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第28話 チワワクエスト1

挿絵(By みてみん)


 爆発だと、なんだ襲撃か? そういや爆発に巻き込まれたって言うのに、この体は痛みを感じねぇな、痛覚がないからか。


 メアが夜襲を仕掛けてきやがったか、それならいい仕事をしやがる、と評価を上げてやる。とまぁ、大体の原因はわかっている、俺の魔法が暴発したんだ。なるほどな、扱いを知らなきゃこうなるわけか、一つ勉強になった。


「おいレイ、生きてんのか? 死んでんのか? 返事をしろ」


 俺の視界はまだ煙に覆われたままだ、呼んでも応答がねぇってことは、遠くに吹き飛んじまったか、気絶したか、死んだか、どれにしてもいい状態とはいえねぇ。何度も言うがやったのは俺だがな。


「すごい爆発だったね」

「あ?」


 レイの声じゃねぇ、男か女かわからねぇ子供の声だ。煙で姿が見えねぇ。


「この煙じゃ見えないね、それ!」


 謎の声の掛け声とともに、一瞬にして煙が掻き消えた、今のも魔法か。声の主の姿が顕になる。


 白鳥、いや人形をしてやがる、魔物という奴か、デカい白目しかない目に、白いフサフサのまつげがうっとおしい。


「ボクが誰かって? ボクは九大天王の一角、魔人パロムさ」


 魔物じゃなく、魔人だったか、つうかこいつがパロムか。華奢な白鳥魔人と言ったところか。


「お前がパロムか、ここは俺の部屋だ、不法侵入だぞ、プライベートを守りやがれ」

「騒音被害が酷かったからさ。それ以前に今のは緊急事態だったんだよ、ボクたちが助けに入らなかったらどうなっていたことか」


 つまり監視していたってことか、どうやってだ、部屋にカメラでも仕込まれているのか。そんな技術力は無い、なら魔法か。


「レイラ、いやレイだったね、レイがどうなったか気にならないのかな?」


 その呼び方、盗聴器も仕込まれてんのな。


「助けたんだろ、九大天王」

「いやだな、パロムって呼んでよギア。その方が効率的だろ?」


 ほう、全ての話を聞かれていると思った方がいいみたいだな。いい性格してやがる、気に入った。


「勿体ぶらずに出せよ、非効率的だ」

「あは、いいよ、グラップ」


 パロムが器用に翼を鳴らす、するとパロムの隣にテレポートしたみたいに一瞬で黒い魔人が現れた、姿(シルエット)がパロムと似ている。


「兄弟か?」

「そうだよ、ボクらは九大天王、パロムとグラップさ」


 九大天王が二人、それも兄弟でだと……。


「コネ入社か」

「違うよ!」


 グラップが開口一番に怒鳴った。


「おいお前! 助けておいてもらってその態度はないだろ!」

「あん? 誰がいつ助けろって頼んだんだコラ」

「貴様ッ!!」


 手を振りかざすグラップをパロムはオモチャみてぇな翼を広げて制止する。


「なぜ止める!」

「兄さんはすぐ頭に血が上る、ギアの言う通りじゃないか、ボクたちは勝手に助けたに過ぎないんだよ」

「ふん、助けたのは俺だ」

