第4話 ファイヤーバーガー
「青猪?!」
「違う! あいつは紫猪だ!」
アイナが紫猪を知らないのも無理はない、紫猪は深い森にすらいないのだから。本来の生息地は王国で立ち入りを制限している毒の森だ。
当時、転生1年生の俺にルフレオは知る限りの魔物の知識を教えてくれた、その中に該当する魔物がいる、それが紫猪だ。青猪の上位互換で青猪が薬草系の草を主食にしているのに対し紫猪は毒草を主食にしている。つまり。
「バーガー様、安心してください、毒矢はまだまだ残っています!」
アイナは素早い手つきで矢をつがえ俺に聞かずに射る。それだけ紫猪から放たれるプレッシャーが凄まじかったのだ。しかしそれは愚策と言わざるを得ない。
「待て! そいつには」
紫猪の眉間に矢が刺さる、分厚い頭蓋骨に阻まれ致命傷にはならないが毒は回る、が倒れない。
「毒が効かないんだ!」
「えっ!? きゃっ!!」
お返しと言わんばかりに紫猪は毒煙を広範囲に撒き散らす、アイナと俺は瞬く間に毒煙に巻かれてしまった、煙を吸い込んでしまったアイナが激しく咳き込む。
「ゲホッゲホッ! ······バーガー様······カフッ! ······ご無事ですかッ! ……ゴボッ!」
「俺は大丈夫だ! いま解毒してやる!」
毒煙を目隠しに使い、俺たちは紫猪の死角になる木の後ろに避難する。即座にバンズに挟んである解毒草を使い魔法を発動させる。
「『解毒』」
咳が止まると俺を抱きかかえた、心臓の音が聞こえるほどに強く胸に押し付けられる、みゃ、脈が早い、心臓のリズムに合わせてバンズが揺れる、ぐぬぬ、バンズの俺より柔らかいとはけしからん!
アイナはいま恐怖している、無理もない彼女も年相応の少女なのだ。どれだけの勇気があろうとそれは変わらない魂の経験値の差はそう埋まるもんじゃない。
そして俺は年相応の三十路、いやこっちでさらに10年経過してるから精神的には四十路か……そう年相応の四十路童貞だ。このていどのラッキースケベでは俺のバンズは冷静さを欠いたりしない。今の俺は心頭滅却、冷凍バーガーだ!
「ひ、治癒もかけておこうか?」
「ありがとうございます、でもそれは温存しておいてください!」
「戦闘中に礼はいらない、プレイに集中するんだ」
「はい! でも毒矢が効かないとなると······」
不安そうなアイナに落ち着くように促しつつ俺は思考を巡らせる。今までの不可解な点は紫猪の存在によって説明がつく。まず村を襲った青猪の大軍をけしかけたのは紫猪だ、上位の魔物になると下位の魔物を統率し使役することがある、思えば草原にいた1頭の青猪は偵察役だったのかもしれない、そして上薬草が無傷な状態で揃っているのは紫猪の罠だ青猪をけしかければ、村人が怪我をする、そうなれば薬草不足になる。人間を狩るために上薬草が必要な状況を作ったんだ、って、さすがにそこまで考えているかは分からないが知恵の回る奴だというのは確かだ。現にあの巨体の不意打ちを許している。
毒煙が晴れて、俺たちがいない事に気づいた紫猪は怒りの咆哮をあげる。鼻のきく魔物だ、見つかるのも時間の問題だ、だが俺には秘策がある。
「ふん、子分たちも返り討ちにあい、あまつさえ勇者が来たぞ。どうする? 紫猪」
「あのバーガー様? ピンチなの私たちのほうだと思います!」
「アイナ!」
「な、なんですか!?」
「横を見てみろ、あ、木から頭を出すんじゃないぞ」
「はい! えっと……あれは!」
アイナが見るは特徴的なオレンジ色をした分厚い葉っぱだ。
「火炎草!」
毒煙から逃げる時に発見した火炎草は、加工すれば炎属性付加の原材料になる。そしてそれ以外にも火炎草を生で齧れば即席で炎を吐き出すこともできる可燃性植物だ。火炎草に全ての希望を託す。今こそファイヤーバーガーになる時が来たのだ。
「手短に作戦を説明する」
