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第43話 誓いの証

挿絵(By みてみん)


 1週間後、魔王城、玉座の間。



「星の魔力を得たビルディー様は再び建設期に入り、チョウホウ街を一つの超巨大建築物にしてしまいました」


 アリス様の報告が終わる。魔王が目を開ける。


「残ったディザスターの安否は分からぬが、やつならば大丈夫だろう」

「拙者の英断でござるな」


 ブラギリオンは勝手に納得して頷いている。


「魔王様、申し訳こざいません。ギアに戦場を経験させよとのご命令。達成できませんでした」


 アリスは深々と頭を下げる、冷や汗をかいたその顔は青ざめている。魔王は「よい」とだけ言うと、俺を見る。


「ギアよ、何にしても見たものが戦場だ。どうだった?」


 この部屋にいる全員が俺に視線を向ける。今回の仕事の善し悪しは俺の返答次第だ。


「俺は浅はかだった」

「ほう、それはどういう意味だ?」


 魔王は興味があるのか、少し身を乗り出す。


「俺のやってきたことなんざ、お遊戯だったってことだ」

「ふむ、我はそうは思わぬがな。どうした? ブラギリオンらの戦いを見て焦りを感じたのか?」

「その通りだ。今の俺じゃ、あの場にいた誰にも勝てねぇ」

「そうかもしれぬが、これはギアだけの戦いではないのだぞ? ギアにショックを与えたのはギアの仲間でもあるのだ」

「それじゃダメなんだよ」


 その発言にアリス様が殺意をむき出しにした。


「魔王様の意見に口答えするつもりかしら?」

「間違ったことを言った時は訂正してやるのが本当の愛だろうが」

「本当の愛……」


 アリス様は口ごもる、水を差しやがって。


「我が間違っていると?」

「間違ってる、認識があめぇ。俺単騎でも勇者を殺せるようにならねぇと勝てねぇ。王国最強は間違いなく勇者なんだからな」


 絶者が勇者を殺す者なら、勇者は魔王を殺す者だ。つまり俺は最強にならねぇといけねぇ。それなのに俺は魔王どころか、その部下の九大天王や、老いぼれにすら勝てやしねぇ。


「分かった。ではどうするのだ? 事実は受け止めねばならぬぞ」

「今の俺にできること、それは」

「それは?」




「仕事だ」




 魔王への報告が終わってすぐに、俺は絶望タワーの根元にあるプレハブ小屋へ向かった。


「レイ、レイはいるか」

「はい! ここにいます!」


 レイは俺の席で優雅にスイーツタイムをキメていた。


「早いお帰りですね、もっと時間のかかるものかと思っていました」

「何があったかはこの報告書を見ろ、レイもここでの状況報告をしろ」

「はい、こんなこともあろうかと私も報告書は毎日作成してました」


 俺とレイは互いの報告書に目を通す。俺がいる時と同程度の仕事をこなしている。


「上手く分担したようだな」

「はい! そりゃもう大変でしたよ。それで分かったんですけどギアは働きすぎです」

「誰よりも働かないで何が上司だ」

「はぁ……」

「なんだそのため息は」

「そっちも大変だったみたいですね。聖騎士大隊長のロイさんに凄腕魔法使いのルフレオさん、すごい面々です」

「ああ、やつらは強いな」

「無傷で帰ってこれたのは九大天王の方々のお陰として、いい経験になりました?」

「なった。それでだな今までのやり方を一新することにした」

「え」

「今までのは甘かった、仕事を増やす」

「ええ? ええええ!? 頭沸いてんじゃないですか!」

「熱されてねぇのに沸くわけねぇだろうが」

「本気……ギアは冗談なんて言わないですよね。仕事を増やすんですね」

「おう」

「死にますよ、沢山」

「承知の上だ」


 俺は計画書を広げ、ある一点を指さす。


「これを作る」

「これは……名前はなんていうんですか?」



「キラーキラーだ」



「キラーキラーですか、いまギアが使っている機体はキラーですよね」

「ああ、いま使ってるキラーの最新型だからキラーキラーってんだとよ」

「それならキラー2の方がいいんじゃないですか?」

「俺もそうしたかったんだが、ポラニアがどうしてもって言うんでな、仕方ねぇ、まぁ名前なんてどうでもいい」

「これ強いんですか?」

「強いはずだ、レイも協力するんだからな」

「え、私もですか?」

「これからキラーキラーに仕込もうとしているギミックには呪いやら魔法陣やらのノウハウが必要不可欠だ」

