EX6 ハンバーガー転生5
オンブルが夜闇に紛れて高速で移動する。村から街、街から村、その高速移動は息を殺して獲物を待つ猛獣たちですら気づけないほどだ。
王国とタスレ村の中間地点付近にて雷鳴が轟く。刹那の稲光がオンブルを照らし出す。眼前には寸分たがわず急所を狙う手刀が迫る。
オンブルは上半身を捩らせそれを回避する。これは紛れもない不意打ちだ。
(雷で影を払ってから私を狙った、私の特異体質を知っている)
すかさず距離をとり、再び闇に紛れようとするも上手くいかない。眼前の生物がそれを許さない。
「今のを躱すか」
その姿は人の姿をした稲妻だ。先程の不意打ちは、稲妻となり落下して即座に手刀を放ったものだ。
「俺は稲妻魔人、ライジン」
「……私は聖騎士大隊長が一人、オンブル……」
「知っているとも!」
名乗り合って早々にライジンの指先から稲妻が迸る。稲妻の光が影をかき消す。遮蔽物がない草原エリアにて紛れられる影は後方に伸びる影のみ。
バシャアアアアアン!!!
オンブルは動じず、稲妻をその影の剣で防ぎ払った。
「……影聖剣……シャドウ・ブレイド……」
オンブルの握るシャドウ・ブレイドはあの影写龍シャドーミラードラゴン対策として作られた聖剣である。
「雷属性の魔力をその身に受けてしまっていいのか?」
体は微弱な電気信号で動いている。雷属性魔力に耐性のない者ならしばらく帯電してしまう、それは痺れとなって動きを鈍くする。針の穴を通すような繊細な戦いにおいてそれは致命的な隙となる。
「……」
オンブルの体に僅かにパリパリと電流が走っている。
「手応えあり!」
「……雷神だなんて、すごい名前……」
オンブルの体が漆黒になる。いや、艶すらなく黒一色となった。
「……明かりがあろうとなかろうと……影とは私のこと……」
ピシャア!! ピシャア!!
周囲に落雷が迸るも、その影は掻き消えない。
「貫かれても言えるか!!」
手刀が迫る。オンブルは防御しない、腹部を貫かれる。
「殺った!」
「……捕まえた……」
「う、腕が抜けない!?」
ライジンの腕が影と化したオンブルに絡め取られる。
「……これで回避はできないでしょう……」
「うあああああああ!!」
ライジンが電気エネルギーと化して逃げようとする。しかし抜けるない。
「……影からは逃げられない、どれほど眩しくても……影は差す……」
「く、クソおおおおおお!!」
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「……消滅を確認、今のは一体……」
一撃のうちにしとめたオンブルは消滅した魔人ライジンの魔力痕を調べる。
「……Sクラスはあった、こんな人間界の中心で……」
広大なこの大陸を聖騎士たちだけでは到底見回ることは不可能。見落としている脅威に村を滅ぼされたなんてことはよくある話だった。オンブルはバーガーたちのいる方角を見つめる。
「……どうかこの世界を照らし続けてください……世界が照らされ続ける限り、私はその影になりましょう……」
思い返すは凄惨な日々。影の特異体質として生まれ落ち、牢に閉じ込められて育てられた、全ては対シャドーミラードラゴンの切り札としてだ、影の特異体質を持つものはその使命が生まれながらにして決まっているのだ。
そんな絶望に馴染み育つ中で唯一の楽しみがバーガーの噂だった。看守を務める影の一族たちが「ハンバーガーの勇者が生まれたらしい」と言っていたのを耳にしたのが始まりだった。
『ハンバーガー……の勇者?』
罪人ではないためハンバーガーなどのジャンクフードを食べたことはあった。あのハンバーガーが勇者?
『……ふふ……へんなの……ふふ……ハンバーガーだなんて……』
剣を持ったハンバーガー、想像するだけで楽しいハンバーガーの勇者さまだ。それからはバーガーの活躍の話を聞いて励まされて生きてきたのだ。
護衛の任務の話で一番を申しでたのもそのためだ。普段は意見などしたことのないオンブルの強い意志に他の聖騎士十大大隊長たちも驚いていた。
しばらくバーガーのいる方角を見つめたのちオンブルは影に溶けた。