EX5 魔王と勇者6
これほどの魔力の衝突、この宇宙が誕生したときのものよりも強大だ。
「スー、全力で守るぞ!」
「うんなの!」
スーの身体から死者のオーラが放たれる。それを我の闇の魔力と混ぜ合わせる。
「闇と死の魔力、二つを合わせれば」
「冥土の世界の扉が開くの!」
ギアがこちらを一瞬見る、そのあと出力が更に上がる。
「魔力を全力投入」
「女神に破壊された破損したチートでなければこんなもの!」
二つの力が打ち消し合う。溢れた魔力は冥土の世界に吸い込まれる。チート勇者は息切れ一つせずにギアを睨みつけたまま言う。
「なぜ絶者のくせにこの世界の勇者を殺さない」
「殺した、俺はちゃんと仕事したぞ」
「ならなぜこの世界は残っている。女神に飽きられれば消えるはずだ」
「そのあと色々あったんだよ、結局いまは勇者も生き返った」
「……やはりここは女神のお気に入りの世界か」
「違うな、バーガーがいい仕事しただけだ、お前の世界はどうなんだ」
「俺の世界は女神にとことん遊ばれた、そこの魔王よりも強大な魔王がいた」
「イズクンゾてきなやつか」
「仲間を殺された。転生前の俺に友達なんてものはいなかった、ずっと孤独で、転生してチート能力を使って活躍して、やっとできた仲間たちだ!」
与えてから奪うのか、女神の娯楽、愉悦のための犠牲か。
「なら女神に復讐しやがれ、守られた世界にくんじゃねぇよ」
「やったさ、だから『こうなった』ボロボロの瀕死にされたんだよ」
瀕死であの強さだと。なんたる男だ。そしてチート勇者ですら敵わない女神とは、一体どれほどのものなのだ。
「暴れなきゃ気がすまねぇってわけか、仕方ねぇ、殺してやるからその調子で掛かって来やがれ」
「待つの!」
スーがギアの横に行く。
「仕事の邪魔だ、下がってろ」
「無駄な争いはやめるの!」
「いまさら引き返してくれるやつじゃねぇだろ、死ぬ場所を建設してやらねぇとやつは休めねぇ」
「違うの! まだ、まだ引き返せるの!」
スーの口が大きく開く、吐息をするつもりか?スーの吐息は死者の魂を吐き出すことができる。しかしどんな魂をぶつけようとチート勇者に有効打は与えられない。
「冥土の扉が開いたから、この世界以外の魂も呼べるの!」
「どの魂を呼ぼうが俺を止められる者などいない!」
4つの魂がスーの口から飛び出す。チート勇者が目を見開いた。
「そんな馬鹿な、お前たちは……!」
人型になった魂のうち少女の霊体が悲しそうに呟く。
「チー太くん……久しぶりだね」
「マコ」
「こんなことしてるの、私たちが死んじゃったからだよね」
チー太は顔をそむける。
「たしかに私たちは女神に殺されたようなもの、チー太も。でも、チー太と冒険した日々は楽しかったよ」
「……」
「チー太が来てくれなかったらもっと早く滅んでた世界だった」
「もう無駄になったじゃないか!」
「無駄じゃないよ!」
「ッ!?」
「まだチー太がいる、希望は消えてなんかないんだから、私たちは死んじゃったけど、チー太はまだ生きててくれている」
「だが、俺はお前たちを守れなかった!こんな世界に一人で生きていても辛いだけだ!」
「辛いよ、痛いし、苦しいよ、でもそれでもいいから、私たちはチー太に生きててほしい」
チー太は俯きそして僅かに腕を震わせる。魂たちが光り始める。
「そんな顔しないで、チー太は私の勇者なんだから。あの日私を連れ出してくれた日から……」
「俺は……」
「愛してる、いつまでも」
「俺も愛してる、永遠に」
死者の魂が光となって冥府に帰っていった。