第19話 キラーキラー1
混合肉、俺の可能性がさらに広がる。
魔物の肉を混ぜて魔法生成、つまるところ合成魔法と言ったところか。
「ぷはー、おいしかったぁ!」
「スー、なんだか違うさっぱり具合だな」
スーは死んでステータスを全回復したようだ、空腹もまた然り。大発見をした食事を終え、俺たちは一息ついている、スーがほとんどの料理を平らげてしまったが、アイナもなんだか満足そうだ。
合い挽き肉の組み合わせは覚えておこう、殺戮蹴りか、聞いたことのない魔法だ、試し打ちしたいな。そう思っていると、店のドアが勢いよく開かれる、店内の視線が一点に集まる中、現れたのはボロを纏った少女、フラフラとした足取りだ。
「た、助けて」
なんだあの子は、服もボロボロだが、体も傷だらけじゃないか、真っ先にアイナが駆け寄った。
「大丈夫ですか! 酷い傷、何があったんですか?」
「魔物が、村に、おにぃちゃんが······」
それだけ言うと少女は緊張の糸が切れたのか意識を失い倒れる、アイナが支え、ゆっくりと横にする、かなり衰弱しているな。
「しっかりしてください!」
「アイナ、そのまま膝枕しててくれ、俺が治癒魔法をかける」
少女に跳ね寄り治癒を3回かけてやる、挟んである薬草を全て使う、少女の顔に生気が宿る、だがこの程度じゃ応急処置にしかならない。
「バーガー様、外の様子がおかしいです!」
店の外から悲鳴が聞こえる、それも1人や2人のものではない、外から数え切れないほどの悲鳴が聞こえてきた。
「何か起きているな。アイナ、その子を頼む!」
「はい! バーガー様は!?」
「様子を見てくる」
少女がドアを開いたままにしていたので、俺は勢いよく飛び出す。この喧騒の中を踏まれないで進むのは困難と判断、目についた木箱に飛び乗り、建物の突起部分を足がかりに屋根に登る。民衆はパニックに陥っている。この混みよう、アイナたちは店の中にいた方がいいな。
「おそらなの」
「スー!?」
いつの間にか隣にいたスーが空を指さす。あれは、
「あ、あれは、なんだ」
「あれは僕たち神龍の眷属、末端、指先、恐れを知らない無垢なる子供たち」
空を見るスーの表情は虚ろで、どこか物悲しい。
「小龍なの」
そう現れたのは小龍、それも一頭じゃない、小龍の群れが飛んでいる、その数実に十頭。数で表せば少なく感じるかもしれないが、その一頭一頭が巨大で群れを大きく見せている、放たれているプレッシャーで相手が大きく見える。
小龍はSクラスとAクラスの境界線、個の戦闘力はSクラス最弱とされている。否、言い方が違うな、小龍を基軸にSクラスを設定したんだ、小龍より強いか何か秀でている魔物がSクラスになれるというわけだ。
そして小龍の危険度は状況によって変わる。まず数だ、小龍は群れる、そして群れは連携して襲ってくる、この時のクラスはSクラスの中でも下の中に値する。
群れたシャチはクジラすら食い殺すのだ。
そして次に飛行状態かそうでないかだ、制空権を取られた場合、上空からの火炎の吐息に晒されることになる。
あの小龍たちがパンフライ街を襲えば、容易に地獄を作り出すことができるだろう。だが、小龍たちは襲い掛かってくるどころか、俺たちに見向きもしない、屋根の瓦に腰掛けているスーが口を開いた。
「怒ってるの」
「小龍たちがか?」
「そうなの」
そうか、遠いとはいえスーの血族だもんな、なら見ただけでも小龍たちの感情がある程度は分かるのか。
「どうして怒ってるんだ?」
「戦っているの」
「何と?」
「分からないの······来るの」
一頭の小龍が滑空して高度を落としてくる、さっきまで見向きもしていなかったのに、この街に着陸するつもりか、向こうは出店などがある広場だ。
「スー」
「なの」
「あれがスーの家族でも、人に危害を加える以上、俺は戦わないといけない」
「うん、死んでも僕の『ところ』に来るからいいの」