「はい!」
「一か八かになるが紫猪を倒すには火炎草をぶっつけ本番で試すしかない」
「はい! では取ってきます!」
「うん最後まで聞いてね。もちろん紫猪は採取を邪魔してくるだろう。そこでアイナには一番危険な役割である囮を頼みたい、俺なら見つからずに採取できるからな」
「わかりました! 命に変えても時間を稼いでみせます!」
「ダメだ、命に変えるな、命大事にだ。ヤバくなったら逃げろ、いいか猪から逃げる時はジグザグにだな」
「逃げません、バーガー様を置いて逃げることなんて絶対に嫌です」
なんやこの真っ直ぐな目は惚れてまうやろ······、しかしこれで失敗=アイナの死になってしまった、我ながら嫌なフラグを立ててしまったもんだ。
「俺が先に行く、少ししたらアイナは反対側から出てきてくれ。毒煙に気をつけるんだぞ、もう解毒できないからな」
「はい!」
俺は右側から出る。茂みの方が長いため隠密行動できる。跳ねずに這うさながら鍛え抜かれた軍人の匍匐前進、否、バンズ前進だ。
上のバンズ(クラウン)の部分だけを180度回転させる。後方確認をしたのはアイナの様子を見るためだ。ちょうど木の影からアイナが出るところだ。紫猪も距離を詰めてきていたので頃合だろう。
アイナは紫猪に睨まれても臆することなく立っている、さっきの様子と打って変わって肝が据わるっている、希望こそが人に勇気を与えるのだ。その間も俺はバンズ前進で着々と火炎草に近づいている、もし気づかれて突進でもされたらこの体ではひとたまりもない。
紫猪はその巨体を揺らし、ゆったりとした動きでアイナに近づいている。どうして毒が効いていないのか気になっているのかもしれない。鼻をひくつかせて匂いを嗅いでいる。確かにアイナからはいい匂いがするってその話はいい。アイナは毒矢ではなく普通の矢をつがえて構える、両者の距離が10m程まで縮むころアイナが先手をとった。アイナの指から離れた矢は弦に押され爆発的な加速を見せる。そして見事、紫猪の右目に命中した。
紫猪の絶叫が響き渡る、大地を揺らす雄叫びだ、マズい次に来る感情は怒りだ!だがアイナはその場にて次の矢を構えている、左目も狙おうというのか、しかしそれは危険だ紫猪も弓矢の脅威を知った以上は容易にやらせてはくれない。
「奴の右側に回れ! 死角に回り込むんだ!」
やむを得ず俺は声を張る。アイナはハッとして弓に矢をつがえたままの状態で腕を下ろし紫猪の右側に回り込む紫猪は俺の方を見ている。
怒りよりも周りの状況を確認することを優先するとはな、初撃で突進ではなく毒煙を使う奴だ、侮れん。俺は目の前にある火炎草を口でちぎって挟む、解析を開始する、脳内に女神の声が響く『火炎草より火炎の吐息を検出、1回使用可能』。
おおおお! きたきたついにきたァ! 吐息系の魔法だ! ファイヤーボールではなくファイヤーブレス! マ〇オじゃなくてク〇パだ!
毒は俺の前方から放たれた、ならば今回も前方から発動すると考えよう、茂みから跳ね出て紫猪の眼前にその姿を晒す。
「挨拶はなしだ! 上手に焼けろ! 『火炎の吐息』」
バンズから放たれたのは灼熱の業火。成功だ、ちゃんと前方から放たれている、威力も想定していたものより遥かに強い、アイナを巻き込まないように位置取りにも気をつけた、完璧に決まった。へっ、どうだ女神、脳汁出てるか? 俺は火が出てるぜ。
火炎は瞬く間に紫猪を包み込む、悲鳴をあげて暴れ狂う、その鋭利な牙の矛先は俺を狙っている。
「バーガー様!!」
跳ねてかわそうとしたところを紫猪の執念の牙に貫かれた、下から上への突き抜けるような衝撃が走る、魂を繋ぎとめる魔法陣が欠損し意識が飛びそうになる、だがまだ女神のところに行くわけにはいかない。こいつを殺してからじゃないと安心してアイナを置いていけないじゃないか!