「頼んだのはボクさ」


 お、グラップの後ろにいるのはレイか、気絶しているが生きてるな。


「レイを洗脳したのってパロムだよな」

「そうだよ、このボクさ、捕まえてきた捕虜の中でもレイは一番のお気に入りなんだ」

「そりゃ暴発に巻き込んで悪かったな」

「構わないさ、今の一番のお気に入りはギア、君だからね」

「俺は俺のもんだ、それで助けた礼でも要求するのか?」

「とんでもないよ、未来の絶者に媚を売ろうとしただけださ」

「どうだかな」


 裏があるな、俺に利用価値があるか、品定めをしているってところか。もしくは知的好奇心という奴か。


「なんだか警戒されちゃってるね、外ではその警戒心はとても重要だと思うけどさ、この魔王城内にいる間は肩の力を抜いていいんだよ?」

「あ? これが普通だが、なんだお前みてぇに声色高くして媚を売ればいいのか?」

「どうしてそう喧嘩腰なのかな、ボクは君と仲良くなりたいだけなのに、じゃあ、親睦の証に一つ教えるけど、ボクはレイを使って君の様子を見ることができるんだ」

「レイを使って?服のどこかに監視カメラでも仕込んでいるのか?」

「カメラ? よくわかんないけど、それとはたぶん違うよ。レイには監視蟲っていう虫を仕込んでいるんだ」

「ふーん、なるほどな」

「わかってないよね、とにかくレイが近くにいる時はボクが見守っていると考えてくれていいよ」

「見守るだぁ? 監視の間違いだろうが」

「それにしてもさ、レイの洗脳を一部解除しちゃうのはよろしくないね」

「レイは俺の部下だ、俺の勝手だろ」

「そうだけど、この娘は意外と頭が切れるからね、思考の余地は与えてはいけないと思うよ」

「いい事じゃねぇか、それに取引は終わったんだ、いまさら変えられるかよ」

「変なところで頑固だね、忠告はしたからね」

「勇者を殺せりゃあ、あとはどうなろうと一向に構わねぇよ」


 で、肝心なこと聞いてねぇな。


「そんな事はどうでもいい、俺たちをどうやって助けたんだ、部屋のどこかに隠れていたのか?」

「それは兄さんが駆けつけて爆風から君たちを守ったのさ」

「どこから駆けつけたんだ」

「んー、ここから1kmほど先にボクのラボがあるんだけど、そこからだね」

「あの一瞬で来たというのか?」

「そうだよ『光速』のグラップとは兄さんのことさ」


 あの一瞬で、1km離れた場所からパロムを担いで駆けつけて、レイを抱えて、爆風から俺を守ったのか。どれだけ速いんだこいつは。カッコつけだけの異名じゃねぇな。


「でさ、ギアの魔力総量がありえない速度で増加し続けている件についていいかな?」

「なんか問題あるのか?」

「もちろんあるよ、百しか入らない容器に、無理やり千を詰めたらどうなるか、君でもわかるでしょ?」

「ボディがもたないってことか」


 それじゃ宝の持ち腐れだ。


「そうさ、魔法を使おうにもさっきみたいに暴発する、君の体がもったのが不思議なくらいさ。あ、ちなみに君の魔力を百に対して千って表現してるけど実際はもっと多いからね、この増え方は以上だよ」