そう言ってスーはハニカム、それが強がりかは俺には分からない、神は俺たちとは感覚がズレているからな。
店から出てきたアイナが慌てた様子で屋上にいる俺に声をかけた、少女を背負っている。
「バーガー様! あれはもしかして龍ですか!?」
「小龍だそうだ、一頭が向こうに降り立った」
「私も一緒に行きます!」
「ダメだ、その子は一刻を争うかもしれない、ジゼルのところに連れていってくれ」
アイナは背負っている少女を見て、少し悩み、意を決したように顔を前に戻す。
「わかりました、無茶しないでください」
「もちろんだ」
俺の返答を聞いて、アイナは背を向けて走り去っていく。
「スー、付いてきてくれ」
「わかったの」
さぁ、龍とのご対面だ。
小龍は思ったより近くにいた、広場で屋台をひっくり返して頭を突っ込んでいる。あの屋台にはケバブのように太い棒に肉が巻いてある、切り分ける前の肉の塊にかぶりついているようだ、腹が減っているのか。
民衆は混乱状態だ、我先へと走り出し通路を詰まらせてしまっている、あれでは避難を遅らせるだけだ、ここは勇者でてある俺の出番だろう。椅子に乗り、そこから飛んで屋台の上に移る、声を張り上げた。
「静まれ静まれーい! この姿が目に入らぬかぁ!」
俺の大声に民衆は目を向ける。勇者がハンバーガーなのは周知の事実。つまりこの世界で唯一喋れるハンバーガーである俺は、どんな身分証明書や紋所よりも、勇者としての身分を証明できる生きた証なのだ。
国民が口々に「勇者」というワードを口にする。
「俺が来たからにはもう安心だ、慌てず並んで避難してくれ!」
よしよし、一度冷静にさせてしまえば、その後は大丈夫だろう、小龍も食い物に夢中なようだ。
国民の避難がそれなりに終わる、広場と大通りの避難が終わった。必要最低限の避難は出来たかな。食事を終えた小龍は屋台から顔を抜いてこちらを見る、このまま帰ってくれないかな、あれ、口を開いたぞ、 何をするつもりーー
放たれたのは灼熱の炎。俺がいつも使っている火炎の吐息だ。
俺は跳ねて飛び降りる、屋台が炎に抱かれて消し炭になる、なんて熱だ、めっちゃ熱い! 直撃しなくとも呼吸をする生き物なら肺が焼かれているところだ。
小龍は喉を鳴らして威嚇してくる、やるしかないのか。上空の小龍たちが降りてくる様子はない、そりゃ制空権を簡単に手放すわけがないか。
一つ気になることがある、スーはあの時、戦っていると言っていた。そしてあの少女、魔物が村に来た、と話していた、この小龍たちのことか? だとすると一人で村の危機を伝えに来たのか······。
この小龍もよく見れば、鱗に傷が目立つ、首元と胸部には特に大きな傷跡がある、あの二つはすぐに出来たものではない、古傷だ。
と、考えつつも俺は狙いを定められないように動き回っている、吐息系の技は肺の中で魔力と空気を混ぜ合わせる必要があるため、連発できないようになっている(とルフレオが言っていた)。
火炎の吐息のクールタイムはどのくらいだ、今の俺の具材で戦えるのか。否、やるしかあるまい。
薬草は使い切ってしまった、残るは混合肉から検出された威力も効果もわからない魔法、殺戮蹴りが1発のみ、しかもそれを使えば具材を使い果たし、魔力の切れた俺は何もできなくなる。
だが周りは、奴にとっても俺にとっても宝の山だ。
「小龍が飯を求めてきてくれて助かった、飯=力なのだからな、ここが荒野だったら俺は為す術なくやられていただろう、ここが出店の並ぶ場所で本当によかった、もう固有結界レベルだぞ、ここ」
小龍の大きさは全長10mほどだ、尻尾と翼を含めたらもっと大きくなる。スーの眷属とはいっても、魔王もスーと同じ神龍だ、今の殺意のこもった吐息を見るに、魔王側に付いている可能性が高い。あ、言葉を理解できるなら俺が勇者だとバレたかもしれない、やっちゃったか?