「私の知識が人殺しに使われちゃうんですね」

「嫌か?」

「嫌ですよ」

「だがやれ」

「やりますよ、やるしかないんですから。でも完成しても私のいない所で使ってほしいです」

「時と場合による」

「ねぇギア」

「なんだ」

「本当に全てが終わったら姉さんのところに返してくれますか?」

「当たり前だろうが、仕事には報酬が付き物だ。報酬無き仕事は無責任な趣味だ」

「でも私って洗脳されているじゃないですか。全てが終わったらやっぱり奴隷でいろって言うんじゃないかなって」

「なんだ俺の仕事が信じられねぇのか?」

「いえ、ギアは仕事にだけは忠実ですから、きっと報酬として私を返してくれるんだろうなとは思ってるんです、けど、こう……人殺しに加担するとなると、怖くて」

「ちぃ、なら先払いとして洗脳を解いてやろうか?」

「え、本当ですか!?」

「ああ、パロムに頼んで解かせる」

「お願いします!」

「それはダメだよ」



「え、あ、や……」


 レイはへたり込んで頭を抱える。プレハブ小屋に入ってきたのはパロムだ。


「パロム」

「いやぁ、久しぶりだねギア。調子はどうかな?」

「何しに来た」

「随分な挨拶だね。たまたま通りかかったから挨拶にと寄っただけだよ?」


 たまたまパロムの話をしている時に、都合よく会いに来るか? それも数年ぶりに、まぁこっちとしても都合がいい。


「丁度いいところに来たな、レイの洗脳を解け」

「普通に断るよ」

「ここから逃げられるわけねぇんだから構わねぇだろ」

「ギアとレイは洗脳関係以外に契約関係でもあるんだったね」

「ああ」

「けどさ、それって何の制約もない、言っちゃえば口約束だよね、洗脳下にあるうちはレイは奴隷だ、生殺与奪の件はボクたちが握っているんだよ」

「そうだったな」


 俺は視線を落としてレイを見る。身を縮め頭を抱えて震えている。俺が視線を向けるとビクッと体を震わせて涙を流して俺を見つめる。その顔には絶望が張り付いている。俺がレイの願いを叶える理由がないからな。だがな、違うんだよ。



「バカが」

「え?」

「パロム、お前は最高の仕事がなんだか知ってるか?」

「最高の仕事? うーん、人によって定義が変わる話をされてもボクは困るな」

「いいから答えろよ」

「そうだね、雇い主の想像以上のものを提供した時かな」

「そういうのもあるな」

「そういうのも? じゃあギアにとって最高の仕事ってなに?」

「決まってんだろ。俺が満足できるかだ」

「それはただの自己満足じゃ?」

「リスクを負い、達成し、報酬を受け取る。人にしかできねぇ、文化の極みなんだよ仕事ってのはよ」

「君も狂ってるね」

「不本意ながらよく言われる。だからだ、レイに仕事を任せた以上、達成して、報酬を受け取ってもらわねぇとならねぇんだ」

「じゃあ、そのリスクってのがいま来ているんだよ」

「そのリスクはリスクでも何でもねぇ、俺の『仕事』に支障が出る以上好きにはさせねぇ」

「平行線だね」


 「でも、ま」っとパロムは腕を広げる。


「なんと言われても洗脳は解かないよ」

「どうしてもか? 条件も出せねぇくらいにか?」

「そうだね、今のところボクが欲しいものをギアは持っていないね」

「そうかよ、じゃあとっとと消えやがれ」

「しょっぱい対応だなぁ、ポラニアとは仲良くしているのに、なんでボクの事はそう邪険にするのかな」

「してねぇし、邪魔な時はポラニアだろうと出ていかせてるぞ」

「はいはい、じゃあキラーキラーの製造頑張ってね。困ったらボクが力になるから、それだけは忘れないでね」


行ったか。


「おい、いつまで伏せてるつもりだ」

「い、いいんですか?」

「何がだ?」

「パロムと仲良くしなくて」

「仲良くしてるぞ?」

「どう見ても対立しているようにしか見えませんでしたけど」

「それはレイの視野が狭いからだ」

「そりゃあ片目ですから、視界も半分ですよ」

「そういうことを言ってんじゃねぇ、分かってんだろ?」

「分かりません、2人とも恐ろしいとしか思えません」

「悪かったな」

「え? なんで?」

「洗脳を解けなかったからだ」


 あいつの欲しいものってなんだ、俺にはねぇだと。金か? いや、それなら余ったレアメタルがある、それでも足らねぇほどの金か。もしくは地位、つってもこれ以上ねぇくらいにパロムは地位を築いているはずだ、クーデターでも起こして魔王の座を奪おうってんなら話は別だがな。