俺はモゾモゾと動き牙から抜け落ちると全速力で後ろに下がる。なぜカッコつけたのに下がるのかって? 上薬草といい毒草といい、どうやらこの森の植物は群生して······育つようだ。
それにしても脳みそがないのは良いことだ······死ぬその時まで思考を続けることができるのだからな……。
あった······俺はもう1枚の火炎草を見つける、すぐさま齧り付いた、徐々にバンズから魂が剥がれていくのがわかる。俺の魂が力ずくでバンズにしがみついている……早く魔法を······発動させなければ。
紫猪は燃えながらも木々を薙ぎ倒して俺を追い詰める。
「······こんな小さい奴に一杯食わされたのが悔しかったよう……だな······賢いお前なら気づくと思ったが······少々買いかぶりすぎだったようだ、な」
「ブオ!?」
紫猪が膝をついた、右前足の関節部分にこれでもかと矢が刺さっている、毒矢も通常矢も関係なしだ、俺に気を取られ、アイナをフリーにするとはな。
アイナが涙を堪えて弓を構えている。······女の子を泣かせるとは······俺も罪な男になったもんだ……ぜ。
アイナが紫猪を跪かせてくれたお陰で顔が近づく、至近距離でも耐えられるかい?
「『火炎の吐息』」
頭部を吹き飛ばしたのを確認してから······俺はゆっくりとその目を閉じた······。
視界に広がるは一面の白。俺はジャンクフードではなく人間の姿に戻っている、うむ霊体だ。そこまでは予想していたので俺は慌てもせず、辺りを見渡して女神を探す。
「ぷははははっ! まてまてー!」
「な······」
VRゴーグルを付けた女神が口元をだらしなく歪ませて俺の方ににじり寄ってきた、抱きついてくる。
「捕まえたぞ! ぷふふー! 可愛いやつじゃなぁ、ほれすりすりじゃ! む? 硬い、なんじゃこれ?」
「なぁおい」
「うぉっふぁ!?」
女神は慌ててVRゴーグルを外し、驚愕の表情で俺を見上げる、慌てて俺に絡ませていたイヤラシイ腕を解き、数歩下がって咳払いする。
「こ、こほん、なんじゃ来ておったのか! いやぁよく来たのぉ! ほれ座布団じゃ、特別に座ることを許してやろう! 嬉しかろー!?」
女神が指を鳴らすと、俺の前に座布団が落ちてきた。俺はそれに目もくれずに問い詰める。
「いや、あの、今プレイしてたのって、VR〇ノジョ」
「いやぁ! お腹減ったのぉ! なにか食べるぅ? 甘いものは好きかぁ? 仕方ないがないなぁ特別じゃぞぉ!」
女神が指を鳴らすと、今度はちゃぶ台と一緒に、土鍋に入った超特大パフェが落ちてきた。話をはぐらかされたがにしてもなんて量だ。俺の胃袋は宇宙かよ。
あ、うん、これ以上はやめておこう、スルーしよう、女神が涙目だ。なんか可哀想になってきたので俺は座布団に座りパフェを貪ることにした、霊体で栄養摂取とか意味あるのか? うむ、味はするが······。
「ぱくっ! なんじゃこれ! なんじゃこれ! 甘いのぉ! 美味しいのぉ!」
女神も食うのかよ······。女神に8割方食われ完食した俺は話を戻すことにした、元から脱線していたがな。
紫猪は二発目の火炎の吐息で仕留めたと思うし、アイナもいて上薬草もある、それにこんなこともあろうかと薬草も3枚挟んである。前のように自動修復してくれるだろうが、確認だ聞いておくか。
「また俺は死にかかっているのか?」
「うむ、録画を確認するから、ちとまっとれ」
「はいはい、たまにはリアルタイムで見てね」
女神視聴中。
「ほぉ、なかなかやるではないか。余の与えた魔法陣をこうも使いこなすとはの、さすがヒキニートの癖に筋トレだけで世界最強になった男じゃ」
「その世界最強ってのはどっから出てきたんだ? 俺は戦ったことなんてほとんどないぞ」
「魔法の鏡に聞いたのじゃ、そしたら貴様が最強と出たのじゃ」
「実感なかったな」
「転生トラックを耐える人間なぞ貴様以外に誰がおるか、威力をカンストさせた必中の因果律じゃぞ」
そう言うと女神は指を鳴らす、湯呑み茶碗が落ちてきた、普通に落ちて割れた。
「······高すぎた」
指を鳴らすと破片が消える。さらに指を鳴らすと今度はちゃぶ台の上に湯呑み茶碗が2つ現れる。
「ごくごくぷっはぁ。貴様は生きておる」
「そうだろうな」
「なんじゃ、知ってて聞いたのか、まぁよい、ではそろそろ戻ってーー」
「待て、少し聞きたいことがある」
「なんじゃもー、余は忙しいのじゃー」
「VR〇ノジョ」
「はわわ、スルーしろよもー!わかったから申してみよ」
「魔法を使う時に女神の声がするんだが、あれはなんだ?」
「ああそれか。このカセットテープの音源じゃな」
取り出したのはレトロなラジカセだって録音かよ!