俺はクラウンを高速回転させる、その一瞬だけで周りの情報を獲得する、使えそうな屋台は、たこ(っぽいもの)焼きに、焼き(をいれた)そば、じゃが(いものようなものに)バター(みたいなものをのっけたもの)に、チキン(みたいな肉の)ステーキか。
もちろん、この世界のたこ焼きのタコは現代にいたタコとは違う。この世界の食文化には魔物の肉を使った料理が多い、俺のいたタスレ村や、エルフ系の人が多い村はほとんど魔物肉を食べない、そういう例外もあるが、大体が口にしている。
よって、既存の料理を挟むだけでも俺は魔法を獲得することができる、まずはたこ焼きからだ。俺はランダムに動き回るのをやめて、たこ焼きの屋台に向かって跳ね出す。
慌てて逃げたのだろう、少し焼きすぎてしまっているが、俺は鉄板の上にあるたこ焼きを加えて挟む、あっつ! だが我慢できる! 死ぬよりましだ! 俺は解析を開始する、念じると脳内に女神の声が流れた『陸蛸から、八本足を検出、1回使用可能』
テンタ······なんだ? よく分からんが、唱えてみるか。
「『八本足』」
俺のヒールの部分に赤色のタコ足が魔力生成される。一本一本が俺の意思通りに動く、不思議と8本も触手が生えても、俺の脳内はキャパオーバーを起こさなかった、そういう魔法なのだろう。
敵の前だが試しに動いてみる(無論警戒は怠らない)。おお、足がある分、立体的な動きが可能となった! これだけ動ければ十分に戦うことができる!
待てよ、足があると言うことはだ。殺戮蹴りをちゃんと使えるんじゃないか? どんな魔法か分からないが、名前にキックと銘打っている以上、足はあった方がいいだろう。
俺はさらにたこ焼きを頬張り、魔法を使ったあとの魔力切れ対策をする。
「早速だが、この一撃に全て掛ける!」
殺戮蹴り、今はこれに頼るしかない。やるなら最高のタイミングでやりたい、キックということは、真正面から頭を狙った方がいいか?
否、頭は反撃をもらいやすいうえに標的が小さくて外す可能性が高い。
ならば透明龍にやったように食われてみるか?
否、あの時は怯ませてからだし、小龍には吐息がある。そして俺の破片を拾ってくれる仲間も近くにいない、捨て身は危険だ。
高所からの一撃はどうだ?
否、敵は屋台よりも大きい、屋台に登ったとしても地の利を得ることはできない。俺が考えていると、
「なっ!」
ここにきて最大のミス、敵に時間を与えてしまった。小龍 は飛べる、翼をはためかせ、風を地面に叩きつける、その巨体が少しずつ宙に浮く、なんたる浮力だ。
小龍としても、何もしてこない者を相手にする必要はないのだ、敵がぼさっとしていれば飛び立って地の利を得る、当たり前のことだ。やられた! もう撃つしかない!
「『殺戮蹴り』」
体が勝手に跳躍する、な、なんだ!?勝手に技を放つモーションになっているのか、戸惑っている間もモーションは素早く進む。普段なら不可能なほどの跳躍(約30m)、さらにタコ足の足先が8本まとまりドリルのように回転を始める。謎のの推進力が発生、飛ぼうとする小龍の背中に激突する。
力強い浮力をねじ伏せて、叩き伏せる。
硬い、この鱗は相当硬い、あの透明龍よりも硬い。あちち、タコ足の先から火花が散りっぱなしだ。俺は雄叫びをあげる、まるでパチンコの演出のようだ、やったことないけどな。
む、両足で踏ん張っている小龍が首を曲げて背中の俺に頭を向けている、そこまで曲がるのか、小龍は口を広げる、口の奥が赤く光り始める。まずいまずいまずい!鱗が割れ始めているというのに! これでは間に合わない!
