EX6 ハンバーガー転生1
俺は今人生で一番祈っている。……って、何に祈ってるんだ俺は? 日本人って宗教に関心が少ないからなぁ、やっぱりトイレの神様かな。女神はもちろんなしで。うーん、とにかく祈ろう。無事に……頼む……。
「ひっひっふー! ひっひっふー!」
「ふふ、バーガーさまが力む必要はありませんよ?」
「つ、ついな……」
「あ、ちょっと笑ったら……出そうです!」
「なっ!!」
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おぎゃーおぎゃーと、赤子の鳴き声が聞こえる。
「元気な男の子ですじゃ」
十数年前に俺を取り上げた産婆が、いま俺の息子を取り上げている、なんとも感慨深い。
「よかった鳴き声がバーガーバーガーじゃなくて……ポテトポテトとかシェイクシェイクとかじゃなくてほんとによかった」
俺のブギーな胸騒ぎを他所に、アイナがまず赤さんの顔を見る。出産したばかりなのに随分と余裕そうだ、さすが勇者だ。
「しわくちゃですね」
「アイナ、ありがとう、俺たちの赤ちゃんを産んでくれて」
俺はアイナの頭に優しく乗ると撫でるように蠢く。アイナはリラックスした様子で軽く頷いてくれる。
「名前は何にしましょうか? 顔を見てから決めるって言ってましたよね」
「ほんとに俺が決めちゃっていいのかな?」
「もちろんいいに決まってます!」
「そう? じゃあ、やっぱりこの名前が一番いいかなって」
たくさん辞書を引いたし、運のいい名前、縁起のいい名前を調べたが、
「バーナー・グリルガード。この子の名前はバーナー・グリルガードだ」
「バーナー?」
「ああ、俺とアイナの名前から取ったんだ、アイナを先にしてアイガーと悩んだんだが、どう?」
「バーナー! いい名前です! バーガーさまと私の子供!」
アイナは宝石のような瞳をより一層輝かせる。見蕩れてしまう。アイナは俺の視線に気づくと照れくさそうにハニカム。
「これからもよろしくお願いします! バーガーさま!」
「頼むのは俺のほうさ」
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それから一年。
「べろべろばーがー!!」
「きゃっきゃっ!」
育児に大忙しだ。こうして変顔してバーナーをあやすのにも手慣れてきた。手ないけどね。
「ふぅ、このくらいのころか、赤ちゃんだったアイナに食われて死にかけたのは」
苦い記憶だ。でもあれが俺とアイナの初キッスとも取れる。俺がニヤニヤしてるとバーナーがキャッキャしだした、こ、これは変顔じゃないよぉ。
「バーガーさま、そろそろご飯の時間ですよーー!」
きた! 俺はバーナーの頭に乗ると体重移動してヨチヨチ操縦する。
「どしーんどしーん、赤ちゃん怪獣がママの元に向かいまちゅよ〜〜!」
「もう、バーガーさまったら、危ないですよ」
アイナが指をタクトのように振るうと、俺とバーナーは優しい風に包まれ浮遊する。風で身だしなみを整えてくれる。なんたる風さばきだ。
「はいできあがり!」
俺とアイナは料理が作れないから、ウーバーガーイーツのお時間だ。
「今日はセニャン直伝のたこ焼きやで〜〜」
俺とアイナの両親たちがかわりばんこで作りに来てくれている。今日はセニャンの担当だ。
「母さん、いつもすまないねぇ」
「なにジジ臭いこというてんねん、アイナちゃん、ジジ臭いの嫌やよなぁ?」
「私はどんなバーガーさまも大好きです!」
セニャンはその反応を待っていたのだろう、ニヤニヤと俺を見る。
「エターナル新婚気分なんです、俺たちは」
倦怠期という言葉を聞いたとき、ケンタッキーと聞き間違えてしまったほどだ。
俺たちは席に着く、バーナーはアイナの膝の上に乗っている。産まれる前までは俺の指定席だったのに……ヤキモチを妬いてしまうぜ、お餅バーガーだ。しかしお楽しみはこれからだ。
「はーい、バーナー、おちち飲みましょうね」
そう、授乳! この神々しい光景はどんな名画にも勝る!
「なにガン見しとんねん!」
セニャンにハリセンで叩かれ、素早くたこ焼きを口に突っ込まれる。
「いてあつぅ!!」
痛みと熱さが同時にくる。俺の母さんはツッコミの腕もピカイチだ。
「そしてうまぁい!」
外はカリッと中はとろっとろだ。人よりも熱に強いからむしろこの姿のほうがたこ焼きを堪能できている。
「結構なお手前で」
タコパバンザイ。