「無理だと思ってました」

「あん?」

「私の洗脳を解くなんて、パロムが許すはずがないんです」

「どうしてだ?」

「私は知りすぎてしまいました、洗脳が解ければ話してしまうかもしれないって普通は思いませんか?」

「口封じに殺されなかっただろ?」

「まだ利用価値がある……いえ、私の知ってることは全てパロムに話してしまったので、価値すらありません。だからたぶん、あれです」

「あれってなんだ」

「いたぶりたいんですよ、私を。私をいたぶってる時のパロムは心底楽しそうでした」

「ふうん」

「ギア、お願いしていいですか?」

「何をだ?」

「ちょっと気分が悪いので、洗脳でトラウマを消してほしいんです」


 なるほど、そういう使い方もあるのか。って前にも洗脳して魔物どもを働かせたことがあったな。


「分かった」

「ありがとうございます」


 俺はレイの頭に手を当てて洗脳の設定をし直す。



 別にレイは悪くねぇ、ただ悪に抗う力がなかっただけだ。奴隷にされて仕事を与えてもらってるんだから、待遇は悪くねぇはずだ、逆に捕まる前よりも有意義なはずなんだが、まぁ、しようがねぇな。設定を終えてプレハブ小屋から出る。レイが追いかけてくる。


「どこに行くんですか?」

「パロムんとこに行ってくる」

「え? どうして?」

「確約させるんだよ。あれだけで諦めるのも半端な仕事だしな。パロム、今から行くからそこで待ってろよ」


 欲しいもんがねぇなら、用意すればいい。仕事と一緒だ、営業トークだ。



 魔王城内部、パロムのラボ前。


「おい、いるんだろ、さっさと開けやがれ」


 堅牢そうな扉はうんともすんとも言いやがらねぇ。仕方ねぇ、ぶん殴るか。


「お」


 俺が腕を構えたタイミングで扉が開く、出迎えるやつはいねぇ、勝手に入れってことか。しばらく通路を歩く、3回扉を超えた先に広い空間が広がっていた。壁も床も鼠色のレンガで覆われている、その辛気臭い空間にパロムはいた。



「やーさっきぶり、さっそく困ったのかな?」

「白々しいやつだ、レイから情報は筒抜けなんだろ?」

「あはは、そうだね。じゃあ本題に入ろうか」

「パロムの欲しいものってのはなんだ?」

「くすくす、それでレイの洗脳を解けって?」

「別に今すぐじゃねぇ、勇者を殺せた暁に、でもいい。それを確約させねぇとよ、雇ってる側が報酬を用意できてねぇってことになる」

「もしボクがそれをのむとしても、口約束じゃなくて、正式に署名やらなんやらして欲しいわけだね」

「そうだ」

「それで? ギアが僕の欲しいものを先にくれるの?」

「ああ」

「そっか、ちょっと待ってね」


 パロムはそう言うと翼を鳴らす。一瞬にしてパロムの横にグラップが現れる。


「兄さん、ちょっといいかな」


 なにやらパロムはグラップに耳打ちしている。てか弟にこき使われてねぇか?


「わかった、見てこよう」

「お願いね。さてギア」

「なんだ?」

「ボクって偉いじゃない?」


 なんの話だ?


