードルマウンテンであの子供を痛めつけて悲鳴をあげさせれば魔獣が現れる可能性は高い。自分たちの有利な場所に魔獣をおびき寄せようって作戦か。


「特に人間の女子供は魔獣の大好物だ。若いのは高かったがこのクエストにはそれだけの価値があるってことだ」

「そうかい」


 俺は檻に顔を近づける。普通の人間の女の子だ、薄汚れているし、痩せこけて、目も暗いものだが、確かに人間だ。


「お前は大事な魔獣をおびき寄せるための餌だ。それまでこの檻の中で大人しくしているんだな」


 俺の言葉を受けても少女は微動だにしない。すべてに絶望しているんだ。


「ハハッ、オガサも言うねぇ」

「だろ? はっはっは!」


 よし決めたこいつらぶっ殺そう。








 クエスト受注から1週間後、俺は針山ニードルマウンテンにいた。キャンプ地点は山の麓に構えることにした。冒険者たちは、いきなりあの子を使うことはなく、魔族の弓使いがリーダーのクランが偵察に向かった。残りのは魔獣を討伐するためのトラップを仕掛ける。


 その夜、偵察から帰ってきた弓使いのパーティがテント内に集まった各リーダーたちに報告をする。


「痕跡も見つけられなかった」


 下手な仕事をしたわけではないだろう、Aクラスの冒険者はエキスパートと言っても差し支えないからな。それも弓使いのパーティは魔物の痕跡を探すことに長けている。その連中が半日探しても見つけられなかったってことは、この当たりには魔獣はいないってことだろう。もしくは魔獣が隠蔽技術の高い個体だと仮定することもできる、それも踏まえて周囲に気を配ることにしよう。


 とりあえず俺は提案した。


「夜の見張りを増やした方がいいな」


 各リーダーが頷く。狩る側が狩られる側になるのは一瞬のことなのだ。報告会はなんの成果もなく終わり、明日に向けて休むことにした。明日にはあの少女は使われるだろう。ならばどうする? この人数を相手にやるか? 俺ならできるが、そのあと彼女を無傷で魔獣から守りきれるだろうか。俺は馬車の貨物車に入る。奴隷と言われた少女は虚ろな目をしている。俺が入ってきても無視してどこかを見つめている。


「よ! 気分はどうだ!」

「……」


 話すわけがないか、絶望が何重にも彼女を覆っている。


「感情など枯れ果てたか」


 俺の声の変化に少女は身震いする、怯えた目で俺を見つめる。


「人生のどん底にいるような顔をしているが、そこはまだ底ではない、なぜならば俺がいるからだ」


 少女は目に見えて困惑している。


「まぁ、だからその刃物の出番はないってことだ」

「ッ!?」


 少女は目を大きく開く、そう彼女の口の中には小さな刃物が入っているのだ。


「どうしてわかるの? かって? 俺は特異体質なんだ、詳しくは言えないけどな」

「ど、して」

「驚いたな、魔界の人間も言葉が話せるのか。って当たり前だよな、すまんすまん人類を代表して謝るよ」



 少女の顔はさっきまでの絶望を塗りたくったようなものではなくなった。だがまだ少し警戒と焦りが混ざっている。


「助けてやる」

「う、そだ」

「本当だ、お前が信じていても信じてなくても俺はお前を助けるぞ」

「な、んで」





「俺は童話の勇者に憧れてるんだ」




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