第2話 友好条約
次に俺が目を覚ましたのは皿の上だった、埃をかぶらないようにハンカチが被せてあった。俺は気遣いに感謝しつつハンカチを押しのける、皿は布団の上に置いてあった。
「ウィル! 起きたで! バーガーが目を覚ましたで!」
「うお! 起きたか! 生きとるんか!」
若い夫婦が顔を近づけてくる、まだ頭がハッキリしない俺はそのままウィルに抱かれ頬ずりされる、髭が擦れて痛い。
「あかん! 削れてるで! パン粉になってまう!」
「やっべ!」
ハンバーガーおろしになる前に開放された俺は今度はセニャンに抱きかかえられる。俺はどうなったんだろう、齧られたところはどうなったんだ、痛みはもうないが。
「絶対に起きると思っとったで」
「し、心配かけてごめんなさい」
「ホンマや、あんた3日間も寝てたんやで、ずびっ」
「3日も!? 鏡を見せてもらっていいですか?」
「鏡やな、任せとき!」
鏡を見た瞬間驚愕した、齧られた跡は薄らと残っているが、傷が塞がっている。パンが生えてきたとでもいうのだろうか。
「隣りの赤ちゃんに齧られたはずなのに」
「せやで、半分くらい食べられてて焦ったわぁ」
「治療は何をしたんですか?」
「うーん、医者も匙を投げてもうて途方に暮れてたんやけどな」
「些細なことでもいいです、変わったこととか」
「変わったことといえば、薬草がいつもより早く萎むようになったなぁ、かなり使うたで」
つまり薬草で傷が再生したってことか、これは憶測だが挟んだものの力、魔力的な概念があるから多分それを吸い取って再生したっぽいな。薬草だから傷の治癒ができたとか、そう考えるならば辻褄は合う、具材で魔法陣を維持してさらにパンの新陳代謝もしているんだ、臓器がない分、魔法陣の欠片さえ残っていれば具材に触れることでこうして復活することができるんだ。
「お母さん、お父さん、ありがとうございます」
「何をいまさら、お前はワイの息子やで、何度でも救ったるわ」
「何カッコつけてんねん、ウチらはただそばにいただけやん」
「そ、それをいうなやー、いまカッコつけててん」
「カッコいいで、息子は勇者だけど、英雄はウィルやで」
「ほんまかいな! げへへへへへ」
いつも思うがホント仲睦ましいな、元の世界の壊れてしまった家庭環境とは180度違う。俺は元の世界に帰りたいのだろうか、否、どちらにせよ帰れないなら、ここで幸せになるだけだ、ここにはその可能性がある、ハンバーガーの俺を息子と言ってくれる人がいるんだから。俺はそう確信した。
「そや!隣りの赤ちゃんがな熱出して寝込んでるで、食中毒らしいで」
美味しくなかったのか。いやなんで俺は美味しくないことにショック受けてるんだ、これもハンバーガーとしての性なのか、内なるハンバーガーが悲しんでいるのか?被食願望とかアブノーマル過ぎる、童貞こじらせたってレベルじゃねぇぞ!
「そう、ですか、お見舞いに行きたい、です」
「よく言ったで! さすがワイの息子や、ほな行こかー」
隣りに住んでいるのはエルフ属のフォルシウス家。若い夫妻と、俺と同い年の娘がいる。森が近いため、この村にはエルフ属が数多く住んでいるのだ。差別とか一切ないな、そういうお国柄なのかな。
夫がイシルウェ・フォルシウス、妻がカレーナ・フォルシウス。その二人の愛の結晶がアイナ・フォルシウス、俺を食べてお腹を壊したお転婆天使ちゃんだ。
迎え入れてくれたのは夫のイシルウェだ。こっちはウィルと俺だけだ、セニャンは疲れて眠っている、この3日まともに寝てなかったそうだ。ウィルも目のクマが酷いがそう言った文句は言わない、さすがはセニャンの英雄だ。
「先日はどうもすみませんでした、なんと謝っていいものか、こちらの管理不届きでこんなことに」
「ええんやで、お互い様や、で、どや? アイナちゃんの様子は」
「私たちのほうはただの食中毒ですから医者に処置してもらって回復しました、今は妻と奥の部屋にいます」
「そかそか、息子が挨拶したがってんねんけど、ええか?」
「もちろんです、上がってください」
「ほな、邪魔するでー」
正直怖い、俺を捕食した生物と再び相対することになるなんてな、でもこんなところで逃げるわけにはいかない。ご近所付き合いは大切だ、禍根は残さん!