もう少しだったのに、焼きバーガーになっちゃう。
「待たせたにゃ!」
「エリノア!」
エリノアが民家の屋上からパルクールで登場した、片手剣を小龍の首に振るう。剣はヒットしたが、小龍の鱗は硬い、金属音がして小龍の注意がエリノアに向けられる。
小龍が体を大きく振るう、殺戮蹴りの軌道がズレる、金属同士を擦り合わせたような激しい音を立てて俺は地面に突き刺さる。
殺戮蹴りの掠めた脇腹は巨大な刃物で抉られたようになっていて痛々しい。小龍よ、屋台を襲った代金、高くついたようだな。小龍は痛みに声を漏らし後退する、首をもたげて翼を広げる、咆哮だ。あの傷で逃げないのか。
「気をつけろ、空にもいるぞ」
「みりゃわかるよ」
「あの数いけるか?」
「無理だにゃ、一頭でも死闘の末に掴んだ勝利にゃんだから」
「そうか、なら避難が終わるまで時間を稼ぐか」
「そうだにゃ」
エリノアは小龍たちを見る。
「龍騎士はいにゃいみたいだにゃ」
「龍騎士?」
「龍に乗る騎士だよ、そいつらがいると統率力が違ってくるんだ」
なるほどな、人の知略に龍の武力、その両方を兼ね備えているわけか。さて、怒り狂った小龍だが、俺たちを睨みつけるだけで、先に仕掛けてこようとはしない、かなり警戒しているようだ。
「どうやらこいつ、最初から傷ついているみたいだにゃ」
俺が目を凝らす、さっきも確認したが至る所に傷がついている。
「やっぱり誰かと戦っていたのか」
「バーガーが付けた傷じゃにゃの?」
「スーが誰かと戦ってるって言ってたんだ」
「にゃるほどにゃ、誰かとバトって、受けた傷を癒すために人里を襲ったとすれば辻褄が合うにゃ」
「圧倒的な武力があるなら、こんな人里、いつだって我が物顔で襲いそうなもんだがな」
「小龍にはテリトリーがあるよ、そこから出ることは滅多ににゃい、奴らは賢い、自分たちの脅威度も、人の恐ろしさも、よく分かっているんだ」
そう話していると、上空の小龍たちが鳴き声をあげる、それを聞いた、目の前の小龍が俺たちを睨みながら、激しく翼をはためかせる。
止める術のない俺たちは、それを見ることしかできない。
瞬く間に高度をあげて、上空の小龍たちと合流、街から去っていく。逃げたのか?
「なんで逃げ出したんだ?」
「ミーは小龍博士じゃにゃいよ······そうだにゃあ、あんまり暴れれば討伐隊を編成されかねにゃいからかにゃ?」
「それはちがうの」
スーが倒れた屋台から頭を出した、両手にチキンステーキが握られている。
「そうだったにゃ、龍博士どころか龍そのものがいるんだった」
「それでスー、小龍たちはなんで逃げ出したんだ?」
「逃げたんじゃないの、今の鳴き声は『時間が無い! 時間が無い!』なの、緊張が伝わってきたの」
「『時間が無い』か、さっきスーが言っていた『戦っている』相手のところに行ったってことか、エリノア、小龍が飛んでった先には何がある?」
「あっちには、たしか村があるはずだよ」
俺は少女の言葉を思い出す、村に魔物が、そして家族が残っている、その村の方向に小龍と戦っている何かがいるってことか?
「エリノア、スー、宿に戻るぞ!」
俺は宿につくと急いで全員を部屋に集める、ジゼルはベッドで寝ている少女を看病しながらだ。アイナは俺が視界に入るやいなや抱き上げてきた。
「バーガー様、ご無事でしたか!」
「エリノアに助けてもらってなんとかな。ジゼル、少女の容態は?」
「問題ない。治癒魔法で回復した」
「そうか、ありがとう」
「それで小龍は?」
「飛んで街から出ていった」
「詳しく」
俺はジゼルに事の経緯を説明する。少女の村に魔物が襲来したこと、小龍が何かと戦っているとこと、少女の村かは分からないが、村のある方角に飛びさっていったこと。
「小龍は敵で間違いない。生活圏が重なれば争いは避けられない」
「再び村が襲われる可能性が高いというわけだな」
「そういうこと」
「この街の聖騎士たちに力を借りられないか?」
「難しい。この街に小龍が来てしまった以上。彼らはこの街を守らなければならない。もう来ないと楽観視はしない。討伐隊を編成して派遣する間。村が耐えられるかどうかわからない」
「そうか······」
じゃ、俺たちだけで助けに行くか。