「この体でダメなら、どうすればいい、無機物の体じゃ訓練することもできねぇ」

「一つ助言をしてあげるよ、その代わり」

「その代わりなんだ」

「ボクに対する好感度を上げてくれたら助かるなーって」

「好感度はMAXだぞ」

「とてもそうは思えないけど。いいかい、幸いなことに君は無機物だ、生物の体でそれだけの魔力を有するのは、逆に命の危険があっただろうね」

「無機物のほうがいいと」

「考え方次第だね、無機物がもつ肉体という概念は、有機物のそれよりも遥かに曖昧なんだ」

「難しい話をするな」

「考えても見てよ、君のその体は歯車だ、そしてそこにあるキラープロトタイプの部品でもある、組み込むことで意識を移すことができただろう?」

「……続けろ」

「その魔力に似合ったボディを作ればいいと、ボクはそう言っているんだ」

「そう言いたいなら、勿体ぶらずに最初からそう言いやがれ」

「ごめんごめん、回りくどいのはボクの性格なんだ」

「けっ」


 これはいい事を聞いた、外付けの俺の体、要は容量を増やすってわけか。俺は歯車だ、もはや人間じゃねぇ、ならば簡単に体を拡張できるってわけだ。


「俺を溶かしてもっとデカイ部品にする事はできるか?」

「どうだろうね、たぶん魂が離れて魔物としては死ぬんじゃないかな」


 俺自身を加工して大きな部品にするには、リスクがあるわけか、失敗時のリスクが高すぎるなこの案は無しだ。やるなら他の奴を実験に使って試してからだ。


「ま、ボクはカラクリは管轄外なんだ、科学者といっても、魔術と生物がメインなんだ。詳しい話はポラニアに聞いてみるといい、彼の知識は君の助けになると思うよ」

「ポラニアを知っているのか」

「君とホネルトンと同じ関係だよ」

「使いっ走りのあいつがどうした?」

「師弟関係って言いたかったんだけど……」


 その後パロムはレイに治癒魔法をかけて(驚くほどに回復した)グラップとともに部屋から出て行った。


 入れ替わるように数人のメイド(人型の魔物)が入ってくる、挨拶もほどほどに吹き飛んだ部屋の片付けをし始める、こういうところは魔法で直さないのか。


「おい、レイ起きろ」

「むにゃんす」

「洗脳したままのほうがよかったか」

「はっ! 起きました! 起きてますよ! って何ですかこの惨状は!」


 こいつ意外と余裕あるよな。


「ああそっか暴発したんですね」

「そうだ」

「だから言ったじゃないですか、ていうかもう後のことはメイドさん達に任せてホントに寝ましょうよ、日が昇り始めてますよ」

「バカがせっかく寝なくていい体になったのに寝るやつがあるかよ」

「ホントに寝ないで大丈夫なんですか」

「疲れる脳みそも、悲鳴をあげる内蔵もない、休んでも仕事の効率に変わりはねぇ、働かない分遅れるだけだ」

「鬼……仕事の鬼ですね」

「鬼のほうが仕事ができるなら喜んで鬼になってやるよ」

「肯定すると鬼になりそうなので、ノーコメントです」

「雇用する時の参考にしようとしただけだ」

「そ、そういえば、なんで私無傷なんですか?完全に死んだと思ったんですが」

「パロムが来てな」

「パ、パロム!?」


 レイは取り乱して、部屋の隅まで逃げると小さく縮こまる、膝をギュッと抱えて震えている。


「パロムがここにいたんですか!?」

「ああ、お前に治癒魔法を掛けたのはパロムだぞ」

「ひぃっ!!」


 レイは自分の体を抱き締める力を強くする、何してんだこいつ。


「トラウマでも植えつけられたか?」

「トラウマなんて生易しいものじゃないですよ!」

「トラウマの上の言葉がねぇからな」

「龍鬼って感じです」

「あ?」

「虎馬より凄いかなって、龍鬼」


 こんな時に要らぬ造語を増やすな、辞書に登録するのがめんどくせぇだろうが、意外とこういうのが流行語大賞に選ばれたりするんだからよ。


「具体的に何されたんだ?」

「そ、そそそそういうことを、き、聞かないでくださいッ!!」

「ちぃ、それだけ怯えられると仕事に支障が出るな。わかったこの話はなしだ」

「あ、ありがとうございます……」



 俺は生後2日になった。増加している魔力をコントロールできるボディを得るため、朝一番にポラニアの元を訪れる。レイは睡眠が必要だから部屋に置いてきた、俺のベッドを貸している。ポラニアの研究室ラボはここか。鉄製の無骨な扉をノックする。


「ギアか、入るポメ」


 なんでわかった、扉の前に監視カメラでも······いや、扉の低い位置に覗き穴があるな。


「おい、扉開かねぇぞ」

「下から入るポメ」


 鉄製の扉の下に犬が通るために設けられた小さな扉がある、俺のボディも小さいからな。


「話がある」

「何ポメ?」


 挨拶なしに本題に入っても文句一つ言わねぇとは、ポラニアへの好感度はウナギ登りだ。俺は昨日のことを話す、魔力総量の著しい増加、その湯水のように増えていく魔力に対応できないボディのことを。