「世界に魔法という概念ができたときにまとめて録音したのじゃが、大変じゃったぞ、嫌じゃったら渋めに録音したバージョンもあるがどうする?」
「いや、このままでいいです」
悔しいが声も声優みたいに可愛いからな。
「それと、異世界で女神の存在が知られてないみたいだが」
「認知度はしょうがあるまい!干渉したらつまらぬからな!さ、もうよいじゃろー、はよやりたいのじゃー」
「わかったよ、邪魔して悪かったな」
女神が俺の映ったテレビの再生ボタンを押すと俺は光に包まれて消えはじめた。
そういや、元の姿に戻してもらうように頼むのを忘れてた、クソ、全部VR〇ノジョのせいだ!
「······さま! バーガー様!」
「むぅ、アイ、ナ?」
「バーガー様! やっと起きましたね!」
「あいつは? 紫猪はどうなった?」
「バーガー様の火炎攻撃で死にました」
「そっか」
俺はアイナの両手に乗っている、移動していなかったようだ、隣では紫猪の死体がパチパチと音を立てて燃えている。幸い木々にはそこまで燃え広がっておらず、山火事になることはないだろう。
「さすがはバーガー様です、あんな技を隠していたなんて」
「たまたまだよ、それにアイナの援護射撃のお陰でも、む?」
俺は違和感に気づいた、口の中からだ。この幸福感はまさか。
「ふふ、気づきましたか。薬草で再生すると聞いていたので上薬草もたくさん挟んでおきましたよ!」
どうやら今の俺はレタスバーガーらしい、多分10枚くらい挟まれている、流石に挟みすぎだ。薬草は使い切ったようで、俺の近くに萎びた薬草が3枚落ちている。上薬草も何枚か落ちているのを見るに相当なダメージだったらしい。人間だったら腹に穴が空いてるレベルだもんな。
「何か······気に触りましたか?」
「いや、ありがとう、助かったよ」
嬉しそうなアイナを見て俺は礼しか言えなかった。いや、悪くないんだけどね。
それから俺たちはアイナが持ってきた籠にこれでもかと上薬草を詰め込んだ、火炎草も1枚発見したので俺が挟んでおくことにした。紫猪に付いていた火が完全に消える、俺はそれを見計らってアイナにあることを頼んだ。
「紫猪の耳を持ち帰りたい?」
「ああ、俺の短剣で切ってくれないか」
「わかりました、左耳は吹き飛んでどこかにいっちゃってますけど、右耳はかろうじてくっついているので、それでよければ」
「構わない、皆に俺たちの成果を見せてやりたいんだ」
アイナは手早く俺の短剣を抜いて紫猪の右耳を切り取った。本当は牙とかも持ち帰りたいところだが、時間はそれほど残っていない、主が死んだ事を他の魔物に悟られる前にここを発たなければならない。
切り取った耳を俺のマントに包んでアイナの籠に入れる。
「よし、後は無事に帰るだけだ、矢の本数は?」
「2本です」
紫猪パープルボアの膝に刺さった矢は、足を折り曲げて付せた状態で死んでいるため回収できない。
「心もとないな、俺も火炎草を挟んであるが1発限りだ、次から矢はできるだけ回収して、避けられる戦闘は極力避けていこう」
「はい!」
「それと覚えていればでいいんだけど青猪の死体がある場所は迂回しよう」
「大丈夫です、全部覚えています!」
帰り道はさらに気をつけなきゃならない、青猪の死体を食べに別の魔物が来るかもしれないからだ。幸い魔物と出くわすことなく森の奥から出られた、アイナが口笛を吹く、少しして馬が迎えに来てくれた、馬の賢さに感心しつつ俺たちは帰路についた。
「おお! 勇者様が帰ってきたぞ!」
タスレ村に帰った俺とアイナは村人たちに手厚く歓迎される。見知った顔しかいないのにそれでも照れてしまう、アイナも凛々しい表情を保っているが頬が赤くなっている、誇らしげに胸を張っていて可愛い。
村長に馬を返して上薬草の入った籠を渡す。役目を終えた俺たちは両親のいる場所に戻った。俺は上薬草を挟めばすぐに魔法を使えるから、まずは俺とアイナの父親を治療することにしたのだ。