「あうー?」
「バガガガガガガ」
カレーナが抱くアイナは、俺を見るやいなや目を輝かせた、俺は恐怖で痙攣する。アイナは懲りずに手を伸ばしてくる、好奇心の巨人が再び俺を食おうとしている。くっ、某巨人に食われた奴らの気持ちを身を以て体験している以上、覚悟をいくらしようとも、このねっとりとした恐怖心が拭えない。察したカレーナが謝った。
「ごめんなさいね、怖いでしょう」
「い、いえ。大丈夫、です」
カレーナが抱っこしている以上、俺に巨人の魔の手が届くことは無い。だがこの苦手意識は払拭せねばなるまい。俺はウィルに頼むことにした。
「おろしてください」
「おう」
ウィルは驚くほど素直に俺を下ろしてくれた。次は巨人だ。
「カレーナさんも、アイナを下ろしてください」
「え、でも」
カレーナは困った様子でウィルに視線を送る。
「息子の好きにやらせてやってほしいんやが」
「わ、わかりました」
ウィルからも頼まれたカレーナは渋々アイナを床に下ろす。アイナはあっという間に俺の前まで間合いを詰める、床に手をついて四つん這いになる。赤子の臨戦態勢だ。なるほど二足歩行は手加減だったのか、この姿勢なら機動力でも俺を超えるだろう。俺とアイナの視線が交差する。俺は逃げたくなる気持ちを必死に押さえつける。アイナとじっと目線を合わせる。ここで逃げたらハンバーガーの前に男じゃない。
「き、君の、名前は?」
「あいな!」
「俺はバーガー。バーガー・グリルガード。これからよろしく」
「あい!」
「ひぃっ、た、食べないで······え?」
死を覚悟した俺とは裏腹に、アイナは俺の頭を撫でている。その手つきは優しく潰さないようにしているのがよく分かった、アイナの体温がじんわりと伝わってくる、とても心地いい。赤ちゃんの匂いがする。
「俺、アイナ、友達」
「あい!」
「食べる、ダメ、マジで」
「あい!」
硬直したバンズのぎこちない振動音に、アイナは元気のいい返事をしてくれた。好奇心の巨人と嘘をつかないハンバーガーの間に友好条約が結ばれた奇跡の瞬間だ!
俺の生還が村に知れ渡るころ、ルフレオがタスレ村を旅立つことになった。人と話すのに慣れたのもルフレオのお陰だ。15年のブランクは抜けきっていないが、このくらい話せれば十分だろう。彼からは、この1年色々なことを教わった。
とは言っても、魔法は使えないのでただの勉強会だったり世間話をした、女神からしたらつまらないことだろうが、俺にとっては掛け替えのない時間だった。
この世界の大まかな歴史も教えてもらった。とても簡単な話だ。王国と魔王の話だ。ただの一度も決着が付いておらず、大戦から小競り合いまで、いまだに戦を繰り返しているそうだ。
世界の歴史とは戦争の歴史だ。
そこに希望をもたらしたのが、的中率120%(5回に1回、2回当たる)を誇る、伝説の占い婆さんだ。彼女の放った言葉は瞬く間に王国全土に広まった。内容はこうだ。
『マジでスッゲェ勇者的な? 奴が爆誕スっから覚悟よろ』
神の言葉を授かり極度の興奮状態に陥っていたのだろう。その後、シラフに戻った占い婆さんは占いの詳細を紙に記した。その数ヵ月後、魔人とのラップバトルに負けて占い婆さんはこの世を去った。
そして何を隠そうルフレオこそがその占い婆さんの夫だ、勇者を見たがっていた婆さんの代わりに遥々王国から旅をしてきたのだという。つまり俺を見るために来たんだ。
「ワシにはラップのことは分からぬ、できるのは古臭い詠唱のみよ。ただ今思えばジャンクフードをこよなく愛するポップなバーさんじゃったわい」
「俺、立派なジャンクフードになります」
「うむ、その熱いハート忘れるでないぞ」
俺は魔法使いルフレオを見送り帰路についた。俺は勇者ハンバーガー、ジャンクフードの王道として恥じのないように生きなければ! とりあえず道の真ん中を這って帰った。
魔王がいるんだよな、あの女神のことだ、どうせトラックみたいに魔王もぶつけてくるに決まってる。このままではダメだ、鍛錬以外にも何かやらねば。気になることは、バンズに挟んだものの力を使えるかどうかだな。自分の意思で使えるなら、擬似的な魔法を使えるようになるかもしれない。俺の武器は具材。食材の数だけ俺は強くなれるかもしれない。早速行動だ!