「なるほどポメ」

「どうにかなるか?」

「少し考えさせるポメ」


 ポラニアは部屋の中をグルグル回っている。二足歩行してなかったらションベンの場所を探す犬だ。


「今の素材では不可能ポメ」

「どういうことだ」

「体を拡張する、これ自体は楽勝ポメ」

「じゃあ何がダメなんだ」

「そんじょそこらの素材じゃ、どれだけ拡張しても君の魔力には耐えられないポメ」


 いきなり壁にぶち当たったな。


「じゃあ打つ手なしか」

「早まるのは早いポメ、城内では不可能ということポメよ、城外なら可能性は十分にあるポメ」

「城の外だと」

「そうポメ、城外の採掘場なら上質な魔鉱石が取れるポメ」

「その魔鉱石とやらなら、俺の魔力にも耐えられるんだな」

「理論上はいけるポメ」

「よし、なら掘りに行くぞ」

「今は無理ポメ」

「なんでだ」

「採掘場には魔獣がいるポメ」

「なんだそれは、魔王軍は魔物を従えているんじゃないのか?」

「野生の魔物以外はそうポメ、そもそもその魔獣も魔王軍の軍勢の一つポメ」

「なら何が問題なんだ」

「凶暴で手がつけられないからだポメ」

「なんでそんなのを採掘場に置いたんだよ、責任者は誰だ」

「採掘場に配置したのは確か旧魔王だったはずポメ、責任も何ももういないポメ」


 魔鉱石が使えないんじゃ話にならねぇ、そこは絶対に確保する、だが魔獣一頭に手こずるってことは相当強いってことか。


「その魔獣の名は?」

「魔獣チワワ、九大天王の一角だポメ」

「そうか九大天王か、ってちょっと待て、いまチワワつったか?」

「言ったポメ、魔獣チワワ、九大天王の一角だポメ」


 俺はポラニアに同じセリフを言わせながら考える。チワワってあれか、あの犬の、特に小さいやつか、そんなのが九大天王? ホネルトンやパロムと同格だぁ?


