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第24話 夢見バーガー

挿絵(By みてみん)






 サガオが怪物の口に落ちたあと、俺たちは足取り重くギムコ村に帰還した、ヒマリの家に集まっている。エリノアだけヒマリの様子を見るために別室にいる、その他はリビングで会議だ。


「この事は村人たちには内緒にしよう」

「混乱を防ぐためですよね、それは賛成です、でもヒマリにはどう説明を······あの子はサガオの唯一の家族です」

「うむ」


 俺もどうしていいのかわからない、サガオはああ言ったが、ヒマリには知る権利があるんじゃないか? サガオの死を教えてしまうか、それともごまかすか。それとも大人になってから打ち明けるか。悩んでいる俺を見かねてか、ジゼルが言った。


「本当の事を話すべき。人は悲しみを乗り越えられるようにできている」

「そう……だよな、ヒマリは両親をすでに失っている。悲しみに対する耐性はあるか······」

「逆ではないでしょうか? 唯一の肉親を失ったと知ったら、心が折れてしまうかもしれません」


 天涯孤独、唯一の心の支えだった家族の死、確かにそれも一理あるな。って、今日の俺は優柔不断だな、それだけはいかん。


アイナの言葉を受けても、ジゼルは折れなかった。


「いつまでも隠せない。いつかは知られる。それに私たちは。すぐにここを発たなければならない。私たちがいる間に教えるべき」


 ジゼルの言葉にアイナも言葉を詰まらせてしまう、アイナもわかっている、ヒマリに迫る厳しい現実を……。そう話しているとエリノアが戻ってきた。


「ヒマリが目を覚ましたよ」

「わかった、うし、これも勇者の使命だ、行くぞみんな」


 俺たちはヒマリが休んでいる部屋に集まった、ヒマリはベットの上で上半身を起こしてボーッとしている、そして俺たちを見て一言。


「お兄ちゃんは死んだんですね」

「え、な」


 バカな、ヒマリが気を失うときはまだサガオは生きていた、気づけるはずがない。エリノアの顔を見る「ミーはにゃにも言ってにゃいよ」ってジェスチャーしてきた。


俺の驚いた顔を見てヒマリが力なく笑い、こう続けた。


「なんとなく分かるんです。家族だからかな、近くにお兄ちゃんがいるときは、あ、近くにいるなーって、なんとなくわかっちゃうんです」


 家族の絆と言うものだろうか、普段の俺ならこの手の話はオカルトだと言って信じないが、今のこの状況においてだけは、あながち嘘ではないのかもしれないと思えた。


 俺たちが怪物の口に向かったときだってそうだ、行先は村人たちには一切伝えていない、そもそも出発するときですら行先は決まっていなかった。それなのにヒマリは怪物の口まで来た、家族の存在を感じ取れる特異体質のようなもので、サガオの死がバレてしまったというわけか。


「······すまない、助けることができなかった」

「謝らないでください、勇者様たちが最善を尽くしてくれていたのは私も見ていましたから······、それにお兄ちゃんは勇者様に憧れていました。私が勇者様たちにあたってもお兄ちゃんは喜びません、それにお兄ちゃんも満足していると思います······」


 ヒマリは自分の体を強く抱きしめて蹲る。


「勇者様、一つだけお願いしても······いいですか?」

「なんでも言ってくれ」

「お兄ちゃんの話を聞かせてください······」

「わかった、最高にカッコいい君の家族の話をしよう」





 俺たちは聖騎士来るまでの間、警戒のためギムコ村に留まった。幸い小龍ワイバーンもセギュラも現れなかった、3日後、重装備でやって来た聖騎士の一団にあとを任せて、ギムコ村を出立することにした。村を出る時にヒマリに呼び止められた。


「私、聖騎士になります、王国まで連れていってください」


 目を見ればわかる、ヒマリの意思は硬い、彼女がこの3日で考えて出した結論だ。もちろんパーティから反対の声は出ない、しかしこの旅についてくるとなると話は別だ。


「あと少しで王国につくとはいえ、危険な旅に変わりはない、命の保証もできない。なんなら今いる聖騎士に頼んで、連れていってもらえるようにしてーー」

「それでは遅すぎます。私は少しでも早く聖騎士になりたいんです」


 俺は勇者パーティに視線を回す、止める気はないらしい。


「わかった、同行を許可しよう」

「ありがとうございます」

「それじゃ、支度を」

「終わらせてあります」


 そう言うとヒマリは、物陰に走っていき、パンパンに膨らんだ大きなリュックを背負って戻ってきた。


「最初からついてくる気だったのか」

「······はい、断られてもそのつもりでした」


 抜け目のない子だ、きっとサガオに似たのだろう、いや本当なら両親か。サガオの望みはヒマリが元気でいることだ、そして今のヒマリの望みは兄の無念を晴らすこと。


 ヒマリにはサガオが怪物の口に落ちたところまで、俺たちが知っていることをすべて話した、きっとそれで復讐心に駆られているんだ。でも復讐心も今は使えるかもしれない、何か目標があれば、折れずに頑張っていける。