「おかえり!」
「ただいま母さん」
上薬草を解析すると上級治癒が検出された、どんなもんかと試しにウィルに使ってみることにした。
「お!バーガー、その顔はやり遂げたんやな!」
「はい!早速ですが『上級治癒』」
「うおおわ! なんや!」
腕をグリングリン回している。ケロッとした顔をした。
「うほほほほ!怪我する前より元気なった気ぃするわ!」
「ハッスルしんときぃ恥ずかしいで!2人ともホンマおーきに!」
魔法の確かな手応えに安堵しつつ次に俺はアイナの父イシルウェに上級治癒を掛ける、イシルウェは腕のギブスを外して肩を回している。手をグパグパと握って痛みがないかを確認している。満足そうにこちらに向き直る。
「バーガー様、治療してくださり、ありがとうございます」
「いえ、アイナが頑張って手に入れた上薬草ですから、アイナも褒めてやってください」
「そうですね。アイナ、よくやったね。バーガー様にちゃんと仕える事ができたね」
「い、いえ! 私は……バーガー様に助けられてばかりでした」
「アイナちゃん、そういう時はありがとうございますや、頑張ったのは、ウチらもよぉくわかってるんやから!」
「せやで、アイナちゃんが頑張ってない言うならワイらなんてなんもしてへんのと同じになってまうで!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「礼を言うのはワイらなんやけどな! ふへへへへへへ!」
「何笑っとんねん! 治ったなら魔物の死体片付けるの手伝ってや! 男手が必要なんや」
「おう! じゃ、バーガー助かったでホンマ!」
ウィルたちを見送って俺は村のことを考える。村にはまだ魔物の死体や、壊れた柵の問題もある、上薬草だって殆ど使ってしまうだろうし、課題は山積みだ。
「バーガー様」
「アイナ、どうしたの?」
「火炎草は使わないと傷んでしまうので近くの街で火属性付加のポーションに加工してもらってはどうでしょうか?」
「それって1枚からでもできるのか?」
「一枚で一本生成できたと記憶しています」
俺は試しに挟んでいる火炎草に意識を向ける『火炎草から火炎の吐息を検出、1回使用可能』紫猪の時は急いでいたためここで区切ってしまったが、すぐに『火炎草から火属性付加を検出、3回使用可能』とでた、使い道が複数あるからどうかと思ったが、どうやら同じ具材から複数の能力が使える場合があるようだ。
しかし火炎の吐息を使った時、火炎草は萎びてしまった、つまり火属性付加が使えなくなってしまった、複数の能力があってもどちらかしか使えないのだ。この場合、ブレス1発がエンチャント3発分となるのか、小難しい話だが重要な仕様だ覚えておこう。
紫猪の時は一つだけだと思っていたため確認していなかったが次からは解析をしっかり聞こう。
備蓄してある薬草だって定期的に入れ替えているしな、ファイヤーバーガーになれないのは残念だが、ポーションにしてもらって長期保存したほうがお得だ。
「わかった、街に届けに行けばいいのか?」
「いえ、定期往復している行商人に頼んでみます」
「あ、せっかくだから上薬草と解毒草もポーションにしてもらうか?」
「そうしたいのは山々なんですがポーションの製作にはお金がかかるので······私のお小遣いだと、その……一本が限界で······」
アイナは自腹を切るつもりだったのか、なんていい子だ、そうだ嫁にしよう!この俺を醜いバーガーに変えた女神を倒し呪いを解こうではないか!なんちゃってな。
「アイナは出さなくていいよ、そういう時の勇者特権だ、村長に頼んでみるよ」
「ですが村も困窮しているので、あまり無茶は」
「大丈夫、大丈夫、なんとかならぁ!」
そのあとアイナには内緒で村長に土下座した、速攻でOKを出してくれた、太っ腹だ。話に出てこなかったが村長は滅茶苦茶おじぃさんだ、ちなみに村長の馬の名前はエ〇ナじゃなくて、エナジだった。