 いや待てよ、名前だけ同じ、そうだ同姓同名って可能性もある、きっと強靭な肉体を持つ凶悪な魔獣に違いない。


「そいつはどれ位の大きさなんだ」

「うーん、大きさというか、体重は5キロポメ」

「5キロだぁ? 5トンの間違いじゃねぇのか?」

「何を言ってるポメ、チワワが5トンもあるわけないポメ」


 どうやらマジモンのチワワらしい。


「それは同種族と比べて大きいのか」

「ちょっと大きいポメ、たくさん食べるから少し胴回りがふっくらしているポメね。そこがいいんだポメけど」

「鳴くのか」

「鳴くポメ、嬉しいとオシッコもしちゃうポメ、おちゃめで可愛いポメね」

「しつけは?」

「お手ができるポメ、待てはまだできないポメ、これからだポメ」

「見た目はチワワなのか?」

「質問の意味がよく分からないポメ。まん丸なアップルヘッドに短いマズルがマッチしていて可愛いポメ」

「色は」

「クリーム色ポメね、優しい色ポメ」

「名前は」

「シチューポメ、この種族の名前はだいたい食べ物や色から連想されるものが多いポメね、理由は未だに解明されていないポメ、僕は似合っていると思うポメよ」

「そのシチューが今回の俺たちの敵ってわけか」

「勧めておいてなんだポメけど、僕はシチュー様と敵対するつもりは毛頭ないポメ」

「だが、魔鉱石を採掘するにはそのシチューを排除しないといけないんだろ」

「やるとなると戦うことになるのは確実ポメ、でもそもそもな質問なんだポメけど、危険を冒してまでやることポメ?」

「当たり前だろ、そうしねぇと前に進めねぇ」

「僕はシチュー様と敵対するのは反対ポメよ、死んだら元も子もないポメ、違うところでもレアメタルなら微量だけど掘れるポメ」

「それだとどれくらいかかる?」

「ざっと10年あればギアのボディを作れるほどには集まると思うポメ」

「却下だ、それじゃ遅すぎる」


九大天王のシチューと一戦交える必要がある、幹部が絡むとなると魔王に報告しねぇとな。


「というかギア」

「なんだ」

「授業の時間ポメ」

「あん? (そ)んなもんサボって」

「サボらせませんよ」


 いつの間にか背後に立っていたホネルトンに捕まって俺は教室に連行された。



「とは言ってもまだ授業の時間には早いんですがね」

「ならほっとけよ、こっちは暇じゃねぇんだ」

「聞きましたよ、昨夜の爆発事件」


 ホネルトンの耳にまで届いてやがったか、まぁ九大天王なら当然か。


「それがどうした」

「いえ、火炎魔法の初歩である火の玉ファイヤーボールで、そこまでの火力を出せる者は数少ないでしょう」


 ここで、ポラニアが俺に耳打ちする。


「そう敵視する必要はないと思うポメよ」

「別に敵視してねぇ、これが普通だ」

「なら変えるべきポメ。ギアは素直に、僕から技術を、ホネルトン様からは魔術を学べばいいポメ」

「なんでポラニアがそんな事を気にするんだよ」

「ギアとウィンウィンの関係を築きたいだけポメ」


 自分に理があるうちは全面的に協力的ってわけか。こういう奴は嫌いじゃねぇ、好感度が振り切れそうだ。


「わかったよ」

「話し合いは終わりましたか?」

「おう、授業に出るぞ」

「やっとその気になってくれましたか、たったの一日でしたが、頭を悩ませていました」


 これからもっと悩むことになるだろうがな。


「では、少し早いですがーー」

「まずは魔王に会いに行く」

「はい?」

「その腕を治す許可をもらいに行くんだよ」

「え? あー、え? どういう風の吹き回しですか」

「あん? ホネルトンの右腕が吹き飛ばされたのは元はと言えば俺のせいだろうが」

「······そういう常識を、貴方が持っていることに私は驚愕を隠しきれませんが······」

「御託はいい、早くセッティングしろ」

「早朝ですし、これから授業もあります、何より謁見の許可をいただかなければなりません」

「じゃあ、いつだ?」

「昨日の無礼の謝罪という形であれば、早ければ今日の昼過ぎには······」

「遅い、が、まぁいい、今回は俺が悪いんだ、わかった、その段取りでセッティングしてくれ、なんなら俺がやってもいいぞ」

「いえ、私のほうでお願いしてみます」


 ホネルトンは魔法を唱えて骸骨を召喚する、伝令係だ。


「これでよし、では、教室に向かいましょう、少し早いですが勤勉な君たちなら大丈夫ですよね」


 全くだ。再び教室に向かおうとしたとき、そいつは現れた。


「あ!」

「あん?」


 メアと鉢合わせた。


「貴方、早いんじゃないの!」

「あーん? 早めに出社······早めに登校する分には別にいいだろうが、てかメアも早いだろ」

「私はいいのよ、それに昨日の事を忘れたとは言わせないわ」

「昨日の事だぁ?」


 何の事だ、普通に生活していただけなんだが。


「よくも私のファーストキスを奪ってくれたわね! ぶっ殺してあげるわ!」

「はんっ」


 ますます意味がわからねぇ、俺には口すらねぇじゃねぇか。困惑していると隣にいるポラニアが思い出したように口を開いた。


「昨日の頭突きの事を言っているんだポメ」

「頭突き、ああ、あれはだだの攻撃だろうが」

「口に当たったわ! しかもめり込ませてきた! よくも私の初めてを!」


 そう言うとメアは構える、こんな通路の真ん中で、しかも教師の前でリベンジかまそうなんて、なかなかに気骨のある観葉植物だ。


「メアリーさん、今はやめなさい」

「ホネルトン様、でもギアが私の初めてを······」

「二人は絶者候補、嫌でも雌雄を決するときは訪れます。ここは矛を収めて素直に引き下がっていただけませんか、あのとき学んでおけばよかったと、戦いの中で後悔するのは嫌でしょう?」