「そうだな、九大天王より偉いのは魔王くらいのもんだろ」

「そう、僕は偉く賢い、だから権力もあるし、貴族たちとの太いパイプもある。顔が広いんだ。そしてそれに比例して財力もある」

「欲しいものは手に入るってことか?」

「殆どはなんとかなる、多少乱暴な実験体の確保、禁忌とされた魔法の研究、外道の極みをやり尽くしたと言ってもいい」

「ならなんだ?」

「決まっているじゃない、権力者は娯楽を楽しむものさ」

「娯楽ねぇ」


 そんなのに興じてる暇があるなら少しでも仕事を進めるのが普通だろうが(言わねぇけど)。


「ボクが好きなの絶望だよ」


 俺は周りを見る、周囲には拷問器具がいくつも置かれている。


「レイをなぶったりとかそういうのか?」

「そうそう、レイのリアクションは新鮮そのものさ。お気に入りと言ったろ?」

「そりゃ、大事なコレクションを借りちまって悪いことをしたな」

「そうだよ、あまつさえ解放しようとしているんだから盗人猛々しいとはまさにこの事だよ」

「盗んではねぇだろ」

「じゃあ、借りパク猛々しいに訂正しよう」

「それならいい」


 そうか、レイの自業自得じゃねぇか、もっと拷問に耐えてりゃ、楽になれただろうによ。


「まぁ、彼女はボクに気に入られたお陰で今もああして生きてるんだけどね」

「んぁ?」

「ボクって玩具をよく壊すんだ。でもそれって玩具も沢山遊んでもらって玩具冥利に尽きるってことだよね」

「ああ、そうだな」


 なるほどな、そういうわけか。


「そうか、欲しいものが分かった」

「本当かい?」

「おう、俺をなぶっていいぞ」

「じゅるり……」


 パロムの顔が歪に歪む。涎を垂らしているがお構いなしで俺を睨めつけている。


「……それは本当かい?」

「ああ、心いくまで、って言っても時間が惜しいからよ、そこまで時間かかるのはNGだな」

「うんうん、構わないよ! ……そうだねこうしよう! 絶者本人が望んで僕に拷問させたってことにしよう、それなら精神が壊れちゃっても、魔王様もボクを殺しはしないだろう!」