「え、なんて? ちぎって欲しい? バーガーを?」
俺からの突拍子のない頼みにセニャンは困惑している。挟んだ薬草を試すには、傷を負わないといけない。
「ちょっとだけ、ちねってほしいんです。大丈夫です、バンズ裏の魔法陣を傷つけないように表面を軽くでいいんで」
「そっか、分かったで、ドMなんやな。ウチのムチとロウソク持ってくるわ、待っとれ」
いつもどんなプレイをされているんですか?
「いや、違うんです、試したいことがあるだけなんで、上手くいくと思うので」
「なんや、じゃあ、ちょっとだけやで······」
セニャンは恐る恐る俺をちねる、ぶりんと上のクラウンの一部が千切られる。痛がるとセニャンが心配するので表情には一切出さない、人間で言うと肉を1センチ程度ペンチで千切られたような痛みだ。なにトラックに轢かれたときに比べればかに刺されたていどだ。
よし、小指の先くらい欠けたな、じゃあ、第二段階だ。俺は挟んでいる薬草に意識を向けてみる。パンよ生えろ! 強く念じていると頭の中で声がした。
『薬草より治癒を検出、1回使用可能』という声が流れる。この声って女神だよな。なんだよこれ、こんなこと薬草挟んで1年経つが一度も無かったぞ。俺は『使う』と念じてみた。
「『治癒』」
俺は女神の声で詠唱する、痛みが消えていく。
「うっわ! 治ったで! なんやこれ、どうなってるんや!」
「せ、成功しひゃ······」
俺は脱力感に襲われた、薬草を吐き出す、萎びている。そういえば1回使用可能と言っていたな······。具材の魔力を使い切ったんだ。
「お願いします······どうか······薬草を······挟んでください」
「唐突に弱気になんなやー、ちょっと待っとき!」
セニャンは手慣れた手つきで薬草を挟んでくれた。再び力が湧いてくる。なるほど、これはアイナに齧られたときに薬草が萎びるのが早くなるわけだ。これは治癒に限った話なのか?試すことが一気に増えたな。
「さっきえらい綺麗な声で、治癒って言いよったな? なんや、声帯に女の子飼ってるんか?」
「いえ、気になるなら開いて見てくださいよ······中に誰もいませんよ」
実験を開始する、まずは雑草からだ。
俺がハンバーガーに転生してから5年が経った。月日が経つのは早いものだ。実験もかなり進んだ。俺は飛び跳ねて椅子に乗る、そこからさらにテーブルの上に飛び乗る。テーブルの上に置かれた一冊の本を口で咥えて適当に開く、目当てのページを何度かめくって発見する。この本には日々の研究の成果が記録されている。書いたのは俺ではない、俺が口頭で言った言葉をセニャンが代わりに書いてくれた。
困ったことに、この村には草しかない。それも薬草、解毒草といったポピュラーなものばかりだ。それを売って生計を立てている村なのだから当たり前の話だ。
村の南には巨大な森があって、奥に行くほどレア物の草が手に入る、だが同時に魔物の出現率も高まるため簡単には行けない、行くとしたら計画的な集団狩猟を計画しないとならない。割と近くに魔物はいる。
薬草を挟めば『治癒』が使える、この魔法はルフレオから習った、治癒魔法でも初歩的な魔法だ。主に切り傷などを癒すのに使う。中度の怪我を癒すには何度も唱えないといけないし、致命傷は癒せない。
解毒草を挟めば『解毒』が使える。解毒魔法の初級魔法だ。ちょっとした風邪なんかは1発で治る。かなり便利だ。
