EX5 魔王と勇者7
ギアが我らのほうを見る。
「もう帰っていいぞ」
「まだ決着は着いていないだろう」
「いや、もうついた」
たしかに動かなくなったが。我が悩んでいるとスーが袖を引く。
「ここはギアに任せるの、僕たちは街に戻るの」
「わかった、ギア。任せたぞ」
「おう」
ゆっくりと降下する。
「あれで良かったのか」
「大丈夫なの、あの子たちの魂があの人を正気にさせたの、もう闇は晴れたの」
言われてみれば確かに、チー太から心の闇を感知できない。
「さ、本題に戻るの」
「うむ、ではいくか」
バーガーのところへ。
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「あれ?」
我らが街に戻ると太陽が隠れていた。
「おかしいな、まだ数時間も経っていないはずだが」
「チー太との戦闘のせいなの、時間の感覚がおかしくなってたの」
「それはまいった」
闇から時計を取り出し時刻を確認する。
「もう少しで早朝か、同窓会とやらも終わってしまっただろう」
「うう、今からでもご飯もらえるか心配なの」
「……飯の心配か」
「とにかく行くの! バーガーの家に!」
この時間帯は人々は寝静まっている。我々は消耗しているため静寂の中をゆっくり進む。家屋が古いエリアに来た、ここからがタスレ街がまだ村だったころからあった家々なのだろう。そこから更に数十分ほど進むとバーガーの家が見えてきた。
「ここがバーガーの家か」
大きな城をイメージしていたがこじんまりとした一軒家だ。庭は広いが、それでも勇者が住んでいるような家には見えない。
「うーん、やっぱり明かりがついてないの、みんな寝ちゃったの」
「ならば起きるのを待つか」
「えー、お腹すいたの」
近くの岩に腰掛ける。ドっと疲れがでる。魔力をほとんど使ってしまったからな。
「たしかに、腹が減ったな」
珍しい感覚だ。魔力生命体は魔力があれば生きていける。この飢餓感は魔力が枯渇している証拠だ。
気づけばスーは我に寄りかかっている。我もやや寄りかかる。
「心は暖かいの」
満たされている。このまま力を使い果たして消えてしまってもいいくらいだ。
「……むぐ……?」
何かが口に入ってくる。謎の何かをつまみ上げる。
「バーガー……?」
いや、バーガーの姿をした魔物だ。バーガーのように言葉は発さない。
「もぐもぐ」
スーの口にも別の個体が入り込んでいる。スーはそれを食べている。
「これはたしか、バーガーの魔法が溶けたときに出てきたという新たな魔物たちか」
「もぐもぐ、ごくん! そうなの! 食べ物の魔物なの! 美味しいの!」
「謎だ、なぜバーガーのあの魔法で生まれたんだ、これの正体はなんだ?」
「……バーガーの中にいるもう一人のバーガーなの」
「もう一人のバーガー?」
「うんなの、バーガーには二つの魂が宿っているの。番重岳斗の魂と元々生まれるはずだったバーガーの魂なの」
「そうか、転生させられたということは、元々生まれるはずだった命があるわけか。……命を奪って生まれてきたのだな」
「違うの、バーガーは死産なの」
「何故わかる」
「死産はすぐわかるの、大泣きして僕の中に入ってくるから」
「……」
「でもその魂は僕のところに来なかったの」
「では身を捧げて我らに生を与えようとしてくるこの献身的な魔物たちは」
「番重岳斗と共にバーガーとして生きて、優しい子に育ったの。あのときは彼にも魔法を使うことができたの」
「眩しいな……」
「勇者だもん」
スーはにへらと優しく笑う。少し泣いている。
つままれたバーガー似の魔物は暴れて我の口に入り込もうとしてくる。必死さが少々不気味だが、今の話を聞いてはイメージが変わる。
「食べてあげるの」
「わかった」
さくっ、もちもち。
「美味いパンだ」
魔力が回復していくのがわかる。またしてもバーガーに救われたな。