 というわけで楽しい拷問タイムだ。


「つってもよ、一つ問題があんだよな」

「なに?」

「俺には痛覚がねぇ」


 俺は肌がねぇから触覚もねぇし、舌もねぇから味覚もねぇ、鼻がないから嗅覚もねぇ。


 あるのはこの目の視覚と、耳がないのに何故か聞こえる聴覚だけだ。


「それならなんとでもなるよ」

「どうやってだ?」

「君はキラーを操作する時どうしてる?」

「(また回りくどい言い方を)そりゃあ、魔力を根っこみてぇにしてキラーの内部に張り巡らせてる」

「そうだね、それってなにかに似てない?」

「あん? だから根っこだろ」

「神経さ」

「言われてみりゃ確かにな」

「そこまでできればあとは簡単だよ。それは今は筋肉の役割を果たしているけど、それに加えて神経の役割も与えてあげるんだ」

「どうやんだ? 言っとくが俺は天才でも何でもねぇぞ」

「本当に簡単だよ。試しに君のいう魔力の根っこを手の先から出してみて」

「おう」


 俺が念じると手のひらから魔力の根っこが生えてくる。


「これをね」


 パロムが指先でそれを摘んでこねくり回す。


「お?」


 言われてみりゃ、なんだ? 僅かだが感触がある。


「今は僕の魔力も使っているよ。慣れれば1人でも人並みの感覚を得られるようになる、ほら」


 パロムは魔力の根っこの先を引きちぎる。お、


「痛いかい?」

「痛いな、蚊に刺された程度だがな」

「ね、これを使えば君を拷問することができるようになる」

「これはなんて技だ?」

「感知魔法の一種だね。呪文も必要ないくらいの初歩的な魔力操作だよ」

「ふーん、じゃあこれで俺を拷問できるな」

「そうだね、数時間レクチャーすれば人並みの感覚を得られるようになるよ、じゅるり……」





 半日後。



「さ、これが最後だよ、やってみて」

「おう」


 俺は目を瞑ったままテーブルの上に置かれている物を両手で触る。撫でたり割いたりする。


「パン」


 俺が目を開けると目の前には引き裂かれたパンがある。


「正解! これでギアは感知魔法の初級を会得したね」

「そうか、ならさっさと始めろ」

「そうだったね」


 パロムは白々しい反応をする。



「じゃあ、地下に来てもらおうか」













































 3日後、プレハブ小屋。


 俺は扉を開ける。俺の机に突っ伏しているレイが勢いよく顔を上げる、その顔は三徹した面だな。


 俺に焦点を合わせると、か細い声で呟いた。


「ギア……?」

「おう、ほらこれ」

「え?」


 俺は机の上に1枚の紙を置く。


 レイはボッーした顔でそれを眺める。そして目を見開く。


「これは契約書!?」

「ああ、パロムに俺たちの仕事が終わったらレイの洗脳を解くように約束を取り付けた、あと虫も取るように言ってある」


 紙を持つレイの手が震えている。


「この印の代わりに書いてある魔法陣は誓の証。契約を反故にすればその者の命をとる呪いの魔法陣じゃないですか!?」

「やっぱ呪いを熟知しているダークエルフなら見ただけで分かるか」

「パロムにこの契約書を書かせたんですか?」

「ああ、書くところを俺が見ていたから間違いねぇ」

「あのパロムが……どうやって?」

「遊びに付き合っただけだ」

「嘘です! そんなのではぐらかさないで下さい」

「チッ、レイたちにしたことをやったと言っていたな」

「あ、あれを……? 3日間も……」

「あ? あの拷問は1日で終わったぞ、効果がないとか言ってたな、残り2日は違う拷問を受けた。それもよく分からなかったけどよ」

「ああ……あぁ……」


 レイは膝から崩れ落ちる。契約書を抱きしめて涙を流している。


「うわああああああああああん」

「うるせぇな、それ濡らすなよ」

「うえぇ……ずびっ、ギア、ひぐっ!! ギアぁ!」

「なんだよ、ああ、いますぐ洗脳解くのは無理だった、でもまぁ勇者は殺すから時間の問題だ」

「そんな……ことじゃない……」

「だったらなんだ?」

「あの拷問を受け切るなんて常人じゃ不可能です……」

「レイも平気だったろ」

「私は耐えられませんでした……絶対無理です……」


 そうか?


「ありがとうございます……ッ!!」

「わかったわかった、早く泣きやめ仕事に支障が出るだろうが」

「この恩は一生忘れません……」

「いちいちオーバーリアクションだな、もう今日は寝てろ、そんな目にクマためてるやつにいい仕事ができるとは思えねぇ」


 目を赤く晴らしたレイを残して俺はプレハブ小屋からでる。3日も無駄にしちまった、当初では1日の予定がパロムが帰してくれなかったからな。


 さて、キラーキラーの製造だ。大仕事が始まる。
















 俺が転生してから10年が経過した。



 キラーキラー製造開始から約5年。



「……」

「ギア、これで最後ポメ」

「ああ」


 俺は自分の後頭部に刺してある本体の歯車を引き抜く。


 魔力生成した魔力の根っこが俺とキラーを繋いでいるため、俺を引き抜いてもいきなり崩れ落ちたりはしたねぇ。俺は薄暗い中、目の前にはある凹みに俺の本体(はぐるま)をはめる。キラーとの接続を切り離す。キラーはポラニアが操作を引き継ぎ壁際まで歩かせる。


 俺は魔力の根っこをはまったばかりの機体に張り巡らせていく。根を下ろした俺は目を光らせる。機体の全貌が明らかになる。


「おお」


 現れたのは巨大な機械兵。4本の腕に4本の足。それぞれ付け根に魔力磁石が取り付けられていて、球状のボディを滑るように360度、好き勝手に動かすことができる。俺は手足を動かす。問題ねぇな(4本の腕や足を同時に操作できるのは、この5年間で死ぬほど訓練したからだ)。


「ちゃんと動いてるな」

「キラーキラー1号機、完成ポメ」

「よし、色々試してみるか」


 俺がそう言うとポラニアが壁にあるレバーを引く。歯車の音がする、床が上昇していく、工場の屋上に出る。


「いま的を用意するポメ」


 ポラニアがキラーとは別のプロポを操作する。すると城壁に張り付いていたドローンが空高く飛翔する。


 俺は目に内蔵された魔法陣に魔力を通す。発動する魔法はレーザー光線だ。ちなみに呪文はいらない。キラーキラーの内部には呪文の代わりとなる魔力回路が幾重にも張り巡らされている。


 真上を飛ぶドローン目掛けて放ったレーザー光線はドローンのみならず灰色の雲をも引き裂いた。


「相変わらず申し分ない威力だ」

「ギアの魔力を使っているから余計ポメ。それでも内包された魔道エンジンから生成させる魔力だけでも十分な威力を発揮することができるポメけどね。次はあれをやってほしいポメ」


 あれか、俺が現代のロボットの技を淡々と言っていったらやたら食いついたやつがあったな。


 俺は腕を真上に上げる。


「ロケットパンチ」


 キラーキラーの4本の腕がボディから外れて勢いよく空に放たれる。ミサイルのような速度だが、腕に組み込まれた魔法陣によってここからでも魔力を使って操作できる。


「これはロマンポメ……素晴らしいアイディアだポメ」


考えたのは俺じゃねぇけどな、さて1号機は俺専用の機体にするとして。


「こいつを量産するぞ」

「了解ポメ、生産ラインは確保済みポメ、また沢山の魔物が過労死するポメね」









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