EX6 ハンバーガー転生6
人間界の地下深く、ぽたぽたと水滴の滴る洞窟で魔人たちが列をなして膝まづいている。視線の先には岩の玉座に座る一人の魔人、指先にビリリと電気が走る。
「ライジンが死んだか」
ざわつく魔人たち。
「狼狽えるな」
その言葉を耳にしたものは口を閉ざし、視線を玉座へと戻す。
「現実的にいこう、我々がどうすればこの世界に君臨できるのかを」
重みのある声に跪く魔人たちの目に力が宿る。一人を覗いて。
「はは」
「……誰だ、いま笑った者は」
魔人たちの群れが割れる。できた道をぺたぺたと悠長に歩く魔人がいる。そして玉座の前で止まる。
「貴様かいま、俺を笑ったのは」
「ああ」
玉座の魔人が横に手刀を繰り出す。不届き者の魔人の首が宙に飛……ばない。
「グアアーーッ!!」
玉座の魔人の手刀が宙を舞っている。噛みきったのだ、剣の一撃のような手刀を。舞う手首が地に落ちる刹那の時間に、
「俺の名はニードルハック、お前の名前に興味はない」
そこからは凄惨な光景が続く。魔人たちもただの魔人ではもちろんない、人を殺し、実践を詰んだ魔物上がりがほとんどだ。だがその古兵たちを赤子のようにニードルハックは屠る。
「ま、まて、なぜ魔人のお前がっぐえっ!!」
最後の一人を仕留め、手に着いた血を払う。
その姿はニードルハックの本来の姿を知るものならば、一目では彼だと分からないくらい変貌を遂げていた。
棘の魔人であるニードルハックは鎧のごとき太い棘で身を包み武装していた。しかし今では棘はほとんど生やさず黒い皮膚を顕にしている。
「……はぁはぁ……ぐっ……」
「まだ生きていたか」
致命傷を受けた玉座の魔人が這いずっている。
「お前は……あのニードルハックなのだろう……魔王と共に人間どもと戦った……」
「ああ」
「何故だ……なぜ我らを裏切った……」
「俺は誰も裏切ってはいない」
「ならばなぜ、我らを……魔王軍で真九大天王となった存在が、お前がいればこの軍も……そうだ、我らを食って糧にするつもりだな。それならば……我らも……」
「食わん」
「……なっ……」
「お前たちには、わかるまい」
事切れた、玉座の魔人を一瞥して洞窟を見上げ見えもしない空を見上げる。
「バーガー・グリルガード……」
そう呟き洞窟を後にした。
──────────────
バーガーの家、リビング。
「さぁ! できたよ! アリサ定食!」
焼き魚、貝類の味噌汁、新鮮なサラダ、お漬物にお米!
「ごくり、ご機嫌な朝食だ……」
無い喉が鳴る。
「って、なんで聖騎士十大大隊長の私がご飯を作ってる!?」
作ってるあいだ一切ツッコまなかった、見事なノリツッコミだ。
「感謝してるよ、美味そうだ」
「そう? まぁ若い頃は結構作ってたから……って危なっ! 言いくるめられるところじゃん!」
アイナがバーナーを抱えて階段を降りてくる。
「おはようございます、バーガーさま、アリサ」
「おはよう!」
「おはようございます!! アイナさま!!」
「アイナにも0のほうでいいよ、うるさいから」
「そう?アイナいい?」
「ふふ、そっちのほうがいいですよ……くんくん……」
アイナはもう嫉妬を表には出さないが(正妻だし)ジリジリと伝わってくる。アリサの作ったご飯に劣等感を抱いている、付き合い長いから分かる。アリサが不思議そうな顔をする。
「なに?」
「いや、この反応はアリサの作ったご飯が美味しそうってことさ。ささ、いただこう!」
「いただきます」
さて、問題のバーナーの離乳食の登場だ。
「近くで取れたリンゴやらなんやらをペーストにしたよ、半分はエルフだから食性もそれに近いかなって」
「いい判断だ」
アイナがバーナーをベビーチェアに座らせペーストをすくったスプーンを口元に近づける。
「ほらバーナー、ご飯ですよ、あーん」
アイナが口を開ける、俺もつられてあーんする。それを見たバーナーも、
「あーーちゃっちゅっ」
口を開いたすきに入れる。もちゃもちゃしている。どうですか? 俺のほうが美味しそうか? いや違うそうじゃない。
「あう!」
「食べた! 食べましたよ! バーガーさま!アリサ!」
「ほっ、これで一安心だな」
「当たり前でしょ、私の女子力舐めないでよねっ!」