 それに復讐する相手は、ちょうど俺が倒す相手だ。ヒマリが復讐を果たす前に、俺が魔王軍を壊滅させてやればいいだけの話だ。俺は無意識に呟いた。


「頑張らないとな」

「頑張ります」


 俺を肩に乗せているアイナに独り言を聞かれてしまった、俺たちは優しく笑った。


 それからの行動は早かった、最初は旅慣れしていないヒマリが心配だったが、彼女は文句一つ言わずに俺たちについてきてくれた。魔物にも遭遇せず、数日で王国に着くことができた。王国の名前はトランテス王国、この人間世界の中心部にして最大の王国だ。


 王国はこれでの村や街とは規模が違う。初日は宿を取り、休息することにした。王国の中を楽しむ前に王様との謁見が先だ、それにはまずコンディションを整えないとな。ふかふかのクッションに乗せられた皿の上で気持ちよく眠った。















































 気がつくとそこは白い空間だった。辺りを見渡して俺は状況を把握する。また女神のところか。頭が少しずつ覚醒していく。


 いや、それはおかしいぞ、俺は確か王国について、宿をとって眠ったはずだ。魔法陣は傷つけられていない、まさか寝ている間に何者かに攻撃されたのか、襲撃か!


 だとしたらアイナたちが心配だ、ここから異世界を確認する手段なんてないよな、あ、待てよ、あったな見る方法。


 俺は山ずみにされたテレビの山に近づく、以前よりもさらに砂嵐を映すテレビが増えている、この人たち死んだってことだよな?もし俺のテレビも砂嵐になっていたら······。精神体だがゴクリと唾を飲み込む。俺は探した自分のテレビを······。


 俺のそんな心配もよそにテレビはすぐに見つかった。他のテレビがブラウン管なのに対して俺のだけ薄型テレビだからな。


「映ってる」


 ひとまず安堵した。画面は薄暗くてよく見えないが、砂嵐ではない、つまりまだハンバーガーの体は生きているということだ。最悪の事態ではないことを確認した俺は胸筋を撫で下ろす、そして次の疑問が浮かんだ。


 ならどうして俺はここに? 俺の思考がそこまで達したタイミングで真上から声がした。


「緊急事態じゃ」

「女神!」


 女神は俺の真上にいた。って、なに然もありなんといったふうに空中浮遊してんねん!


「そのテレビの山を見てみよ、何か気づいたことがあるじゃろう」

「ん?ああ、砂嵐が多いよな」

「そうじゃ、問題発生じゃ」

「砂嵐ってことは、その世界に転生した人間は死んだってことでいいんだよな?」

「察しがいいの、脳みそまでは筋肉になっていないようじゃな」

「残念なことにな」

「残念なのか······。まぁよい、転生させた者が死のうがどうしようが、余は娯楽として楽しんできたから、それは別にいいんじゃ」

「ゲスいな」

「しかし今回のは違う、転生させた人間たちが狙われておるのじゃ」

「狙われているだと?」

「そうじゃ、厳密に言えば余を直接狙えない臆病者めらが、布石、足がかりとして、余の玩具にちょっかいを出し始めたというわけじゃな」

「どうして女神が······いや、思い当たる節が多すぎるな」

「え、なんでじゃ! 余が何をしたというのじゃ!」

「そういうとこだよ! 少しは反省しろよな」

「あれから殺して転生させるのはやめたのじゃー、本当じゃぞ」

「でも、それまでにやったことが不味かったんじゃないのか?」

「う······」

「それに女神は強いんだろ?神なんだから全知全能なんだろ?その臆病者を直接始末しにいかないのか?」

「物騒な奴じゃのぅ貴様は、筋肉を得るとここまで野蛮になるものなのかのぉ」

「野蛮さについてだけは女神に言われたくないぞ」

「ふふ、ま、やりたいのは山々じゃがの、色々と、な」

「まさか、ここから出たくないとか、そんなオチじゃないだろうな」

「ギクッ!!」

「図星かよ!」


 俺もヒキニートだったから、気持ちは分かるけどさ。


「というわけで! これから貴様は、余と敵対する神が遣わせた使者と戦ってもらうわけじゃがー」

「ちょっと待てぃ! いま神と言ったか! 神って言ったよな!? 女神みたいなとんでもない奴が相手なのか!?」

「まー、神は神じゃな」

「マジですかッ!」

「安心するのじゃ、そう怖がるな、よしよししてやろうか?」

「あ、いや、今の発言で落ち着いた」

「落ち着くなよ······、つまらぬ奴じゃなぁ。まぁいい、そう心配するな向こうも直接手を下してきたりはせん」

「そうなのか?」

「これは神々の遊びじゃ、遊びはルールを守るから面白い。だから使者を送り込むのじゃ、それにあの異世界のルールは余が作ったもの、絶対普遍のエキスパートルールというわけじゃ、神の使者にもそれが強制的に適応される」