初級魔法とはいっても魔法を習得すること自体が難しい、魔法使いでもどちらかしか使えないとかザラにある。属性の適性があったり、攻撃魔法が得意な者は属性が同じでも防御系の魔法が使えなかったりする場合もある。その分俺は具材を挟めば使えるので楽だ。
薬草は常に挟んでいる。解毒草は高価なので、使う時だけだ。話によると南の森の奥には上薬草といった薬草の上位互換の草や、薬草とは真逆の性質を持つ毒草、そして炎属性の魔力を秘めた火炎草が自生しているそうだ。毒草は危なそうだが、火炎草はぜひ挟んでみたい。マ〇オのファ〇ヤーフ〇ワーみたいな感じだろうか? 上手くいけばファイヤーバーガーになれるかもしれない。
こうしていきなり行き詰まった俺は、思考を草から離した。草に固執する必要はないのだ。次に考えたのは、産まれた時に既に挟まれていた肉だ。やっぱりハンバーガーを名乗るならばパテを挟まなければなるまい。
5歳の誕生日に、丁度ヤギっぽい動物の肉が手に入ったので、セニャンにオネダリしてパテにして挟んでもらった。特に魔法が使えるというわけではなかったが、なんと体力が増えたのだ。力も増して家を10周しても一緒に挟んだ薬草が萎びることはなかった。
つまりパテには素で体力増量効果がある。そしてほかの具材の消耗が止まるので、動き回って薬草をダメにすることがなくなる。薬草でもそこそこ動けるが、これはいざという時に使えそうだ。使用後のパテはもったいないので焼き直してウィルに食べてもらった。
こんな検証作業ばかりの5年だった。あとは筋トレ、否、パントレしかしていない。俺は本を閉じてテーブルから飛び降りて玄関まで跳ねて移動する。体も大きくなった、産まれた時は50gだったが、今では100gを超えた。体を力ませて硬くすることができるようになった、力めばフランスパン並の強度になる。
さ、まとめはこのくらいにしてデートに行こう。え?誰とかって? そんなの決まってるだろ?アイナとさ。
「バーガーさま」
玄関を出ると、緑色の髪にとんがった耳、そして大きな赤い瞳を持つ愛らしい生物が出迎えてくれた、アイナだ。俺のちょっとしたグラムの変化よりも彼女の成長の方が100倍わかりやすい。
「様ってのは、なんだか、変な感じがするな」
「でも、おかあさんが、そうよびなさいって」
「そっか、呼び方なんてなんでもいいか、よし、遊びに行こう」
「うんっ!」
最近、俺はアイナとよく遊ぶ、もう拾い食いをしたりしないので、近所の原っぱで駆けっこや、花を摘んだりして遊んでいる。なんとも平和な日々だ。しかし今日のアイナの装備には物騒なものが追加されていた。
「それって弓?」
「うん、もう5さいだから、もちなさいって」
そうか、ルフレオから聞いた話によれば、エルフ属は弓矢の扱いに長けている種族だったな。あと草木にも詳しいんだとか森の狩人といったところか。
「わたし、バーガーさま、たべちゃったから、つよくなってバーガーさまに、つかえなさいって」
「もう解決した話なんだけどな、気にしなくていいよ。無理してやる事じゃないし」
「ううん、わたしもやりたい!」
「そっか、じゃあ練習しないとな。強くならないと勇者パーティに参加できないぞ!」
「うん!」
こうしてアイナのレベリングが開始した。
木の枝にぶら下げた三重丸が描かれた板を狙ってアイナは矢を引き絞る。小さなオモチャの弓矢だが矢尻は大人が使うものと遜色ない鋭さを持っている。こんなものを5歳児に持たせて大丈夫なのだろうか。
「よし、射れ!」
「うん!」
「ビューティフォー」