「ミーはいま、とても嫌にゃ予感がしているよ」
「お、勘がいいじゃないか。ちなみにエリノアは小龍、何頭倒せる?」
「無理無理無理無理、無理だよ! 確認できただけでも十はいたんだからにゃ! ミーたちだけで行っても焼かれて食べられてしまうだけだよ!」
「だがな、この少女の兄貴がまだ残っているらしいんだ」
「きっと、この子を逃がすためにしんがりを務めたに違いありません!」
アイナが興奮冷めやらぬ様子で言った。そういう人好きだもんな。
「それに勇者は戦うだけが全てじゃないさ、面と戦わなくてもいい、村人を避難させる」
「簡単に言ってくれるけどにゃあ、小龍は熱には特に強いよ。バーガーの火炎の吐息も効果薄いよ?」
「ジゼルの考えはどうだ?」
「一つ。スーは小龍たちが何かと戦っていると言っていた。つまり最低でも十頭の小龍を相手にできる何か。または複数の何かが。いる可能性が高い」
「敵は小龍たちだけじゃないかもしれないってことだな」
「そういうこと」
「今度という今度は無理だにゃ」
「スー、何とかできないか?」
「僕だって手伝ってあげたいの! でも、僕はどちらにも力を貸せないの。ごんめなさいなの」
「無理なことを聞いたな、気にするな」
「······うん」
ふぅむ、さて、どうしたものか。情報を得るために、この少女が目を覚ますまで待つという選択肢もあるが、その待ち時間が致命的になる可能性もある。さきの戦いでも考えすぎで後手に回ってしまったからな、反省せねば。
「皆の意見はよく分かった、無理強いはしない、だが俺は行くぞ!」
「バーガー、今までで一番危険にゃんだよ?」
「でもさ、いま行けばこの子の家族が助かる未来もあるかもしれないだろ、行かないわけには行かないだろ」
少しの沈黙のあと、エリノアは肩を落とす。やれやれと、手を軽く挙げて首を降った。
「まぁ、戦わにゃいで、逃げに徹するなら、人助けくらいにゃらこの戦力でもいけにゃいこともにゃいかもにゃあ」
「ありがとうエリノア、俺のわがままに付き合ってくれて」
「か、勘違いするんじゃにゃいよ、これは仕事だからやってるだけにゃんだからにゃ」
「ふっ、そうと決まれば行くぞ! 皆!」
「おおー!」
少女のことは宿主に任せることにした、医者は必要ないとジゼルが判断した、手厚い治癒魔法をかけてくれた。モーちゃんは連れていくことにした、俺がいないところで帰ってきた小龍に襲われて、また食われてしまったら、俺は立ち直れない。それに斧牛はAランクの魔物だが、攻撃性能だけでみればSクラスに匹敵すると言われている、左の角が折れてはいるが戦力として見てもいいだろう。
それに助け出した村人が自力での歩行が困難な場合、モーちゃんの背中に乗せて運ぶという選択肢も増える。タフだし足も速い。
戦わずに隠密行動して、村人を救出して去る、というのが今回の作戦だ。戦いは極力避けなければならない。
「行くことは決定したが、待機して少女の見守りをしてくれてもいいぞ」
「何を言ってるんですか! 私はバーガー様について行きますよ!」
「私がいた方が。生存率が上がる」
「命知らずの勇者のおもりで精一杯だにゃ」
「僕はおもりなんてできないの!」
「モゥー!」
「わかった、じゃ、行くか」
そうと決まれば俺たち勇者パーティの行動は迅速だ、街中を移動しつつ、その村についての情報を確認する。
「村につくのにどのくらい掛かる?」
「いつもより全然近いよ、パンフライ街の周りには村が沢山あるからにゃ、簡単だけど道も舗装されてるし、そうだにゃあ、1,2時間時間ってところかにゃ」
今までより格段に近いな。そうじゃなきゃ、少女が村から出て一人で助けを呼びに来れないか。
「そういや、ミーが助けに入った時にバーガーが使ってた魔法、あれはにゃんだ?」
「ああ、言い忘れてた『めっちゃ焼いたヤツ』を挟んだ時に気づいたんだが、魔物の肉を合い挽き肉を挟むと魔法も合成されて新しい魔法が生まれるんだ」
「そりゃ凄いにゃ、色々試してみたいよ。これが終わったらミーが適当に作ってあげるよ」
俺がエリノアと話していると、アイナが目を細めてジーッと俺たちを見ている。
「安心しろアイナ、小龍は飛んでいる、いざという時はアイナの弓が頼りだ」
「……はい!」