「······わかったわ、ホネルトン様」

「できれば誰も死んでほしくはないんですけどね」


 ホネルトンが仲裁に入り丸く納まった、皆で仲良く教室に入る、昨日の復習なんかして過ごした、そして小一時間が経過した、異変に気づく。


「もう授業の始まる時間だろ、生徒が集まってねぇぞ」


 授業開始の時刻になっても、生徒が一向に集まらねぇ。40名弱いた絶者候補が一桁にまで減っている。


「不登校です」

「そりゃまたどういう了見だ?」

「いや、え、昨日のギアのやった事を覚えてないんですか?」

「舐めてんのか、俺が忘れるわけないだろうが、昨日のがどうしたってんだ?」

「······本当に分からないんですね、他者の心が」

「なぜいま心の話をしやがる」

「まぁいいでしょう、とにかく昨日の惨事を見て、貴方を恐れて教室に来たくないという生徒がたくさんでたのです」

「なんだそれは、それなら直接俺を消しに来ればいいだろうが」


 俺の言葉を聞いて呆れた顔のメアが口を挟む。


「みんながみんな、私や貴方みたいに強い精神を持ち合わせてはいないのよ」

「さりげなく自分まで心が強いとか抜かしてんじゃねぇぞお漏らし生け花が」

「あれは毒液だって何度言ったら……って誰が生け花よ!やんの!いいわ!」

「あー、その話は休憩時間にでもしてください、さ、気を取り直して授業を始めますよ」


 授業は順調に進んだ、真面目に授業を受けているだけなのに周りの奴らは目をぱちくりさせて俺を見てきやがる。内容は魔法の基礎やら何やらだ、前半座学で、後半実習、習ったことを早速やってみる学習スタイルだ。


 俺は昨夜の爆発の件もあり、魔法実習は見学にさせられた、それについて異論はねぇ、新しいボディを手に入れるまでは魔法を使うのは危険だからな。扉を開けてレイの奴が戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「おせぇぞ、何きっちり8時間睡眠してやがる」


 休んだら来いとしか言ってなかったからな、まぁ今はやらせることがねぇからいいけどよ。


「レイラの洗脳を解いたのですか?」


 ホネルトンがその骸骨の顔を歪ませて人の表情みたいに実に柔軟に表情を変える。この表情は目を細めて訝しんでいる顔だ。


 ホネルトンは何を警戒してやがんだ。


「一部だけだ、完全に解いてはいねぇ」

「そうですか、レイラは魔王軍の者ではありませんので、意識を与えるのは」


 ホネルトンもパロムと似たようなことをほざいてんな。


「この方が効率がいいと判断しただけだ、責任は俺が取る」

「ギアの命で償いきれるものであればいいのですがね」

「嫌味ったらしいな」

「私はただ魔王軍の繁栄を願っているだけです」


 今の言葉には強い力を感じるな、今のが本音、こいつの動力源だな。


「わかった、何かしたらこいつを殺して俺も死んでやるよ」

「ギアに死なれても困ります」

「じゃあ、この教室の他の生徒の命を全部掛けてやるよ」

「なんで私たちの命を掛けるのよ!」

「メアリー黙っていろ、ギアの命だぞ」

「セギュラったら、ずっと黙ってると思ったら、そういう時だけワンワン吠えちゃって、もうすっかりこいつの犬に成り下がったのね」

「ふ、ギアは勝者だ、それに私は何も武功を挙げていないからな」

「何よそれ! 意味がわからないわ!」

「うるせぇぞガキンチョども、今は大事なビジネストークの真っ最中だ」

「そのビジネスとやらのテーブルの上に私たちの命を勝手に置かないでくれる!?」


 本当にこいつは話が通じねぇな、困ったもんだ、まるで別の言語で喋ってるみたいだ、どこまでいっても平行線をいきやがる。


「はい、この話は終わりです、実習を続けますよ」


 数時間後、ホネルトンの授業が終わる。


 その後、ホネルトンが送った使者が帰ってきた、謁見の許可が下り、予定通りこの後すぐに話せるそうだ、あの魔王は相当な暇人とみた。




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