そんな心配を他所に今のところ全弾命中している。しかも中心の円に寸分違わずヒットしている。アイナには類稀なる弓矢の才能がある。
「凄いじゃないか、こんな芸当は勇者である俺にも(物理的に)無理だ」
「えへへ、バーガーさまにないしょで、おうちでれんしゅうしてたの!」
トゥクン······、ハニカミ、エルフ、スマイル、略してHES。なにこれ、バンズの中心が熱くなるこの感じ、これって······まさか恋? 否否、断じて否、俺は決してロリコンではない『YESロリータNOタッチ』という格言もあるくらいだ。ロリエルフとは友好条約を結んだままでいたい。
「へ、へー! 俺も負けれられないなー!」
「バーガーさま、なんかへんだよ?」
「そ、そんなことないよー、ほら次は駆けっこだ。走りなら負けないぞー!」
「わーい!」
俺は血眼でアイナを追いかけた。
そうこうして俺たちは10歳の誕生日を迎えた、この世界で10歳は特別らしく誕生日会も村を巻き込んで盛大に行われる、会場はグリルガード家の庭だ。庭の広さは田舎の特権だな。アイナも大きくなった。誕生日席に座る俺たちはどんちゃん騒ぎする皆を見る。
「バーガー様、おめでとうございます!」
「アイナもおめでとう」
言葉遣いもすっかり大人らしくなってしまった、たどたどしい言葉遣いも、それはそれで可愛らしくて良かったのだが、これはこれでまた味わい深いからよしとする。
皆から誕生日プレゼントを頂いた。村人たちからは、この辺りでは希少な動物の干し肉。そして上質な草だ、ああ、早く挟みたい。そして、セニャンからは手作りの黒のマントを、そしてウィルからは小さな旗を······俺の頭に刺さる前に、セニャンにツッコミを入れられ、ウィルは鍔の部分が黄色い短剣をくれた。
グラム数も5年前の倍、200gになった。テーブルもジャンプ一つで乗れるし、バンズ使いもかなり器用になった、短剣程度なら柄の部分を咥えて振るうこともできる。セニャンにマントを咥えさせてもらった。
「どうですか?」
「サイズもぴったし、バッチリ似合っとるで!」
「母さん、ありがとうございます」
「ワイのも咥えてくれや」
「はい、んぐ」
「おお、短剣とマントを持って勇者っぽくなったで!」
アイナはというと、干し肉や、上質な草は同じで、アイナの両親から弓をプレゼントされていた。少し早い気もするがもう子供用は卒業か。確かに弓矢の腕だけならすでに村一番と言えるだろう。
「これで魔物もイチコロだな!」
「私はバーガー様の勇者パーティに入れるでしょうか?」
反則的な上目遣い。これが天然なら、アイナは魔性の女だ。
「もちろんだ、頼りない俺を助けてくれよ」
「はい! さぁバーガー様、上質な草が萎びる前に挟んじゃいましょう」
「ああ、ありがとう」
気の利くいい子に育ったものだ。この体じゃなかったらと思うとやるせない気持ちになってくる。元の黄金筋肉さえあれば、一生をかけて守りきる自信がある。アイナに食われて以来、死にかけることもなかったため、女神と会うこともなかったが、今度会うことがあれば懇願してみるか······望みは薄いが。
誕生パーティーは順調に進んだ。とても充実した幸せな1日だった。こんなことなら来年も大々的にやってほしいものだ、一応は勇者なんだし、王国に頼んで盛大に祝ってもらったりできないものだろうか。俺はこの環境に酔っていた、優しい両親に可愛い幼なじみ。こんな日々がずっと続くと思っていた。
3日後、タスレ村は戦場と化した。