「というと?」

「向こうも人ではない何かに転生する、ということじゃな」

「それは気の毒すぎるぞ」


 俺と戦う前に死ぬんじゃないか。


「でもさ」

「なんじゃ」

「女神的には、どっちでもいいんじゃないか?」

「どういうことじゃ?」

「別に転生させた人にちょっかい出されても、それもまた一興とか言いそうだなって思ってさ」

「貴様は分かってないのぉ、それでは神にはなれんぞ」

「いや、なる気ないし」

「いいか、自分で壊すならまだしも、赤の他人に壊されたらムカつくじゃろうが!」

「そんな理由かよ!」


 それでも協力的なのは俺としては有難いけどな、今回は味方になってくれそうだ。


「ならさ、俺を元の姿に」

「ダメじゃ」

「ええ、けちー」

「オッサンがカワイコぶってもキモいだけじゃぞ」

「ふえぇ······」

「こほん、本題に戻るぞ。実は使者の正体は掴んである」

「マジか、神かよ」

「神だよ。それでな、どうやら奴らは時間を目一杯遡り、貴様が転生した日に使者を送り込んだようじゃ」

「へー、過去に送り込むことができるのか」

「可能じゃ、しかしあの世界だと貴様が生まれた後に限るし、転生させるのも一人が限度じゃろう」

「同い年のライバルか」

「そうじゃ、スタートラインが一緒になってしまったの。そして使者の名前は······ええっと、あ、そうそう思い出した、どうやら異世界では絶者と呼ばれているらしいぞ。やつら都合のいい立ち位置に使徒を送り込んだものじゃ」


 絶者!!


「絶者って勇者と相対する存在っていう」

「そうなのか? そこまでは調べとらんから知らんが、魔王軍側に送り込んだのは確かじゃ」


 セギュラを従えている人物か、つまり生き残っているってことだよな、自滅してくれるような相手ではなかったということか。


「その絶者の転生前がどんな人間だったか分かるか?」

「んー、ちょっと待っとれ」


 女神が指を鳴らすと、女神の手にカルテが出現する。それを数枚めくり、数秒眺めて、飽きたように投げ捨てた。


「ただの人間じゃな」

「ただの人間か」

「肉体は平均以下、知能も高く見積もっても中の上、なぜそんな人間を奴らが使者として選んだか意図が読めぬ。まぁ、奴らは神とはいえ、ポンコツどもの集まりよ」

「そんな楽観視してていいのか?」

「余は神の中の神じゃ、苦難などない。それに最強の駒は先に余が取ってしまったからの」


 その最強の肉体の恩恵をまったく受けれていないんですがそれは。


「とまぁ、死んでもない貴様を呼んだ理由は以上じゃ、散れ」


 女神は指を鳴らして世界を一変させる、常夏のハワイがそこに出現する。女神はいつの間にか着替えている、露出の多い赤い水着にクソデカサングラス、カラフルなビーチチェア、片手にはなみなみと注がれたクソデカワイングラス。


「死ななくても来れるなら、また困ったらここに来ていいか? 助言をしてもらいたいんだが」

「えー、あんまり呼ばれても面倒じゃ、たまにならいいぞ」

「助かる、どうやったらこれるんだ?」

「『女神様、愛してます』って言えばここに連れてきてやってもよいぞ」


 はっず、呼べないやつだこれ。


「さ、散れ」

「はいはい」

「そうじゃ、先の戦い見事であったぞ! 手に汗握る戦いとはまさにあのことじゃな、エキサイトしすぎてポップなコーンを床一面に撒き散らしてしまったぞ!」

「ポップコーンな、たく」


 女神が指を鳴らす。俺の意識は光とともに消えた。























「ふむ、なんか引っかかるのぉ、あの絶者とかいう男、どこかで見たような、ううむ」


 女神は放り投げたカルテを拾い、数枚めくる。眉をひそめ、そしてイタズラな笑を浮かべる。


「あー、思い出した、そうじゃ、こやつは『精神最強』じゃ! 余も狙っておったのに、八百万も考えおるわ」



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